このコラムは、下記コラムの続きになります。
経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第2回)
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経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第1回)
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アーツアンドクラフツ株式会社コンサルティング&ソリューション事業部 採用サイト
前章までは、「マインド」を構成する要素について世の中にある文献を例に紹介して参りました。結果、非常に多種多様な項目があることが分かったと思います。本章では、より経営コンサルタントに求められる「マインド」が何なのかに焦点を当てて述べていきます。まず、その為には第一章で述べた「経営コンサルタントという職業の特徴」について改めて復習してみたいと思います。下記の図を再掲します。
経営コンサルと言う仕事は、自分自身を商品とし、顧客の担当と競う側面もあります。また、仕事のリズムや思考のとり方がプロジェクトに基づくことになり、対応力や目的志向が求められます。更に、自分中心の思考ではなく、あくまで奉仕先となる主体、理想を言えば顧客企業という法人格を軸に思考を飛躍させる必要が出てきます。これらの特徴を踏まえると、果たしてどのような「マインド」が求められることになるでしょうか。その「マインド」について論じていくにあたり、まずマインドというものを「志向性」と「性質」に分解したいと思います。
まず「志向性」ですが、学術的に言うとフッサールやブレンターノに代表される現象学の分野で出てくる用語です。その定義を現象学的に書くと相当複雑難解なのですが、このコラムでは学術的な定義には縛られずに大まかな意味で「個人が向かっている意識」という程度で抑えていただけたらと思います。動的に向かう方向性がある心理です。簡単に言うと、個人個人が大切にしているスタンスや考え方などの価値観・指針を総称した言葉だと考えてください。
次に「性質」ですが、これはどちらかと言うと静的に既に個人に内在している特性を指します。前章で取り上げたストレングス・ファインダーやコーチングのタイプ分けで使われている項目は、この「性質」に属する話が多かったです。社交性や柔軟性、繊細さというように、その個人が先天的/後天的に築いてきた心理的な傾向を指します。本コラムでは、優しいとか怒りっぽいという様な狭義の意味だけに留まらず、認められたい等のその個人が持っている「欲求」の部分まで範疇に入れております。
その上で、経営コンサルタントに求められるマインドとして、「志向性」とそれを培うのに役に立つ「性質」に分けて紹介していきます。下記の図にて概要を載せております。
一点、補足しますと、このあとの後段を読まれる諸氏は気付かれると思いますが、上記の図は「一つの仕事の特徴」からそれぞれの求められる「志向性」が導き出される構図となっていますが、実際は複数の「特徴」が影響していたりしています。例えば「自分自身が商品」というコンサル業の特徴から「持続する成長意志」を論じていますが、その背景にはその他の特徴である「プロジェクトベースの生態」も関係しています。ただ、そのような込み入った関係性を全て表現すると複雑難解になりますので、この上記の図では簡略化して特に関係の深い「特徴」と「志向性」一直線で結びつけて表現しています。
まず「自分自身が商品」という特徴からの帰結として、「持続する成長意志」がコンサルタントには求められます。本質的にはこれが「志向性」の中でも根源的に最も重要ではないかと考えます。成長意志という点に関しては、多くの人が大なり小なり持っていると思います。自分を成長させたくない、と思っている人のほうが少数派なのかもしれません。そういう意味では一見、この志向性は人類誰もが持っている様に思えます。しかし、どれだけの人が、その為に己が身を捧げる覚悟があるでしょうか。長い社会人人生において成長意志を持続させることはそれほど簡単ではありません。
コンサルタントと言う職業は己を商品とする事を強いられます。製品やアプリケーションが時代の流れに合わせて常にアップデートして市場に投下されるように、コンサルタントも自分が商品であるでならば市場価値を高めるために常にスキルを高め、業界知見等を最新にしておく必要があります。特に新人は、前の章で述べた様に元々自分自身の実力と期待値が大きく乖離した状態で何十年もその業界にいる顧客の前に出され、お金に見合う対価を要求されます。「新人だから見逃してくれる」「新人ということを相手も理解して優しく接してくれる」という世界ではありません。自分自身が商品で、それに対して顧客はお金を支払っているわけですから企業倫理上も顧客は対価をもとめるのは正統でありむしろ正義です。そしてコンサルタントはプロジェクト毎に業界やテーマが変遷します。過去のプロジェクトの知見がそのまま今のプロジェクトに流用できるわけではありません。こういった状況背景からの当然の帰結として、コンサルタントにはより深いレベルでの成長意志が求められます。単に表面的な浅い意志ではなく、折れずに弛まず常住坐臥「成長する意志」を持ち続けられるか?これはコンサル業界を目指す方は是非今一度自身の心に問うて頂きたい命題です。
