言うまでもなく、高齢化が世界中を席巻している。特に日本においてはとても深刻な問題となりつつある。それと同時に、数多くの高齢者がどんどん先進化になっているテクノロジー社会に恵まれていない状況も発生している。多くの場合、テクノロジーは若者から始まり、中年まで浸透するが、高齢者にはあまり浸透されていないのが現状である。それがゆえに、数が増えつつある高齢者向けのデジタルサービスへの対応が至急になり、ビジネスの不可欠な一環であると思われる。
数多くの高齢者はデジタルになれない側面や、ITリテラシーが低い部分があるため、高齢者向けのデジタルサービス進行が困難を重ねたことは想像できる。それを解決するために、国内外では、高齢者向けの公共サービス(官公庁が主導したプロジェクト・高齢者向けの非営利団体が実施したトレーニング)、民間サービス(IT tech・保険業界・ゲーム業界等のサービス)など、官民がさまざまな取組を試している。
The ALFRED ProjectはALFREDというスマホアプリ(あだ名バーチャル執事)を活用し、高齢者の日常生活問題を解決するためのプロジェクトである。ALFREDは以下の機能に備えていており、欧州の高齢者の中で人気を誇っている。ALFREDの主要機能は以下となる:
また、ALFREDは完全に音声によって制御されるため、操作がとても簡単で高齢者に非常に優しいデザインとなっている。
EUが主導したもう一つのThe Mobile Age projectは高齢者使用したいアプリの文字拡大、UI/UXなどの改善で、高齢者がより使いやすくために取り込んでいる。
The Mobile Age projectの研究者は高齢者と協力し、高齢者がアクセスしたい公共サービス・使用したいモバイルアプリケーションの種類・アクセシビリティとモビリティの要件を調査した上で、高齢者に最適なアプリケーションを開発しようとしている。
このようなアプリケーションを通して、高齢者が若者と同じように電子公共サービス(図書館の利用など)にアクセスことが可能になり、またオープンデータへのアクセスも可能になる。
日本総務省は2014~2015年に国内11地域の公民館等の公共施設を実証フィールドとして、高齢者向けにICTリテラシーの向上に資する講習会を開催した。全国36個の会場で講習会を実施し、講師107人、受講高齢者数990名が参加し、大好評だった。
その中、高齢者が自らパソコン教室の講師として役割を担ったケースもあった。高齢者はタブレットを利用し「カメラを使う」や「旅行ルートの検索」などの基礎機能を教わるケースもあった。
シンガポールのIMDAはデジタル社会への進展する一環として、高齢者により多くのデジタルスキルを習得させるために、2020年5月からオンラインデジタルポッドラーニングシリーズを提供し始めている。オンラインデジタルポッドラーニングシリーズでは、携帯電話の機能にアクセスする方法、ソーシャルメディアの使用方法、コーディング、写真編集、オンラインリスクから身を守る方法など高齢者に基本的なデジタルスキルを身に付けさせる。
オンラインデジタルポッドラーニングシリーズだけでなく、IMDAが運営しているVirtual Digital Clinicというプログラムを通して、ボランティアから高齢者向けの1対1のデジタル指導をリモートで行うこともできる。
IRSはVITA(IRSの税務支援ボランティア活動)とTCE(高齢者向けの税務カウンセリングプログラム)と呼ばれる活動拠点を展開し、60歳以降の高齢者納税者等に対して税務に関するヘルプを無償で提供している(一坪税務署と同じイメージ)。VITA/TCE拠点は全国のコミュニティ、図書館、ショッピングモールなどに設置され、電話問合などでVITA/TCE拠点の位置がわかる。
イギリスのTax Volunteersが運営しているTax Help for Older Peopleプログラムは高齢者を無償で支援する税務ボランティアのサービスである。イギリスとスコットランドにおいて、合計420人以上のボランティアが在籍であり、全国範囲でコールセンターを持っている。これらのボランティアは高齢者の家に訪問し、税務の手続きを教わるだけでなく、デジタル税務の促進も行っている。
