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【基礎からわかるブランド&テック】豊かさを生み出すブランドの要件

世の中に豊かさを生み出すブランドづくり

私たちは「”つくる”の力で、世界をより豊かに」というヴィジョンに基づいて、世の中に豊かさを生み出すブランドづくりを行なっていますが、そもそも世の中に豊かさを生み出すブランドとはどういうものなのか、自分たちの取り組みをふまえながら、豊かさを生み出すブランドの要件について考えてみます。

 

精神的な充足を生み出す

第一に大きな流れとして押さえておく必要があるのが「精神的な充足感をいかに満たすか」という観点です。

日本をはじめとする先進諸国において物質的な充足がほぼ達成されるなか、人々は意識的、無意識的なかたちで精神的な面での充足をより強く求めるようになっています。

そしてそれらの欲求に応える商品やサービスを創り提供できる企業やブランドが支持される状況が顕著になってきています。

例えば私たちが営むオーダーメイドの結婚指輪事業でも、「自分たちが思う好きなデザインの指輪ができた」「職人の手仕事によってクオリティの高い指輪を手にすることができた」といったモノ側面の価値に加えて、「それぞれがお互いの思いを込めて納得いく指輪を作れた」とか「一緒に悩んで好きなものに辿り着くことができた」という精神的な部分に喜びや感動を感じるお客様が増えてきています。

ダイヤやゴールドといった宝石・貴金属の価値や品質に対する価値が消えたり、減じたというわけではありませんが、モノとしての価値がむしろ精神的な価値を下支えしたり、納得感を与えるための必要条件となるような構造が生まれてきています。

ジュエリーに限らず、オンラインで検索すれば一定レベル以上の品質の商品がいくらでも選べるなかで、何かを選ぼうとする際に気持ちの部分が選択基準になるというのは必然の流れでもあるでしょう。

パーソナルな価値基準による選択に応える

精神的な充足感を満たす、ということを実現していこうとするときに、消費者一人一人のモノコトを選ぶ基準が、よりパーソナルなものへと変容しつつあるということを押さえておく必要があります。

モノと同様に情報という面でもありとあらゆる選択肢へとアクセス可能な状況において、特定の権威や社会全体の価値観が選択の基準になる時代から、嗜好性のあう小さなコミュニティや自分個人の価値基準が重視される時代へと移り変ろうとしています。

ある商品やサービスが、世の中全般として価値があるとされているかどうかよりも、自分自身にとっての価値として感じられるどうかがその人にとっての満足や豊かさを決めていく上で大きなファクターとなるということです。

このウォンツやニーズに応えていくための商品やサービスを提供できるかどうかが、顧客からの支持を得るうえでの重要なファクターになってきます。

私たちが取り組むith(イズ)の指輪作りも、オーダーメイドのものづくりに私たちならではのこだわりを持ちながらも、あくまでお客様それぞれのストーリーを創るための手段としてそのこだわりや技術・方法が存在する、というスタンスを大事にしています。

顧客のためにこそこだわる

「オーダーメイドはやりやすいだろうけど、うちの商品はそうはいかないから」というご意見をいただくこともありますが、オーダーメイドという方法がとれないとしても、メッセージの伝え方やサービス設計の仕方などのソフト面での工夫と、ものづくり自体のハード面の工夫を組みわせていくことで、パーソナルなニーズを満たすことは十分できます。

ものづくりのパーソナライズを考える

ものづくりに対するすばらしい技術やこだわりをお持ちの作家や職人、メーカーさんは多いと思いますが、そのこだわりや技術を顧客それぞれの価値を満たすように活用できているところはまだ少ないように感じます。

ものづくりとサービスを組み合わせてながらパーソナライズを進めていく方法論にはまだまだ開発の余地が大きいでしょう。せっかくの技術やこだわりを価値へとかえていくために、重点的に取り組んでいくべきところだと思います。

経済合理性から人間性へ

またパーソナルな価値基準に応えていくための行動や施策設計を行なっていくうえで、便利かどうか、徳かどうかという経済合理性よりも喜怒哀楽といった人間性の満たすものであるかどうかということが大切な観点になってくるでしょう。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などの著書をもつ独立研究家の山口周氏は最新の著書『ビジネスの未来――エコノミーにヒューマニティを取り戻す』において、地球全体で従来の価値観での資本主義経済が行き詰まりを見せつつあるなか、真に豊かな社会を目指すための示唆や方向性を提示していますがそのなかで、

実現のカギとなるのが「人間性に根ざした衝動」に基づいた労働と消費 ・経済合理性にハックされた思考・行動様式を、「喜怒哀楽に基づく衝動」によって再びハックし返すことで、経済合理性だけに頼っていては解けない問題の解決、あるいは実現できない構想の実現を図る

山口 周. ビジネスの未来エコノミーにヒューマニティを取り戻す (Japanese Edition) (Kindle の位置No.228-231). Kindle 版.

