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2020.10.19

M&Aプロセスにおける対象会社との交渉 -企業選定~初期的なアプローチ-

 

はじめに

依然先行きが読めないマーケットですが、コロナ禍によって経済が大きくダメージを受けている中でも株価を伸ばしている企業が存在します。

世界の時価総額トップ層の企業の中で株価上昇率の高い上位10社を見ると、いわゆるデジタルテクノロジーを強みにする企業が名を連ねています。いずれも時価総額が100兆円を超す大企業でありながら、成長が加速しているのは異常ともいうべき状況である、というのは知り合いの投資家やファンドマネージャーの談です。

要因としては、デジタルネイティブである世代、プラットフォーマーの台頭や、5GECサービスの技術進化・多角化などが挙げられていますが、コロナがむしろこれらを後押ししている形になっているのではないでしょうか。

市場は、コロナ時代を生き残る企業として、デジタル企業であると予想しているようです。

 

国内でもこうしたデジタル化への動きは多く見受けられます。

行政サービスのオンライン化、迅速化が喫緊の課題であるとされ、デジタル庁の創設が宣言されるなど市場に影響するであろう大きな変化がある中で、私の身近なところでも、DX系企業のM&Aや、デジマへのシフトを企図したコンサルテーションニーズも多く聞かれます。今後もこうしたデジタルテックを有する企業の事業拡大を狙うM&Aや、親和性の高い関連ソフトウェアを有する業歴の長い企業の事業承継案件が増加すると予想されます。

 

こうした状況のなかで今回は、企業でM&Aを推進する際、ソーシング(買収候補先探索)を経て対象会社へアプローチする際の留意点についてまとめていきます。具体的なソーシング方法は、M&A戦略に基づくソーシングの進め方投資ターゲティング~企業選定をご参照ください。

 

 

投資チーム・投資委員会での検討

ショートリストが出そろったタイミングで投資チームにおいて対象会社を選定していくセッションを設けます。投資チームには、ある程度M&Aに知見のあるメンバーや、自社サービスに精通している事業部中枢メンバー、財務会計セクションのメンバー、そしてトップマネジメント層がアサインしていることが望ましいです。自社の戦略とビジョン、対象会社との交渉に向けた検討論点を抽出し、根詰めてディスカッションができる体制を組成すること。これにより、投資タイミングあるいは買収後のPMIの際にアサインするセクションに対して、十分に情報共有した上で推進できるメリットがあります。

組成した投資チームにおいて対象会社の事業内容や、直近の業績動向、顧客情報、創出されるシナジー、買収後のビジョンをディスカッションして、打診するか否か検討をします。

このタイミングでは、打診する価値の高いものは「Pre-DD」として、対象会社を深掘って調査することが求められます。論点・確認事項としては、以下のものが挙げられます。

 

初期分析での論点・確認事項

対象会社の直近数か年の業績

これは投資方針にもよりますが、必ずしも赤字続きだからNGというわけでもありません。何等かの外的要因によって利益確保が難しい状況であり今後は改善が見込まれる、シナジーによってその治癒が可能であるとすれば、手ごろな資金でリターンを得られることも想定されます。

また、数年の間で売上・利益ともに頭打ちになっている場合、事業上のアライアンスや資本注入により解決を図るケースも多いです。そういったニーズを拾うことができれば、交渉の機会を得られる確率も高まるでしょう。

株主構成

基本的には、オーナー企業でオーナーの持株比率が高ければ、交渉はシンプルになります。加えてオーナーが高齢である場合、後継者不在による事業承継のニーズも考えられます。

ビジネスモデルと商流分析

何においても、双方の本業でのシナジーがなければ、M&Aにおけるメリットを享受することはできません。ビジネス上での親和性の高さは、それだけ多くの利益を生み出す源泉となります。双方の強みを生かし、双方を補い合う新規事業を検討することもできるでしょう。シナジーを検討する上で、コアとなる分析です。

簡易的な市場見通し

市場全体の動向を見てみましょう。大まかな市場でもその大局をとらえ、対象会社の業績が市場動向と一致しているか否かによって、その企業のポテンシャルを推し量ることができます。

