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経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第5回 最終回)

このコラムは、下記コラムの続きになります。

経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第4回

最初からこのコラムを読まれる方は下記リンクまでお願いします。

経営コンサルタント/戦略コンサルタントになるための資質~新卒/第二新卒の学生志望者に向けて (第1回

また、このコラムを読んで、経営コンサルタントという職業に興味を持たれた方は、下記にアーツアンドクラフツの採用サイトのリンクがありますので、是非詳細を確認していただけたらと思います。

アーツアンドクラフツ株式会社コンサルティング&ソリューション事業部 採用サイト

 

本コラムでは、4つ目の経営コンサルタントの特徴である「仕えるは法人」に関連して、求められる志向性と役に立つ性質について述べていきます。まず求められる志向として「顧客目線」を挙げさせて頂きます。

 

 

4.  仕えるは法人 ⇒ 顧客目線

顧客を中心に考える、これはコンサルタントに限定せずとも広く多くの業界・業種でも言われている事です。古くは「お客様は神様です」から「クライアント・ファースト」まで、様々な言い方で伝承されています。ただ、顧客を中心に考えるためには何が必要か。その為にはまずは顧客の考え方、要望、悩みをひっくるめて同調する必要があります。それが「顧客目線を持つ」ということなのです。

こちら下にあるのが、弊社アーツアンドクラフツの新人研修で使っているケース問題になります。簡易的な題目ではありますが、皆さんはどう考えますでしょうか。

皆さんが考える最適な提案は何だったでしょうか。これは下記に解答例を挙げていますが、つまるところ顧客というものを何処に据えるかで解答は変わります。

一番下の「自分の事しか考えたいない」というのは論外として、皆さんは情報システム部よりの提案と経営者よりの提案のどちらを選ばれましたでしょうか。それとも両方とも混ぜ合わせた提案でしたでしょうか。つまるところ「顧客が大事」を金科玉条として口角泡を飛ばして叫んでいたとしても、肝心の顧客が何者なのか照準をしっかりと合わせる作業をしていなければ、絵に描いた餅にしかならないのです。更に言うと、今回はこうしてスライドで起こして分かりやすく各ステークホルダーの思惑を書いているからよいものの、実際の世界は各者の思惑は霧がかかっていて判然としません。そうなると、現実世界では何が起こるか。先ほど論外と一蹴した「自分の事しか考えていない提案」を殆どの方がしている状況になり、経験を積んだ方でも直接の接点がある「情報システム部よりの提案」をすることが多いです。ましてや会ったことも話したことも無い「経営者よりの提案」まで思考を働かせることはほぼありません。視界が不明瞭な世界でいかに顧客目線を持てるか。よくよく考えると、そんなに簡単に達成できることではないのです。

想像力や能動的な情報収集を通じていかに「顧客目線」を持てるか。それはすなわち、いかに他人や法人格に憑依できるか、ということと同義になります。大事なのは隙あらばイマジネーションをする癖と言いますか、自分以外の他人格に対して一種の妄想や同調をしょうとする性癖もといマインドセットが求められます。このマインドが弱いと、どんなに分析能力や調査技術の高いコンサルタントであっても、肝心の「示唆」を出すところで躓いてしまうのです。これは新人あるあるなのですが、一生懸命に調査し分析し大量の報告資料をクライアントに提出したあとに、そのクライアントから「で?」と言われてしまうことになるのです。

 

 

4-1.   顧客目線 ⇒ 憑依癖

では「顧客目線」の志向を培うために有効な気質として「憑依癖」の説明をします。これは小説の主人公でも歴史上の人物でも重要な顧客のステークホルダーでも構わないのですが、自分の思考の主語をその人に置き換えて夢想できる特性を指します。極端な例として、演劇や映画の世界で、憑依型/没入型の俳優と呼ばれる方々がいます。古くは『タクシードライバー』の為に実際にタクシー運転手として働き、13キロ減量したロバート・デニーロや、『ジョーカー』や最近では『ナポレオン』で主役を務めたホアキン・フェニックス、そしてこれもジョーカー役で『ダークナイト』に登場するヒース・レジャーといった俳優が有名です。特にヒース・レジャーは『ダークナイト』の公開前に急性薬物中毒で急死してしまい、その原因として徹底して役づくりにのめり込んだため、不眠症となり、死の要因も作ったという噂もあります。本コラムではそこまでの本格的なものではなく、もっとライトな憑依の事を述べていますが、そのような思考の練習を好んで行っている人は実際に顧客目線を実践する時において有利になります。

特にコンサルタントの仕事は演劇の世界では無いので、相手の人格に憑依するというよりも、相手が置かれている環境/ポジションに憑依することが重要になります。我々一般人は才能豊かなハリウッド俳優と違い、よく知らない顧客個人の人格まで入り込んで没入することは難しいですが、企業が置かれている競争環境や顧客個人の職位から求められるミッション、許されている権限、企業内の人間関係などから、「自分だったらこう思うな、こう行動するな」と想像することはまだできます。その位のライトなレベルで憑依という名の夢想をする癖を持つことが顧客目線を養う上で重要になります。これは元々そのような気質を持っている方は何もしなくても問題ないと思いますが、そうでない方もこのあたりの気質は日々で癖付けることで鍛えることができます。

