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このコラムは、下記コラムの続きになります。
経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第3回)
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経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第1回)
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前回の章では、経営コンサルタントに求められるマインドについて紹介し、特にその中でも「自分自身が商品」という仕事の特徴と関係する志向性や性質について深堀りさせていただきました。今回の章では、「客と勝負する」と「プロジェクトベースの生態」に関係する志向性や性質について述べていきます。
これから、「客と勝負する」という特性からどのようなマインドセットがコンサルタントに求められるか論じていきます。結論から言いますと、それは端的に言うと「プロフェッショナリズム」になります。この言葉も人によって様々な解釈あると思いますので、筆者なりに定義すると、それは「自らゴールを定め、自走してその到達地点まで食い下がれる」志向性ということになります。
まず「自らゴールを定める」ということは何を指すかについて言葉を加えます。まず前提として、コンサルタントとして従事するプロジェクトは、製品やシステムの開発とは違い完成物の仕様が明確に決められているケースは稀です。もちろん経営/戦略コンサルのプロジェクトでもRFPやRFQという形で顧客から凡その目的と期待納品物が指定さていたりしますが、どうしても製品やシステムの開発と違いその指示に曖昧さが残ります。それは何故か。それは多くのコンサルプロジェクトが、そもそも「顧客企業の課題は何か」を特定するところから始めることを求められる性質を帯びているからです。課題が精緻化されていなければ、仕様が固まりきるはずは無いのは自明の理です。前章において、「コンサルと言う職業は顧客の内部器官の機能を外注として請けるに等しい」と述べましたが、まさしく顧客の本業である自社の課題特定まで踏み込んで仕事をすることが求められるのです。それはきっと、コンサルの販売商品が有形の製品や資産として計上できるシステムのようなものではなく、あくまでそこでプロジェクトに従事する人に対して金銭が発生していることと無縁ではないでしょう。分かりやすく資産となる物にお金が支払われている訳ではない代わりに、機能や効能として相当の柔軟性が求められるのです。これは別の職業を比喩として用いると、医師の診断と近い部分があります。顧客を患者に喩えると、患者自身は自分のどの部位が不調か症状は医師に伝えます。眩暈や動悸、湿疹や食欲など症状の詳細を伝え、どのような回復状態になりたいか希望を伝えることはできますが、その時点で患者に病因が何でどのような治療法が良いかまで求めるのは酷でしょう。それが分かれば、そもそも病院に診断に行くはずもありません。当たり前ですね。コンサルタントと言う職業は医師・患者間ほど情報や知識の優位性があるわけでもないので「コンサルタント≒医師」というほど偉そうな存在ではなく、むしろ顧客と競争関係にもある関係性なのですが、いずれにせよ顧客がどうすればいいか分からない/求めるものの仕様が決まり切れない状況の中で依頼されるケースが多いのです。そのことからコンサルタントは、仕様が不明瞭の中で、どこまで調査を、示唆を、アウトプットを出すべきか一程度自身の心に従ってゴール設定をすることが求められます。
プロフェッショナリズム、すなわち「自らゴールを定め、自走してその到達地点まで食い下がれる」ために心の燃料材を何にするか、人格上どのような性質があると優位かという話をしていきます。そこで挙げるのが「負けず嫌い」「自尊心」「(責任感)」の3つになります。この3つは表面的な行動としては似たような対応をとる事が多いですが、より解像度を上げると違いがあります。プロフェッショナリズムを保つための材料として、この3つの性質すべてが必要という訳ではなく、それぞれの人の嗜好性により拠り所とする性質をどれか選んでいるケースが多いです。従って、AND条件というよりもOR条件であると言えます。
まず「負けず嫌い」ですが、これは対人との関係性においての報酬を求めることを燃料として身を焦がすことができる性質です。これは単に勝った・負けたという関係だけを指すのではなく、「この顧客から認められたい」「あの顧客を満足させたい/感動させたい」という動機とも強く繋がっています。この性分は自分が相対する人格があって成り立つものであり、その相手が競争相手として非常に優れていればいるだけコンサルタント自身の目線も上がり、自身を律するプロフェッショナリズムの土台となります。
次に「自尊心」ですが、イメージとしては「プライド」に近い意味で今回は使っております。「プライド」という言葉自体がポジティブ・ネガティブの双方の意味での解釈があり非常に多義的な言葉なのですが、ここでは「自らの言動や成果物に高い基準を設けている」という程度で解釈していきます。コンサルタントで言うと、自分自身の中でアウトプットのクオリティーライン(品質基準)をしっかりと持っている人、ということになります。よくアーティストや映画監督の世界で「完璧主義者」と呼ばれている方々を聞いた事があると思います。自分の中で世界観が確固としてあり、到達点の基準が己の中に内在しているような御仁達です。そこまではなくとも、職人気質の方にも「自分が手掛けるならこのレベルまで仕上げないと納得いかない」という品質のラインを定めている方は多くいます。前述した「負けず嫌い」は対人との相対的な関係でのゴールセッティングをするのに対し、この「自尊心」タイプは自分の中でゴールを定めている違いがあります。
