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2021.06.23

【対談インタビューvol.5】互いへの信頼から生まれるクリエイション1 -“何がしたいのか”を、見極める-

アーツアンドクラフツが、この春、始動した新たなプロジェクト。それは「好き」を諦めない、夢に向かって頑張る女性たちを応援する取り組みです。2021年夏に発行を予定している絵本は、このプロジェクトの一環としてスタートし、ウーマンクリエイターズカレッジの代表・松本えつをさんとオーダーメイドの結婚指輪工房『ith』代表・高橋亜結の共同制作で進められています。

「好き」を諦めない。夢に向かって頑張る女性たちを応援する絵本プロジェクト

フォトグラファー 鳥巣佑有子 × ith代表 高橋亜結

ithのメインビジュアルを始め、ブランドの世界観を表現する撮影を手掛ける鳥巣佑有子さんは、ith代表の高橋が「結婚指輪・婚約指輪に宿る夢や幸せを、ithらしい価値観で表現してもらえる」と絶大な信頼を寄せるフォトグラファーの一人です。

第1回目は、クリエイションを通じて信頼関係を築く2人に、プロとしての心構えやお互いの仕事観を語ってもらいました。

 

“うまくいくのは、当たり前じゃない”
どんな環境でも面白がるポジティブさ

鳥巣さんがフォトグラファーを志したのは、学生時代からライフワークである旅のためといっても過言ではありません。在学中はカメラ片手に地方はもちろん、海外にも足を運び、そこで暮らしながら写真を撮り続けてきました。大学卒業後、京都の映画撮影所にスチールカメラマンとして働くことになったのも、映画やテレビの撮影以外は自由に休みが取れるという理由が大きかったと話します。そう、当時の鳥巣さんの夢は、自分のやりたいことに時間を使うことであり、フォトグラファーはその夢を叶えるための手段でした。

 

 

鳥巣さん(以下、鳥巣)

京都の映画撮影所で仕事ができたのは、本当にラッキーでした。自分の居場所ができたと思ったし、ネットワークもできました。多感な時期にそういう環境を用意していただいて、感謝しかありません。ただ、撮影所での撮影はあくまでも映画やテレビなどのカメラが主役で、私たち、スチールカメラマンは役者の方に『こっちを向いて』と声もかけられません。堂々と撮れないことが次第にストレスになり、いつしか自分もメインスタッフとして撮影したいと思うようになりました。

 

次第に溜まるストレス。鳥巣さんは撮影所での撮影が終わるとそのストレスを発散しようと、また海外に足を運ぶ。その繰り返しだったそうです。さらに、もうひとつ、当時の鳥巣さんを悩ませていたのは、周囲からの評価と自分自身が思う実力とのギャップでした。

 

鳥巣

私は、何の知識も経験もないまま、運だけで仕事に就けたと思っていて、下積みの経験がないことがコンプレックスでした。また当時は、『普通の写真は撮るな!』といわれ、まじめな写真を撮るとNGだったのです。自分の中では失敗だと思った写真も、周囲からはアーティスティックだ、新しいとかいわれて()。でも、それでは通用しない現場がたくさんあることも経験していく中で実感としてわかってくるので、現場に立つたびに恐怖がありました。

 

その状況から脱するため、海外でフォトグラファーとして本格的に仕事をしていこうと決意するものの、就労ビザなどの関係でその願いも叶わず。すでに撮影所も辞め、京都の住まいも引き払ってしまった鳥巣さんは、状況の変化を、東京で働くことを決意しました。

 

 

鳥巣

そこで、初めてスタジオのアシスタントを経験したのです。体育会系の厳しい職場環境ではありましたが、私は念願だった下積みを経験できることが嬉しくて。トイレ掃除も全く苦になりませんでした。

 

今でこそ、多くの女性が活躍している写真業界ですが、当時はまだ女性フォトグラファーはとても少なく、働く環境としてはかなり過酷だったそう。そんな状況でも、鳥巣さんが決して忘れなかったのは、どんな環境も面白がろうとする気持ちでした。

 

鳥巣さん

いいことがあれば、しんどいことがある。辛いことも面白がることができれば楽しいし、面白みを見つける努力をする。ものごとがうまく進むのは“めちゃくちゃラッキー”と捉え、当たり前ではないと思うようにしています。

 

一方、高橋は小学生でジュエリーデザイナーになる夢を思い描いていましたが、中学では水泳に夢中となり、いつしかその夢も忘れていました。ところが、高校受験を前に将来は手に職をつけたいと思うようになり、東京都立工芸高等学校に進学。そこで金属工芸をみっちり学び、高校卒業後はジュエリー制作の専門学校を経て、職人としてキャリアをスタートします。ジュエリー業界も女性の職人となると極端に少なく、同じような環境でした。高橋が独立前に勤めていたジュエリーメーカーの工房も周りは男性ばかりだったそう。

 

 

高橋

20歳になり、小学生のころに埋めたタイムカプセルを開ける機会がありました。そこには幼いころに書いた「ジュエリーデザイナーになりたい」という夢が記されていて。それを見て、「あぁ、本当になっている」と実感しました。

 

私も年功序列型の工房に入りましたが、テーラーを営んでいた祖父から下積みの経験談をよく聞いていたので、そういうものなのだと思っていました。逆に女性が少ないことで、かわいがってもらっていたかもしれません。私の場合は、序列がしっかり取れていた環境の方がむしろ心地よかったですね。すぐ上の先輩から仕事を学び、将来は親方のような仕事ができるようになりたいと憧れていましたから。

 

アーティストであり職人、
両面を兼ね備えたクリエイター

 

