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【実践事例】ジュエリー会社がオンライン接客に取り組んで見えたこと

コロナを機としたオンライン化の取り組み

弊社ではオーダーメイドのブライダルジュエリー工房「ith(イズ)を全国8ヶ所で展開しています。顧客体験を生み出す中心として実店舗(私たちはアトリエと呼んでいます)を中心に展開してきたこともあり、新型コロナウイルス拡散防止に伴う国と自治体による緊急事態宣言により、約3週間に渡り店舗を休業せざるを得なくなりました。

経営的にも苦しい状況に立たされましたが、そのようななかでもオンラインでの接客サービス(以下、オンラインアトリエ)などの取り組みにいち早くに着手し、険しい状況下でも顧客との接点を失わずに、その後比較的順調な事業回復に遂げることができました。本記事では、オンラインアトリエに自ら取り組んでみた経験を通じて、その成功要因や苦労したポイント等をご紹介していきたいと思います。

オンライン接客の成果と影響

まず最初にオンライン接客の成果と影響という部分からお伝えしたいと思います。

弊社ithは加工から販売までも手掛けるオーダーメイドのブライダルジュエリーブランドです。20146月から事業を開始し、現在では全国に8店舗(銀座、吉祥寺、表参道、横浜、柏、大宮、心斎橋、栄)の展開をしています。

ithの特徴は単なるモノを売るのではなく、モノと一緒に顧客体験を提供しているところにあります。「徹底された世界観のアトリエ、つくり手、接客をお客様が体感する事」や「お客様自らのストーリーを指輪に反映させていくオーダーメイド」をithの大切にする顧客体験としています。

比較的EC化率の高い低価格帯のファッションジュエリーやアクセサリーを除き、対面での販売が主流のジュエリー業界全般として多くの事業者が大きな打撃を受けました。ithにおいてもアトリエでの顧客体験を何よりも大事にしてきた故に、緊急事態宣言が発令された4月は昨年度対比25.9%、5月58.5%とかなり厳しい結果となりました。

しかしながらそんな険しい環境を何とかくぐり抜け、6月には昨対比109.9%と想像を上回る実績をあげるに至りました。

業界全体としてコロナによって自粛なさっていたお客様が一気にご来店なさったということが一番大きな要因だと考えていますが、オンライン接客による成果という面では、

  1. 店舗休業中には、小規模店舗レベルの売上を計上できたこと
  2. 店舗営業が徐々に再開するタイミングでは、リアルの店舗がない地域の顧客との新しい関係性を構築できたこと

という直接な業績貢献はもとより、先の見えにくい険しさの中においても、お客様とのつながりを保ち続けることができたということが、自分たちにとっても大きな励みとなり、困難に向き合う大きなモチベーションとなったということも見逃すことはできない影響であったと考えています。

以下はith代表の高橋が4月の末に書いたブログからの抜粋ですが、美辞麗句でなくこういう気持ちが事業に関わる者にとって大きな力になるんだということを実感しました。

オンラインでの相談

オンライン接客導入の経緯

導入の経緯

コロナの動向をみながら、実質的に約2週間ちょっとというかなりの短期間でオンライン接客の準備立ち上げを行いました。実際のところ、コロナが大きなイシューとなる以前から、今後起こるであろう5Gの普及などを意識してオンラインアトリエへ挑戦するという検討をしていましたが、「店舗が営業できない=売上がゼロになる」という切迫した状況を突きつけられることで火事場の馬鹿力が発揮されたということだと思います。

繊研新聞2020年5月15日に当社が運営する結婚指輪ブランド「イズ(ith)」が取り上げられました

ツールについて

オンラインアトリエには欠かせないオンライン通話ツールについて、最終的に採用したGoogleMeetのほか、ZoomLINEや接客用に開発された有料サービスなども含めいくつかのサービスを検討、テストしました。通話や画面共有面での機能と品質、ユーザー側の手間(ログインが必要かどうかなど)や受容度合い等々、いくつかの側面から検討しましたがどれも一長一短というところから、まずはとにかくやってみようということで自社内での利用実績も多かったGoogleMeetを使用することとしました。

