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2020.09.29

Withコロナ時代のRFIDタグ活用による効率化の新潮流

Withコロナ時代でデジタル化の促進が求められる

新型コロナウイルスによって小売業は新たなフェーズに突入したと考えられます。リアル店舗では3密防止を考慮した店舗レイアウトやIoTを活用した業務の効率化、オンラインではEC利用率増加に伴うECサイトの構築・強化など様々な取り組みを各企業が現在も進めている状況です。その状況下で小売業と切っても切り離せない要素“在庫管理”においてはリアルとオンラインの一元管理が重要視されています。そこで注目を集めているのがRFIDの技術です。この技術は、大量の商品を一括で読み取れるかつ在庫管理のデジタル化を短時間で実現させることができるため在庫管理の効率化につながります。
実際にRFID技術(タグ)の市場予測からも注目度の高さが伺えます。Global Information によると、世界のRFIDタグ市場は、2014年から2023年にかけて徐々に上昇する傾向にあり、2023年までに16億700万米ドルに達すると予測されています。また、矢野経済研究所の調査によると、2023年には日本国内のRFIDタグ市場は176億円規模になると予測されています。
本記事ではRFID技術の活用事例を交えながら国内での動きや活用方法を中心にご紹介します。

 

RFIDはタグによって個体を識別して情報をデジタル化できる

RFIDとは「Radio Frequency Identification」(無線周波数を用いた個体識別技術)の略です。つまりRFIDタグが貼り付けられている商品や備品などの位置を独自の電波位相解析によって特定し情報をデジタル化するシステムです。
そもそもRFID技術は個体を“識別する側”として「リーダライタ(読み取り装置)」、“識別される側”として「RFタグ/チップ」という要素で構成されています。

RFID技術は新しい技術ではなく、「Suica」など交通系ICカードやクレジットカード、パスポートにも使われています。1980年代には技術的に完成していた比較的古い技術ですが、当時はコストが高すぎてビジネス展開はされませんでした。しかし、技術が進歩しコストが下がったことで徐々に普及し始め、AIなどの新技術と組み合わせて業務を効率化する「無人ストア」などに応用されるようになり再注目されています。例えば、中国にある「Bingo Box」のモデル店舗では、店内のすべての商品には管理用のRFIDタグがつけられ、レジスキャナーに商品を乗せると、このRFIDタグによって自動的にスキャンが完了します。スキャン後、モニターに表示されたQRコードをWeChat Pay、あるいはAlipayを使って読み取れば精算が完了し、セルフレジを実現します。画像認識と重量センサー等も商品の情報を特定することができますが、精度が不十分なため、RFID技術を導入して補完するそうです。

https://www.altavia-shoppermind.com/bingo-box-the-brink-success/

 

Withコロナ時代における小売業の課題

小売業においては従来から抱える課題として以下の3つがあると考えられます。

  • 人材不足
    職種によっては過度の働き手不足や人件費が高騰し経営を圧迫されたことによる余裕を持った人材採用の困難さなどが以前から課題としてあげられていました。
  • 業務の非効率化
    小売業は人間の手作業に頼ることが多いため、スタッフが長時間で数多くの商品を処理しなければなりません。その人間の手作業から解放し、作業の効率性を向上させる必要があると指摘されています。
  • デジタル化の遅れ
    デジタル化の必要性は多くの企業が認識していましたが、業種よってECに着手したという程度であり、ほとんどの業種(特に小売業)でまだまだ取り組みの余地はあるというのが現状です。

このような課題を抱えている最中、今回のコロナによって“デジタル化の遅れ”という課題が特に浮き彫りとなってしまいました。例えば、感染するリスクを減らすために外出を控えている人々はECサイトでの購入が増えましたが、ECとの相性が悪く対応していなかった業種は大きく売上を落とすこととなりました。他にも家で過ごす楽しみが定着したりと消費者の価値観が変化しています。そのため、コロナを機に各企業は新たな取り組みが必要であると考えられます。

 

RFIDは在庫管理を基とした新しい購買体験の提供が可能

そこで、事業者側が新たに取り組むべきポイントとしては以下の3つがあると考えられます。

  • EC活用
    消費者のEC経由での購入が増加していることを鑑みると、今後もそのニーズは減ることがなく購買手段として定着するでしょう。そのため、事業者側はECを準備・活用することとなりますが、その際気をつけなくてはいけないことはリアルとECの在庫一元管理です。
  • 現場での非接触作業
    感染リスクを抑えるために3密防止を意識しながら、お客様への接客だけでなくスタッフの業務内容の見直しも必要でしょう。スピーディーな省人化作業を実現しつつ、リアルとECでの効率化された在庫管理が望ましいと考えられます。
  • 新しい顧客体験の提供
    購買手段としてECが注目されますが、リアルでの購買は消えることがありません。そのため、例えばリアル店舗にある商品をオンライン上で検索や閲覧、在庫確認などをできるようにし、オンラインとリアルを融合した新しい顧客体験の提供が今後必要となるでしょう。

このような取り組みに一役買う存在なのがRFIDです。
まず、リアルとECの在庫一元管理や商品情報の閲覧や在庫確認をするための基礎となるのが取り扱い商品をデータ化するということです。RFIDタグを活用することで大量の商品を一括で読み取りデータ化することが容易に実現できます。そのため、リアル店舗とECの商品データが常に更新されリアルタイムに把握することが可能となります。他にもRFIDの特徴としては、離れているところまたは隠れているところから接触せずに複数のRFIDタグを一括で読み取れることです。今まで多く使われている商品バーコードは一つひとつスキャンする必要があるので、RFIDタグの活用により小人数でも数倍の時間を節約できます。
つまり、店内にセルフレジを設置すればお客様が容易にお会計を済ますことができ、店舗内の在庫管理においては棚卸しなどが従来の必要人数より少人数かつ短時間で実施することが可能となります。さらに、一つひとつの商品に個別のIDを付与できるため、トレーサビリティを実現できます。これにより、商品がどういう状態であるかをリアルタイムに把握できます。