その後、スタジオを辞めた鳥巣さんは、「自分の知らないことをやってみたい」と、世界の名だたるトップブランドの撮影を手がけるフォトグラファー・土井浩一郎氏のアシスタントとして働くことになります。土井氏の写真は、緻密さと美しさを兼ね備えたもので、先進的なデジタルの技術も群を抜いており、当時の鳥巣さんの作風とは異なるミクロの世界を突き詰めて作業を重ねるものでした。

 

鳥巣さんとithの出会いは、アーツアンドクラフツのクリエイティブ全般に携わるデザイン事務所「o-flat」の代表・永田洋平氏がきっかけでした。フリーランスとしての活動する中で、かつて自分にはできないし向かないと感じていた、ひとつのもの、小さなものの撮影にじっくり取り組みたいと思うようになっていた鳥巣さん。指輪の撮影はそのときが初めてでしたが、新たな挑戦を決めました。

 

 

鳥巣

まず思ったのは、とても緻密で肉眼ではわかりにくい小さな世界だということでした。人物撮影にはない、レンズとの相性やミクロの世界がとても面白く、レンズを覗いてハッとしたり、ドキドキしたり。それくらい実物がきれいなので、実際に撮影すると写真ではその輝きがなかなか伝わらない。どうしたらもっと輝かせられるか、さらによく見せられるかと考えた結果、自分の照明技術だけではなく、プロの照明技師の視点も必要だと思いました。イレギュラーではありましたが、双方の意見を交わしながら撮影に挑みました。

 

撮影前には高級ブランドのカタログも研究していたという鳥巣さん。でも、実際に撮影に入ると、高橋が一つの指輪にかける熱い思いやそれがたかちになるまでの過程を知り、ithの世界観を表現するにはありきたりな価値観では難しいと気づきました。

 

鳥巣 

ithさんの撮影は、高橋さん自らものづくりの思いを話してもらうという、珍しいものでした。一般的には広告代理店の担当者と共に、製品化された商品をどう売っていくか相談を進めることが多く、このような手法はかなりレアなケースです。だから、私はithさんのために撮っているというよりも、高橋さんのために撮っているという思いが強くあるかもしれません。それはithさんのために撮っていることにもつながるのですが、職人である高橋さんがよいと思うものが撮れたらいいなと思っていますし、すごくやりがいのある仕事のひとつになっています。

 

高橋

鳥巣さんはそのジュエリーが持つ雰囲気を見事に表現してくれるし、ithが表現したい世界観をそのまま写真に活かしてくれるので、鳥巣さんにお願いしたらいい写真になりそうって思うんです。私の中では、鳥巣さんはアーティストと職人の間にいるような方で、自分のいいと思うことを突き詰めていくアーティスティックな面と、依頼されたことをかっちり形にしていく職人気質を兼ね備えているように思います。だから、現場ではアイデアも出してくれるし、私のものづくりへの思いもすごく汲み取ってくれる。ちょうどよいバランスでお仕事をされている方だなと思います。

 

 

鳥巣 

それはきちんとした基礎がないからかもしれません。私は失敗するたびに学んできたので、その失敗をしないために逆算し、できる限り準備して撮影に挑むんです。失敗への恐怖を補うために、相手が求めていることに応えるためには何をしたらいいか、今も常に考えています。現場で『それは違う』となるのが一番だめなことなので、そうならないように引き出しは可能な限り用意しておこうと思っています。

 

高橋

それでいつも機材が多いのですね。撮影ではデジタル・フィルム・ポラロイドといろいろなカメラを操って、そのジュエリーの風合いや空気感が一番でるように撮影してくれる。いいものを作ろうという思いが感じられるので、その撮影現場はとても居心地がいいんです。

 

vol.06 思いを込めて“ものづくり”する人でありたい につづく

 

<高橋亜結プロフィール>

自身のアトリエから生まれたオーダーメイドの結婚指輪工房「ith」のブランド代表。15歳から金属工芸全般(彫金・鋳金・鍛金)を学ぶ。山梨県立宝石美術専門学校卒業後、宝飾メーカーの工房で8年半修業を経て独立、吉祥寺にアトリエを開く。高橋自らデザインし、試作を重ねた結婚指輪のコレクションは、シンプルなものから個性的なものまでバリエーションは幅広く、その数は70種を超える。ブランドコンセプトである「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」という想いをもとに、これまで手掛けた婚約・結婚指輪の数は1000組以上にも上る。現在は、新作の商品開発の他、新たに加わったつくり手たちの指導にも関わるなど、ブランドの顔として社内外に向けた活動している。

 

<鳥巣佑有子プロフィール>

1972年生まれ、京都出身。フォトグラファー。夫と住む東京の自宅と一宮との二地域居住。日本大学藝術学部映画学科卒業後、京都の映画撮影所でスチールカメラマンとして活動。映画・時代劇・Vシネ・TVドラマ・演劇・舞台・ドキュメンタリー等々、数々の宣伝用スチール撮影の仕事と平行してニューヨーク・ロンドンに通い、スタジオマンやカメラマンアシスタントしながら、写真について学ぶ。2000年、拠点を東京に移し土井浩一郎氏に師事を経て、2001年よりフリーカメラマンとして独立。
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Instagramアカウント:@torisuyuko

 

【インタビューはこちら
vol.01  “好き”を天職にする
vol.02  活躍の道は、ひとつじゃない
vol.03  挑戦する女性を、サポートしたい
vol.04  会社員として働きながら、目の前のチャンスを掴む

 

「好き」を諦めない。夢に向かって頑張る女性たちを応援する絵本プロジェクト
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