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ものづくりの力をブランド化するコラボレーション事例

「ものづくり大国日本」

この言葉を聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。 最初に思い浮かぶのは、1960 年代から年代にかけて、世界中に「Made in Japan」としてその存在を知らしめた家電や自動車といった工業製品のものづくりでしょうか。米国の社会学者エズラ・F・ヴォーゲル氏が、年のベストセラー『ジャパン・アズ・ナンバーワン』 において、経済分野での日本の競争力の高さを分析し、アメリカが学ぶべき模範として日本のものづくりがもてはやされた時代です。

 日本人は持ち前の勤勉さや研究熱心さによって、欧米の先行する工業製品に学び、より安く、たくさん、そして高品質にという点で世界の市場を席巻していきました。

日本のものづくり神話のイメージは、この時代と紐づけられることが一般的です。しかし実 は、そこから遡ること約100年前に、日本のものづくりが世界から注目を集めた時代があったことをご存じでしょうか。それは「ジャポニスム」というムーブメントとして語られた、江戸末期から明治の時代です。

日本は長い鎖国政策を解き、欧米列強と本格的な交易を再開しました。パリやロンドンの万国博覧会への展示品や輸出品などをきっかけに、日本の美術品や工芸品、絹織物、紙製品、扇子、傘、喫煙具、木版印刷などが、当時の文化の中心であったヨーロッパの人々へと広がりました。

 マネ、ゴッホ、モネなど当時の先端アーティストや文化人を筆頭に、欧州各国の文化や風俗を担った富裕層から中産階級を含めた社会全般の人々が、日本でつくられたさまざまな物品の独自性やその技巧のクオリティの高さに魅了され、影響を受けるようになったのです。

一度目は手仕事を中心としたものづくり。
二度目は工業生産のものづくり。

日本のものづくりはその形を変えながら、世界の人々に評価され、その存在感を発揮してきたのです。

(『ふるくてあたらしいものづくりの未来 ーー ポストコロナ時代を切り拓くブランディング ✕ デジタル戦略』より)

 

さまざまな角度や切り口で語られる日本のものづくり。

世の中の状況やそれに伴う人々の認識が変化していくのに伴い、その評価や捉え方にも浮き沈みはありますが、集約するとその本質的な強みは、優れた職人の手仕事として評される個々人の繊細さや技術の高さ、もう一つは、量産を前提にそれらを安定的に作り上げる品質管理能力の高さ、ということになるのではないかと思います。

そしてこの強みをどのように活かし、これからの世の中で競争力を発揮していくかというのが、多くの日本企業、とりわけ広い裾野を持つ日本の中小製造業の生き残りの道筋でははないかと考えます。

強みを活かすためにこそブランドづくりが課題

では、個々の職人技とそのエッセンスをうまく活かしながら安定的に高品質の商品をつくりだす「ものづくりの力」を秘めた中小の製造業が、その力を活かすために不足しているものは何か。

そのひとつが「ブランド構築力」です。

ブランドという概念を考えるとき大事になるのが、社会や顧客からどのように認識されているかということですが、日本の中小製造業の多くが苦手にしているのが、まさしく自分たちの持っている能力か価値を、社会や顧客にどのように表現し、見せる、魅せるかということです。

以前にブログにも書きましたが、自分たちで自分たちのブランド価値を表現するということの重要性は散々語り尽くされていつつ、未だに解決に至らないというのが実情だと思います。

【基礎からわかるブランド&DX】ものづくりにおけるブランド化の意義

 

コラボレーションによるブランド構築事例/平田椅子製作所

ブランドづくりという観点において、未だ課題の多い中小企業ですが、そのなかでもいち早く取り組みを行ない自分たちの強み、ものづくりの力を活かしたブランドづくりに取り組んでいる企業もあります。

そのひとつが、九州・大川に拠点を持つ家具メーカー平田椅子製作所です。

http://www.hiratachair.co.jp/

平田椅子製作所は、1963年に福岡県大川市に創業、1992年には佐賀県佐賀市諸富町に移り、創業以来椅子を中心に家具作りを続けてきた家具メーカーです。長い歴史をかけて培ってきた職人技はもちろんのこと、新しい工作機器なども積極的に導入しながら、温故知新のものづくりを進められています。

国内外のデザイナーとのコラボレーション/ARIAKE PROJECT

ブランドづくりという観点で平田椅子製作所が素晴らしいのは、自分たちのものづくりの能力をアップデートし磨いていくことに加え、海外マーケットへの展開を見据えて、国内外のデザイナーたちとのコラボレーションにより新しい商品ブランドを展開していることです。