お客様側としては、例えば、リアルタイムで更新された商品情報の閲覧・検索がオンライン上ででき、商品がある店舗や在庫状況などを事前に知ることができるなど便利な購買体験を体験できます。
つまり、小売業が抱える課題に対して、RFIDタグの活用は以下のように貢献していくと推察されます。

 

RFIDタグ自体のコストが高く導入のネックとなっている

ここまでRFIDの導入メリットを述べてきましたが、導入に際しては大きな課題が1つあります。それはRFIDタグの値段が高いということです。RFIDタグはかつて1枚あたり約110円~220円ほどの値段でしたが、今では約11円程度で購入可能です。しかし店舗の取り扱い商品数や種類にもよりますがまだ容易に導入できる値段とは言い難いでしょう。単価が安い商品の場合、費用対効果が見込めず経営の負担となってしまいます。
一方で、RFIDを読み込むリーダライタの費用に関しては年々下降傾向ではありますが、タグと併せて導入費用がかかることは念頭に置かなければいけません。

他にも、複数のRFIDタグ同士が重なってしまうと情報を読み取ることができなかったり、認識に時間がかかったりすることがあるため、導入後のRFIDの取り扱いにも最新の注意が必要と考えられます。

 

事例紹介

ここでRFIDの技術を活用した事例をご紹介します。
三井不動産が運営している「ららぽーとTOKYO-BAY」「ららぽーと立川立飛」に出店しているビームスの「B:MING by BEAMS」店舗内に2月13日から4月24日までの期間、複数のRFID読み取りアンテナを配置して、商品に取り付けられたRFIDタグ情報を自動で読み取みる実証実験を実施し、RFID技術を用いて店舗内の商品在庫情報を自動的にデータ化できるようにしました。
この取り組みは店舗内の商品情報を自動でデータ化したことによりさまざまな付加価値の提供を目的としています。例えば、RFIDを活用することでユーザーは事前に買いたいものがそのショップに在庫としてあるかどうかを調べることができ、ほしい商品がどこのショップで取り扱っているのかも把握することができます。
このようにRFIDの活用は店舗内の容易な在庫管理という側面だけでなく、リアルタイムで商品状況を把握できることによる顧客への新しい購買体験の提供、商品情報のデータ化に伴う実店舗とECの在庫一元管理の実現など様々な効果が期待できます。
三井不動産によると、今後RFIDタグの活用は「B:MING by BEAMS」店舗だけでなくモール内のほかの店舗に拡大され、ユーザーの好みに合わせたパーソナルレコメンドや購買データを用いたマーケティングへの活用につなげていく予定とのことです。

▼RFID活用のスキーム図
https://netshop.impress.co.jp/node/7284

 

コンビニを筆頭に将来的なRFID活用に動きがある

2025年を目標に官民が協力し経済の活性化を目指し、経済産業省がRFIDタグの活用を促進しています。2017年頒布された「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」において、コンビニエンスストア各社は、2025年までにすべての商品に電子タグを貼付し、商品の単品管理を実現すると宣言しています。実際にローソンゲートシティ大崎アトリウム店では、RFID技術によって商品の情報を見える化し、店舗内の在庫管理・食品の賞味期限情報などリアルタイムに取得する実証実験を行いました。

▼RFIDはシールに添付して商品に貼り付けている
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00120/00001/

しかし、その宣言の条件として、①電子タグの単価が1円以下であること。②電子タグを取り付ける作業をメーカー側で行い、ほぼ全て商品をRFIDで管理できる環境が整備されていることの2つをあげています。
コストダウンに関しては、「電子タグの単価が1円以下であること」との目標に向けて、東レは直接プリントによるRFIDインレイの開発にこぎつけ、一枚1〜2円まで引き下げる研究を進めています。早ければ2023年3月までに事業化へと進めていきます。大日本印刷は2020年までに単価5円以下、2025年に1円のRFIDの実現を目指し、部材や製造方法を最適化して低価格なRFIDの開発を目指しているようです。
また、CVSにとどまらず、2018年「ドラッグストアスマート化宣言」が頒布され、ドラッグストアでのRFIDタグの活用を進めています。さらに、今後、CVSとドラッグストアだけでなく、他業界にも大規模なRFIDタグの活用を進めていくことが期待されています。

 

コストダウンを克服し、RFIDの更なる普及が期待される

接触せずに複数の商品情報を簡単に読み取り、データ化が容易となるRFID技術は店舗の業務効率向上に寄与します。特にWith コロナ時代では非接触作業や業務の効率化が求められているためRFID技術は今後の成長が期待されると思われます。
事業者側としてRFID技術の活用により在庫管理が効率化されるだけでなく、実店舗とECの在庫一元管理も可能となり、供給の見通しに応じて商品の仕入れを調整していくことが容易となります。また、RFIDタグのコスト課題に関しては特定の企業が積極的にコストダウンに取り組んでいるため将来的にはコストの問題も解消され、各企業が導入しやすくなると予測されます。さらに、この技術を導入することで、オンライン上で商品の在庫数やショップの取扱品の検索などが可能となり顧客の利便性を向上させることも期待できます。
すでに導入している企業もありますが、RFIDは先進的な技術であり一般的に活用されるにはまだまだ時間がかかると思われます。しかし、この技術の活用は導入した事業者側と顧客側の両者にさまざまなメリットが及ぶものであり、導入ハードルが下がれば社会に浸透する日も近くなるでしょう。

 

【参考】

馬麗芳

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。