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2020.06.25

日本企業の命運を握る生産性向上の鍵とは?

コロナショックで浮き彫りとなった潜在的課題

 

コロナ禍が人の暮らしや経済活動に及ぼす影響は計り知れないものがありますが、新しく生じた問題や課題もあれば、そもそも社会とその仕組み(個人や企業など含む)に潜在的にあった問題や課題が待ったなしで浮き彫りになっってきた、という類のものも少なくないように思います。

そのひとつが、日本企業が長らく抱えてきた「生産性の低さ」という課題です。

日本企業の生産性については様々な書籍や論説などで語られていますが、最近話題にもなった「

シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成」を引用しながらその点について考えてみたいと思います。

この本は、ベストセラーとなった「イシューからはじめよ」を執筆した安宅和人(あたか・かずと)氏が、財務省の審議会や講演会などで語った内容に基づきまとめたものです。

講演「“シン・ニホン”AI×データ時代における日本の再生と人材育成」

最初に概要を簡単に紹介しますと、15年以上に渡って国際的なポジションを落としきた日本の状況や問題点を見渡しながら、データ×AIを軸として大きく時代が変わろうとするなかで、人材育成、教育を中心に、日本がいかに再び復活し競争力を発揮していくべきか、について語られています。

著者はその序盤において、様々なデータに基づき時系列で他国と比較しながら、日本の生産性の低さについて指摘しています。

 

順位ではなく、一人あたり生産性の実数で見てみるとさらにわかりやすい。長らくまったく伸ばせておらず、半ば一人負けと言っても過言ではない。よくバブル崩壊のせいかのように言われるが、それは誤りだ。バブル崩壊後、清算にかかったと思われる10年後の2000年代の頭でも、日本の相対的な地位はそれほど悪いわけではない。GDPが伸びないのは、人口の問題以前に生産性が伸ばせていないからなのだ。問題はそこから世界的に一気に生産性が高まってきたこの15年余り、日本だけが大きく伸ばせなかったことだ。我が国は半ば一人負け、もしくはゲームが始まったことに気づいていないと言ってもよい状況にある(図2‐3a/b)

安宅和人. シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.843-849). Kindle 版.

G7というくくりの中においても、一人当たりのGDPは1989年の1位から2000年代にみるみる追い抜かれ7ヶ国中6位、伸び率に至っては最下位に甘んじてしまっています。

以下の図2-5は、 産業別の労働生産性を日本と1としたときの指数で表した図になります。左から、ドイツ、イギリス、フランス、アメリカとの比較になりますが、機械・電気・情報通信機器、輸送用機械以外のほとんどの産業で、平均を下回っていることがわかります。

このようなデータから、ごく一部の産業を除き、ほとんどの産業で日本は生産性を高めることができずに他国に後塵を拝しているという事実が浮き彫りになります。

この本が書かれたのは2019年の秋ですが、著者が冒頭に書いているように2016年ごろから講演会で話していた内容であることからも、多くの有識者が日本の生産性の低さを問題視し、様々な提言をしてきたということがわかります。事業経営に携わったり、多少なりとも問題意識をもっている人であれば、生産性向上が解決すべき問題であるということは認識されていました。

しかしながら、コロナショックによってその課題はさらに差し迫ったものとなり、多くの日本企業が、今日にも、明日にも、その解決に向けて具体的な手を打たなければならない、という状況へと否応なしに追い込みました。

公的資金の注入などによりまだまだ顕在化してきていませんが、潜在的に危険水域にある企業や、隠れ失業状態の被雇用者の存在といった問題が、今後数ヶ月、数年に渡って表出化してくる可能性はかなり高いと思わざるを得ません。

生産性向上に向けた手がかりとは

浮くか沈むか、その分かれ道は、生産性の向上に対し明確な手立てが立てられるかどうかだと思いますが、では日本企業の生産性が低い要因は何なのか。

生産性という言葉を図式化するならば以下のとおりに表されます。

生産性=仕事の質・量/仕事の時間・コスト

ここから生産性を高めるために二つの方向性が導かれます。

1.より安く、早く、効率的に生産し、売る。

2.価値を高めて、より高く、たくさん、売る。 

 

この観点から考えた時に、日本企業はこの両面において本気で取り組めていないと考えています。特に、日本経済の大部分を支えている中小企業においては極めて顕著に問題を抱えていると思います。

業務の非効率さ

私たち自身やっと100名を超え、たまさしく中小企業という状態ですが、中小企業の現場には多くの非効率や無駄があります。ITツールの導入の遅れ、ITを使いこなし自分たちの業務を効率化、合理化させられる人材の不足など痛切に感じざるを得ません。

もちろん会社によっても違いますし個人差もありますが、一般論として中小企業の社員は、ベーシックな読み・書き・算盤、そしてそれらを踏まえたうえでのITリテラシーという点において、大企業社員よりも訓練がなされていません。

日本の企業数の99%が中小企業という現状から考えると、この部分が日本全体の生産性向上の障壁になっていると考えられますが、逆にいうとここが生産性向上の大きな切り口になるということでもあります。

私たちの会社でも、様々なクラウドシステムを使い生産性向上を目指したいくつかの教育プログラムを開始しました。

付加価値を高める戦略視点の欠如

マイケルポーターによると企業の競争戦略論はコストリーダーシップ戦略と差別化戦略の二つに分けられますが、コストの面で他社を圧倒することで市場を制するリーダーシップ戦略は、理屈上、業界において1社しかその地位を得ることができません。また経済のグローバル化が進み世界規模でのコスト競争が進展した2000年以降の世界において、コストリーダーシップ戦略を取ること自体が限りなく難しくなっています。

その点において、現実的に圧倒的な規模や資本力を持たないいわゆる普通の会社群が、生産性を高めていくために絶対的に欠かせないのが、自社と自社の商品の付加価値を高めていく戦略的な視点であるはずなのですが、この点において知見や戦略能力を持っている会社が圧倒的に少ないのが日本企業の実情なのではないでしょうか。

言い方を変えれば、自分たちの会社をブランディングし、独自の事業ポジションを築いていくことが、生産性向上の二つ目の手がかりだと考えます。

この付加価値向上に対する戦略については、私たちが実践してきたジュエリー製造販売事業の経験とノウハウから、生産性との関連性についてかなりの確信を持って捉えています。このことを明確に意識し様々な施策を行うようになってから、事業の売上、収益性共に大きく飛躍しているからです。

またコンサルティングチームによる成功企業のベンチマーク調査においても同様の傾向が見てとれます。

ブランド、ブランディングには様々な意味合いで捉えられますが、事業の競争戦略という上位のレイヤーからブランディングという課題に取り組めるか否かが、生き残りをかけた生産性向上にもつながっていくだろうということです。

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。

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