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縮小市場におけるM&A傾向 ~ジュエリー業界の今後~

導入

2020年のM&A件数は、2019年の年間853件を4件下回る849件という結果となりました。「2019年のM&A件数が過去10年で最多だったこと」「2020年の日本市場はコロナウィルス感染拡大の影響を通年で受けたこと」の2 点を考慮すると、この件数は予想以上の多さと言えるでしょう。

本記事においては、コロナによる大きな悪影響を受けた業界の1つである「ジュエリー業界」に焦点を当て、市場の概況から、今後のM&A傾向について考察していきます。

※なお、ジュエリーに関連する市場は製造と小売の2つに分類されますが、本記事は「小売」に関する考察です。今後文中にて「ジュエリー業界」「ジュエリー市場」という言葉が用いられる際には、それぞれ「ジュエリー製品小売業界」「ジュエリー製品小売市場」と捉えてください。

 

ジュエリー業界の特性

特徴① 売上の不安定性

ジュエリー業界は消費財のうち非生活必需品(いわゆる「贅沢品」)の小売販売に分類される業界です。

一般に、贅沢品の需要は経済環境に大きく左右される傾向があり、景気が良い場合には顕著に売上が増加し、悪い場合には顕著に減少します。

そのため、各年の売上は不安定になりがちであり、突然の景気の悪化に備えて一定以上の企業体力が必要となります。

TKC経営指標によれば、ジュエリー製品の小売業の粗利率は49%と、一般的な小売業の基準値である30%と比して高い値となっており、ジュエリーが贅沢品であることの証左と言えるでしょう。

特徴② 企業体力の低さ

上項で述べた通り、ジュエリー業界は売上の波が激しく、年度毎の売上の安定性に欠ける一方、日本のジュエリー業界においてキャッシュを潤沢に抱えた大企業はほんの一握りに過ぎず、大部分が企業体力の低い中小零細企業で構成されています。

この構造が、コロナウィルスにより著しい悪影響を受けている大きな要因の一つになっています。(コロナウィルスによる2020年の市場減衰については次項「ジュエリー業界の市場規模」に記載)

 

特徴③ 在庫管理の難しさ

多品種少量を扱う小売業の宿命ですが、ジュエリー業界においては、在庫回転が比較的低位であるのに対して在庫ボリュームが大きい傾向があります。

流行や季節性によって売れ筋商品は頻繁に遷移するため、不良在庫が発生することも珍しくなく、適切に在庫を管理することは非常に困難です。

 

特徴④ 人材の不足

特にブライダルをはじめとする高級なジュエリーの販売には、自社製品に対する知識はもちろんのこと、素材、デザイン、産地などについての広範な知識が求められます。

このような知識は一朝一夕で身に付くものではなく、接客の心得と関連知識を兼ね備えた販売員は慢性的に不足しており、ジュエリー関連企業にとって重要な経営資源となっています。

 

ジュエリー業界の市場規模

株式会社矢野経済研究所が20213月に発表した「宝飾品(ジュエリー)市場に関する調査」によれば、1991年のジュエリー業界の市場規模は3円を超えていましたが、2020年は8,195億円に留まる見込みとのことです。上記1991年~2020年のCAGRを見てみると、約4.4%のマイナス成長であり、バブル崩壊後30年間にわたって大きく市場規模が縮小してきたことが見て取れます。

特にコロナウィルスの影響があった2019年~2020年の落ち込みは激しく、2020年の市場規模は前年比約83.2となっています。この急激な下落については、コロナウィルスの感染拡大による外出自粛や休業の影響が直接的な要因です。また、国内人口が漸次減少する中、インバウンド需要が唯一希望の持てる分野であったにも関わらず、コロナウィルスの影響でその需要がほぼ消滅したことも、下落の加速に繋がったと考えられています。

その一方で、根本的な技術的革新や大幅な製品価値の変動などは予想しにくく、今後も最低限の市場規模は保たれると予想される市場の1つとしても知られています。

 

ジュエリー業界の近年のM&A事例

M&A事例①

【譲渡先企業】

京セラ

【譲渡元企業】

三菱マテリアルトレーディング

【譲渡時期】

2020年4月

【事例概要】

京セラは、独自技術により1974年に日本で初めてエメラルドの再結晶に成功して以来、再結晶宝石を中心とした宝飾品事業を運営していました。

 一方、三菱マテリアルトレーディングの宝飾品事業は、親会社である三菱マテリアル株式会社1978年に事業を開始して以来、2015年の事業承継を経て現在に至るまで、「MJC」ブランドにて豊富なラインアップを展開し、通信販売カタログ、オンラインショップのみならず、全国各地にて開催するジュエリーフェアにて、多くの顧客にジュエリーの販売を行ってきました。

