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営業力を強化するためのコンサルティング手法:ベストプラクティスについて

1. はじめに

以前こちらのブログで売上アップのためのデータ分析についての記事をアップしましたが、今回はそのデータ分析を実際の営業の成績アップに生かすための取り組みである、営業のベストプラクティスについて紹介していきます。

a.       ベストプラクティスとは

ベストプラクティスには様々な意味がありますが、今回紹介するのはある企業の中で優れた営業メンバーの取り組みを可視化し、それを他の営業メンバーに広げていくことを指します。

b.      記事の構成

ベストプラクティスは、大きく施策の選定と施策の実施という2つの段階に分けられます。今回はこれに沿って説明をしていきます。

2. 施策の選定

まずは施策の選定についてです。意外に思われるかもしれませんが、ベストプラクティスにおいては最初から用意された施策を実施するわけではなく、すでにクライアント企業の中にある優れた取り組みを見つけ出して、それを有効活用することが中心となります。(逆に言うと、どのケースでも必ずうまくいく方法というものがないため、顧客一社一社に合わせてオーダーメイドで作り上げていく必要があるという点が難しいところでもあります。)

このように個々のクライアントに合わせて施策を提案、実行していくため、未知の業界であることはそれほど大きなハンデにはならないと考えています。そのため、例えば転職、異動などによって今までとは全く違う商材を扱う部門の管理を任されるようになった場合などで、部門の特色をつかみ、改善につなげていく必要があるようなケースでも、下記の手法は参考にしてもらえるものと思います。

では、具体的どのようなステップを踏んで、施策の立案、選定をしていくのか、下記で具体的に見ていきましょう。

a.       データ分析

最初のステップとして、売上、粗利、粗利率といった軸を組み合わせて、過去データからの様々な側面での分析を行います。(詳細は前回のデータ分析について扱った記事をご覧ください)

b.      インタビュー

次はデータ分析から導かれた仮説をもとに、ハイパフォーマー(営業成績上位者)、ローパフォーマー(営業成績下位者)に対してインタビューを行い、営業への取り組み方がどのように異なっているのかを検証していきます。

あるケースでは、ハイパフォーマーに共通することとして、注力顧客を絞り(顧客の重要度によって値付けや対応の優先順位を変更する)、提案案件の状況について丁寧にフォローを行っているという点が挙げられました。

反対にローパフォーマーについては案件のフォローができておらず、目の前の案件を獲得するために値下げをしてしまっており、それにも関わらず、受注状況も良くないというような循環に陥っているということがインタビューを通じて明らかになりました

c.       営業同行

上記までのインタビューで判明した優れた取り組みを検証することはもちろんなのですが、インタビューに現れてこない部分で、ハイパフォーマーが顧客との関係で優れた行動を実践している場合があります。またローパフォーマーの場合は、インタビューにおいて自身の課題を把握してないか、把握していたとしても素直にはこちらに話してくれないケースもあります。そこで重要になってくるのが営業同行です。実際の営業の場面に立ち会うことでさらなる改善点の発見につなげます。

この場合にもハイパフォーマー、ローパフォーマー両者の商談で、どこが異なっているかを見つけ出すことが重要です。今回の例では両者の商談の進め方に大きな違いがありました。ハイパフォーマーが商談の狙いを明確にし、主導権を握ってコミュニケーションをとっているのに対し、ローパフォーマーは商談相手の出方をうかがってしまい、自らが持っていきたい方向性を示せていないという特徴がみられました。

d.      施策の絞り込み

上記のデータ分析、インタビューをもとにローパフォーマーとハイパフォーマーの間で大きな差がみられた部分を中心に実施施策を決定していきます。上に挙げたケースでは、

  • 粗利率アップ
  • 受注件数アップ
  • 大型案件獲得

3軸での取り組みを行うこととしました。

3. 施策の実行

上記のステップで施策を絞り込み、承認が得られると、次はいよいよそれをどう実行するかという段階に入ります。他のコンサル案件(戦略立案、新規事業PJ等)においてはこの施策提案部分がゴールとなることが多いですが、ベストプラクティスにおいては、ここからが本当のPJのスタートといっても過言ではありません。下記ではいかに施策を実行していくかについて説明をしていきます

a.       対象メンバーの選定

対象はローパフォーマーから選ぶことになるのですが、施策の修正が必要になるパターンもあるため、まずは1~2名でのトライアルケースでの取り組みを始めることが望ましいです。営業成績だけではなく、各人の置かれている状況なども加味して、マネージャーや経営陣とともに、対象者を決めていきます。取組が軌道に乗り始めたら1か月単位くらいで徐々に対象メンバーを増やしていくという形で進めていきます。

b.      施策実行の管理

対象メンバーが決定したら、下記のような形で各メンバーについて施策の実行の支援、管理を行っていきます。

i.        1on1MTGでの管理

営業メンバー毎に課題が異なり、丁寧な管理、フォローを行うためにも、形式としては1on1ミーティングでの管理が適切であると考えます。頻度としては、週次であることが望ましいです。もし適切なアプローチが出来なかった場合や、確認漏れなどがあった場合でも、週単位でミーティングを行っていれば、個別案件で取り返しのつかない事態を避けることが出来ると考えられるからです。もちろん、顧客対応等の業務の都合上スケジュールの調整が必要になる場面はありますが、不定期ではなく、毎週の決まった時間帯にMTGを行うことがペースをつかむうえでも重要になります。

ii.       管理ツール

具体的な管理としては例えば、下記のツールを用いて行っていきます。

1)     アタックリスト(注力顧客の未受注案件、大型案件)

