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2021.05.04

【対談インタビューvol.1】夢を実現した2人のスペシャリスト1 -“好き”を天職にする-

アーツアンドクラフツは、『つくるの力で、世の中をもっと豊かに』をヴィジョンに、さまざまなものづくりに関わる人々とテクノロジーの力を掛け合わせ、これまでも多くの『ともに、つくる。』を提案してきました。その活動の一環として、このたび、新たなプロジェクトが始動。それは働く女性を応援するもので、2021年夏、その取り組みの一つとして1冊の絵本を制作することになりました。

「好き」を諦めない。夢に向かって頑張る女性たちを応援する絵本プロジェクト開始します!

ウーマンクリエイターズカレッジ代表 松本えつを × ith代表 高橋亜結

今回共同での絵本づくりに携わっていただいたウーマンクリエイターズカレッジの代表である松本えつをさんと、アーツアンドクラフツが運営するブランドの一つであるオーダーメイドの結婚指輪工房『ith』の代表・高橋亜結が対談し、それぞれに幼少期からの夢を叶えた2人の仕事観や絵本に込めた想いを3回にわたって紹介していきます。

 

大人になったら好きなことを仕事にしたい

松本えつをさんは、絵本作家を始め、編集者・イラストレーター・デザイナー・ライター・出版プロデューサーとして、多くの本づくりに携わってきたスペシャリストです。その一方で、2009年に絵本作家などのクリエイターを目指す女性を対象とした学校「ウーマンクリエイターズカレッジ」を創設し、働く女性たちを支援・サポートしてきました。

高橋亜結もまた2014年にジュエリー職人として独立し、その2年後に「アーツアンドクラフツ」が立ち上げたブライダルジュエリーブランド『ith』に参画。現在は代表としてジュエリーのデザインに関わるとともに、国内11カ所のアトリエでつくり手として働くスタッフの道標として後輩の指導にもあたっています。

 

松本さん(以下、松本) 

「私が本を作る人になろうと決めたのは、中学2年生のときです。ある日、ふと将来について考えたとき、自分の周りで楽しそうに仕事をしている大人がいないことに気づきました。大人になると18時間も仕事に割かれ、自分の好きなことがほとんどできなくなるんだと恐怖心が芽生えたのです。それで、自分の好きなことを仕事にしようと思い、いくつかあった選択肢の中から、自分の責任が負える範囲で結果が出せて、周りに迷惑が掛からないものと絞っていった結果、残ったのが『本を作ること』でした。当時はまだ無知でしたから()、本なら最初から最後まで一人でできると思ったんです」

 

 

子どものころに思い描いた夢を叶えるために

中学2年生でいささか早熟した思考を持ちながら、一方で年相応の幼さも持ち合わせていた松本さん。「本を作る人になる」と決意したものの、それが100%叶えられるとは思っておらず、次に考えたのは「本を作る以外は何もできない大人になる」ことでした。

 

松本 

「できないことが多ければ、それを見かねた“夢を叶えてくれる神様”が好きなことを仕事にさせてくれるはずだと思ったのです。だから、私はひたすら好きなことだけに集中し、それ以外のことはしない、足をつっこまないと決めました。自分ではすごくいい考えだと思っていて()、そのときは夢が叶わない将来は考えてもいなかったですね」

 

高橋

 「実は、私も松本さんと同じように小学6年生のときに『ジュエリーデザイナーになりたい』とタイムカプセルに書いていました。というのも、祖母がとてもジュエリーが好きな人で、幼いころから『キラキラしていてきれいだな』と思って近くでずっと見ていたんです。高校を卒業してジュエリーの学校で専門知識と技術を学び、その後、ジュエリーメーカーに就職し、職人として9年近く働きました」

 

松本

「私も大学を卒業して、念願だった本を作る仕事に携わりました。ところが、入社3カ月ごろにある事件が起きて、私がその責任をとって会社を辞めることになったのです。上司にも『君はこの仕事には向いてない』といわれ、私の心はぽきっと折れてしまった。それで出版とは全く違う世界に逃げました。ずっと思い描いていた夢に挫折したのです」