このM&Aでは、「商標権、製品在庫、顧客名簿データ、ウェブ販売システムなどを承継する」と公開されており、京セラの顧客基盤の拡大が主な狙いとみられています。

 

M&A 事例②

【譲渡先企業】

ブックオフGHD

【譲渡元企業】

ジュエリーアセットマネジャーズ

【譲渡時期】

2019年9月

【事例概要】

ブックオフは、ジュエリーアセットマネジャーズの運営するブランド「アイデクト」のジュエリーのリペアやリフォームといった付加価値を付けられる面に着目。ブックオフで展開する総合買取窓口等で買い取った商品をアイデクトで付加価値を付けて販売するなどのシナジーを見込み、買収に踏み切りました

一方、ジュエリーアセットマネジャーズとしては、ブックオフ傘下に入ることで、ブランド力や資金力を含め安定した経営が図れることが魅力だったとのことです。

 

ジュエリー業界のこれまでのM&Aの傾向

M&Aには「新規市場への参入」「製造小売化」「海外進出」など様々な目的があります。このうちこれまでジュエリー業界で盛んだったのは「既存市場におけるシェア拡大」を目的としたM&Aです。(M&A事例①参照)いわば、縮小市場であるジュエリー業界の中での、事業規模の拡大による生き残り戦略です。ニッチ市場におけるシェアNo.1を目指す、消極的戦略の一環と言えるでしょう。

 

また、ジュエリー業界のM&Aには「専門的な知識を持つ優秀な人材の獲得」という側面もありました。前述の通りジュエリー業界においては、優秀な人材の不足が大きな課題となっています。そのため、優秀な販売員や、経験豊富な専門職(ジュエリー鑑定士、デザイナーやクラフトマンなど)を雇い入れることは、同業種のM&Aにおける大きな目的の1つだと考えられています。

人材はジュエリー企業にとって非常に重要な資産と考えられるため、MA後の環境の変化が退職要因にならぬよう、従業員に対して十分な配慮をもったPMIを行うことが肝要となります。

 

ジュエリー業界の今後のM&Aの傾向予測

傾向予測① 買い手有利のM&A市場の活性化

コロナウィルスの感染拡大の影響により、予想よりも早く経営危機に直面したジュエリーの中小企業オーナーの多くが、早期の事業売却を希望することが予想できます。

そのためここ数年は、現在よりも買い手有利な環境が続く可能性が高いです。

国内のジュエリー市場自体は頭打ちであることから、企業体力のある企業が市場シェア拡大を目指す動機は十分にあり、上記のような中小企業を買収するM&Aが活性化すると考えられます。

 

傾向予測② リユースジュエリー企業による現存ブランドのM&Aの発生

ブックオフがジュエリーアセットマネジャーズを買収した事例(M&A事例②参照)に見られるように、リユースジュエリー企業がジュエリーブランドを買収するケースも想定されます。

例えば、2019~2020年のジュエリー業界の売上高ランキングで1位となっているコメ兵株式会社は、2019年にリメイクジュエリーブランド「リッカ」「ミルーナ」を立ち上げ、リメイクジュエリーそのものの地位を向上させようとしています。より高い品質を追求するために、現存のジュエリー企業を買収する可能性は大いにあるでしょう。

その際には、事前のDDを精度高く実施してシナジーを創出することや、PMIを慎重に行い、経営資源である人材の雇用を確保すること、最適な在庫管理方法を確立することがカギになるはずです。

 

傾向予測③ 大手ジュエリー企業による海外展開に向けたM&Aの実現可能性調査開始

日本の大手ブライダルジュエリーブランドである4が海外市場のテストマーケティングで失敗しており、特に高級ジュエリー業界においての自社独力の大規模な海外展開はリスクが大きいという見方が強いです。そのため、国内市場の争奪戦に限界を感じている大手企業は、数年後の海外の事業展開に向けての方策の一つとして、M&A先の企業の選定調査を開始すると考えられます。

In-Out型の海外M&Aでは、市場参入の際にエントリープレミアムが発生するため、投資の回収計画を慎重に検討し、費用対効果の高低を判断する必要があります。更に、コロナウィルスの影響を含めたリスクマネジメントが求められるため、検討には相応のリードタイムが掛かると推察されます。

海外展開に向けたM&Aは、大手ジュエリー企業にとって念願ではありますが、成功のためには数年以上の長期的な調査と根気強い交渉が求められるでしょう。

 

【参考】

 

鈴木勇剛

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/アナリスト
メディアの新規事業企画支援や大手メーカの工場コスト削減等のプロジェクトに参画。

 


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