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私たちアーツアンドクラフツは、<つくるの力で世界をより豊かに>というヴィジョンを掲げていますが、その具体的実現方法として、オーダーメイドの結婚指輪工房ith(イズ)を筆頭としたBtoCブランドの展開と、それらのブランドを支える経営ノウハウを持つビジネスプロフェッショナルを創り出すBtoBのコンサルティング&ソリューションビジネスの展開という二つの方向性で事業を行なっています。
一見異なるベクトルにみえる二つの事業ですが、アーツアンドクラフツが独自性をもって飛躍を果たし、世の中に意味のある価値を創りだしていくためには、双方が理想的なシナジーを発揮しながら成長していくことがとても重要だと考えています。
それぞれの事業は独立したかたちで自走しながらも、互いに補完しあうかたちで会社全体にとっての事業資産と顧客価値を生み出していきます。
ブランド事業は、そのまま企業にとってのブランド資産となると同時に、自らの能力を活かし新しい価値を創りだすことを試みる有望な人材にとって実践の場であり、武者修行の場となります。
コンサルティング&ソリューション事業は、プロフェッショナルとして磨き上げられた高度ビジネス人材によって、自社/他社を問わず新しいビジネス価値を創りだすと同時に、自社のブランド事業での実践によって得られたノウハウを形式知化したり、ソリューション化しながら世の中へ還元する役割も担います。
私たち経営陣の事業経歴や、様々な人との出会いなど必然と偶然が折り重なりあいながらこのような事業のかたちにたどり着いたわけですが、すべてが私たちの独創かというとそうでもなく、ベンチマークとした他の企業事例や、考え方の下敷きとなるビジネス理論などを学び、取り入れながら自分たちの事業へと反映していっています。
その一つが、欧米を中心としたラグジュアリーブランドの経営手法です。
事業の歴史、事業規模、知名度や影響力などなど…….あらゆる面において比較するのも烏滸がましいところではありますが、ジュエリーという、官能性の高いブランド力が求められる商品を取り扱うものとして、少しでも学びを得たいという気持ちから、天の上でも覗き込むような感覚で独自の研究を行なってきました。
早稲田大学の長沢伸也教授は、様々なラグジュアリーブランドの研究をまとめた著作を多数執筆されていますが、そのなかから私たちの事業に対する考え方を発展させるうえでの下敷きとなっている要素をいくつか紹介します。
職人重視の法則
ルイ・ヴィトンは職人を大事にしている。いいモノを作るには、いい作り手が必要なのは当然の話である。ルイ・ヴィトンのような世界に知れわたる横綱ブランドに君臨したとき、いかにその作り手を所持し、品質を保持するのかは、きわめて重要な要素だ。
所有と経営を分ける法則
4代目当主アンリは、所有と経営(この場合は職人と経営者ともいえる)の分離を行うことにした。1977年ルイ・ヴィトン・マルティエSAを設立し、4代目アンリは会長に退き、専門経営者を外部から招聘することになったのである。その後世界への船出、および製品の拡充となるわけだ。専門経営者とオーナー兼職人としてのヴィトン家を分離した結果、世界進出し、さらには複数分野が協調するポートフォリオ・マネジメントの実現に至っている。
(出典:長沢 伸也. ルイ・ヴィトンの法則最強のブランド戦略 (Japanese Edition) 東洋経済新報社.)
ルイヴィトンといえば欧州のラグジュアリーブランドのなかでもトップ中のトップであり、並外れたブランド基盤、積み重ねた実績と豊富な資金力にばかり目が行きがちではありますが、そのやり方をシンプルに眺めていくと、
・価値をつくる者(職人)を大事にする。
・価値を生み出す部分と、経営として展開させていく部分を分立させる。
この二つによって高い付加価値を創出・維持しつつ、さらに展開・発展させているということに気づかされます。
長沢教授の他の著作からも、この法則はエルメスやシャネルなど他のブランドにおいても同様であることが読み取れます。それぞれの歴史のどこかの段階で、必ずといっていいほど、価値の源泉を生み出す部分と、その経営を切り盛りする部分が分離されています。
裏を返せば、価値を生み出す源泉=ものづくりを大事(ブランドの力)にする。その価値を客観的に発展させられるビジネスリソース(経営力)がある。ブランドビジネスを育成していくためのこの二つの要素が最低限の条件になり得るのではないか、というのが私たちの仮説のひとつです。
どんなに歴史があって大きなブランドであっても、必ずはじまりがあって、その多くは一人の職人やファミリービジネスをルーツに持ちます。
その観点から考えたときに、新しいブランドや事業を生み出していくうえでも、先達の歴史を学ぶことはけして無駄ではないと思っています。
<参考>
このように他社の事例や優れた哲学とその実装方法を学びながら、私たちなりの個性を輝かせる仕組みとしてBtoC/BtoBのそれぞれをシナジーさせていく今の事業モデルがありますが、もう少し具体的な方向性として目指すところを紐解いていくと、主に以下の3つの取り組みになるかと思います。
まずはシンプルに、私たちのブランド事業の中核であるオーダーメイドの結婚指輪工房ithの拡充発展です。
ithは代表の高橋が吉祥寺でアトリエを始めて以来ずっと、つくり手とお客様が一緒になって世界にひとつのストーリーある指輪をつくる場所であることを大事にしてきました。