ただそれでもいきなり顧客目線を持つのが難しい場合は、まずは同じコンサルファーム内の先輩やマネージャーのポジション/役割に憑依するのもお勧めです。自分が彼ら/彼女らだったらどうするか、何に優先順位をつけるか、どのようなことを顧客に言うか、プロジェクトの設計をどのようにするか等々、今の自分の立場に安寧せずに少しでも背伸びして憑依を試みるのです。そのようなイマジネーションの練習を日々繰り返しすることで、先輩⇒マネージャー⇒対面している顧客担当者⇒顧客の事業責任者⇒顧客企業の法人格、と段々と自らの視点を本当の意味での顧客目線に近づけることができるようになります。

また、これは余談ですがコンサル業界でよく言われている「仮説思考」についても、この憑依癖があると格段に精度が上がります。仮説思考については多くの文献がネット上でも掲載されているので詳細は省きますが、簡単に言うと「時間を節約し効率より結論にたどり着くための思考手法」になります。

 

そこでその仮説思考の効力の成否を分けるのが仮説の精度になります。イメージはゴルフにおけるグリーンへのアプローチでしょうか。新卒/第二新卒の方で既にゴルフを嗜まれている方は少ないかもしれませんが、テレビ等でプロゴルファーがグリーンに向かってアプローチする様は見たことがあると思います。あれもいきなりカップインを何が何でも狙うというよりもカップ(穴)にまずは近づけるケースが多いと思います。精度の良い仮説とはまさしくカップ近くへのアプローチと同じで、次の打でカップインを狙えるようなものです。逆に精度の悪い仮説は、ボールが明後日の方向に飛んだりバンカーに捕まったりする様なもので、その後の軌道修正に労力を割くことになります。

この精度の高い仮説を打ち上げるということが、新人にとっては非常に困難を伴います。筆者も新人時代によくマネージャーから、「仮説思考でイシューツリーをどんどん書いて」と言われて途方に暮れた経験があります。筆者は新卒入社でいきなりコンサルティングファームに入ったのですが、「そもそも社会人としてヒヨッコなのに、よく知らない業界のよく知らない人たちの課題について仮説を洗い出せと言われても、、、。」とむしろ憤慨したものです。ただそこで愚痴や恨み辛みを放言して何もしないのは悪手です。確かに我々は現実世界ではヒヨッコでありその業界に長く勤続している訳ではない。だが、我々には妄想の翼があります。仮想の世界で何度も上司になり、顧客の担当者になり、果ては顧客企業の社長になってみる。そのような妄想を重ねた回数こそが仮説の精度を上げる礎になるのです。

 

 

4-2.   顧客目線 ⇒ 健全な支配欲

次に、「顧客目線」に役立つ資質として「健全な支配欲」を挙げます。「支配欲」と言ってしまうとどうもネガティブな印象を持たれてしまい、「自分の意のままに動かしたい」「考えや行動を束縛したい」と常に思っている人が想起されます。まさしく支配欲はその通りの欲求なのですが、何故これが必要なのか述べていきたいと思います。

まず経営コンサルタントの仕事はそもそも最終的に法人に何かしらのアクションを起こさせるのを目的とします。いかに良い調査をして分析をして立派な資料を作り報告したとしても顧客企業がその後に何のアクションも起こさなければ失敗になります。つまり憑依して夢想しただけでは完結しないのです。その後に必ず、顧客の担当者や重要ステークホルダーにアプローチして企業としてアクションを起こして頂くようにけしかけるのとセットになります。「仕える」とはそういう事なのです。例えば、貴族の家族に仕える執事がいたとして、その執事がただ単に主人の考えや想いを色々と想像しているだけで毎日を過ごしていたらクビになるでしょう。ましてやコンサルタントは本質的に個人を超えて法人格に仕える職業です。顧客企業全体の為に、顧客内の関わる人々を動かそうとする情動は称えられこそすれ非難される筋合いはありません。

ただここで「健全な支配欲」とした通り、その欲望は「健全」でなければなりません。ここで言う健全とは私利私欲の為ではなく、あくまで法人格の利益を代表する存在として支配欲を持つ、という事です。そもそもコンサルタントが自分自身の利益のために顧客企業に支配欲を見せるような事が合ったら、相当サイコパスというかまず雇われないと思います。また「支配欲」と大仰な言葉を使いましたが、その心は「顧客企業の為に、関係する人々を望ましい方向に動かしたい」という想念です。何度も言っておりますが、コンサルタントは顧客が言ったことに全力で頷くイエスマンでは務まりません。法人格の為に、時には嫌がることも勧めないといけませんし、過度に夢を見ている顧客がいたら「いや、ちょっと。。。」と言わなければなりません。それが本当の意味で「法人格としての顧客目線を持つ」ということになると思います。

 

 

まとめ~最も基盤となるマインドは何か

ここまでの章で経営コンサルタントにとって求められるマインドについて説明してきました。如何だったでしょうか。ここでまとめとして、今まで挙げてきたマインドの中で最も基盤となるものは何かについて筆者の考えを述べていきたいと思います。結論、それは「持続する成長意志」です。

