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2021.06.21

【事例解説】企業が身近なところに「脱炭素」に向けた活動

はじめに

 近年、温室効果ガスの排出が急増し、環境悪化どんどん進む中、各国とも脱炭素に向けたロードマップを発表している。日本も2020年に「カーボンニュートラル計画」を発表し、2050年までに「炭素排出ゼロ」に目指している。そして、日本政府が提唱している対策として、「電機自動車の普及」、「太陽光や風力発電の活用」、「水素の活用」、「原子力の活用」などが挙げられる。もちろん、カーボンニュートラルを実現するには、重工業やエネルギー関連が極めて重要ではあるが、ただしやはり日常生活から少し離れている感じはしなくもない。では実際身近なところ、例えば日用品、食品、アパレルなどの領域において、企業がどのような取り組みをしているのか?今回のコラムではより日常生活に近いところで起きている脱炭素取り組み事例を紹介していく。

日用品業界

P&G:パッケージに工夫することによる脱炭素

 P&Gはグローバルレベルの大手日用品メーカーとして、積極的に脱炭素活用に取り込みしている。まず挙げられるのはパッケージに対する工夫だ。

 洗剤やシャンプーなどのパッケージはほぼプラスチック製だが、便利の反面、従来のプラスチックは石油由来のため、環境には優しくない。そしてP&Gは早い段階ヨーロッパで販売されている製品パッケージをPCR、つまりリサイクルプラスチック由来のものを切り替え、2020年には5.2万トンのPCRを使用していた。また、Old Spice and Secretシリーズの商品パッケージは90%リサイクル紙を利用したペーパーチューブ式の包装となっており、米国500店舗で販売されている。パッケージの素材を変えることと同時に、P&Gヨーロッパは容器デザインにも工夫し、従来商品と比較してプラスチック60%が削減された詰め替え用容器とポーチで販売されている。このリフィルシステムはヨーロッパの2億世帯が利用可能で、2021年末には年間3億本ものバージンプラスチックボトル削減に相当する。

紙包装のOld Spice and Secretシリーズ

 また、P&Gはリサイクルにおいても取り組みをし、リサイクル素材ベンチャーFaterSmart社の技術を利用し、紙おむつを回収、分解して、ボトルキャップ、ビスコース、半合成繊維などを作ることを実現している。パンパースイタリアはアムステルダム各地自体とも連携し、デイケアセンター近くにスマートビンを設置し、アプリで登録した600の世帯から2019年プログラム開始以来、43トン(=20万個相当)の紙おむつを回収した。2030年までに10の都市にプログラムを拡大する予定。

花王:製品利用から脱炭素

 P&Gのようにパッケージに工夫して脱炭素を実現しようとしている方法もあるが、花王は利用段階から炭素の排出削減しようとしている。花王の調査によると、日用品各段階のCO2排出において、使用段階は39%の一位となって`いる。主な原因は、洗剤など使用する際の電気の消費、汚染された水の処理などにある。それを改善するため、花王は「ウルトラアタックNeo」というブランドの衣料用洗剤を開発した。この洗剤の一番大きい特徴としては「すすぎ1回」で済むことにある。することによって、従来の2回すすぎより使用する水や電気が大幅に削減できる。また、超濃縮タイプで、通常洗剤より2.5倍コンパクトで、運送などの段階でも消費する燃料も従来品より少ない。同社の資産により、ウルトラアタックNeo全ライフサイクルでは従来品より22%Co2排出が削減できる。衣料洗剤以外、花王髪の毛のからまりを防ぐことができるシャンプーを開発しようとして、ドライヤーの風通りをよくして、感想時間を短縮することで電力消費削減を実現する。