そのほかに、指輪という極めて小さな商品を説明するためには一般的なPC内臓のカメラでは不十分であると考え、USBで接続する外付けの顕微鏡カメラを用意しました。これによりテクスチャの微妙な違いなども画面越しに説明することができるようになりました。

また初期の段階では、外部に公開しているWEBサイトの商品画面などをベースにお客様とコミュニケーションをとっていましたが、来店される場合の接客により近づけられるようにリアル店舗の接客ボックスを模したWeb接客ツールを開発しました。

 

運用方法

上記のようなツールを使用しながら、ithで通常行なっている接客フローを基準にオンライン化する業務を設計しました。何よりも重視したのはお客様にできるだけ通常の接客に近い体験をしてもらうという部分ですが、オンラインゆえの特性や制限などもあることから、動画を用いたithのステートメント紹介やアレンジ方法の紹介や、指輪を郵送しての試着など、オンラインにあわせた施策も組み合わせて運用を行なっています。

 

 オンライン接客の成功要因と苦労した点

成功要因

このように今までのところ比較的うまくいっていると自己評価していますが、今回かなりの短期間でローンチから実施、そして一定の成果を得られるところまで導いていくことができた基礎的な要因として、主に2つのことがあったのではないかと考えています。

  1. 基本となる接客方法が確立共有されていたこと

ithでは、新卒や中途の接客担当者(つくり手)に対し、約6か月程度の期間をかけて、誰もが「ithらしい接客」を行える状態であるようにトレーニングを行っています。一般的なジュエリー知識から、ithとしての商品知識、オーダーメイドに関することなどなど様々な要素で構成されていますが、運用方法のスライドでも示した通り、接客の流れについてもステップを定め、各フローでどういう行動を行うか、お客様と何を共有するかなどを明確に定義しています。

一定期間の教育を受けたつくり手であれば、ithらしい接客方法ということについて共通の理解を持つ状態になっていますので、業務のオンライン化にあたっても、例えば「ステップ1の◯◯◯のところをオンラインでやるよ」という話をすれば、「ああ、なるほど」と理解できる状態になっています。

つまり「ithの世界観とリングの両方を気に入っていただく」という目的が明確化されていることと、そのための手段としての接客フローがしっかりと整備共有されていたことが、スムーズにオンラインアトリエに対応する事が出来た第一の要因であると考えています。

  1. 顧客の情報が一元管理されていること

弊社では役員の三浦が元々プログラマーであることからシステム全般を自社で内製しているのですが、ithにおいても情報を発信したり顧客とのコミュニケーションを行うWebサイトから、予約や接客に関する業務管理、顧客情報の管理、オーダーメイドの指輪の制作管理、管理/財務会計までをほぼ包括するシステムを自社で開発しています。

権限等での制約はありますが、チャネルの如何を問わず基本的に同じ情報に基づいてすべての人員が情報確認とそれに基づく対応ができます。同一の顧客情報に基づき対応しますので、オンラインで接客してからアトリエに送客する。オンラインの情報を踏まえてから、アトリエで接客する、ということが容易にできる状態にあります。

情報化社会という概念が登場して以来、あらゆる組織がその理想的なかたちの実現形態として「シームレスな情報連携」、なかでも「顧客情報の一元化」を追い求めてきました。私自身SI会社の社員として他社のシステム開発に携わった経験もあり、多くの企業においてオフラインとオンライン、事業部毎と大事な顧客情報が点在化し別々に管理されていて苦労しているという状況を見てきたこともあり、自社の事業においては小規模ながらも情報の一元化を進めてきたことが功を奏したのだと思います。

苦労した点

全体としてはうまくいったオンラインアトリエでの業務ですが、苦労した点や想定通りにならなかったこともあります。今現在は、恵比寿の事務所にオンライン専用の席を用意し、オンライン対応専任のつくり手が対応しているのですが、導入当初はすべてのアトリエでオンライン接客が出来るように、設備導入と教育を進めて行こうと計画していました。