何故「持続する成長意志」が全ての基盤となるのか。それは冒頭から幾度となくお伝えしているように、新人にとって経営コンサルタントという職業には、現時点の己の実力と顧客から期待される価値に大きなギャップが宿命的に内在しているからです。それはスキルや知識・経験といった点でもそうですが、マインドに関しても同様です。入社当初からプロフェッショナリズムや目的志向、顧客目線を持った方が新人でいることはまずあり得ません。これは数多くの新入社員を見てきた経験から断言できることです。従って、マインド面に関しても新人のコンサルタントは宿命として「成長し続けること」を義務づけられており、自らが商品であることからその成長のスピード感や上昇幅は他の業界よりもかなり高めに設定されていると言えます。そのような背景を鑑みると、やはり全ての土台は「持続する成長意志」を持てるか否かにかかっていると言えます。

 

 

最後に~求められるマインドにどう向き合うか

最後の章になりました。これまで経営コンサルタントという職業の特徴を整理し、求められる資質を挙げていきました。その中でも今回は「マインド」に特にフォーカスを当て、必要な志向性とそれに役に立つ性質をそれぞれ詳述しました。ここまで読まれた読者諸氏は薄々気付かれていると思いますが、この話の前提として筆者は強く「マインドは変わるもの」という信念を持っています。マインドというものが初めから先天的に決められており変えようも無いのであれば、わざわざここまの文字数を割いて書いても読者にとっては何の意味もありません。「変えようもないもの」であれば、ジタバタしてもどうしようもないからです。ですが筆者の考えは違います。マインドこそが新人コンサルタントにとってジタバタすべきフィールドなのです。

マインドは変わるもの。志向性はもとより性質についても一程度は変えることができます。ここでコンサル云々とは別の例を出したいと思います。言語についての例です。筆者はもともと内向的な性格なのですが、一念発起して米国の大学に留学した経験があります。そこで日本語から英語に切り替えて日々の生活・コミュニケーションを行うことになるのですが、言葉とは面白いもので、使う言語によって人の性格というのは変わるのです。もともとアメリカン・イングリッシュの話法で教育されたこともあり、日本語でいる時よりも主張が強くなり、一寸自信を持ったような、悪く言えば威張っているような口調になり、それが性格にも影響します。それでも本場のアングロサクソンからシャイボーイと言われ屈辱を感じるのですが、自分の中では大きな変化を感じた瞬間でした。これは何も外国語の話だけでもなく、日本語の中でもあります。地元の方言で育った方は、東京で標準語を話している時と、地元の友人が集まってローカル語で話している時とで性格が変わる経験をされた方は多いのではないでしょうか。それほどまでに性格と呼ばれるものでさえ不変ではなく、テクニックによって変わるものなのです。

もちろん、それでも本質的な自分の性質というものはあるでしょう。臆病だったり、保守的であったり、内向的であったり、逆に陽気すぎて誰かと関わっていないと寂しくて居た堪れなくなったり、大雑把だったり、逆に神経質なくらいに細かいことが気になったりと、人それぞれに既に成人して完成された性格というものがあります。そこで一念発起して自分の性質を変えようとしても、もともとその様な天分を持った方と勝負して勝つのは難しい。例えるならば、己の脂肪に嫌気が指して一念発起してボディビルに勤しんで体脂肪率を減らせたとしても、筋肉の神様に愛された本物のプロのボディビルダーの人達に敵うことはありません。

ですが、どのような人でも「過去の自分」に勝つことはできるのです。ここが重要なところです。今回紹介した経営コンサルタントに求められる「持続する成長意志」「プロフェッショナリズム」「目的志向」「顧客目線」については、どれか一つだけあれば良いというものではなく多少なりとも全ての経営コンサルタントが持たないといけない項目です。それに役に立つとして挙げた様々な性質については、正直自分にそのまま当てはまる項目もいれば、そこまでじゃないかな、、という項目もあったと思います。得意で天分をもった項目については益々磨きをかければ良いですし、そうではない項目については苦手なら苦手なりに自己改善に努めるべきなのです。最終的にここで挙げた四つの志向性が底上げできていれば良く、今回書いた方法以外でもそれらを育まれる手段を読者の方が独自に開発されるかもしれません。それは、それで喜ばしいことです。ただ、一つ確実に言えることは「苦手だ」ということでそのまま何もせずに放置することだけは許されない。そのような覚悟を持って、この非常にやり甲斐もあり面白おかしい経営コンサルタントの業界に飛び込んで頂けたらと思います。

 

平田久郎 取締役 兼 コンサルティング&ソリューション事業部長

米国戦略系ファームBooz & Company(現PwCネットワークStrategy&)を経て2010年当社設立に参画。経営コンサルタントとしての経験と知見をもとに、当社のB2B領域における事業開発及び業務運営を一手に担う。独自の社会観と戦略眼に基づき、次世代型のコンサルタントの育成に従事。ペンシルバニア大学(米国)卒業、東京工業大学大学院修士課程修了。