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システム導入解説~なぜRFPは時間をかけてでも作成すべきなのか~

1.RFPの意義を理解する

「ここ数年、事業の拡大に伴って、データのExcel管理が手狭になってきた。管理手法を、Excelからシステム管理に変更したい。そのため、手軽に導入できてネームバリューもある〇〇システムを導入して課題解決を図ろう」 

実はこれが、システム導入の失敗(本来の目的と合致しなかった、想像以上のコストが発生してしまった、目指していた期日までに導入が完了しなかった等)に繋がってしまう落とし穴なのです。 

 この落とし穴に嵌らないために重要なのは、自社課題に合った製品選定、および、最適なシステム開発・導入を実行してくれるベンダーの選定です。 

そして、これを実現するために最重要なアクションが、”RFP作成”です。 

RFPを書くことにより、目的に則した導入効果の創出、自社の予算に合わせた導入の実現にぐっと近づけることができます。 

 

本記事では、RFP作成の必要性と作成の流れを、弊社での実績を交えながら解説します。 

主にシステム導入を検討されている企業のシステム担当者様の参考になれば、幸いです。 

 

2.システム導入におけるRFPの重要性 

RFPとは、Request For Proposalの略称で、日本語では「提案依頼書」と訳されます。 

システム開発ベンダーに対して、「●●を目的に▲▲なシステムを導入したいのですが、自社に最適な提案をしてくれませんか」とお願いするための文書です。 

RFPの内容が具体的であればあるほど、企業のシステム導入目的に則したシステム導入が可能となります。 

 

例えば、冒頭のように、事業課題解決のために顧客管理システムを導入したいと考えていたとします。顧客管理システムは、CRM(Customer Relationship Management)システムとも呼ばれますが、このCRM一つとっても、市場には非常に多くのパッケージ製品が溢れています。 

自社の課題にマッチするシステムはどれなのか、システム会社のHPや資料請求を読むだけでは、わからないこと(正確には、”わかった気になってしまうこと”)が多いです。 

また、自社事業における業務プロセスが複雑であったり、システム上に独自の仕様が必要になる場合には、パッケージ製品では足りず、スクラッチ開発(※パッケージ製品を活用せず、自社用に0から開発を行うこと)が必要になるケースもあるでしょう。 

 

自社の事業課題や導入目的を漏れなく詳細にベンダーに伝え、理解してもらった上で、最適なソリューションや導入提案を受けることが、システム導入の目的達成の近道です。 

※CRMの詳細は弊社別記事「CRM/SFAシステム(顧客管理/営業支援)の特徴と導入を失敗しないためのコツ」を参照ください 

 

つまり、自社の目的や課題、要求事項を伝えるためのRFP作成の手間を惜しまないことが、結果的に事業の成功に繋がると言えます。 

甘く見ず、「RFP作成はシステム導入において必須事項だ」と理解することが重要です 

 

下図は、RFP実施有無による差異のイメージです。

作成する場合としない場合とでは、事業へのインパクトリスクが、格段に差が出ます。

  

3.RFP発出の流れ 

0.計画を立てる 

どんなプロジェクトでも、計画無くしては始まりません。 

プロジェクト関係者、必要な工程・アクション、スケジュール・納期、予算感を社内で握りましょう。 

もちろんプロジェクト規模にもよりますが、RFPを作成して最適なベンダー選定に至るまでには3か月~6か月はかかることが多いです。 

 

計画を立てたら、実際にRFP作成に向けて動いていきます。

 

 

以下、詳細です。

1.システム導入の目的・現状の課題・新システムへの要求事項を整理する 

様々な情報サイトで言われていることですが、RFP作成の入り口として必ず実施します。 

目的や目指すべき姿(To-Be像)を必ず言語化、あるいは図示化し、社内での共通認識を持てるようにします。 

要求事項は、目指すべき姿を要素分解したものと考えます。 

Quality(システムに必要な機能等)、Cost(予算)、Delivery(納期)のフレームで整理すると、言語化しやすいでしょう。 

機能面の要求については、必ず現場で業務を主で遂行している方々の意見も吸い上げながら、関連する各部に対して、全社視点で意見を収集していきます。 

 

 

2.RFP発出先となりうるベンダーを探索する 

1が整理できたとして、ではRFPを提出する先のベンダーはどうやって選出するのか?という疑問が生まれるかと思います。 

市場に流通しているシステムの情報、および開発・導入を実行してくれるベンダーを収集するには、インターネット検索、情報誌、合同セミナー等、様々な手段があります。 

1で整理した要求事項をある程度満たせそうなシステムにあたりをつけ、そのシステムの導入実績のあるベンダーを絞り込みます。 

 

ただ、調査して一方的にインプットしただけの情報では、どのシステムが最適なのか?本当にそのベンダーが自社にとって最適な支援をしてくれるか?判断をつけることはできません。 

そのため、できるだけ広範なベンダーに(10社~15社ほどを目安に)、さらなる絞り込みに必要な情報を得るための質問項目を並べたRFI(Request For Information:情報提供依頼書)を送り、回答を求めます。 

※ベンダー社数が少なければ、書面に限らず直接質問をする会議の場を要請しても良いでしょう 

  

RFIの目的は、ベンダーの会社情報や技術情報を仕入れてシステム導入で実現したいことに対してベンダーの能力が適切か、あるいは足りているかどうかを判断し、RFP発出先を振るいにかけることです。 