主要取引先

顧客状況をとらえます。自社の顧客とセクター・売上規模が共通していれば、ターゲティングが近しいことになりますので、双方の商品・サービスのクロスセルを期待できます。シナジーとしては、一番大きい価値を生み出す部分です。

上記を加味した上でのシナジー・投資価値仮説

これらの情報を取得し、シナジーや投資価値を初期的にまとめることで、チームでの検討に資するインプットを与えることができます。

 

シナジーは、自社/対象会社の業種・規模・事業フェーズにより、種々様々なものがありますし、多角的に検討が必要です。これらシナジーの確度・大きさによって、M&Aの成否が決まるといってもいいでしょう。

 

 

外部からの譲渡案件の紹介

自社でソーシングする以外のケースを考えてみましょう。それは、M&A仲介会社や証券会社、銀行からの紹介や、顧客企業やトップマネジメントのコミュニティの中で、譲渡案件がもたらされる場合です。

この場合は、売り手がすでに譲渡意向を示しておりその譲渡先の探索に動いているため、当然自社で打診するよりも実際の交渉・ディールに進む場合が高いといえます。売り手がある程度のクロージングまでのスケジュール感をもって動いているため、初期分析~買収意向表明まで速やかに対応することが求められます。なぜなら売り手も、複数の候補先の中から一番高く評価してくれる譲渡先と交渉したいという心理がはたらくためです。

正しく、確度の高い分析をスムーズに進めるためにも、初動での詳細情報の取得や主要論点の抽出がその成否を左右します。以下、案件打診の際の主な論点と確認事項です。

 

これらの分析手法は、別の機会で提示させていただきますが、交渉や精度の高い分析を助けるためにも、しっかりポイントを押さえておくべきです。

 

対象会社への初期アプローチ

検討の結果、対象会社への一定の投資価値が認められる場合、次にその企業へのアプローチ方法を検討します。アプローチとしては、取引銀行や証券会社を通じてマッチングしてもらう、トップマネジメント同士のアプローチ(ダイレクトメッセージなど)により、対象会社の社長やオーナーとの面談の機会を得ることがその第一歩となります。自社がある程度ネームバリューを有する場合は、トップマネジメントが直接アプローチすることで話が進むことがあるかもしれませんが、センシティブな内容であるがゆえに、多くの場合は突然資本絡みの提案に対して身構えてしまうことも想定されます。そのため、取引銀行や投資銀行のリードでまずは事業提携の観点でアプローチすることが一般的でしょう。

事業提携を入口に、資本提携⇒買収打診という流れで交渉を進めていくことになります。対象会社のステータスによっては、願ってもない提案として、すぐさま資本提携・買収交渉のフェーズに進むケースもあります。

この初回面談の際は、自社紹介資料と、シナジーを含めた事業(資本)提携の提案を分かりやすくキャッチ―にまとめた提案書を提示、プレゼンすることで、先方への理解度を示すことで、交渉を進めていくのがよいでしょう。

いずれの場合においても相手がいる話ですので、交渉が前進するか否かは、先方事由やタイミング、その他複雑な事情が絡み合い不透明です。そもそもIPOを志向して対象会社は売却意向がなかったり、跡継ぎがいたり、すでに競合として他の企業・ファンドが唾をつけていたり、はたまたこれらの事由があっても価格次第で急に交渉が進んだりもします。

自社が検討する上で本質的な投資価値を見出せる場合は、継続的なコミュニケーションをとって対象会社が腰を上げたとき、その候補として存在感を示せるようにしておきたいところです。

こうした初期的な交渉は前述のように「水物」感の強い性質を持っているため、複数社並行して進めていくことが前提となることが多いです。ゆえに効率的に分析・検討が進められる体制にしておく必要があります。

 

日下部峻

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/マネージャー
新卒で大手飲食チェーンに入社。2018年当社に入社し、C&S事業部に参画。主に、M&Aサポートやビジネスデューデリジェンス、新規事業の事業性検証や事業モデル策定といった戦略コンサルティング案件、BPRをはじめとする業務コンサルティング案件においてセクターを問わず多数実績を有する。クライアントへの価値創出に全身全霊をかけて取り組み、最大のパフォーマンスを発揮することをモットーとしている。

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