と述べています。

直面しているコロナ禍を乗り越えていくために、多くの企業においてCX(顧客体験)に基づいた取り組みの必要性が叫ばれていますが、その取り組みのなかには従来の価値観を踏襲したまま顧客の表層的行動を追いかけるだけに留まるものも多いように思われます。

利便性を高めるという視点が不要になることはありませんが、利便性の追求という世界を突き詰めると規模を前提にしたパワーゲームの世界に行き着いてしまうでしょう。この世界の中では一定以上の規模を持つビッグプレイヤー以外はその存在価値を発揮し得ません。

パワーゲームの世界を否定するわけではありませんが、それとは異なる生態系のなかで生きていきたいと考える人や組織にとっては、人間性を満たすために何ができるかという考え方を前提とすることが大切になるはずです。

私たちも顧客体験の充足のために積極的にITの活用に取り組んでいますが、顧客とつくり手それぞれの喜びやぬくもりがいかに伝わるか、という観点を大切にしています。これも私たちの商品やサービスでは、利便性よりも人間性こそが選択基準になるという感覚に基づいたものです。

おもい巡る結婚指輪

 

地球や社会に配慮したサービスやものづくり

一人一人の価値基準が重視される流れと同時に、SDGsに代表されるように地球や社会全体での課題に対してどのように向き合っているかということも、企業活動において重視されるポイントになってきています。

価値選択基準のパーソナル化に対応していく一方で、社会全体の共通課題に対しての取り組みも求められるということは、個と全体という対照的な概念をどう結びつけていくかという意味で難しいことでもありますが、これらをどう実現していくかということも豊かさを生み出すブランドであるための大事な要件になるでしょう。

ブランドには文化を導いていくという大きな役割があると考えています(参考記事:ものづくりにおけるブランド化の意義文化を導いていく)が、自分たちの商品やサービス、そして企業姿勢全体を通じて、個と全体を結びつけるストーリーを生み出していくというアプローチが求められるということです。

SDGsにおいて掲げられている17の目標は広範囲に渡っており、それぞれの組織ごとに該当する/しないや取り組みのし易さは異なってきますが、私たちの会社ではものづくりに取り組む会社としてまず「12.つくる責任つかう責任」の一貫として、供給主導の大量生産大量消費ではなく、適切な需要に基づくオンデマンド社会実現するひとつの方法論としてオーダーメイドビジネスに取り組み、その実践成果をもとに世の中への普及を図っていきたいと考えています。

働く喜びを生み出す

ここまで消費者側の変化・変容とそれに対する企業活動という観点から語ってきましたが、それらと同様に大切な観点として働く人間として豊かであるかということがあります。

ほとんどの人が、消費者であると同様に何らかの仕事に従事する働く人間です。自分自身の仕事を通じて、世の中との関わり方やものごとの捉え方を学びながら、人は生きています。極端にいうと消費するという受動的な行為よりも、働くという能動的な行為のほうが、意味的にも時間的にもその人の人生を創る割合が高いのではないかと思います。

つまり人の価値観の大半は、仕事によって創り出されているということです。

そう考えた時に「働くことから喜びが生まれる」「仕事自体が楽しい」という感覚を生み出すことも、豊かさをつくるブランドであるために極めて重要な要件になるはずです。

さきほど取り上げた思い巡る結婚指輪の取り組みの中では、「自分たちが一つ一つの指輪作りにどんな思いを持って取り組んでいるか」をお客様に知ってもらい、そのうえで自分たちの仕事でできた指輪を手に取ったときに、「お客様がどんな喜びを感じたのか」を、社内外を問わず顧客と直接接することのない職人や社員も共有できるようになっています。

私たちは第一に生きていく糧をつくるために仕事をしていますが、そこに自分の仕事が誰かの役に立っているという実感が伴うことで、自分たちのやっていることに対して本当の自信や誇り、存在意義を感じることができるようになります。

視点を広げ、ほんのちょっと工夫して情報を共有することで本来そこにある価値を可視化し、循環させる。テクノロジーはこんな方法でも人に価値を生みだせるのだと信じています。

 

倫理観を培う

直面する様々な課題を解決するために、社会基盤全体をデジタル化しアップデートていくことが不可避である一方で、消費者として、また働き手として、一人一人が精神的な充足を求めながら、社会全体としてもあるべき姿に向けた行動を求められる世の中においては、資本社会を牽引してきた経済合理性とは別の物差しが求められるようになるでしょう。

たくさん作って余って捨てたとしてもそっちのほうが儲けが大きいとわかっていながらも資源を無駄にしないために生産を抑制する。自分たちの得を一旦我慢して、世の中のためになるであろうやり方を選択する。こういった判断を、消費者、生産者が一緒になって進めていく。

一言でいえばこういった行動を導く価値観こそが倫理観(≒ものごとの善悪を判断し見極める力)というものではないかと考えていますが、経済的な合理性というものが、プラスかマイナスか、明快で、ある意味絶対的な基準に基づくものであるのと対象的に、善悪の基準というものは状況や立場において変化する極めて相対的な基準だといえます。

私たちが今直面している新型コロナという全人類的な課題に対しても、経済合理性に基づく判断と、倫理感に基づくそれとの間で、日々様々なかたちで迷い、揺れながら個人的、組織的な行動選択を迫られています。

明確な答えのない倫理観というものは言うほど簡単に得られるものではありません。悩み、学び、そして行動するなかで培われていくものでしょう。

これからの3年、5年、10年という時間のなかで差し迫った課題に直面しながら、倫理観を培い社会を導く意思決定できる人や組織が、豊かを生み出していくのだと思います。

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。


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