拠点も増えECやオンラインコミュニケーションを導入したり新しいチャレンジを重ねていきながらも、最初の思い、価値観を何よりも大切に、顧客とつくり手が一緒になって指輪を巡る価値を創り出すプラットフォームとして、コミュニケーションからものづくりに至るまでその質を高めながら、最適なペースで成長をはかっていきます。
自社としての様々な取り組みはもちろんのこと、優れたジュエリー職人や生産工場との連携も不可欠であることから、工場の生産性を高めていくためのIT化支援などのサポートも始めています。
※生産の定期的な情報交換をビデオ通話で実施。これによって生産改善スピードが飛躍的に向上した。
もう一つの方向性は、新規事業である家具のD2CサービスWELLに代表されるライフスタイル領域への拡充展開です。それまでも数十年に渡って地下水脈のように流れてきたそれぞれにとっての生活の質を高めていきたいという動きは、今回のコロナを巡る社会の変容のなかでより本格化していくものと思われます。
その流れのなかで、ジュエリー事業を通じて生まれたお客様との絆、関係性をひとつの頼りにしながら、それぞれの生活を豊かにしていく事業領域にチャレンジしていこうという考えです。
日本にはジュエリーの世界以外にも優れたものづくりを行なっておられる企業がたくさんあります。
今年はD2CやDXという言葉が盛んに喧伝されましたが、バズワードに踊らされることなく本質を掴みながら行動し、基礎となる生産性向上の仕組みが整ってきたとき、これらの企業が持つ「職人の手仕事=価値の源泉たる仕事」がいよいよ世界に向けて輝きを放つ可能性があると思っています。
このような企業の事業を支援したり、パートナリングしながら、未来につながる広がりを創っていこうという試みです。
また新規事業という観点から、新たな顧客コミュニケーションやメディアの活用などにも積極的にチャレンジしていく方針です。
先日、業務提携を発表しました株式会社アイレップとの取り組みもこの方向性に沿った一歩です。
2のような協業形式のほかにも、コンサルティング&ソリューション事業部が手掛けてきたように純然たるクライアントとして、その企業がすでに保有されているブランド資産を活用したり、新規事業として独自のブランドを立ち上げていくような取り組みも積極的に行なっていきます。
自分たちでできることが限りがあります。より高い視点から世の中をみたときに、自分たちが得たものを自分たちだけで留めておくのではなく、より広く還元していく発想で行動していくことが「世の中を豊かにする」というヴィジョンにも近づきますし、結局自分たちにとってのリターンも大きくなっていくのではないかと考えています。
私たちの事業活動は「豊かさをつくる」ということを目的としているわけですが、豊かな暮らしや生活の質を高める、という風潮や動きは今に始まったことではなく、少なくとも物質的に満たされた社会においては、物的な面を超えた豊かさが必要だという主張はずっと展開されてきています。
そんな流れのなかであえて「豊かさ」というものを目指そうとするときに、人々が考える「豊か」というものの定義や軸足がどこにあるのかということを捉え直す必要性があります。
私たちの事業展開のなかでも述べましたが、「それぞれにとっての生活の質を高めていきたい」という価値観がさらに根強いものとなっていますが、このなかでポイントとなる部分は「それぞれにとっての」という部分だと思います。
今皆が目指そうとしている豊かさの基準は、外部から与えられたところにあるのでなく、個人の、パーソナルなところに軸足がある。これが人々が意識的/無意識的に指向している「豊かさ」だということです。
私自身は最近よく「自分ごと化する」という表現を使いますが、ある物事が自分個人にとっての意味を得て初めてそこに必要性や価値が生まれ、それを満たすものやことに触れることがラグジュアリーであるという価値観や捉え方です。
アパレルやラグジュリーブランドの領域で様々な提言をされているローランドベルガーの福田稔氏はその著書
「2030年アパレルの未来: 日本企業が半分になる日」のなかでこう述べています。
筆者はこのような新しいラグジュアリーブランドのあり方を「パーソナル・ラグジュアリー」と呼びたい。社会的地位や自己顕示的なラグジュアリー消費を促すのではなく、個人の感性・価値観に深く響く個人の喜びに立脚したラグジュアリー消費を促すブランドである。
引用:福田 稔. 2030年アパレルの未来日本企業が半分になる日
そしてこの価値観は、私たちがジュエリー事業を通じて取り組んできたものに他なりません。
単に高級である、権威や名声があるということではない、自分たちにとっての喜びや満足が暮らしのなかにどれだけ存在するか、それこそがこれからの時代の豊かさのあり方になる、という確信のもとに続けてきたことがこれからの世の中でももっとスタンダードな価値基準になるだろう。
そして私たちの関わる事業が、そんな価値観を満たし世の中に幸せを生み出すものでありたいというのが、目指すべきところなのだろうと考えています。
顧客や事業パートナーとともに、そんな思いを共感しあう世界を共に歩み、共につくっていきたいと思います。
ブランドとデジタルの力で、日本のものづくりをアップデートする。アーツアンドクラフツの実践的ノウハウを余すところなく紹介した一冊です。
アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。