筆者は、多くの方がこのコンサル業界に入られキャリアを積まれる様を見てきましたが、最終的にこの点を強く持っている方がキャリアの階段を駆け上がっているように見受けられます。当初は「自分を成長させたい」「前職の環境では自分は成長できなかった」という理由で業界に身を投じた方が、何回かプロジェクトをした後に「自分のペースで仕事をさせて欲しい、仕事を選ばせてほしい」とか「経験がないから、スキルが無いからできません」というように、新しい事へのチャレンジ意欲が減衰しいく様を度々目にしてきました。その気持ちも同じ人間として非常によく分かるのですが、やはりコンサルタントとして大成されている方々と見比べると、成長意志を持続させることが難しかったのだろうと思うところはあります。
前述した「持続する成長意志」に付随する性質面として、「承認欲求」を持つことを挙げておきたいと思います。これはやはり「自分自身が商品」というコンサル業の特徴からして、成長意志を持続させるために効果的な燃料となる欲求です。ビジネス上の根本的な商品が、何か製品やサービス、作品といったものの場合、そこまで自我の承認欲求はなくても「何かに役に立ちたい/貢献したい」という奉仕の精神でも大きな達成は得られるでしょう。ただ、商品が自分自身の場合はどうなるか。商品価値を高めるということは即ち自分の価値を上げる事とイコールになります。否が応でも自分が舞台に立つことが求められます。そのようなビジネス環境で自ら研鑽を続けられるための原動力は何か。それは色々あると思うのですが、やはり「承認欲求」は非常に相性の良い相手と言えます。
承認欲求という言葉は、簡単に解釈されると「目立ちたい」という様に安易に咀嚼されがちですが、この欲求の発露の仕方は非常にユニークで、人によって千差万別あります。アイドルや主演俳優の様にスポットライトを一心に浴びるのを良しとする人もいれば、バイ・プレイヤーとしていぶし銀の様な役回りを好む方もいます。ただどちらも自分が大根役者だと評されると許しがたいと思う点は一緒です。「もっと自分のことを認めてほしい」「もっと世の中が自分のことを気付いてほしい」、、、このような欲求が直接的であれ間接的であれ強い人は、正しく己のベクトルを合わせられれば自分を成長させようとする原動力となりえます。承認欲求が強すぎて、かつその欲求を楽して満たそうとして非合法の世界に行くと、犯罪者として巷間を騒がせる危険性もありますが、承認欲求を適える真っ当な方法として「自身の成長」を選ぶことができる方は、非常にこのコンサルタント業界にとって有望な人材になると言えるでしょう。
今回は「承認欲求」という言葉で纏めましたが、多くの経営者が事業成功の秘訣として述べている「熱意」や「情熱」と呼ばれるものも本質的にはこの「承認欲求」に起因します。有名な松下幸之助の言葉に以下があります。
「仕事をする、経営をするときに何がいちばん大事かと言えば、その仕事を進める人、その経営者の熱意やね。あふれるような情熱、熱意。そういうものを、まずその人が持っておるかどうかということや。熱意があれば知恵が生まれてくる」(松下幸之助)
このようなよく事業や仕事の成功の秘訣として語られる「熱意」「情熱」といったものの源泉は何か。20世紀の米国の心理学者であるマズローが提唱した有名な欲求5段階説を見ていくことにします。
これは有名な説なので多くの読者諸氏は既知かと思いますが、改めて簡単に説明しますと、ポイントは以下になります。
このマズローの5段階で、一番高尚なのは「自己実現」でしょう。ある意味「創造」を司る欲求であり、自分にしかできないことを成し遂げたい、理想とする自分に近づきたいという欲求です。パッと著名な経営者で思いつくのはスティーブ・ジョブズでしょうか。その他にも古今東西で見渡せば大西洋を横断したコロンブスや、ローマを倒すことに執念を燃やし続けてアルプスを越えたハンニバル・バルカ、兄弟を殺したのにその後に徳政を布いた李世民、有人動力飛行で空を飛んだライト兄弟、日本の漫画を今日の地位まで高める礎を築いた手塚治虫など、世にいう「偉人」と呼ばれる方々は大概この欲求を強く持っていたと思われます。偉人でもありますが、自己実現をあまりにもしたいが為に「変人」の領域に一歩足を突っ込んでいるのも特徴的です。
