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2020.10.28

イートイン店舗で進むQRコード注文がもたらすもの


モバイルオーダーとイートイン店舗との相性

テイクアウトが元々主流となっているファストフード店やカフェなどではモバイルオーダーが非常に効果を発揮しています。店舗で注文するのではなく、携帯のアプリや専用サイトから注文できる仕組みをモバイルオーダーと呼びます。コロナ禍の現在、店に滞在する時間が減らせたり出来上がりを店内で待っている必要がなくなったりというメリットにより導入が進んでいます。モバイルオーダーについての詳細は下記リンク先の記事をご参照ください。

【第一回】「モバイルオーダー」は飲食店を救うサービスとなるか

【第二回】「モバイルオーダー」は飲食店を救うサービスとなるか

しかし、レストランや居酒屋といった店内で飲食をすることが前提となっているお店ではモバイルオーダーだけでは売り上げを維持することは困難です。結局食事をするのが店舗だったり、調理方法や盛り付けなどが持ち帰りに適さなかったりする場合も多々あります。
そこで注目されるのがQRコード注文と呼ばれる技術です。

 

QRコード注文は何ができるか

年々飲食店は人手不足に陥っていることや、現在のコロナ対策という観点から導入され始めているのがQRコード式の注文方法です。この技術自体は2019年ごろから出来上がっており、コロナ以前から導入されていた店舗もあるでしょう。ただ、日本での普及率はテーブル備え付けのタブレット式ほど高くはないと考えられます。
では、QRコード注文とは何かというところを説明します。従来、飲食店のメニューは座席に備え付け、もしくは店員によって手渡されるものでした。QRコード式、と名の付く通り、使用されるのはQRコードと客の携帯端末です。QRコードが読み取れれば、スマートフォンだけではなくガラケーでもアクセスは可能です。コードを読み取るとその店舗のメニュー画面に遷移し、その画面を操作することで客は頼みたいものを注文することが可能になります。
従業員には従業員用のアプリが存在し、そこで各テーブルの管理や注文履歴などを確認できます。キッチンにはこのアプリに連携したプリンタを使用することで注文が印刷されるという流れになっています。
モバイルオーダーとは異なり、会員登録などの作業は不要で、アクセスすればその場で使えるようになる手軽さと店内で食事をする店舗での使いやすさがあります。
客はメニュー画面から好きなものを好きなタイミングで注文することができ、更におしぼりやお冷が欲しいときにそこから頼むことも可能です。そして、会計もここから呼ぶことができるので必要な時にいちいち従業員を呼び止める必要がなくなります。

 

導入事例

最初に紹介するのは、池袋にあるビストロBATONという店舗での導入事例です。
この店舗で多く挙げられているのは注文ミスの減少や従業員からの高評価です。元々紙に注文をメモする方法を取っていたそうですが、その場合だと急いで書いた文字が読めなかったり、カスタマイズなどで聞かなくてはならない情報を聞き忘れてしまったりといった難点が存在していました。しかし、QRコード注文を導入してから、今まで間違えやすかったカスタマイズ関係は選択しないと先に進めないようになっているといったページ構成によってそういったミスも減少したといいます。そして、従業員からは非常に使いやすい、わかりやすいという評価が挙げられています。直感的にスマートフォン操作と同様に操作ができるため、従来のような大量のマニュアルや、長い研修期間が不要になるというのも一つの良い効果だったようです。
この店舗では元々Airペイを導入していたことがあり、リクルートによるAirREGIハンディというソリューションを選択しています。同じ会社のシステムを使用することで、使っていたシステムとの連携が取れることもメリットの一つとして挙げられています。
AirREGIハンディでは放題メニューへの対応のほかに、売り切れへの対応や見やすいメニュー画面を作り出せることが魅力のひとつです。

https://airregi.jp/handy/selforder/?ref=information_spo

次に紹介するのは肉屋の台所という焼肉店です。
こちらの店舗では元々客の呼び出しを受けてから注文を受け取る方法をとっていましたが、店員を呼ぶ際に時間がかかり、更に注文を取って、調理し運ぶ、という工程で多くの時間を取られることをデメリットと感じていたそうです。しかし、QRコード注文を導入してからは回転率が上がったのと、客からも提供が早くなったという声があるなどその問題が解決できたと感じています。また、注文に多くの時間を割く必要がなくなったため、より各テーブルに気を配ることができ、火や肉の状態を見られるようになった点が良かった点として挙げられています。
こちらの店舗で導入されたのはO:der Table(旧SelfU)というシステムです。Showcase Gigによって運営されているモバイルオーダーのプラットフォームであるO:der platformのうちの一つで、テーブル注文に特化したシステムとなっています。
O:der Tableではスマートフォンでのクレジットカード決済に対応しており、元々使っていたPOSシステムとの連携も可能で、多言語切り替えもスムーズな点が魅力となっています。

https://business.showcase-gig.com/lp/oder-table

QRコード注文によってもたらされる利点

先に紹介した既に導入している店舗では、注文ミスの減少や回転率の向上というメリットが挙げられていました。それ以外のメリットとしては、下記のようなものが挙げられます。

1. 他方式より導入コストが安価

食券機の導入や、席ごとにタブレット端末を設置してそこから注文、というのも店員とのやり取りの減少や注文ミスを減らす機会にはつながるでしょう。しかし、食券機ではボタン式のもので50万円、タッチパネル式のもので120万円と1台導入するのに大きな金額が必要となります。また、タブレット端末の場合は端末1台で3~4万円ほどだとしても、10席あれば30万円以上必要となってきます。
しかし、モバイルオーダーであれば月に数百円で導入できるものもあります。1席1席で必要となってくる点はタブレットと変わりませんが、端末を利用しない分かなり削減が可能となります。

