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コロナ禍で改めて考えたいサプライチェーンのレジリエント化

 

With/Afterコロナ時代を見据えたサプライチェーンとは

新型コロナウイルスの流行の収束が見えない中、社会の経済活動にも引き続き大きな影響が出ています。感染拡大を防ぐために、人やモノの流れが制限されるという意味においては、企業のサプライチェーンには特に大きな影響が出てきます。このような中、サプライチェーンに何らかの問題が生じた場合にその機能を早期復旧させる、あるいは、そもそも機能が停止しないような体制を構築するという動きに注目が集まっており、このような体制の構築に向けた動きを総称して「サプライチェーンのレジリエント化」と呼びます。

以下では、まず新型コロナウイルスが企業のサプライチェーンにどのような影響を与えたのかを整理したのち、企業の取り組み事例を紹介していきたいと思います。

 

新型コロナウイルスのサプライチェーンに対する影響

 

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ手段として、人同士の接触を制限するという観点から、移動が制限され、その結果として物流面にも大きな影響が出ました。需要と供給という観点から整理すると、下記のような形となります。

  • 需要面:人の移動が制限された結果、外出先での個人消費が減退し、これにより需要が減少するという負の循環を生んでいます。

  • 供給面:人の接触を伴う業務の制限によって企業活動が停止することによる、生産/販売の可能量の縮小から企業業績の悪化という負の循環が生じています。

 

需給のバランスが崩れたことで、サプライチェーンにも大きな影響が出ています。下記では、サプライチェーンをいくつかのフェーズに分けて分析を行います。

 

まずは、サプライチェーンをある商品の原材料調達から消費者の手に渡るまでのプロセスとして細分化します。需給から販売・アフターケアサービスまでの5つのフェーズに分けて考えることができ、図で表すと以下のようになります。 

そして、このプロセスの各フェーズに今回の新型コロナウイルスがどのような影響を与えたのかを整理したものが下記の図になります。

 

 

  • 需要/供給

まず、需要/供給のフェーズでは、人やモノの移動が制限されることで、主に外出先での個人消費が停滞して需要量が減少しますが、問題はその需要の減少量を予測することが難しいことが困難となる点にあります。供給側から見ると最適在庫量の調整が困難になるといった形で問題として現れます。

  • 調達

次に、調達のフェーズでは、原材料や中間財の調達先の物流が停止することによって調達が難しくなり、ひどい場合には代替材の確保すらも厳しい状況に陥ったケースも見られます。

  • 生産/工場

このフェーズでは、感染予防の為に人同士の接触が制限され、出社可能な人が減ることで工場の稼働が制限されました。また、安全性の解明や感染症予防技術の導入まで生産再開の目途が立たないケースも見られます。

  • 物流

物流に関しては、人の移動制限による配送網の混乱やステイホームなライフスタイルによる宅配需要の過多から供給が追い付かない場面が見受けられます。

  • 営業/販売

このフェーズでは外出制限が外出先の個人消費の減退を及ぼすことから、購入需要が低迷しています。また、接触を避けるために、対面での営業/販売が大きく制限されています。

 

サプライチェーンのレジリエント化と具体的取り組み

前章では、サプライチェーンを各フェーズに分解し、今回の新型コロナウイルス影響がそれぞれのフェーズに及ぼした影響を整理しました。その影響を受け、各企業は正常な形で企業活動を続けるための対策を積極的に行いました。これが結果として、サプライチェーンのレジリエント化を進めることとなりました。この章では、サプライチェーンのレジリエント化の説明及び、その実現のために各企業が行った取り組みをそれぞれのフェーズごとに見ていきます。

 

サプライチェーンのレジリエント化とは

レジリエンス(Resilience)という英単語は「回復力」、「弾性」という意味です。そして、レジリエンスの形容詞であるレジリエント(Resilient)は「回復力のある」、「弾力性のある」という意味を持ちます。このレジリエントという言葉を企業やサプライチェーンに当てはめると、「リスクイベントに対して対応する」という意味合いになります。

