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アーツアンドクラフツは、『つくるの力で、世の中をもっと豊かに』をヴィジョンに、さまざまなものづくりに関わる人々とテクノロジーの力を掛け合わせ、これまでも多くの『ともに、つくる。』を提案してきました。その活動の一環として、このたび、新たなプロジェクトが始動。それは働く女性を応援するもので、2021年夏、その取り組みの一つとして1冊の絵本を制作することになりました。
今回共同での絵本づくりに携わっていただいたウーマンクリエイターズカレッジの代表である松本えつをさんと、アーツアンドクラフツが運営するブランドの一つであるオーダーメイドの結婚指輪工房『ith』の代表・高橋亜結が対談し、それぞれに幼少期からの夢を叶えた2人の仕事観や絵本に込めた想いを3回にわたって紹介していきます。
第1回・第2回と松本えつをさん、高橋の仕事に対する想いを聞いてきましたが、最終回は2021年8月に発行を予定している絵本「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」を中心に話をうかがっていきます。果たして、松本さんと高橋がどのような化学反応を起こしたのか。絵本づくりの過程もうかがいつつ、どんな絵本になるのか聞いてみました。
ここ数年、その価値が見直されている絵本の世界。本が売れないといわれて久しいこの時代において、唯一、売り上げを伸ばしているジャンルが絵本などの児童書です。そういった背景にいち早く気づいた企業は、自社の表現方法の一つとして絵本を選択するようになりました。今回のように企業から「絵本を作りたい」という相談は後を絶たないと松本さんはいいます。
今回の絵本プロジェクトの相談を受け、松本さんがまず行ったのは「アーツアンドクラフツ」や「ith」のWEBサイトはもちろん、動画やカタログなどをじっくりと見ていくことでした。そして、「アーツアンドクラフツ」が伝えたいこと、表現していきたいことを探り、そこから3つのストーリーを作成し、提案しました。それらの主人公はすべて、「ith」の顔である高橋がモデルとなったものでした。
「絵本を作ると初めて聞いたときは、なんで絵本なんだろうと思いました(笑)。そこで松本さんが提案してくださった3つのストーリーを拝見したのですが、そのときに主人公のモデルが私だと知り、鳥肌が立ちました(笑)。この中でどれがいい?と相談されて。個人的には自分がやってきたことに一番近い物語の方が恥ずかしくなくていいかなと思ったのですが、絵本を読む方の立場で考えると、今、制作しているストーリーが一番面白いと感じてもらえると思ったので選ばせていただきました」
「そこで初めて知ったんですね(笑)。今回の絵本の主人公であるYUAは物語の中で悲しい出来事に遭遇するのですが、自分のことを信じて指輪を作ることで嬉しい出来事も訪れるんです。自分がいいと思ったことや大切にしたいものが、周囲に理解されずに自信を失いかけたとき、誰かにそれは信じていいんだよっていってもらえたら、その人の自信に繋がると思うんです。この絵本には、自信をなくしかけている人をそっと後押しするような、そんな気持ちが込められています」
そんな松本さんの想いを絵として表現したのは、「ウーマンクリエイターズカレッジ」で絵本作家を目指すかなをさんです。優しいタッチと色使いで、主人公のYUAは始めとする登場人物たちを生き生きと魅力的に描き出しています。かなをさんは、今回のプロジェクトのために開催したコンペティションで選ばれました。
「ウーマンクリエイターズカレッジでは定期的にコンペを開催しています。在校生はもちろん、卒業生たちにも声をかけて参加者を募ります。まずは彼らが手掛けた作品を見てもらい、そこで数人に絞ります。その後、作家として個人の人柄も見てもらうため、皆さんと面談していただくのですが、同時に各自が描いた絵本の1シーンもご覧いただきます。それらを全部合わせて選考してもらいます」
「今回の絵本では、ithのオーダーメイドの指輪づくりや、アットホームなアトリエの雰囲気を表現してほしいと思ったので、手仕事を感じられる、手描きによるタッチがいいなと思っていました。そこで最初の段階では“描いた感”のある方を選びました。最終審査でかなをさんを選んだのは、面談のときにithがお客様に提供したいと思っていることを一番汲み取ってもらえたのかなと思ったからです。具体的にいうと、私たちはお客様に寄り添って大切な指輪づくりをお手伝いしたいと思っているのですが、その部分を話していなかったのに一番理解してくれたのがかなをさんだったのです」