本来このコラムでも、持続的な成長意志の源泉は自己実現の欲求だと言いきれれば恰好が良かったのですが、ただ今回は明日の偉人を目指す方々を相手にしているのではなく、あくまで経営コンサルを志望する新卒/第二新卒向けの話です。その目線に立った時に相応の欲求は何でしょうか。筆者はそれを「承認欲求」だと考えます。マズローの欲求5段階説では、欲求は低次から順を追って満たされないといけないというルールがあります。まず生命を維持したいという「生理的欲求」、身の安全を守りたいという「安全の欲求」ですが、確かにこれらを渇望しないといけないほどの状況に追い込まれていたら、まず仕事をする理由はこちらでしょう。ただ、まずここが大事であれば、真っ当な定職につくことが最優先であり、それが為されたら成長意志を継続するのは難しいでしょう。次に他社と関わりたい/集団に属したいという「社会的欲求(所属と愛の欲求)」ですが、これも大事な欲求なのですが会社でも部署でもチームでも同期・同僚でもいいのですが、一度その他者や集団への帰属意識を得たらその先も成長意志を掻き立てるのが難しくなります。属していればよい訳ですから。畢竟、成長意志と長期的に比例関係もとい相関係数が高いのは「承認欲求」と「自己実現の欲求」になるのです。要するに、長期的に欲望を掻き立てるには外的環境を満たすことよりも、己の内面を満たそうとする内的欲求のほうが持続性の観点で有効なのです。そして、まずその内的欲求の中でより低次、つまりより汎用的に多くの方に適用できるのが「承認欲求」なのです。つまり多くの成功者が口を酸っぱくして強調している「情熱」や「熱意」を持続させる燃料として「承認欲求」は初心者向けの非常にユーティリティーの高い性質と言えます。
但し、承認欲求だけでは必ずしも帰結するアクションが自己研鑽に結びつかない可能性があります。それが継続的な自己成長へと繋がるためにはもう一つの歯車と嚙合わせる必要があります。それが「自責思考」です。「自責」という言葉が少し強すぎるのであれば「自省」と置き換えても構いません。要するに、何か困難にぶつかった際に、それを他人や環境のせいにするのではなく、自分に何か改善点があったのではないかと顧みる思考癖です。あまりにも全て自分が悪いと背負い込むのは、精神衛生上破綻をきたす可能性があるのでお勧めしませんが、自分の精神を健全に保った上での「自責思考」は己の改善の機会を捉えるためには重要な気質になります。この現世の大原則として我々は過去には戻れないのですから「後悔」は時間の無駄でしかないのですが、将来に繋がる「反省」は是非すべきなのです。
既に述べている様に、コンサルタントは特に新人の頃に実力と期待値の間にギャップが発生する為、背伸びをし続けることが宿命的に求められます。その時に、上手くいかない事由を全て環境や他人の責任にして自己完結されてしまったとしたら、その方は一生そのギャップを埋めることはできないことになります。それはこの先のコンサルタントとしてのキャリアが座礁することを意味し、危険な状態であると言えます。もちろん、正直言って顧客側であったりコンサルチーム内部のプロジェクトマネージャーであったり、他メンバー、協力会社等が問題の本質であるケースもままあると思います。ただ、それを変えるために自分がどれだけアクションを起こしたか?ただ単に唯々諾々従ってただけではないのか?もっと自分が上手く立ち回れれば回避できたのではないか?自省する機会は決してゼロではありません。逆境が人を育てる、と言います。ただ、それはその人の逆境の捉え方によります。責任を自分以外の他に求めたがる「他責思考」の方では、その成長の芽を自ら摘んでしまうことになります。
以上、本章では志向性の中でも特に大事な「持続する成長意志」とそれに関連する性質として「承認欲求」と「健全な自責思考」について詳述しました。次章ではその他の志向性や性質について論じていきます。
経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第4回)
また冒頭でもお伝えしましたが、本コラムを読んで「経営コンサルタント」に興味を持った、もっと色々と質問をしてみたいという方は、下記に弊社の採用サイトのリンクがありますので是非ご一読いただけたらと思います。
アーツアンドクラフツ株式会社コンサルティング&ソリューション事業部 採用サイト
米国戦略系ファームBooz & Company(現PwCネットワークStrategy&)を経て2010年当社設立に参画。経営コンサルタントとしての経験と知見をもとに、当社のB2B領域における事業開発及び業務運営を一手に担う。独自の社会観と戦略眼に基づき、次世代型のコンサルタントの育成に従事。ペンシルバニア大学(米国)卒業、東京工業大学大学院修士課程修了。