2019年には大塚家具がヤマダ電機に買収され、2020年には島忠がニトリに買収されるなど、近年大手ホームファッションメーカーのM&A動向が活発化しています。
これらのM&Aがなぜ行われたのかを分析することで、買手企業の戦略や市場の傾向を把握することができます。
そこで、今回はホームファッション業界を元に、今後市場がどのように変化するのか、及び市場内のプレイヤーがどのような事業戦略を描いているのかを分析します。
ビジネスにおける「ホームファッション」という単語の定義は、少々込み入っています。
まず前提として、「一般家庭で使用される製品であること」があります。同じ製品でも、オフィスや公共施設などで用いられる家具はオフィス家具に分類されるのです。
また、机やいす、カーテンなどといった、一般的に家具と呼ばれるものの他に、寝具、タオル、照明器具なども含んでいます。(ちなみに、照明器具以外の家庭用電気製品は家電に分類されます。)
M&Aを行う際、市場分析は非常に重要な要素です。
たとえば、買収元企業から見て事業のシナジーが見込める業界の企業でも、市場自体が縮小傾向にある場合、M&Aによって生まれるバリューは小さくなってしまいます。
また、成長市場に所属する企業でも、同じポジションに強力なライバル企業が存在しシェアを伸長しているなど、M&Aを行わない方が良い場合もあるのです。
このような重要な情報を事前に獲得し、俯瞰的な観点からその企業の買収価値を考察することが、M&Aを成功させるための大前提としての市場調査なのです。
そしてこれらの分析を行う際に必要になるのは、3C分析の観点です。なぜなら、M&Aの市場分析に必要な要素である市場規模、市場内の競合、そして譲渡企業のポジショニングをそれぞれCustomer、Competitor、Companyに置き換えて分析することができるからです。
今回はCustomerを「市場規模」及び「PEST分析」、Competitorを「市場の主要プレイヤー」として分析します。Companyに関しては、特定の譲渡企業を設定していないため今回は除外します。
では、実際にホームファッション業界を分析してみましょう。
下図は、2019年までのホームファッションの市場規模及び2020年の市場規模予測です。
2015年以降CAGR(年平均成長率)は-1.2%と、若干縮小傾向にありますが、2020年はコロナ禍の巣ごもり消費が後押しし、1.4%市場が拡大すると予測されています。ウィズコロナの期間が長期化し、巣ごもり需要が継続するのであれば、今後も成長が見込まれます。
PEST分析とは、市場の動向を「Politics」・「Economy」・「Society」・「Technology」の観点から分析する方法です。これらをもとに、外部環境に影響されやすい市場なのか、今後成長性がある市場なのかを判断します。ホームファッション市場のPEST分析の結果を以下に示しています。
Politicsの観点では、コロナ禍による外出自粛、営業時間短縮要請や、物流の遅れによる悪影響を受けてはいるものの、Societyの観点では、家にいる時間が多くなった事から自分の部屋や家に対する興味関心が増加し、需要自体は増加していることが分かります。ただ、車離れやECの活用などから、大型店舗での販売を主軸としている企業の売上は減少傾向にあると思われます。
次は市場を構成するプレイヤーを把握します。プレイヤーを把握することで他社の市場カバー範囲や、自社の将来的な競合やベンチマークを確認することができます。2020年の化粧品市場における主要プレイヤーとシェアは以下のようになります。
主要ホームファッションプレイヤーの中でも、ニトリ及び良品計画のシェアが特に高く、2社だけで約8割のシェアを持っております。両社共にシンプルなデザインで比較的低価格な製品を主に販売しているため、今後ホームファッション市場に参入するなら、デザイン性や機能性の高い製品を展開する必要があると考えられます。
これまではどのように市場分析を行うかについて説明しましたが、ここでは実際にホームファッションメーカーがどのようなM&Aを行ってきたのかを紹介しようと思います。各社M&Aをする際にどのような目的をもっているかなどを分析することにより、企業の今後の動向を分析できるようになるうえに、今後市場がどのように変化するのかを読み解くための材料にもなります。以下、2019年以降に発生したM&Aの事例です。
事例①
【買収企業名】
ニトリHD
【譲渡企業名】
島忠
【譲渡日】
2020年12月1日
【買収目的】
新規事業進出及び販売エリア拡大
【事例概要】
当初、DCMホールディングスがTOB(株式公開買い付け)を行うことを表明していましたが、約1ヶ月後にニトリHDも島忠に対するTOBを発表し、2社で買収を競い合った日本国内では珍しい事例です。
結果DCMが1株4,200円に対し、ニトリは1株5,500円、合計2,140億円で買い付けすることを表明し、ニトリが島忠を勝ち取る結果となりました。
島忠はDCMやニトリHDがあまり店舗を置いていない都心付近に展開しており、2社共に販売エリアの拡大を計画していた他、ニトリHDはコロナ禍でDIY需要が拡大したことに着目し、ホームセンタ事業に参入することも目的としていました。
事例②
【買収企業名】
ヤマダ電機
【譲渡企業名】
大塚家具
【譲渡日】
2019年12月1日
【買収目的】
新規事業進出
【事例概要】
兼ねてより大塚家具は、お家騒動によるブランドイメージの毀損や大幅リストラによる社員のモチベーション低下から業績が悪化し、2016年からは常に赤字計上が続いていました。
一方のヤマダ電機も、顧客のEC利用率拡大をうけ、本来得意としていた店舗型ビジネスの売上が減少していました。
そこで、ヤマダ電機首脳陣が、「暮らしまるごと」のコンセプトのもと、家電にとどまらず顧客の暮らしを全てコーディネートするビジネスに転換することを決定し、家電のほかに家具も併せて販売することを決定しました。
その際に、ニトリのような大手ホームファッションメーカーとの差別化を図るため、高級家具を扱う大塚家具を買収することになりました。
事例③
【買収企業名】
株式会社オカムラ
【譲渡企業名】
オカムラ物流
シーダー株式会社
【譲渡日】
2020年2月1日
【買収目的】
サプライチェーン強化、技術力の強化
【事例概要】
オカムラが100%出資している連結子会社のオカムラ物流及びシーダーを、2020年に吸収合併しました。二社ともオカムラグループの物流や物流に関する機器の生産に関わっており、SCMの強化や専業メーカーの高い技術力を取り入れることが目的だと思われます。
事例④
【買収企業名】
株式会社エトウ
【譲渡企業】
酒の小売企業
【譲渡日】
2020年
【買収目的】
新規事業展開
【事例概要】
エトウは、兼ねてより家具の製造を行う傍ら、地元の酒蔵への支援や大学との工事の共同開発を行っており、2020年に後継者不在に悩んでいた酒屋を買収しました。エトウは元々新規事業への進出を盛んに行っており、今回もその一環としてM&Aを行ったと思われます。
今回紹介した事例のように、ホームファッションメーカーが他業界に進出、あるいは他業界からホームファッション業界に参入する傾向にあるようです。このような傾向となった原因は、ECの拡大や人口減少などの要因からホームファッション事業のみを扱うことが難しくなっているからだと考えられます。
そのため、今後はホームファッション以外の事業への進出、あるいはホームファッション事業への参入を目的としたM&Aが増えるのではないかと考えられます。現に、ニトリHDがアパレル業界への進出を計画しており、TOBに積極的な姿勢を示しております。
今回ホームファッション市場やM&A動向を分析した結果、以下のことが判明しました。
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。