LIXILグループは住宅設備機器の国内最大手で、2011年にトステム、INAX、東洋エクステリア、新日軽、サンウエーブ工業が統合して発足した持株会社です。
日本国内の事業環境の悪化により、M&A等を用いて国外進出を図る企業が増加している中、LIXILは、M&Aの成功と失敗を両方味わっており、注目すべき企業と言えるでしょう。
本記事では、LIXILの特筆すべき海外企業のM&A事例の紹介及びM&Aにより多額の損失を生み出してしまった事例を紹介していきます。
LIXILグループ発足後、長きにわたり経営を主導してきた旧・トステム社長の潮田竹次郎氏に代わって、2016年、海外進出に意欲的な元ゼネラル・エレクトリックの藤森義明氏が社長に就任しました。そのことがLIXILグループのその後M&A戦略を大きく変えることになります。
藤森氏はゼネラル・エレクトリック流のグローバル化や事業の「選択と集中」により、海外でのM&Aを積極的に行うことで海外売上高比率を急上昇させていきます。実際、2001年のトステム時代の売上高は約7千億円でしたが、2010年代に相次いで買収を行ったことにより売上高は急上昇し、2015年には約1兆6千億円と14年間で倍以上と飛躍を遂げました。
その中でも特に大きな話題となった3つのM&A事例の詳細について以下で紹介していきます。
【買収企業名】
ペルマスティリーザ社
【買収時期】
2011年
【買収目的】
販売ルートの活用
【事例概要】
LIXIL が買収したイタリアの外壁大手ペルマスティリーザ社は、森ビルの上海環球金融中心や複合施設の東京ミッドタウンの外壁材も手掛けており、高級外壁材において世界市場シェア25%を持つ企業です。
LIXIL がペルマスティリーザ社を買収した目的は規模の拡大ではなく、ペルマスティリーザ社の販売ルートの活用でした。LIXILのラインアップの多さが世界市場を攻める上での武器となるため、欧米市場をペルマスティリーザ社の販売ルートを使って開拓、外壁材以外の豊富な商品を売り込むことが狙いでした。
【買収企業名】
アメリカン・スタンダード社
【買収時期】
2013年
【買収目的】
北米市場のシェア拡大
【事例概要】
LIXIL が買収した衛生陶器大手の米国・アメリカン・スタンダード社は130年以上の歴史を持つ水回り製品メーカであり、北米における衛生陶器市場で21%のトップシェアを持ちます。
当時、アメリカン・スタンダード社の財務状況は悪く多額の負債を抱えていました。その一方で、リーマン・ショック以降、北米の住宅市場は緩やかな回復傾向にありました。こうした背景を受けて、LIXILは、アメリカン・スタンダード社の財務状況を改善できれば、北米市場の回復に伴って早期の黒字化と市場シェアの拡大が見込めるのではないかと判断し、買収に踏み切りました。
【買収企業名】
グローエグループ
【買収時期】
2014年
【買収目的】
水回り商品の欧州市場参入
【事例概要】
LIXIL が買収したドイツの水栓器具メーカであるグローエグループはブランド力が非常に高く、欧州で高い認知度を誇ります。グローエグループの商品は高級ホテルの大半で採用され、一般家庭からも高い人気があります。
LIXIL は欧州の浴槽や衛生陶器など水回り商品において約15%の市場シェアをもつグローエグループを買収することで、欧州市場に本格参入することを目論んでいました。
藤森氏の手腕によって、成功したかに見えた海外企業のM&A戦略ですが、徐々に問題点が露呈してきました。その顕著な例として、ジョウユウの不正会計事件とペルマスティリーザの巨額損失事件です。
2017年LIXILは、事例①で買収したペルマスティリーザ社の業績低迷により、数百億円に上る多額損失を被りました。
加えて、2019年LIXILがペルマスティリーザ社の全受注を再精査したところ、原材料・人件費の高騰や熟練マネジャーの大量退職による工期遅れなどにより330億円の追加の事業損失が発覚し、子会社の実態を把握できていなかった事実が露呈しました。
順調に見えたLIXIL のM&A戦略でしたが、大きな落とし穴がありました。2015年、事例③で買収したグローエグループの中国子会社であるジョウユウにおいて不正会計が発覚しました。グローエグループ経営陣は、2009年にジョウユウに一部出資(2013年に子会社化)した時点から主要な財務情報を把握できない状態であり、その状態をLIXILに報告していませんでした。ジョウユウは実際には債務超過であり、破綻処理を迫られた結果、LIXILは関係会社投資の減損損失や債務保証関連損失などで総額608億円もの損失を計上することとなりました。
一度はM&Aによって大きな成功を収めたLIXIL ですが、結果的に多額の損害を出すこととなりました。その原因として、大きく3つ考えられます。
1つ目は、デューデリジェンスが稚拙であったことです。通常、M&Aを実施する場合には、相手企業の財務内容に問題がないか専門家を使って詳細に調査をします。ジョウユウの不正会計事件について、LIXILがより詳細なデューデリジェンスを行っていればそのリスクは軽減できていた可能性は否定できません。
2つ目は、子会社の経営状況を把握できていなかったことです。ペルマスティリーザ社の業績不振を早期に把握できなかったことから損失が拡大しています。ペルマスティリーザ社が人材や工期に問題が起きていることを前もって知ることができていれば、経営的なサポートや売却の判断を早めることができていたかもしれません。
3つ目は、企業経営者のガバナンス問題です。今回のように企業経営者の中に問題のある人材がいることをLIXILの経営陣は見つけ出すことができませんでした。M&Aにおいて、ある程度現地スタッフに人事権を認めても、財務など管理部門などの重要な権限はしっかりと握っていくことが必要なのです。
【参考】
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/コンサルタント
防衛省自衛隊において幹部自衛官として3年間勤務し、その後アーツアンドクラフツに参画。新規事業領域の調査/計画から、BPRや海外マーケティングを始めとする実行支援まで、多岐に渡るプロジェクトにおいて顧客へ価値を提供している。全体最適を念頭に置いた戦略的発想に優れ、常時顧客とフェーシングしてきた経験から柔軟なプロジェクト推進が可能。