高齢者の顧客はネットショップでの操作に何かしらの問題が発生した場合、その問題放置のよる損害金発生という状況の対策として、アリババ・グループは、2018年以降、ネットショッピングのタオバオアプリで、家族がアカウントを共有し、家族間のサポート機能を開発した。また、アプリ上でスマホの安全な使い方や基礎的な機能の使い方などのビデオも発信している。
アリババは高齢者の本当のニーズは、「アプリの分かりやすさ/使いやすさ」にあると捉え、2019年に、決済機能であるアリペイ上に高齢者がよく使う機能を集約し、文字を大きくして高齢者本人が使いやすいよう工夫したアプリを開発した。
さらに、アリババは2020年11月26日、高齢者専用のホットラインの設置や、高齢者が予約をすれば受けられる1対1の使い方のレクチャー(電話)、詐欺被害防止の動画配信など一連の対策をし、今後、高齢者へのサポートを更に強化していく。
DIDIは2021年1月から高齢者向けに「ワンクリックタクシーコール」などのサービスを提供し始めた。高齢者がタクシーコールのボタンをクリックするだけで、タクシーを呼ぶことができる仕組みとなっている。家族が代わりに事前に高齢者がいく目的地を入力してあげることも可能。高齢者がタクシーを呼ぶ際に、DIDIアプリのタクシーコールボタンをクリックするだけで、目的地が自動的に出てくる。
楽天生命保険は2018年12月からAI 音声認識技術を活用したスマートフォン上でお客さまの音声と画面操作で保険申込が出来るiOS 対応の保険申込アプリケーションを開発した。
この保険申込アプリケーションを利用することにより、お客さまは紙媒体に必要事項を記載することなく、「アバター」と呼ばれる画面上の人物からの質問に音声で答え、画面を選択することにより、容易に申込手続きを進めることが可能になる。
さらに、楽天生命保険は2019年3月から声紋認証システムを導入し、本人確認手段にお一人お一人の固有情報である声紋を使用することで、保険会社としてより厳格かつ安全なセキュリティ対策を提供している。
また、ソニー生命保険は2013年10月から保険販売代理店チャネルに新型の手書きペン“タブレット”の導入を推進している。顧客訪問時にVAIOから「C-SAAF(サーフ)」と呼ぶ営業支援システムに接続し、商品説明や契約書の入力などに使う。
これらのサービスは特に高齢者向けのサービスではないが、目が不自由な高齢者にとっては好ましい取組になるでしょう。
ポケモンGOのメイン操作は結構簡単で、ポケモンGETのシーンで、ボールを投げるためのワンフリックで前に進めるので、高齢者の間で流行っている。また、ある高齢者によると、ポケモンGOを媒介に孫や友達などと話す機会が多くなることにより、脳の活性化にも効果的らしい。家族内のコミュニケーションだけでなく、ポケモンスポットには、今もポケモンをGETしようと考えている人が集まっている。そこで、高齢者達のコミュニケーションも生まれているので、暇つぶしとしてポケモンGOが魅力的になる。
上記の様々な業界からみると、高齢者向けのデジタルサービスを提供するには、①高齢者のデジタルに対する能力を上げる;②高齢者がデジタルサービスを利用する際の障壁を減らす。例えば、人的サポート、UI/UX・デバイス改善等の手策が打てられる;③高齢者がデジタルサービスを利用するモティベーションを上げる。例えば、ゲーミングによる娯楽性の向上や健康促進によるモティベーションの向上等が考えられるでしょう。
今回は国内外、高齢者向けのサービスや取り組みを紹介したが、いずれも高齢者にある程度の価値を提供しているといえる。高齢化が進む中、政府や民間企業は今後もより多くの高齢者優しいデジタルサービスを提供し、高齢者にさらなる便利をもたらすだろう。
【参考文献】
ニッセイ基礎研究所「シニア世代が暮らしやすいデジタル社会を(中国)-「健康コード」の‘成功’が広げるデジタル・デバイド」
日経X-TECH「ソニー生命が“タブレット”1000台導入、iPadでもAndroidでもない理由とは?」
andronavi「ポケモンGO、高齢者プレイヤー急増でブーム再燃のワケ」
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。