県のものづくり助成金なども活用しながら、地元に複数のデザイナーやアートディレクターなどを招集しアートインレジデンスのようなかたちでワークショップを行い、「ARIAKE /有明」というコレクションを生み出しました。

ARIAKE | アリアケ オンラインショップ
家具の町である佐賀県諸富町で立ち上がった家具ブランド「ARIAKE」の直営オンラインショップです。世界7カ国、総勢10名のデザイナー達と佐賀の地で寝食を共にし、日本文化のスピリチュアリティーと都市の生活背景にインスパイアされ完成した、国産の家具ブランドです。
「ひとつひとつ、地域に新しいストーリーを。日本に新しいストーリーを。」私たち「ONESTORY」は、まだ見ぬ日本の感動を探し続け、その土地ごとの新たなストーリーを創造し、発信していきます。

海外のマーケットへ展開することを考えたときに、自分たちだけではまかないきれない部分を外部とのコラボレーションによって埋め、自分たちのコアコンピタンスであるものづくりの力を最大限に活かすと同時に、商品づくりだけでなく、プロジェクト自体の話題性も含め、いかに伝え、魅せていくかというところを実践したブランディングの好事例でもあります。

平田椅子製作所とstudioA27による共同制作/Hirata Gen Colleciton

去る2月5日から2月20日の間、アーツアンドクラフツが展開しているオーダー家具WELLの新宿3丁目ショールームで、平田椅子製作所のデザイナーコラボレーションラインの第二弾、Hirata Gen Collecitonの展示会を実施しました。

Hirata Gen Collection 展示会のお知らせ

「Hirata Gen Collection」は、平田椅子製作所とデンマークと日本を拠点にするデザイン事務所、studioA27が共同で立ち上げた家具ブランドです。

studioA27は、2019年に建築家のLars Vejen(ラース・ヴァイェン)氏とデザイナーの石河泰治朗(イシコ タイジロウ)氏が、デンマークと日本を拠点にしたデザイン事務所で、建築のリノベーション、家具、グッズのプロダクト開発、コラボレーションプロジェクトを行っています。

イベントの概要など

デンマーク人のLars 氏は日本の文化やものづくりのスタンスに惹かれ、京都を拠点に様々な活動を行なっているなかで、石河氏と出会いユニットを結成したそうですが、そもそも異なるバックグラウンドを持つ二人の共同デザインに、さらに平田椅子製作所という日本のものづくりメーカーがコラボレーションするなかで、様々なかたちの相互作用が生み出されて生み出されたGenCollectionは、感性と機能性その両面で「違い」を感じさせる仕上がりになっているように感じます。

https://we-ll.com/blogs/well-life/youtube-studioa27-hirata-gen-collection

共創によって生み出される価値

コロナ禍の影響もありgen-collectionが世の中に広まっていくのはこれからになりますが、平田椅子製作所の取り組みは、異なる能力や異なる文化、アイデンティティを持つ人たちと、日本のものづくりの共創によって生み出されたものです。

デザインのその先には顧客がいて、生活者の暮らしがあります。デザイナーの仕事は、文化や習慣や時代性の違いから生まれる多様性を理解し捉え、ものづくりが持つ可能性と顧客が持つニーズやシーズを媒介しマッチングし、表現に落とし込むこととも言えるでしょう。

そしてその表現やイメージを具現化しプロダクトに落とし込むためこそ、ものづくりの技術や経験が不可欠なのです。

家具業界では、古くは1900年台前半にトーネット社とバウハウスのデザイナーらとの共作によって生み出された名作椅子や、日本においてもプロダクトデザイナーの深澤直人氏のデザインでマルニ木工が製造するHIROSHIMAの椅子などデザイナーとメーカーのコラボレーション制作自体は決して新しい手法ではありませんが、平田椅子製作所のような取り組み方は、家具業界だけに止まらず他の分野でも十分応用可能なものだと思います。

自分たちの良さは自分たちでは気づきにくいものですが、外からの目線で見たときにその魅力や可能性に惹かれるクリエイターは少なくないはずです。アフターコロナの時代において再びグローバルな行き来が活性化するにつれ、日本が持つものづくりの強みに立脚したブランディングの方法論のひとつとして同様の展開が増えてくるかもしれません。

#WELL vol.05 【THONET】家具業界のスティーブジョブス!?特許技術で近代家具産業の仕組みをつくったトーネット【Bentwood Chair】

 

ふるくてあたらしいものづくりの未来

 

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、イノベーション・プロデューサーとしてB2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。
著書『ふるくてあたらしいものづくりの未来– ポストコロナ時代を切り拓くブランディング ✕ デジタル戦略』クロスメディアパブリッシング