未受注案件の状況などから注力顧客を絞り込み、定期的な訪問を行うことで、案件が追えなくなるのを防ぎ、個別案件についてマネージャーからのアドバイスを得ることが可能になります

2)     提案粗利率のモニタリング

新規の見積の金額、粗利率のデータを振り返り、案件毎に特に理由のない値引きがなされていないかを確認します。過度な値引きが行われていた場合、これを続けることで粗利率を適切な基準にそろえていくこと効果が期待されます。

3)     月次の実績管理フォーマット

上記のような形で個別の案件進捗を追うのはもちろんですが、月次での受注状況、顧客訪問件数を一覧にして数値化することも重要です。これにより、週次で追い切れていない各メンバーの状況を客観的に評価し、必要であれば方針の修正などを行うことが容易になります。

iii.      管理手法の選択、調整

上記ツールを活用することがベースにはなるのですが、細かい部分では、一人一人に合わせた管理方法を見つけていくことが非常に重要です。

上記の管理ツールをベースに、今回のケースでは主に下記の3つの週次での管理手法を組み合わせて運用しました。

  1. 目標値を設定し管理(成約数、見積もり提出件数等)
  2. 行動レベルでリストして管理(訪問先、個別案件へのアプローチ等のタスク設定)
  3. 時間単位でスケジュールを管理(各作業時間の目安の設定、振り返り)

どのレベルで管理をする必要があるかは、各メンバーが置かれている状況によって異なります。上に行くほど、営業マンとしての基礎が身についており、特に1.の管理で済むようになっている場合、営業マンとしては自立した行動ができていると評価でき、成果が上がるまでそう時間はかからないでしょう。そうなればベストプラクティスの対象者から外し、他のメンバーに施策を展開すること検討しても良い段階に入っていると考えられます。

メンバーの自主性を重んじるという方針がとられている場合に多いのが、レベルに見合っていない管理がなされているパターンです。(本来2.の管理が必要なのに、1.の管理がなされているなど。)特に3.に関しては、特に新卒や社会人経験が浅い、もしくは営業に新規配属になった場合等のケースでは、各作業にどれくらいの時間をあてているのかといったところまで踏み込むことが、改善機会を洗い出すためには必要です。2.の行動レベルでの管理がうまくいかない場合、設定したタスクに対して想定外の作業に時間を使ってしまっているということが考えられます。例えば、過去案件の確認のための顧客訪問を行うという場合で、まずはアポイントを取ることが求められているにも関わらず、その前の段階で過去案件の詳細のリスト化が必要と勘違いしてしまい、その作業に時間を取られてしまった結果、訪問のアポイント自体が遅れてしまっているなどです。こうしたやり取りのズレを防ぐためにも、期間を限ってではありますが、ここまで踏み込んで管理を行う必要もあると考えています。

c.       エスカレーション

外部からのアドバイスを受けるということに対して、メンバーからの反発も当然予想されることではあります。この場合、取組の狙いを改めてマネージャー、あるいはより上位の役職の方から伝えていただくなど、モチベーションの管理等のフォローをしてもらうこともPJの遂行には必要になってきます。

必要な場面で協力を得るためにも、月次の定例会等で、施策の実施状況をマネージャー以上の経営陣に共有すること重要です。これらの取り組みを共有することで、他のメンバーにも伝達することが可能となり、直接の支援対象になっていないメンバーについても効果を上げることが期待されます。

4. おわりに

今回は、営業のベストプラクティスのポイントを述べてきましたが、ぜひ覚えていただきたいことは行動が変化し、それが成果として現れるためにはある程度のリードタイム(3か月から6か月程度)が必要であるということです。成果が現れるまでの期間に、時には感情的な衝突も伴いながら、都度ミーティングの進め方や方針に細かな修正を加え、粘り強く取り組むことが求められます。上で紹介した管理を行う中で、時には同じことを繰り返し伝えることになり、もどかしく感じられるケースもありますが、ある地点を境に目に見える変化が訪れます。上記で述べたような取り組みを参考にし、ぜひ長い目で取り組みを行っていただければと思います。

藤本光佑

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。得意分野は決済事業、IoT、エネルギーなどの事業戦略の提案や、それに伴う調査