RFIとしては、WordやExcel等に「プロジェクトの目的」「解決したい事業・業務・システム課題」「自社の規模感のわかる企業情報」等の自社情報を纏め、回答を求める情報として「ベンダー側の企業情報」「ソリューション情報」「過去の導入実績」等があれば良いでしょう。 

RFIは、あくまで振るいにかけるためのRFPの”前座”のような立ち位置ですので、絶対に発出しなければならないモノではありません。 

もしスケジュールに余裕がない場合は、ネット情報から見える企業情報、ソリューション情報、実績、また有価証券報告書等を参考に、RFP発出先を決めてしまう、あるいは電話ヒアリング等で簡易的に情報収集をしても良いでしょう。 

情報収集の際は、自社の与信管理等の観点も忘れずに持ちましょう。 

 

 

3.RFPを発出する

発出先ベンダーが決まれば、あとはRFPを実際に作成して、作成物をベンダーに送付します。 

RFPを作り切るには、もちろん社内の作成リソースがどれほど確保できるかにもよりますが、少なくとも1か月は見ておくと良いでしょう。 

社内での情報収集工程は1で終わっていますが、書きながら改めて認識合わせしたい事柄が出てくることはよくあります。 

また、社内での読み合わせや承認の工程も必ず必要になりますので、関係者の都合も踏まえて、余裕をもって計画を立てましょう。 

 

RFPとして纏める資料の一例は、下図を参照ください。 

 

 

4.システム開発・導入を委託するベンダーを選定する 

RFPに対する回答として、各ベンダーより提案書およびプレゼンテーションを受けたら、システム導入目的に最も適した提案を出してきたベンダーを一社選定します。 

 

少し時系列は戻りますが、提案書を受領する予定日までに、自社独自の、所謂「提案評価軸」を決めておくと良いでしょう。 

企業にとっては、安い買い物ではありません。数百、数千、場合によっては億を超える買い物ですので、社内での意思決定を促すためには、できる限り定量的に、点数化する等して示す必要があります。 

ただ、中には選定担当者の意思を込めた定性的な観点での評価があっても良いでしょう。 

システム導入プロジェクトが始まると、ベンダーとは数か月、あるいは年単位で共に歩んでいくことになります。考え方やスタンス等が合わないだけでも途中で頓挫する要因になりかねませんので、選定担当者の感覚も大切にしてください。(ただし、その感覚を根拠もって意思決定者に提示する必要はあります 

上記はあくまで汎用的な例であり、自社のシステム導入目的を踏まえて、最適な軸を検討する必要があります。 

 

評価軸に則り、自社の意思決定を握ることができたら、ベンダーに採用通知を出して、いよいよプロジェクトの走り出しに向けて動いていきます。 

※ベンダー選定については「ITシステム導入におけるベンダー選定・評価プロセスの重要性」においても詳細を述べておりますので、ぜひ参照ください

 

5.プロジェクトのキックオフ準備 

選定したベンダーと、動き出しに向けて各種手続きを対応します。 

企業により、総務等の他部署連携をとりつつ進めていきます。 

 

ここで、キックオフに向けた準備として、プロジェクト計画を考えることが挙げられます。 

スケジュールの精緻化、プロジェクト管理の方法、ベンダー含めた体制、品質管理指標の設定等・・・。 

ベンダーが決めてくれることも多いですが、全てをベンダー任せにしてしまうと、ベンダーの思うがままのプロジェクト進行となり、システムが求めている品質に到達しなかったり、スケジュールが遅延したり、といったアクシデントはほぼ必ずと言っていいほど発生します。 

ユーザーである自社が持つ視点と、開発する立場のベンダーが持つ視点は全く異なりますので、最低限の定義は必要です。 

本記事ではテーマ外となるため割愛しますが、事前準備すべき事柄については、またの機会に別記事で言及しようと思います。 

 

4.まとめ 

ここまで、RFPの重要性と発出の流れを説いて参りました。 

とにかくRFP作成は、目的に則したシステム導入には欠かせないプロセスであるということが、本記事にて伝えたいメッセージです。 

流れは、プロジェクトの重要度、緊急性、予算、スケジュール等の特性に応じていくらでも変化しますので、二の次です。

まずはRFPの重要性を理解し、その上で、実際に自社に合ったRFP作成のプロセスを組み立てることになります。

 

ただし、システム導入は早ければ早いだけ、事業の早期拡大に寄与できることもまた事実であり、どうしてもRFP作成に充てる時間が憚られることもあるかもしれません。 

 

弊社では、RFPの作成を含む、システム導入の構想策定からシステムリリース後の運用フォローまで一気通貫で行うITコンサルティングの実績も豊富にございます。 

もちろんRFP作成のみ等のモジュール単位でのご支援も可能ですので、「導入スピードを上げたいが、自社ではリソースもノウハウもなくRFP作成がしたくてもできない」「RFP書類をどのような内容や形式で作成すれば良いかわからない」等のRFPに関して、またITシステム導入全般においても、お悩み等ございましたら、ぜひお気軽に問い合わせフォームよりお問合せください。 

 

川上 雄也

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/マネージャー

ネットワーク監視・保守の実務及びプロジェクトマネジメント業務を5年間経験した後、人材派遣会社の企画職を経て当社へ参画。主にITコンサルティング、業務コンサルティング分野にて、主にPMOとしての実績多数。