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【ブランド&DX事例】DXによるオーダーメイドの「見える化」(2/2)

 

オーダーメイドの可能性を拡げる「見える化」

前回記事【基礎からわかるブランド&テック】オーダーメイドの「見える化」(1/2)に続き、オーダーメイドのものづくりの「見える化」について紹介していきます。

オーダーメイドというものづくりの方法論を普及・進化させていくための取り組みとして、「見える化」ということが大事だということですが、前回は人ぞれぞれのニュアンスやイメージといった曖昧になりやすいものをブラックボックス化させずに、できる限り「みえる化」させるということを書きました。

工業生産などのエンジニアリングでは比較的進んでいるQFD(品質機能展開)という考え方が、職人の手仕事の領域ではあまり進んでおらず、いまだ「感覚で理解する」「見て覚える、センスで覚える」ということばかりが優先され、オーダーメイドのものづくりの可能性を進化させることを阻害しているという状況があります。

私たちはITの力を活用しながら、お客様サイド、つくり手サイドそれぞれにおいて、言語化されていなかったり、図式化されていない部分をできるだけ情報化することで、技術という側面からの「見える」化に取り組んでいます。

価値の「見える化」

オーダーメイドのものづくりをもっと普及させていくためのもうひとつが、価値を「みえる化」させるというアプローチです。

オーダーメイドのものづくりに伴う価値というものを、言語化・視覚化することによって循環共有させるという取り組みですが、オーダーメイドに伴う価値とは何かというと、大きく分けて、つくることの価値(生産者から消費者へ)と評価・報酬が生み出す価値(消費者から生産者へ)というふたつの価値があるのではないかと考えています。

つくることの価値

技術の素晴らしさやその卓越性、希少性。つくるためにかけた労力や素材そもそものコストなど、つくる側がものを生み出すために費やされた営みの総量。これらがつくることに伴う価値です。

これらに自分なりの意味や必要性を感じるからこそ、それを消費する側は見合うお金を払ってそれを買い求めたり、利用したりします。

意味や必要性を感じてもらうためには、消費する側にそれを知ってもらい、理解してもらわなければなりません。そのためにはこれらを言葉やビジュアルにして伝わるかたちにしなければなりません。

具体的には様々なメディアを通じた広告宣伝やSNSなどによる日常的な情報発信から、接客を通じてお客様に価値を理解してもらうというところまで様々な顧客接点での情報のやりとりということになります。

ith(イズ)では代表の高橋を筆頭に、様々なスタッフがブログ等で情報発信を続けています。

https://www.ateliermarriage.com/column/category/premiere/

またすべてのスタッフが、自分たちのブランドや商品それぞれについてできるだけ等しい情報や知識を持ってお客様に接することができるよう入社後半年間は、研修等を通じて徹底的に知識を覚え、かつ自分の言葉で他社に伝えることができるように継続的に研修を行います。

研修の風景:商品知識はもとより、伝える順番やタイミング、その際の所作なども含め学んでいく。

 

自分たちが理解してもらうたいことを、伝わるかたちで言語化、ビジュアル化し、余すところなく、けれども押し付けにならないように伝わりやすい順序やタイミングで届けるというのは、広告から営業にまでまたがる広範かつ高いコミュニケーション力を求められる作業ですが、オーダーメイドという手法が様々な手間暇とそこから生まれる意味合いの総和である以上、この作業を徹底的かつ愚直にやり続けなければ絶対にその価値は伝わりません。

それゆえに、つくることの価値を「見える化」するということが必須になるということです。

評価・報酬によって生まれる価値

もうひとつが、消費する側から生産者にもたらされる価値、評価と報酬によって生まれる価値だと考えています。

生産者が自分が作ったものによって、お客様から代金(金銭的報酬)をもらい、同時に喜びや感謝(非金銭的報酬)を頂く。ものづくりを通じて生産者がつくった価値に対して、それに見合う評価や報酬は、生産者が自分の営みに自信をもち、さらにポジティブに活動を続けていくための力を与えてくれます。

ウイリアム・モリスの言葉に、「仕事の報酬は人生だ(The reward of labour is life. Is that not enough?)」という言葉がありますが、仕事の評価が適切になされることによって、人は自分自身の存在意義を感じられるように思います。

 

これを「見える化」するための取り組みが「思い巡る結婚指輪」とい取り組みです。

ithで結婚指輪/婚約指輪をつくる際に、お客様ごとにマイページを用意しています。

生産側、顧客側双方がより円滑にコミュニケーションをとりあいながら、ithでの指輪作りという顧客体験全体をより満足度の高いものにするということを目的としていますが、この仕組みを活用することで、①これまでは表に出ることもなく顧客に知られることもなかった生産者たちの名前や仕事を顧客に伝える。(制作者クレジット) ②届くことのなかった顧客の喜びの声が、その指輪の制作に関わった一人一人の職人にまで伝わる仕組みをつくりました。

つくり手と顧客が ワントゥワンで面と向かってやりとりすれば当たり前のように生まれる顧客と作り手のお互いに対する賞賛や感謝を、分業/分散した環境の中でも擬似的に生み出そうという試みです。

*直接接客を担当するつくり手のほかに、その指輪作りに関係した社内外のスタッフ、協力会社にまでお礼の言葉をいただくこともある。協力会社等は通常表にでないのが一般的な業界内においては非常に稀な事例となっている。

 

重要になる情緒的な価値

人は機能性や便利さのみで商品を選択し購入しているわけではないのと同様に、ただ金銭的な報酬のためだけでに仕事をしているわけでもありません。私たちが取り扱うジュエリーという商材は元来情緒的な価値の占める割合の高いものであることは確かですが、そのほかの様々な産業においても機能性や利便性の基本水準が向上し差別化しににくくなっている現代の世の中においては、情緒的な価値を見える化していくという考え方はますます重要になるのではないかと考えています。

オーダーメイドというものづくりの方法論は万能ではないにせよ、曲がり角を迎えつつある社会経済のなかにおいてひとつの可能性を拓くアプローチとして改めて見直され、ものづくりのなかに再度組み込まれていくべき部分はあるのでないでしょうか。

私たちの取り組みがそのひとつの参考となれば幸いです。

 

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吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。