花王の製品ライフサイクル各段階で排出されるCO2

アパレル業界

ファーストリテイリングRE.UNIQLOコンセプト

 アパレル業界の大手として、ファーストリテイリングが「RE.UNIQLO」というコンセプトを発表し、脱炭素活動の指針としている。詳細内容として、RECYCLE(生まれ変わらせること)とREUSE(繰り返して使うこと)で、REDUCE(資源の無駄を減らすこと)ということになる。具体的な取り組みとして、ユニクロは店舗で回収した服をリユースし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や世界中のNGONPOとともに、難民キャンプや被災地への緊急災害支援など、世界中の服を必要としている人たちに届けている。また、リユースできない服は燃料や防音材として加工しリサイクルし、工場で再利用する。さらに、最近では新たな取り組みとして、ダウン商品を皮切りに「服から服へのリサイクル」も推し進めている。例えば、独自の技術で商品に使えるダウン・フェザーに再生など。それ以外、CO2削減に貢献する代替燃料などに加工される。

RE.UNIQLOコンセプト

H&M:新たなリサイクルシステム

 ファーストリテイリングと同レベルのアパレル大手H&M2020年に「Looop」というリサイクルシステムを導入した。H&M財団と研究パートナーである香港のHKRITA社(香港繊維アパレル研究開発センター)と同じく香港の繊維メーカーNovetexTextiles社によって共同開発され、利用者はLooopを使って、100スウェーデン・クローナ(約1,200円)から150スウェーデン・クローナ(約1,800円)で古い服を新しい服に変えることができる。このシステムによる収益は全て新たな環境にやさしい素材開発に使われている。

H&Mのリサイクルシステム「Looop」

 その他、H&M2030年までに全商品にリサイクル素材やサスティナブル素材を使用する計画を発表し、2017年時点ではすでに35%を達成と発表している。

食品業界

ネスレ:リジェネラティブ農業推進

 ネスレは他会社と似たように、2020年に「2050年までにCO2排出実質ゼロ」という目標を上げて、そしてロードマップを発表したが、そのうち特に注目されているのが「リジェネラティブ農業」になる。

 「リジェネラティブ農業」というのは、農地の土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げる農業のことで、「環境再生型農業」とも呼ばれる。具体策として、不耕起栽培(農地を耕さずに作物を栽培する方法)や、輪作(同じ土地に別の性質をもつ複数の農作物を何年かに1回のサイクルで作る方法)、合成肥料の不使用といったものが挙げられる。では、これがどのようにCO2排出削減とつながるのか?研究によると、土壌は元々Co2を吸収する効果はあるが、ただし破壊されたらこの効果が弱くなってしまうと言われる。また、トラクターや鍬で地表を掘り返すと酸素が取り込まれ、植物が光合成により土壌に固定していた炭素と結びつき、CO2となって大気中に放出されてしまうということもある。その対策として、「リジェネラティブ農業」は土壌の修復を通じて、より多くのCo2を吸収してもらうことと、不耕起栽培で土壌から排出するCo2を減らす効果が期待できる。米学者の研究によると、世界の50億ヘクタールの農地にこの環境再生型農業を適用すれば、20年間で約150億トンの炭素を削減すことですら実現可能。ネスレ以外、ダノンなどの大手食品メーカーもリジェネラティブ農業に取り組んでいる。

終わりに

 今回は日用品、アパレル、食品業界の代表的な脱炭素事例を紹介した。再生可能エネルギー、電気自動車以外、世の中の企業は脱炭素に向けてどのよう努力をしているのかを理解するのに、少しでも参考になれば幸いだ。

 

参考:

Old Spice & Secret Are First Large Brands to Launch Refillable Antiperspirant Cases Made With No Single-Use Plastic Packaging | Business Wire

RE.UNIQLO:あなたのユニクロ、次に生かそう

H&M、リサイクルシステム「Looop」で不要な衣類を新たなファッションアイテムに変換 (hm.com)

花王sustainability2018 (kao.com)

脱炭素に取り組むネスレが注目。「リジェネラティブ農業」とは? | サステナビリティ・SDGs 事業開発支援 | I4G Business Design Lab (ideasforgood.jp)

王 立云

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/マネージャー
2016年上智大学大学院経営学部卒業、大手量販店入社。2018年当社入社、Consulting & Solution事業部にて戦略コンサルティング案件、BRP、RPAを始めた業務改善に伴うITコンサルティングなど、豊富な実績を有する。社内効率化のために、最適なソリューションをご提案いたします。