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【実践事例】GoogleWorkspaceで推進する中小企業のDX(1)
前回は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に対する理解や取り組みが遅れている中小企業こそ実行する意義が大きいということ、ITやデジタル化となると大きな投資が必要に思えるが、GoogleWorkspaceなどのクラウドサービスを活用することで低コストでDXに取り組めるということを述べました。
今回からは当社の取り組み事例を紹介しながら、GoogleWorkspaceを活用したDX推進のヒントをお伝えしていきます。
当社では、オーダーメイドで結婚指輪、婚約指輪を中心としたジュエリーの製造から販売までを一気通貫に行ういわゆる製造小売事業を行なっています。
2021年現在で、全国に11店舗(+EC&オンライン接客)を展開。商品の生産については東京の吉祥寺の自社工房を中心に、社外の5〜10程度の社外工場や職人などの制作協力先とも連携しながら月に1,000本程度のオーダーメイドジュエリーを制作しています。
製造から販売まで一通り自社で行なっていることから、Webや店舗を中心とした<①顧客接点/メディア領域>、日々の事業活動を通じて得られる社内外の様々なデータを収集分析しながら経営へと活用していく<②マーケティング領域>、拠点は離れた社内外の人員が情報を共有しながら知識共有とそれに基づく作業を進めていく<③ものづくり/マネジメント領域>と、企業活動のフロントエンドからバックエンドに至るまで様々な領域で、GoogleWorkspaceの活用を進めています。
以前のブログ記事でもご紹介しましたが、顧客接点での取り組みとして行なっているのがGoogleMeetを活用したウェブ接客サービスです。
新聞等のメディアにも取り上げて頂きましたが、昨年のコロナ禍の第一波を経験するなかで生まれてきたサービスです。
2020年の4月に初めての緊急事態宣言が発動されたのち、我々のような店舗を主軸として営業を行う小売業は、ほとんどの売上がストップしてしまうという苦境に立たされました。
そんな状況をなんとか打開しようということで、それ以前はB2Bの一部でのみ活用されていたオンラインツールのMeetに着目しBtoC向けにアレンジを行ないサービス開始にこぎつけました。
オンラインでの接客を行うツールやソリューションは、BtoC専門のものも含めて数社から提供されていましたが当然有料サービスですし、導入時にいくつかリサーチをしたなかでは有料であっても圧倒的に大きな優位性を感じなかったこともあり、すでにGoogleWorkspace(旧Gsuite)を導入していた弊社としては、無料で活用できるMeetで十分使用に足り得ると判断し導入を開始しました。
テストマーケティングを行う際に、一番頭を悩ますのは費用の問題です。うまくいくかいかないかまだ判断がつきにくい段階からまとまった投資を迫られると、経営者としては正直二の足を踏まざるをえないケースは多々あります。
そんな観点においても、メールやファイル共有といったビジネス活動の必需機能を満たしつつ、特に追加機能を支払うことなく様々なアプリをデフォルトで使うことができるGoogleWorkspaceの有用性が伺えます。
Meetの機能を使った具体的なサービスをもう少し詳細にご紹介していきます。
まず第一にビデオ通話を使うことで離れた場所でコミュニケーションが取れます。これによってお客様はご自宅にいながらPCやスマホで、ithのつくり手とコミュニケーションを取りながら、ブライダルリングの相談ができます。
これにより、コロナ禍のなかでも店舗を訪れることなく商品の案内やオーダーメイドの相談ができるようになりました。
当初は結婚指輪は消費者向け商材としては比較的高単価であり、また一生に一度の特別な商品でもありますので活用頻度は低いのではという懸念もありましたが、緊急事態宣言下においては引き合いも多く予想していたよりも多くのお客様に活用頂きました。
また緊急事態宣言があけてからも、これまでリアルな店舗が近くにないことでithでのオーダーメイドを諦められていた遠方地域のお客様からも徐々に相談が入るようになりました。
リアル店舗がない地域という意味では、(言語や物流の問題等をクリアにできれば)日本国内だけでなく海外の顧客対応も可能です。実際には弊社では2021年度より一部英語での海外対応を開始しています。
さらに現在では、来店前にWeb接客で相談しイメージを固めてから、来店いただき実際に試着していただいてイメージを確かめるといったOMO(Online Merged with Offline)型の接客スタイルも自然発生的に生まれてきています。
オンライン接客のネックになりやすいポイントとして、商品自体やご案内のためのツールがお客様の手元にないという点があります。
実際の店舗では商品やサンプルを通じて試着しながら、お客様は自分のお好みを把握し導き出していくことができますが、残念ながらオンラインではそれは叶いません。
そのデメリットを解消するために、弊社ではふたつのアプローチを取っています。ひとつはリアルのサンプルリングを郵送で貸し出しするサービスです。Web上からお好きなリングをいくつか選んで頂き、それを一定期間お貸し出しするというやり方を行なっています。
もうひとつが、GooleMeetの画面共有機能を活用したオンラインプレゼンです。下の画面の例のようにリアルでは商品をみながらご案内する内容を、Webのスライド(※ここでもGoogleSlideというアプリを活用)に置き換えたり、部分的には動画を流して画面共有することで、リングの種類やithのオーダーアレンジでできることなどをビジュアルも活用しながらご案内しています。
私たちithでは、お客様が指輪を創造するものづくりの舞台としてアトリエという世界観を非常に重視しています。
クリエイションの場だからこそワクワクするような空間で楽しんで頂けるようにと全国11のアトリエすべてがそれぞれの個性をもったつくりになっていますが、オンラインでもその雰囲気を味わって頂けるようにMeetの背景設定機能を活用し、その時々に応じて壁紙を切り替えたりしてお客様に楽しんでもらう空気づくりを行なっています。
<梅田アトリエの風景>
<桜の季節には店頭装花を背景に>
小さなことのように思えますが、接客において大事な「まずお客様と打ち解ける」という意味では極めて重要な意味合いを持ちます。
またこの機能は当初Meetには実装されておらず他社サービスにあった機能なのですが、クラウド型サービスの良いところとしてGoogleの開発側でいいと思われた機能は順次アップデートされていくという点も挙げれらます。
このように、使いながら改良していく、無料だからこそ多少の失敗や不格好にも目をつぶってとにかく自分たちの知恵やひらめきをどんどんカタチにしていくという中小企業だからこその強みを活かせるのがGoogleWorkspaceです。
近年、ビジネスシーンによく浸透しているPDCAに変わり、Observe(観察)、Orient(状況判断、方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の4つの行動の頭文字をとったOODAループという手法が注目を浴びつつありますが、不確定性の高い状況のなかで新しい成功法則を抽出していくためには適したアプローチであり、中小企業のDX推進にもよくフィットするスタイルだと言えるでしょう。
まずは実践し、スピード感ある改善を通じて、エクセレントを求めていく。不確定な時代のなかで中小企業ならではの強みを補完しうる可能性を持つのがGoogleWorkspaceでもあります。
アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。