 

以下では、サプライチェーンのレジリエント化に向けて、各企業が行った取り組みを上記で見たフェーズごとに紹介していきます。

 

  • 需要/供給:需要/供給フェーズでの具体的事例としては、需要量の予測データ活用および、取引先との協力によって、供給量の安定化を目指す取り組みが見られます。

    • 日本郵便楽天:日本郵便と楽天は提携によって、コロナ禍のステイホームによるEC利用増による物流網や荷量データから需要予測をより正確にし、物流拠点、供給網を最適化にすることを目指しています。

 

  • 調達:調達に関しては、自社だけでなく、取引先の状況を一早く、そして正確に知ることが重要になります。このような観点から調達先との情報共有を強めるような取り組みが多く、その結果として、調達源の状況次第では、調達先を変更したり、特定の調達先からの調達量を増減させたりすることで必要量を確保する例が見られます。

    • トヨタ:自社構築したサプライチェーンの情報システム「レスキュー」を用いて、事故や災害発生時の部品生産の流れを早期に把握しています。今回のコロナ禍では、取引先の課題や困りごとの聴取と解決に動き、資金繰りや生産性の改善、物流費の改善、医療用フェースガードの生産委託等の支援により、安定した調達を進めました。

 

  • 生産/工場:このフェーズでは、自社内かつ現場レベルでの感染拡大対策に関する取り組みが多く挙げられます。

    • 旭化成:海外の工場建設現場の勤務者にスマートグラスを配布しました。これにより、日本の担当者が現地にいる感覚で工事進捗を遠距離で確認することができると同時に、人間同士の接触を防ぎ、新型コロナウイルスの感染拡大予防を図っています。

 

  • 物流:物流フェーズでの取り組みとしては、新たな物流方法やラストワンマイルの配達方法の拡大が挙げられます。これは、外出自粛によってEC等のオンラインショッピングの需要が増加し、結果として物流がひっ迫したことへの対応策です。

    • ヤマトHD:ヤマトHDは2020年11月からドラッグストアやスーパーマーケットなどの店舗がEC商品の受取拠点になるサービスを開始しました。受取拠点としての店舗の拡充により、感染拡大防止の為に配達の省人化と受取拠点の分散化を行っています。

 

  • 営業/販売:このフェーズでは、顧客との対面以外の新たな接点を増やす動きが目立ちます。

    • GMOインターネットグループ:同社は、コロナ感染拡大予防のために20204月から社内外取引のペーパーレス化、ハンコレス化を推進し始めています。業務のデジタル化により、リモートワークを可能にし、働き場所の分散化が進んでいます。取引先との会議も取引もリモートワークで可能にすることで、感染拡大予防をしながら通常の業務に取り組んでいます。

 

おわりに

今回は、サプライチェーンをレジリエント化のメリットや各企業の取り組みについて見てきました。しかしながら、いざサプライチェーンレジリエント化に取り組もうとしても、サプライチェーン上のどの部分から改善していくべきなのかが分からないケースも多いのではないかと思います。そこで、まずはレジリエント化するうえで、どこをどのようにレジリエント化すべきなのかを考えてみるという視点が重要になると思います。また、レジリエントにしたい部分を見つけたとしても、その解決にあたっては、人的、金銭的、時間的投資が必要になることが上述の例からもわかります。なので、ノウハウのない企業がサプライチェーンのレジリエント化を進める場合、自社開発よりも外部企業と手を組み、技術や知識を取り入れるのも手段の1つだと思います。

 

今回の新型コロナウイルスによって、企業活動に様々な悪影響が生じていると思いますが、これを機に今後の様々なリスクイベントに対応できるレジリエントなサプライチェーンを構築することを検討してはいかがでしょうか。もしレジリエント化すべき部分の調査やレジリエントにする方法を検討しているのであれば、弊社への相談もお待ちしておりますので、是非ご検討ください。

 

【参考】

森田 橋之介

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/アナリスト