KNOWLEDGE & INSIGHTS

2020.09.14

【基礎からわかるブランド&DX】ブランドを紐解く(1)/ヨーロッパの歴史から

“つくる”の力で、世界をより豊かに。

ものづくりにおけるブランド化の意義

これまで、ものづくりがもつ可能性について考えていることや、日本のものづくりを輝かせていくための手段としてブランドという考え方が重要になるのではないか、という考えをご紹介しました。

ここからは私たちアーツアンドクラフツが、ものづくりのブランド化するということについてどのように考えているのかについてお伝えしていきますが、まずその前知識としてブランドというものが何なのかどういう経緯で成立発展してきたものなのか、ということについて簡単にご紹介していきたいと思います。

以下のような流れで知識を共有しながら、私たちの考えるブランド像についてお話していきます。

  • 欧州を起源とするブランドとその性質
  • 米国を起源とするブランドとその性質
  • 時代の変遷とブランドの現在地点
  • ブランドのこれから(アーツアンドクラフツが考えるブランドのこれから)

 

 

商工業の発展がブランドという概念を生み出した

brandや類似する言葉の用法研究から、ヨーロッパ社会では古くは8世紀あたりから「何かと何かを区別する」という意味合いでのブランド的な概念が用いられていたという説もあります。

人の手によって様々な物品が作りだされ、それが村や街、様々な国や地域をまたいで交易が盛んになるにしたがってそれらの物品を区別し値打ちを判断する必要性が生まれてきたということですが、ブランドもしくはブランド的な概念の発生と発展には、商工業の発展とそこに起因する社会構造の変化が大きく関わっています。

ブランド原点の時代(ルネサンスと手工業の発展)

まずヨーロッパの歴史や文化を紐解くうえで語らざるを得ないのがルネサンスです。14世紀ごろからイタリアを中心にヨーロッパ全体へと広がった文化芸術を中心とした社会的変革ですが、各地域の交易活動が盛んになるなか様々な商工業が発達していきました。

この時代に築かれた様々な物理的、精神的な積み重ねや変化が、後に続く工業技術の発展をもたらすとともに、市民社会という新しい社会構造を生み出す動きへと繋がっていきます。

優れた芸術家や職人は、パトロンと呼ばれる王侯貴族たちの依頼や支援によってその腕を振るい、自分たちの仕事や技術に磨きをかけ優れた作品を生み出しました。その中から商業的に成功を納め、発展していく者たちも生まれました。

選ばれし人々のためのものづくり

工房での集団作業を軸とした手仕事によるものづくりがその中心でしたが、この時代のものづくりの発展が後の世のブランドへとつながる萌芽を育んだともいえます。

時代とともに文化・経済の中心はパリやロンドンなどへと移り変わっていきますが、そのなかで現存する様々なブランドが生まれていきます。

パリの5大ジュエラー(Les Grand Cinq)と呼ばれるメレリオ・ディ・メレー(1613年)」、「ショーメ(1780年)」、「モーブッサン(1827年)」、「ブシュロン(1858年)」、「ヴァン クリーフ&アーペル(1906年)」。

ジュエリーに限らずエルメスルイヴィトンなど今の時代もときめくラグジュアリーブランドの多くがこの時代にブランドとしての歩みを始めていますが、そのほとんどがほどんどが各時代の王様や貴族御用達であることをブランド創業の物語としています。

つまりその時代における「選ばれし人々」を対象に、優れたものづくりが行われていたということです。

多くの職人たちはその時代の富裕層が住まう地域の近くに拠点を構え、お屋敷へ足を運んだり、店へ顧客を招待したりしながら、それらの顧客のニーズに基づき1to1のものづくりを行なっていました。つくるものは当然ながら受注生産のオンリーワンでした。

時代が下り社会構造が変わるにつれて、王侯貴族から資本家などの中産階級やその時代のセレブリティへと、対象と中心軸を徐々にスライドさせながらも、特定の誰かのためのものづくり、というスタンスは基本的に変わりません。

このことはブランド、特に欧州のブランドというものの性質を考えるとき忘れてはならないポイントだと思います。

 

資産を継承保護していく手段としてのブランド

このようにヨーロッパ社会の変遷のなかでブランドという存在が生まれてきたわけですが、その歴史を紐解いていくともうひとつの特徴に気づきます。

それはその多くが優れた技術や職人技に基づく家業から始まり、その技術の価値を特徴づけ他と差別化しながら、自分たちの家業を護っていくための手段としてブランドというものが用いられてきたということです。

特定の技術や職人とその工房が生み出してきた商品。さらにそのものづくりが培ってきた歴史そのもの。

自分たちが生きてきた、そしてこれからも生きていくための資産として、物作りの技術やスタンスを継承保護していくための手段としてブランドというものが活用されています。

このこともブランドというものについて考えていくうえで、理解しておくべき重要な点でしょう。

今回のまとめ

欧州の歴史から生まれたブランドという概念の特徴をまとめると…


 

今回はルネサンス以降のヨーロッパの歴史をみながら、ブランドという概念の萌芽とそこからつながるブランドが持つ性質や特徴について考えてみました。

次回は、産業革命から始まる機械化された工業社会とブランドの関係性、とくにアメリカにおけるブランドの発展について考えてみたいと思います。

次回に続きます。

【基礎からわかるブランド&DX】ブランドを紐解く(2)/アメリカでの産業発展

 

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吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、イノベーション・プロデューサーとしてB2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。