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テクノロジーがもたらすブランドの民主化

ブランドの歴史を振り返って

第一回:ヨーロッパを中心にしたブランドの起源について

第二回:アメリカを中心に発展した大衆消費社会とブランドについて

第三回:ブランドを紐解く(3)/ブランド大競争時代

これまで三回に渡ってブランドに関わる歴史を紐解きながら、ブランドを考えるうえでの重要な要素やその移り変わりについて辿ってきましたが、改めて要点をまとめると以下のように整理できるかと思います。

消費の担い手

特定の富裕層、顔が見える個人が消費の主役だった時代から、大衆へと中心が移動。社会全体が豊かになるにつれ大衆は拡張しながら徐々に分類、細分化されていった。

ものづくり

手工業中心に必要に応じて限られた数をつくるものづくりから、機械中心の大量生産がものづくりの主流になっていったが、消費の成熟とともに少品種・大量生産から多品種・少量生産へとシフトしている。

顧客接点

アトリエや商店といった小規模の顧客接点から、大量消費に合わせたチェーンや百貨店などの大規模流通が発達。マスメディアを通じて提供される情報とともに商品やサービスが展開されていった。

マーケティング

顔の見える限られた顧客への対応から始まり、技術革新と社会発展とともに大量生産大量消費のマスマーケティングが発達。消費社会の成熟とともに、企業活動におけるブランドという考え方が重視されるようになった。

先端のテクノロジーがもらたすもの

それぞれの時代の先進的な技術や発明が、その時代の社会に変化・発展をもたらしてきたように、現代においても先端のテクノロジーが、消費や生産のあり方とそこに紐づく企業活動のあり方に影響を及ぼしていくことは疑いようがありません。

このような観点からブランドのあり方や行く先を考えるにあたり、「WebはもとよりIoT、AIといったデジタルテクノロジーが何をもたらすか」ということを前提にせざるを得ないでしょう。

第四次産業革命とも称されるテクノロジーによる個人や組織の行動の変化、その総体としての社会変容が、ブランドという概念のあり方も決定づけるキーファクターとなるということです。

 

消費の中心は開かれた「個」へ

インターネットは世界中の個と個を結びつけました。大衆としての選択や行動を強いられてきた消費者に、インターネットは「個」としての選択や行動する術をもたらしました。

特定の富裕層など限定された個人を中心に始まった近代的な消費社会は、大衆というまとまりとなって発展・膨張し、世界中でさらに拡張を続けながらも、インターネットの時代を迎えるなかで再び「個」が中心となる時代へと移行しています。

そして現代における「個」はかつてのような特権者だけのものでなく、理論上すべての大衆に開かれたものであるという点において過去のそれとは大きく異なる性質を持っています。

個客に寄り添うマーケティングへ

一人一人を「個」として識別できるようになるということは「大衆」への対応を前提に成立してきたマーケティングのあり方を根本的に変えます。「個人」を起点としてマーケティング活動を組み立て直すということは、その概念自体を根本的に変えるコペルニクス的転回であるとも言えます。

供給者側にあわせて消費者が行動しなければならなかったこれまでの世界から、消費者の嗜好や行動に共有者側があわせていく世界へと移り変わるとき、供給側には、個客を理解したうえで、それを実行へと移していく能力が求められます。

その能力を可能にする前提はデジタルテクノロジーであることは言うまでもありませんが、同時に人間的な深い洞察と実行していく力が必要にもなります。これについては後ほど詳しく述べたいと思います。

顧客接点の役割が変化していく

ブランドの歴史を振り返るなかで、モノとそれに付帯する情報が、どこで、どのように流通されるか、ということが大きな意味と役割をもってきたことがわかりますが、デジタルテクノロジーの普及により、オンラインとオフライン、リアルとバーチャルの境目を徐々に曖昧になることで、従来の意味や役割は組み替えられていきます。

このような流れのなかで購入のための装置であった店舗がメディアに、情報収集の手段であったメディアが購入手段に、といった役割の変容が始まっています。そしてそれぞれの役割は一定のものでなく、個客を中心とした世界のなかで時と場合により変化していきます。

ここでも大事なことは、「個」を軸としたときにそれぞれの接点がどういう価値を持つのか、という個客軸での見方ということになります。

ものづくりもパーソナライズへ

「個」を軸としたビジネス、さらにいうと社会への変革という面において最大のインパクトを持ち、同時にもっとも難しい課題を抱えているのが物理的な制約条件と切っても切り離せないものづくりの領域です。

繰り返し述べているように、大衆消費社会は機械制工業による大量生産と大量消費を前提にしています。なかでも大きな資本投資が注がれるものづくりの領域において、その前提を覆した仕組みを構築し直すのは、様々な観点からみても容易なことではありません。

個への対応という意味では、機械化が進む前の古き良きものづくり、One to Oneのものづくりは理想的な形にありますが、それらは特定の富裕層だけが享受しうる世界であり、今なお欧州を中心としたハイブランドらが自らの価値創造の源泉として頑なに守っている閉ざされた世界であるとも言えます。