2. 消毒作業の減少

端末や食券機は客が使用するごとに消毒の必要性が生じます。ですが、読み取るだけのQRコードであればその必要はありません。テーブルにQRコードを貼付している場合でも、通常のテーブル清掃と同時に行ってしまえるので工程が増える、ということはないでしょう。常に監視している必要が減り、他の業務に割く時間を増やす結果にもつながります。

3. 人件費削減

注文時だけでなく、おしぼりやお冷など、小さなことでも店員を呼び止める必要がこれまではありました。呼んで、頼んで、待つという時間が必要になります。更に、お冷は呼び止められる前に店員側から注ぎ足すことを求められることもあるでしょう。そのためには常にホールに人がいて、様子を見ていなくてはなりません。しかし、QRコード注文のページにはそういったオーダーも設定でき、注文と同様にそのページから頼むことが可能です。従来のような手間が省ける可能性が高まるでしょう。

4. メニューの訴求力向上

紙のメニューと同様写真やコメントを使えることはもちろん、紙のメニューよりも簡単に差し替えや編集を行えることにより、その日のおすすめや限定メニューの表示などよりその時々に合わせた購買機会をつくることも可能になります。

5. 顧客満足度向上

ここまでは店舗側のメリットを挙げてきましたが、こちらは客側のメリットです。先に挙げた人件費削減に関連することですが、些細なことで店員を呼び止める必要がなくなることで客はより注文しやすくなったり、なかなかお冷が来なくて苛立ったりということが減るでしょう。更に、注文がしやすくなればより多くの商品を注文する可能性も高まり、購買機会も向上するでしょう。

6. 接触の軽減

従来の紙のメニューは複数人が回覧する必要がありました。必然的に触れる機会が増えることに繋がってしまいます。ですが、QRコードであれば同じテーブルの全員が読み取ることが可能なので一つのメニューを複数人で取り扱う必要がなくなります。

 

考慮するべき点

ここまでメリットを多く挙げてきましたが、だからといって非の打ち所がない、というわけではありません。
まず、QRコードの導入自体が現在広まっていないということが大きな前提としてあります。これは認知度があまり高くないことに由来するのではないかと考えられますが、QRコード決済の検索結果などに情報が埋もれてしまっている可能性も高いのではないかと考えられます。そのため実際どれくらいの店舗で導入されているのか、使ってみた結果はどうなのか、といった実例が少なくあまり普及していかない、という可能性があるのではないでしょうか。
これも踏まえて、考慮すべき点を挙げていきます。

1. 説明業務の発生

メジャーなシステムではない、という点で最も重要になってくるのは使用時の説明の有無でしょう。使い慣れた携帯端末でウェブページの操作、という以上操作自体は難しくはない可能性が高いですが、入店時にQRコードを読み取る場合でも、座席にQRコードを貼付しておく方法でも、説明がないとそこからどうするのか、という困惑を客に与えてしまう可能性があります。

2. 客とのやり取り減少

注文時のやり取りを減少させることでそのほかの業務に集中できる、というのはメリットでもありますが、そういったときに客とコミュニケーションがとれるというのを売りにしていた場合はそのメリットをなくしてしまう可能性もあります。

3. 注文増加による忙殺

注文の機会を逃さなくなるということは注文自体が増える、ということにも繋がります。やり取りが素早くなり回転率が向上する場合もありますが、居酒屋など少量のメニューを追加注文して低コストで長く滞在する客が増えることも考えられるのではないでしょうか。

4. メニューカスタマイズ業務の発生

元々紙で作成していたものがウェブサイトに代わるだけではありますが、日替わりメニューやその日のおすすめといったようなものがある場合は紙よりもこまめに更新する必要が発生する可能性もあります。

5. 従来システムとの切り替え

元々使用していたシステムが残っていた場合、客の混乱を招きます。つい使い慣れているほうを使ってしまう、ということは十分あり得ることでしょう。客だけではなく、それまでに使っていたシステムを利用されることで従業員も混乱してしまう可能性が高いでしょう。切り替える場合は完全に古いものを撤廃する、くらいの構えではないと難しいでしょう。

6. 客個人の端末を利用することによる問題

自分が持っている携帯端末を使用するということはデータ通信量や本体の充電は客側に依存することになります。店内に利用客が使えるWi-Fiがあったり、充電コードがあったりすれば問題は軽減されますが、場合によってはそういった状況によって使いたくないという客もいる可能性があります。

 

新たな形となり得るQRコード注文

今回多くのメリットが挙がったように、テーブルで注文ができるQRコード注文はこれから導入が進む可能性が非常に高いシステムだと考えられます。また、キャッシュレス決済の導入が進んでいる中国では2019年時点でこのシステムの導入が加速しているという話もあり、今ちょうどキャッシュレス決済が広まりつつある日本でも同じようなことが起こるのではないかと考えられます。
また、現在はコロナ対策として接触頻度や同時に大勢が同じ空間にいることを避けられるとして注目されているQRコード注文ですが、元々人員不足への対応などが目的とされていたためコロナが落ち着いてからも十分導入したメリットが残ると考えられます。更に、まだ完全ではありませんがスマートフォン上での決済が可能な場合もあり、そうなってくるとホールが完全に無人で、配膳ロボットを使用してキッチンからテーブルまで料理を運ぶという新しい形の飲食店が生まれる可能性もあります。
利便性の高さや飲食店側の負担の軽減などを考えると、スタンダードとはいかないまでも、今後業態の一種としてQRコード注文を取り入れる飲食店は増えていくのではないでしょうか。

 

【参考】

熊谷菜海

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/プログラマー。得意分野はRPA