最後に「(責任感)」ですが、これは( )付きで表現しているところから分かる通り、前述の2つの気質と比べ、プロフェッショナリズムを焚き続けるには少し弱いと考えています。ただ、やはり仕事から逃げずに踏ん張り続けるためには非常に重要な気質になります。そもそもこれはコンサルの仕事だけに留まらずビジネス全般において、責任感の無い人がキャリアとして栄達できる職業は見たことはありません。どのような職業であれ、キャリアの階段を上り管理監督者までいくと必然と責任感は求められます。ただ、ここで( )付きにした理由になるのですが、コンサルタントの仕事は先述した通り、ある程度コンサル自身がアウトプットの到達点/品質を定める事が必要になります。明確な仕様書が存在する仕事ではないからです。仮に責任感が強かったとしても、自らタスクのゴールを設定できずあくまで待ち状態の人はどこかで限界がきてしまう事になります。
次に、経営コンサルタント仕事の特徴として「プロジェクトベース」がありますが、そこから求められる志向性として「目的志向」が挙げられます。目的志向とは、達成したい目的や目標を掲げることでモチベーションを高め、目標達成を目指して自律的に行動する志向性を指します。TOC理論の産みの親であるエリヤフ・ゴールドラット氏もその高名な著書「The Goal」にて、製造工場の究極の目的は何なのかから考察を始めております。また「パーパス」や「ビジョン」といった現代経営における重要な考え方・コンセプトも大元を辿ればこの目的志向にたどり着きます。ここから更に発展して、目標から演繹的にすべきことを将来から現在の順で並べていく「逆算思考」といったより具体的で実用性のある思考方法も編み出されてきました。
この目的志向は多くの職業で役に立つ志向性ではありますが、特に経営コンサルタントの世界では強く求められます。それは、プロジェクトの中に大きな目的はあるもののその中身が非常に不確実性の高い要素によって成り立っていることに起因します。航海に喩えると時化に見舞われているようなものです。悪天候と強風に煽られ船は右往左往に揺れている中、より縋るべき何かが必要とされます。航海であれば方位磁針や北極星に類するものが、プロジェクトにおける「目的」なのです。逆に言うと、目的を見失ったプロジェクトはほぼ確実に座礁します。予め成果物の仕様が事前にかっちりと決まりきれないため、プロジェクトを進行しながら成果物の仕様を整えていくことが求められる経営コンサルタントのプロジェクトにおいて、目的を見失えばどのようなことになるか火を見るより明らかと言えるでしょう。
それほどまでに大事な「目的志向」ですが、それを育むためにどのような人格の素養が役に立つでしょうか。まず挙げられるが「シンプル好き」です。これは物事をよりシンプルに解釈するのを好む嗜好性を指しています。「要するに、重要なポイント何か」「結局、ボトルネックは何か」というように、一見複雑に見える事象に対し抽象度を上げて簡易的に咀嚼しようとする思考の動きです。複雑なまま取っ散らかった状態を非常に気持ち悪く思ってしまう性向とも言えます。そのシンプル化の精度の良し悪しは置いておいて、まず複雑なものを複雑なままで放っておきたくない気質を持つことが大事です。
このシンプルにすることへの嗜好性は、先述した逆算思考とも大きく関わります。逆算思考は本コラムで取り上げるまでもなく、多くのサイトですでに概要が説明されています。目の前のタスクから積み上げ型で将来像を描くのではなく、まず将来なりたい姿(目的)から描き、それに到達するために必要なステップを演繹的に将来から現在に向けてToDoを洗い出していく(≒バックキャストしていく)手法です。これも目の前の複雑な事象や制約条件を一旦脇に置いて、目的達成のために必要最小限の事を抽出していくシンプル化の一種です。
その他にシンプル思考と同類の考えに「エッセンシャル思考」があります。これはApple、Google、Facebook、Twitterでアドバイザーを務めた経験を持つグレッグ・マキューン氏の著書で提唱された思考法になります。「99%の無駄を捨て、1%に集中する」という謳い文句に代表されるように、要するに情報やToDoの断捨離を勧める考え方になります。これも一種のシンプル思考に含まれます。
次に、目的志向に役立つ気質として「適応性」を挙げます。これはストレングス・ファインダーで同項目がありますので、まずはそれを紹介します。
「適応性」がある人は、その場その場の状況理解や判断力に優れ、柔軟に対応することができます。感覚として「ジェットコースター」に乗りこなせるタイプです。サーファーに喩えられるケースも多いようです。環境に応じて自らを変えていくのを苦としない性質です。これは逆に、仕事をする上で自分のペースを守りたい人、決められたプロセスを途中から横やりを入れられるのを嫌う人にとっては苦手とする分野です。これはコンサルタントの仕事が性質上、日々課題やToDoが変容していくものであるため、その環境の変化に自ら合わせられるか計る上で需要な資質になります。時々、コンサルタントの中でも調査力や分析力では秀でているのですが、自身のやり方への拘りが強いがためにこのプロジェクト変化への適応が性分として苦手な方がいます。そのような方は、しっかりと仕事内容と段取りが設計されきったプロジェクトでは十全にパフォーマンスを発揮しますが、より不確実性の高いプロジェクトになると非常に苦労することになります。