 

会社を辞めた松本さんは牛乳配達のアルバイトを始めたものの、なかなか思い通りにできない現実を目の当たりにしました。ほかのアルバイトの倍の時間がかかったり、ときには配達を間違えることも。これはおかしい、こんなにできないはずがないと思った松本さんでしたが、これではだめだと一念発起し、再度、出版業界へ。松本さんが手掛けた本が初めて世の中に出たのはそれから2年後、『本を作る人になる』と決意したあの日から10年目のことでした。

 

出産後の生死をさまよった経験がターニングポイントに

 

その後も順調にキャリアを積んでいった松本さんは、常に第一線で活躍し、出版社の役員を経て、フリーランスに転身しました。またプライベートでも結婚、出産をし、まさに順風満帆の人生。ところが、第1子を出産した2週間後、松本さんは体調を崩し、生死をさまよう事態に陥りました。医師や看護師の懸命な治療によって一命を取りとめた松本さんは、それをきっかけにこれまでの考えを大きく改めることになったのです。

 

松本

 「それまでは、私の描いた本が読んだ人の人生を変えるきっかけになればいいなと思っていましたし、それが生きがいでもありました。でも、生死をさまよったことで、今までと同じことを続けていても変えられる人生は限られるし、社会全体を変えることはできないと気づいて、すごく無力感を抱いたんです」

 

今でこそ、国や社会も子育てと仕事の両立を目指す女性を支援するため、さまざまなバックアップ体制を築こうとしていますが、その当時は子育てに仕事にと邁進する松本さんのような女性たちをサポートする環境はあまり整っておらず、決して満足できるものではありませんでした。そのことに矛盾を感じた松本さんは、もっと働きたいと思いながらも夢を諦めている女性のため、絵本を通して自立支援を促す学校を設立しようと考えたのです。

 

松本

 「私がこれまで続けてきた仕事は決して天職というものではなく、それこそ強引に自分の物にしてきたという感じです。でも、それがある意味よかった。私がしてきたことは誰にでも応用できることだったから。私が培ってきた経験を一つの方法として伝えていこう、それがウーマンクリエイターズカレッジの設立に繋がっていきました」

 

vol.02 活躍の道は、ひとつじゃない につづく

 

<高橋亜結プロフィール>

自身のアトリエから生まれたオーダーメイドの結婚指輪工房「ith」のブランド代表。15歳から金属工芸全般(彫金・鋳金・鍛金)を学ぶ。山梨県立宝石美術専門学校卒業後、宝飾メーカーの工房で8年半修業を経て独立、吉祥寺にアトリエを開く。高橋自らデザインし、試作を重ねた結婚指輪のコレクションは、シンプルなものから個性的なものまでバリエーションは幅広く、その数は70種を超える。ブランドコンセプトである「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」という想いをもとに、これまで手掛けた婚約・結婚指輪の数は1000組以上にも上る。現在は、新作の商品開発の他、新たに加わったつくり手たちの指導にも関わるなど、ブランドの顔として社内外に向けた活動している。

<松本えつをプロフィール>

女性絵本作家、イラストエッセイスト。日本大学芸術学部卒業後、編集プロダクション勤務、牛乳配達員を経て、1998年10月 サンクチュアリ出版入社。1999年2月 同社副社長に就任。その後、編集部内で主に女性向けイラストエッセイ等を手掛ける傍ら、複数の出版社より自著を出版。2007年 完全独立し、デザイナー・筆者・イラストレーター・出版プロデューサー等の領域で本づくりにおけるマルチプレイヤーとして活動。
2009年9月、絵本作家の養成+プロモーション活動の担い手であるウーマンクリエイターズカレッジ(旧 東京クリエイターアカデミー)を設立。専属講師に就任。現在までに卒業した女性クリエイター・アーティストは200名以上にのぼる。絵本で世界を変えられると本気で信じるアーティストたちを率い、創作活動に励む日々。

 

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★この活動は、SDGsに関する取り組みの一貫として実施しています。