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コロナによるパンデミックは、私たちの暮らしや社会・経済活動のあり方に大きな影響を及ぼしました。そしてその影響はここからさらに広い範囲に及んでいくことでしょう。
メディア等を通じ様々な情報が流れていますが、事業活動という側面から特に大きな影響を受けたのは交通機関や旅行会社、そして実店舗での販売・サービスを中心に営業活動を行なってきた飲食店や小売流通業でした。
私たちの会社でも、リアルの店舗にお客様をお迎えしオーダーメイドの結婚指輪をお仕立てする結婚指輪工房ith(イズ)というブライダルジュエリーの製造小売事業(全国に8店舗展開)を営んでいますが、緊急事態宣言が出た翌週から4月末の約2週間の間、店舗営業をすべて停止せざるを得ないという苦境に立たされました。
幸いにも、行政からの事業制限もさほど厳しくない業種に分類されたこともあり、然るべき対策をとったうえで5月の頭からはなんとかなんとか営業再開にこぎつけることができました。
緊急事態宣言解除後も開店もままならず限定的な営業活動を強いられている事業者に比べれば、今のところ私たちの事業は軽微な影響で済まされていますが、それでも売上が絶たれ、再開時期の見通しも立たなかった段階においては、精神的な面でもかなり切迫した状況へと追い詰められました。
このような状況の中で、できるだけ冷静さを失わずに、生き残るため、そして未来を切り拓いていくための判断と方策をとっていくためには、この先についての見通しを持つことが大切だと思います。
本記事では、私たちなりの情報収拾と分析から導いた、今後の情勢予測と展望についてご紹介します。
自分たち自身、そして今回のコロナ禍によってマイナスの影響を受けた企業が、なんとか企業活動を継続させ、さらに未来に向けて道を切り拓いていこうと考えるにおいて、まず今後どのような影響が予想されるだろうか。
私たちは、コロナが及ぼす負の影響は大きく3つの波として現れてくるのではないかと考えています。
第一の波は、すでに私たちが経験してきた緊急事態宣言による活動制限です。老舗アパレルメーカー「レナウン」の経営破綻は記憶に新しいところですが、事業活動の制限によって、大きく収益が悪化したうえに資金が尽き、事業の継続が危うくなってしまった企業が出てきています。
これまで経験したことのないかたちでの事業活動自粛は、そもそも運転資金が少なく資金調達力も十分ではない中小企業や、大企業であってもコロナ以前より経営状態の芳しくなかった企業にとって致命傷にもなりかねない衝撃を与えました。
未曾有の規模での補助金、助成金が国や自治体からの支給されたこともあり、現時点では大きな数字として顕在化してきていませんが、これから数ヶ月のうちに力尽きる企業は相当数あるのではないかと予想されます。
コロナ禍が及ぼす負の影響は残念ながらこれに止まりません。緊急事態宣言は解除されましたが、コロナ感染症にかかる患者がゼロになったわけでななく、ワクチンが開発普及するまでは感染から死に至るリスクを払拭軽減できたわけではありません。再びコロナウイルスの感染が拡大し、断続的に事業を制限したり、停止したりしなければならなくなるリスクと隣り合わせて事業を行なっていかなければなりません。私たちはこのことがコロナが及ぼす第二の波であると考えています。
withコロナの状況のなかで、事業活動をストップせざるをえない、事業は継続できていたとしても消費者の行動変容によって売上が戻ってこない、このような可能性のなかでもいかにリスクを減らしながら、事業活動を継続させていくか。
これが第二の波を乗り越えていくために必要なことになります。
「コロナを乗り越えて経済状態が上向くまでがんばって、なんとか生き残ればそこから先は未来が拓けるよ」様々なメディアや、周囲の経営者のなかでもこういう物言いを聞くことがあります。けれども私たちは、コロナがアンダーコントロールになったのちに、第三の波が現れてくるものと予想しています。それは、市場の競争環境の変化、という波です。
市場の競争環境は、消費者(顧客)、競合企業、自社によって定義されますが、withコロナの時代を経て、afterコロナの時代を迎えるにおいて、これらの状況や関係性が従来とはまったく変わってしまっている可能性がある、ということです。