「かなをさんはものすごいスピードでスキルを上げていきました。おそらく、多くの時間を割いて勉強していると思います。かなをさんのように伸びる人は夢中でやっていますよね。そういうガッツのある人は、卒業してからも周りが応援してくれるので、長く仕事を続けていけるんです」
松本さんはコンペを勝ち抜いたかなをさんとともに、ithのアトリエにも足を運び、アトリエの様子や高橋がデザインした指輪などをじっくり見ていきました。そして制作を進めていく中で、高橋から指輪のデザインや仕様にアドバイスを受けることも。
「最初は指輪の絵にリアル感がなかったんです。でも、高橋さんからアドバイスをいただき、本物に近くなりました。一番のメインとなる指輪も、実際に高橋さんがデザインされたものを描いています。ほかにもシーンに合わせて指輪のデザインを提案してもらったので、指輪のシーンを少し増やしたり。高橋さんのアドバイスはとても貴重でした」
「松本さんも話されていましたが、この絵本は、今、やりたいことがあるけど、やってみようかな、どうしようかなと迷っている方、とりあえず、やってみたいなという気持ちがある方には、ぜひ、手に取っていただきたい。男性と比べると女性の方が働き方は自由なのかなと思いますが、出産や子育てを考えると仕事に集中できる時間は男性よりも少ないとも思います。私自身、これから出産を控えているのですが、この立場になって初めて『この仕事を本気でできるのはあとどれくらいだろう』と思うようになりました。もちろん、アーツアンドクラフツは社内制度もしっかり整っているので、その点は全く心配していないのですが、そう思ってしまうのはたぶん立場的なものが影響しているのかもしれません。産休中は誰かに責任を委ねなくてはいけないですし、その間もずっと仕事のこと、ブランドのことは気になると思うので。また復帰後にどういった働き方ができるのかなと不安もあります。だから、今、やりたいことがあるなら、早めに行動に移すこと、頑張ってみることをおすすめします。この絵本を読んだら、勇気を持って一歩踏み出してほしいと思います」
「そうですね。今、私がこうして働けているのは、自分の考え方を変えたから。人に恵まれたからだ、運がよかったからだといわれるのは、少し違うと思うんです。そうなるために何らかの行動をとったからだと思う。だから、私は自分の力で未来は変えられると信じています」
最後に「絵本を作るのは楽しいですよ」と話す松本さん。
「想像の中でいろいろな国に行ったり、いろいろなシミュレーションしたり。その作業は本当に楽しい。だからこそ、私はこれからも“働きたい”を叶えるために女性たちの支援をしていきたいし、そのために私ができることを探しながら生きていきたい。でも、本来、仕事に男性も女性も関係はなくて、その人個人の能力がフラットに評価されるべきだと思うので、その能力を伸ばしていけるように応援していきたいですね」
自身のアトリエから生まれたオーダーメイドの結婚指輪工房「ith」のブランド代表。15歳から金属工芸全般(彫金・鋳金・鍛金)を学ぶ。山梨県立宝石美術専門学校卒業後、宝飾メーカーの工房で8年半修業を経て独立、吉祥寺にアトリエを開く。高橋自らデザインし、試作を重ねた結婚指輪のコレクションは、シンプルなものから個性的なものまでバリエーションは幅広く、その数は70種を超える。ブランドコンセプトである「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」という想いをもとに、これまで手掛けた婚約・結婚指輪の数は1000組以上にも上る。現在は、新作の商品開発の他、新たに加わったつくり手たちの指導にも関わるなど、ブランドの顔として社内外に向けた活動している。
女性絵本作家、イラストエッセイスト。日本大学芸術学部卒業後、編集プロダクション勤務、牛乳配達員を経て、1998年10月 サンクチュアリ出版入社。1999年2月 同社副社長に就任。その後、編集部内で主に女性向けイラストエッセイ等を手掛ける傍ら、複数の出版社より自著を出版。2007年 完全独立し、デザイナー・筆者・イラストレーター・出版プロデューサー等の領域で本づくりにおけるマルチプレイヤーとして活動。
2009年9月、絵本作家の養成+プロモーション活動の担い手であるウーマンクリエイターズカレッジ(旧 東京クリエイターアカデミー)を設立。専属講師に就任。現在までに卒業した女性クリエイター・アーティストは200名以上にのぼる。絵本で世界を変えられると本気で信じるアーティストたちを率い、創作活動に励む日々。
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★この活動は、SDGsに関する取り組みの一貫として実施しています。