対応者の接客方法や、オンライン用の設備やシステムの面、それから実際の接客に必要となる備品の充足状況から考えるとすべてのアトリエでオンライン対応ができたほうが、顧客対応という面においても理想的であると考えたからです。

しかしながら、1~2週間の試運転を通じた検証から、一旦全アトリエへの導入実施は中止し一箇所に絞って運営する方針へと切り替えました。

理由として主なものを挙げると、

  1. 接客スペースの運用方法の問題

弊社のアトリエ(店舗)は比較的こじんまりとした建て付けのところが多く、小さなアトリエですと3席くらいしか座席がないという場合もあります。そのようななかでオンライン用の対応が入ると座席をひとつ占有してしまう、占有しないとしても今後は逆に準備が大変になる、という接客スペースをどのように運用していくか、という部分での問題が生じました。

  1. オンラインとオフラインの切り替えにつくり手がストレスを感じてしまう

さきほど述べたように、概念的にはオンオフかわりなく、できるだけ同じようなかたちで業務を行えるとはいっても、感覚も含めたコミュニケーションという点でいうと、ちょっとした仕草や雰囲気から伝わる情報や、リングを試着してもらったときの反応など、オンラインでは察しにくいところも多分にあります。実際の担当者はそういったところも汲み、お客様の感触を確かめながら接客していきますが、オンラインではそういう部分を言葉で補いながら話を進めなければならないなど具体的なレベルになるほど細かな違いというものが生まれてきます。

もちろん個人差もありますが、そういう細かな部分に神経を配りながら接客にあたるつくり手にとっては、オンとオフを切り替えながら1日の業務をつつがなく完遂させるということは思いの他、ストレスフルな状況です。

上記のようなことに加えアンダーコロナというハイプレッシャーな状況もありましたので、概念的には理想的だとしても現時点で無理にそこに向かう必然性はないと考え、現在の運営に至っています。

ここにおいても、最も重要なことは顧客接点の担い主であるつくり手がストレスを感じることなく、全力でお客様に向き合えることにあると思います。お客様に最大限寄り添える状態をつくることで求めているものを形にすることが出来るのです。

大事なことは目的を見失わないこと

将来的にはオンラインアトリエに対応できるつくり手の数も増やしながら、オンオフ関わりなくシームレスかつハイブリットに接客ができる体制を整えていきたいと考えています。実際に店舗での営業活動が再開した後も、オンラインから始まりアトリエにご案内するという流れや、これまでアトリエにお越しいただけなかった遠方からのお客様もオンラインを通して新たな接点が生まれるケースも増えてきています。

ithに関しては、ブライダルという枠を超えてお客様の人生に寄り添い、様々なタイミングで時間を共に過ごせるような体制も検討中です。そのような場面でも、オンラインという環境が整っていることで、お客様が弊社を人生のパートナーとして選んでいただける機会へつながると考えています。

本記事ではオンライン接客について触れてきました。繰り返しになりますが、一番大切な点はお客様に寄り添い、お客様の望みを形にするという顧客ファーストの考え方にあります。つまり、オンラインアトリエというのは今の時代の流れに沿ったひとつの手段でしかありません。私たちにおいては、お客様に寄り添う「ithらしい接客」「ithらしいあり方」というものを日々の業務や研修を通して共有実践してきたからこそ、コロナ禍の中でも慌てず、最大限のスピード感をもって急な対応が実現できたのだと思います。今後とも、「たくさんよりも ひとつをたいせつに」という言葉ととにも、お客様に寄り添うことを大切に、オンライン接客をはじめとした新たな可能性の追求にもチャレンジしていこうと考えています。

 

私たちの実践を通じて得た経験やノウハウは、外部の企業様に提供できればと考えています。今月末にはWebinarにも登壇させていただきますのでご興味をお持ちの方はご視聴頂ければと思います。

ジャパン ジュエリー ウェビナーにて当社取締役吉田が講演いたします。

 

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。

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