ただし、この適応性は行き過ぎると、先述の「目的志向」、つまり将来にアンカーを置く志向性と衝突することになります。適応性だけがありすぎる人は、えてして未来よりも今現在に焦点を当てる生き方をしているとも言えます。「未来のゴールセッティングをしてもどうせ変わるんでしょう?」という達観した視点ももっており、それは目的から段取りを設計していく逆算思考とも相性が悪いです。ただ、何度も述べました通り、経営コンサルタントの仕事は非常に不確実性の高い課題を扱います。今だけのタスクを見て、本来すべき目的が見失ってしまってはそのプロジェクトは難破する羽目になります。なので、ここで言えるのはバランス感覚ですが、目的はあくまで見失わずに、現場の環境の変化をうまく乗りこなし最終的に目指したゴールに到達する、というある意味での器用さが求められることになるのです。
最後に、目的志向に役立つ気質として「ポジティブ」を取り上げます。これもストレングス・ファインダーで同項目がありますので、それを紹介します。
物事を悲観的に見たり、恐怖や緊張を感じたりする心の動作は、それはそれで人類が進化する上で必要な感情として残ってきたものです。そのような心の動きがあることで、人類は危険を事前に察知し失敗や事故を未然に防ぐことができたとも言えます。ただ、その感情が必要以上に強すぎると、その人自身を押し潰してしまい、仕事において十分なパフォーマンスを発揮できなくなります。つまり何事もバランスなのですが、ある意味そういった負の感情を飼い慣らしコントロールするための一つのヒントがポジティブ・マインドを持つことにあります。
コンサルタントの仕事はプロジェクト由来であるが故に、定型業務と違ってそもそも先が見えづらい特徴があります。特に経営コンサルタントは、その先の見えない加減が強く、酷い霧の中での暗中模索の様相を呈しています。そのような不安定な状況の元、コンサルタントは先行きが分からない、どこまで何をすればいいか分からないという言いようもない不安感に襲われることは多々あります。目的志向が大事で、目標を定め逆算してすべきことを考えていくにしても本当に達成できるか、できなればどうなるか、強いプレッシャーに晒されます。そのような時に、むしろそのプレッシャーを楽しむくらいのポジティブさがあったほうが丁度良いのです。目的志向を健全に遂行させるには、一程度のポジティブ・マインドは不可欠な要素と言えます。
これは、元々ポジティブ・マインドを持った人であれば上手くできると思いますが、そうではない人でも「ポジティブに考えるテクニック」を身に着けることはできます。「口角を上げるとか」「気分転換で日光を浴びる」とか、そのやり方は人それぞれですが、筆者の場合は「一旦、最悪を考える」ことにしています。一寸逆説的に聞こえるかもしれませんが、説明します。アナリストとして働いている時分、自分のミスで計算間違いを犯してしまったとします。事業計画を立てるプロジェクトではそのP/Lシミュレーション結果の違いで、プロジェクトの結論が変わる可能性があり由々しき事態と言えますが、それが「最も悪い」展開を迎えたらどうなるでしょう。プロジェクトは軌道修正させられ、顧客からも叱責を受けるかもしれません。ただ、逆に言えば、「それだけの事」なのです。プロジェクト期間中にリカバリーできるのであれば大勢には影響しません。事象の最悪の展開を具体的に想像し「その程度の事だ。全然リカバリーできる」と認識しなおす事で、視界の悪さ故の漠然とした不安感を払しょくするのです。
プロジェクト云々を置いておいて、自分個人にとって最悪の事を考えてみてください。例えば「死」があると思います。その「本当の最悪」のラインは人それぞれかもしれませんが、不透明なプロジェクト期間中、自分が仮に何か手を間違えた/失敗したとしても自分が「死」を迎える訳ではありません。不謹慎に聞こえるかもしれませんが「まあ、自分が死ぬわけじゃないし」と割り切ってプレッシャーを緩和させるくらいのほうが、より物事を健全に考え、思考停止に陥らずに生産的な打開策を考えられたりします。そのように、自らの性質が決してポジティブでなくても、心の持ち方を練習すれば一程度のポジティブ・マインドは身に着けることができます。
以上、本章では経営コンサルタントに求められる志向性の中で「プロフェッショナリズム」と「目的志向」について取り上げ、それに関連する性質も詳述しました。次章では最後に残った志向性である「顧客目線」についての説明、そして全体の総括をしていきます。
経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第5回 最終回)
また冒頭でもお伝えしましたが、本コラムを読んで「経営コンサルタント」に興味を持った、もっと色々と質問をしてみたいという方は、下記に弊社の採用サイトのリンクがありますので是非ご一読いただけたらと思います。
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米国戦略系ファームBooz & Company(現PwCネットワークStrategy&)を経て2010年当社設立に参画。経営コンサルタントとしての経験と知見をもとに、当社のB2B領域における事業開発及び業務運営を一手に担う。独自の社会観と戦略眼に基づき、次世代型のコンサルタントの育成に従事。ペンシルバニア大学(米国)卒業、東京工業大学大学院修士課程修了。