そんななかでも、CADや3Dプリンタに代表されるテクノロジーがものづくりをあり方を変えようとしています。ものづくりの重心は、徐々に多品種少量生産やその組み合わせによるカスタマイズ、物理的な個別化と同時に意味合いを自分ごと化していくパーソナライズ、そして情報・サービスなどと同じようにオンデマンドの方向に向かいつつあります。

またものづくりの変革は、これからの価値観の基調を為すサステイナビリティとも関わってきます。大量に生産し、売れ残りは廃棄してしまうようなサイクルから脱却することで、生産と消費を適切にバランスさせていくことは持続可能性を高めるための重要なファクターとなっていくでしょう。

異なる領域を結ぶマネジメントの重要性

このように、マーケティング、個客接点、ものづくりと企業のあり方全体において、テクノロジーが大きな影響を及ぼし変化していくなかで、専門性の異なるそれぞれの領域をまたぎ、結びつけていくマネジメント能力の重要性がますます高まってきています。

性質が異なり、時には真反対の考え方や行動様式のなかで、現状への拘泥や思考停止、もしくはその真逆の根拠なき夢想や無謀に陥らず、物事を前に進めていく力がマネジメントの中心課題になっていくでしょう。

またコロナ禍による生活や労働環境の変化のなかで、マネジメント手法自体もテクノロジーと共に大きく変化しています。

日本企業の生産性改革が叫ばれていますが、様々なツールやテクノロジーを駆使しながら、時代に沿った概念でマネジメントを組み立て直していくことはブランディングという概念を超えた必須の要件であるともいえます。

 

キーワードは民主化

ブランドとしてのあり方を形作る事業要素・4つのM<マーケティング(Marketing)、個客接点(Media)、ものづくり(Manufacturing)、マネジメント(Management )>のそれぞれにテクノロジーが及ぼす影響は多岐に渡り、今後も様々な変化・変容をもたらすと考えられますが、その方向性を指し示すキーワードは「テクノロジーによる民主化」ということだろうと思います。

IT技術が社会へもたらす本質的な価値のひとつは、個や辺縁の者へのエンパワーメントです。

それぞれの要素がテクノロジーのもとに、連動し影響しあいながら、個としての人間が中心であるという概念に向けて進化していく流れが、これからのブランドとしてのあり方の大きな潮流になるであろうということです。

そして私たちが自らの事業を考えるうえでも、またものづくりに取り組む企業の未来を拓く方向性として「テクノロジーに基づくブランドの民主化(Brand×Tech)」という認識は、大変重要なものになると考えています。

 

アーツアンドクラフツが目指すところ

つくる人と使う人が一緒になって行うものづくり。

これは小さなオーダーメイドのアトリエから出発した私たちの原点でもあり、自分たちのものづくり(=ブランド活動)の理想像でもあります。

古き良きOne to Oneのものづくりが体現していた、一人一人の顔が見える、ぬくもりのあるものづくり。そこから生まれる喜びや満足感は、今の時代においても大切な意味を持つ社会価値になると信じています。

そしてテクノロジーの力を用いることで、その価値をより多くの人が享受できる仕組みを世の中に創り出すことがアーツアンドクラフツが目指す企業としてのヴィジョンであるとも言えます。

テクノロジーと補完しあう人間的要素

最後に、途中で少し述べた「人間的な深い洞察と実行していく力」ということについて触れたいと思います。

私たちは「テクノロジーがブランドを民主化していく」という見立てのもとに活動していますが、自分たちの試行錯誤のなかで、テクノロジーだけではブランド活動を実のあるものにできない、ということも実感しています。人を行動に導く洞察や理解に基づいて活用されたときに、テクノロジーとその仕組みは初めて活きたものになるということです。

人の行動を導く力というのは、論理性のみから生み出されるのでなく、論理と対になる情熱や共感によって生み出されます。

テクノロジーが論理や合理性に基づいた仕組みとするならば、その仕組みに燃料を焚べ動力を生み出すためには同じだけの人間的な熱量が必要になります。そのことを私たちはLOGOSとPATHOSという概念を用いて捉えています。

 

 

ブランドという概念が企業活動全体をふくむものとして捉えたとき、LOGOSとPATHOS、そしてその両方を結ぶものとしてETHOS(倫理性)が必要であるという考え方です。

ものづくりにおけるブランド化の意義

 

まとめとして

ブランドの歴史を振り返りながら、私たちが目指す方向性についてご紹介させていただきました。ブランドという概念に関わる深くて幅広い内容を、できるだけわかりやすくお伝えするために多少強引に端折ったりまとめた部分もあるかと思いますので、内容の理解や考証についてご指摘の点があればご意見を賜れれば幸いです。

最後になりますが、私たちはなによりも実践を通じて、実相を生み出していく会社でありたいと思っています。

冒頭に掲げた「つくるの力で世界をより豊かに」を実現するために、考えながら行動を続けていきます。

 

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。

 

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