周知のとおり、今回のコロナ禍を経て、リアル店舗を事業の柱にしてきた企業が危機に陥る一方で、ECなどのオンラインサービスは特需も含めて活況を呈し、オンラインでの購買・消費活動に対する消費者の基本的な意識も圧倒的に変化させたと考えられます。
またリアル店舗を中心に事業を組み立ててきた企業も、今回の危機を踏まえて自分たちのビジネスモデル自体を見直さなければならないと考え行動し始めています。
顧客が変わる、そして顧客の変化に対応しなんとか生き残ろうとする競合企業たちが変わる、このような環境変化のなかで、自社もその活動のあり方を見直し、実際の行動として変化を起こすことができなければ、全体的な経済が上向いてきたとしても、市場の競争環境のなかで存続できないということが起きるだろう、ということです。
このように、コロナによって波は、二重、三重と重層的に企業の存続と成長に影響を及ぼすものと考えられます。
最低でも1〜2年に及ぶことが予想されるwithコロナの時代。その後に訪れるafterコロナの世界。これから数ヶ月〜数年の間に、生き延びるための最適な対応をとりながら、将来を見据えた取り組みをスピーディに実施できた企業だけが未来を手にすることができるのだろうと思います。
私たち自身、このような問題意識に基づき様々な取り組みを開始していますが、できるだけ多くの情報や先行する他社事例から学びを得るために、コンサルティング部隊が中心となり、自社の事業領域に近い小売・流通業における様々な取り組みを収集・分析しました。
調査のなかから浮かび上がってきたいくつかのキーワードのうちのひとつが「DX(Digital Transformation)」です。とりわけ顧客接点周りにおけるDXの実現、実践が、小売・流通業の生き残りにとって大きなポイントになると考えています。
先ほど述べたECサービスに代表されるとおり、今回のコロナ禍を通じてデジタル技術をうまく使いこなしてリスクを軽減する、新しい可能性を生み出すといった取り組みを推進できた企業は、いち早くwithコロナ、afterコロナへの一歩を踏み出しています。
しかしながら何か手を打たなければとわかっていながらも取り組みが後手に回ってしまっている、もしくはどこから手をつけていいのか思案に暮れているというような企業も少なくない状況かと思います。
特にITに関する理解やリテラシーを持った経営者や社員が潤沢であるとはいえない中堅〜中小企業においては、この傾向は顕著ではないでしょうか。
私たちアーツアンドクラフツは、創業以来、人とテクノロジーの融合、調和を大事にしながら事業を行なってきました。新たなテクノロジーが次々と現れ時代を変えようとしている。そして健全な発展のために変わっていかなければならない。けれどもその変化は、あくまで人間とその環境にとって優しく、豊かなものであるべきである、という思いが「人とテクノロジーの調和」というメッセージの根底にあります。
コロナが及ぼす波を乗り越えていくための施策においても、私たち自身様々な領域で今までになかったデジタル技術の活用に取り組んでいますが、そのときに何よりも大事にしているのが、人とそのフィジカルな活動を中心にして考える、つまりHuman&Techな取り組みを行う、ということです。
DX自体の必要性が認識されだしたのは今に始まったことではありませんが、企業の大小を問わず、従来のDXが世の中で進まなかった大きな理由として、この「Human」の要素をきちんと汲んでこなかったということが大きいのではないかと考えています。
アーツアンドクラフツでは、このタイミングを機に、主に自社のB2C事業で実践しながら培った人が主役となるデジタル化への取り組みとそのノウハウを、B2B向けの実績を積み重ねてきたコンサルティング部隊を通じてナレッジ&ソリューション化し Human&DX Solutionとしてサービス化しました。
ここで紹介する記事の中でも、自社の具体的な取り組み事例や、他社様の調査事例、必要なITツール類の比較など、様々な観点かから情報公開、発信を進めていきます。
コロナによって企業に打ちつける荒波を、むしろ大きく飛躍するためのエネルギーに変えて変革を目指す方々にとって、多少なりともお役に立てるような情報発信を心掛けていきます。
アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。