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新型コロナウイルスは小売業界、サービス業を中心に大きなダメージを与えました。未だ完全に終息していない状況の中、各企業は対応に追われています。その対応の中でキーポイントとなるのは「3密防止」「EC」だと考えられます。3密防止とは密閉、密集、密接の回避ですが、これは実店舗側での必須な取組事項です。また、今回のコロナに伴う店舗の営業休止などによる売り上げ減少があり、各企業は今後ECにも力を入れ始めると予測されます。本記事では、在庫管理の観点からAIを活用した実店舗での在庫管理とECと実店舗の在庫一元管理について紹介します。
企業が経営をしていく上では経営資源をうまく活用していく必要があります。一般的に経営資源とはヒト、モノ、カネ、情報から構成されますが、その中でも「モノ」の管理は商売をしていく上で重要な要素となります。モノ=製品やサービス、それらを生み出す設備、機械などを意味していますが、その中の製品でいうと企業は基本的に在庫を抱えることとなります。在庫商品は企業のモノとして大切な資源となり変形的な資金財産とも考えられます。仮に、店舗で欠品があった場合、即座に顧客の要望に応じられず、販売機会が失われ収益に繋がりません。一方、過剰在庫の場合、滞留した商品はコストになり利益の損失を招きます。したがって、在庫管理は経営に直結するものであり、適切な在庫管理をすることが企業にとっては不可避の課題です。
従来、在庫管理は人力で行われてきました。デジタルを活用して行われている部分もありますが、あくまでツールとして使用しているだけであり人の存在は必須となります。スーパーを例に挙げてみます。店舗スタッフは売り場を歩き回り、商品の品出しや陳列、賞味期限切れの商品を廃棄、値段の張替えなどをしています。さらにバックヤードでは商品の発注作業、納品対応などをしており業務量がとても多いです。しかし、近年技術の進歩によりAIを活用した在庫管理が注目されています。例えば、商品棚にAIカメラを設置してリアルタイムで商品の売れ行きを管理し、必要になったタイミングで商品の品出しをするといった管理が可能となります。
前段で述べたAIカメラを活用した在庫管理を実践している事例を紹介します。株式会社トライアルホールディングスが展開したリテールAIによるIoTをリアルで実現した店舗として有名な「トライアルQuick大野城店」です。ここは既存の冷凍冷蔵ショーケースにリテールAIソリューションを実装し、商品の在庫状態や人の動き、属性の分析ができる仕様となっています。
基本的な流れとしては、顧客が商品棚から商品を取ると商品棚に設置されたカメラが認識します。ある商品の在庫が一定数減少するとAIが店舗スタッフにアラートを出します。店舗スタッフはそのアラートが出た時点で必要な商品だけ品出しを行います。これにより今まで店内を歩き回り目視で商品の補充確認を行っていた業務が効率化されます。さらに、適切なタイミングでの商品補充は販売機会損失を減らし、売上向上も図れます。
また、ショーケース内に内蔵されたカメラの画像から、AIにより商品の在庫状態や商品に対する顧客の行動や属性(年齢や性別など)を自動的に認識し、POSデータでは得られなかった「非購買データ」なども取得可能となります。
前述の事例でもわかるようにAIを活用した在庫管理は業務の効率化だけではなく、非購買データを分析することによる売り上げ改善にも寄与しています。ここではAIを活用した在庫管理についての主なメリットを改めて紹介します。
ただし、AIを活用して在庫管理を行う場合には注意すべき点もあります。特に、商品棚にAIカメラを設置する場合、顧客のプライバシーに注意しなければいけません。AIカメラにより顧客の動きを観察し、購買行動を容易に把握できますが、同時に顧客の顔を取る可能性もあります。そのため、取得したデータの管理にはより慎重に取り組まなければいけません。実際に、メガセンタートライアル新宮店ではAIカメラの機能を人物カウントと商品認識に絞ることで、カメラ1台当たり約1万円にコストを下げ、顔認識機能は採用せず顧客のプライバシーに配慮した形をとっています。
ここまで実店舗におけるAIを活用した在庫管理について話してきました。技術の進歩により実店舗でのデジタル活用は今後も広がりをみせると考えられ、さらに今後は新型コロナウイルスをきっかけとして各業界においてEC化が進むと予測されます。すると、今までECをやってこなかった企業にとっては新たにECと実店舗の両方で在庫を抱えることとなります。ここで重要となるのがECと実店舗の在庫一元管理となります。
理由としては、在庫を別々で管理するとどちらかの在庫数がなくなった際に欠品扱いとなってしまい販売機会を失うからです。また、在庫を一元管理することでECと実店舗の売り上げデータを分析しやすく適正在庫で管理しやすいという点が挙げられます。
実際にECと実店舗の在庫一元管理を実践している株式会社ANAPの事例について紹介します。同社はアパレル事業を展開しておりECと実店舗に販路を持っています。課題として「ECと実店舗、どちらにどの程度在庫を用意するのか」という点と「複数ECサイトに出店する際に在庫ロスが増加してきた」という点を抱えていました。そこで、導入したのがアイル社が提供する在庫管理・販売管理・生産管理システム「Aladdin Office」と複数ネットショップの一元管理が可能な「CROSS MALL」です。これらの導入によりECと実店舗の在庫を一元管理可能となり適正在庫の実現や販売機会損失の減少につながり自社ECサイトの利益は向上しEC化率は約25%から30%へと上昇しました。また、複数ECサイトの在庫データ連携による在庫ロス防止も実現し多数の商品を各サイトでまんべんなく売ることが可能となりました。その結果、各ECサイトの売れ筋商品を再入荷したり、逆に売れてないものは他サイトに分配したりと、販売機会損失の減少に成功しシステム導入から7年間で同社のEC化率は60%へと上昇しました。また、データをシステム上で管理可能になったことで人的な作業の減少にもつながりました。
近年のめざましい技術の進歩は実店舗のデジタル化を後押ししています。実店舗ではこれまで人力で作業していたことをデジタル技術の活用によって効率化を図っています。特にAIの活用は注目されており、人に取って代わるような役割が期待できます。AIを活用した在庫管理では適正在庫の実現による在庫リスクの減少や販売機会損失の減少などが期待できます。また、コロナの観点から言うと、デジタル技術の活用は業務の効率化が実現でき店舗スタッフの省人化が図れます。すなわち、3密防止につながります。さらに、今後増加すると予測されるEC化に伴い、ECと実店舗の在庫一元管理は必須の取り組みとなり、今後のビジネスモデルの重要なポイントの一つとなるのではないでしょうか。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。