前回の記事「CO2可視化の課題と可視化システムについて(前編)」では、CO2排出量の可視化の前提知識となる以下の事項について紹介いたしました。
これらを紹介する中で、企業はサプライチェーン上のCO2排出量可視化に課題を抱いていることを取り上げました。自社の活動から発生するCO2は消費した燃料や電力の明細があれば比較的簡単に算定することができますが、サプライチェーン上の他社に紐づく排出量を算定するとなると、その企業がどのような活動を行い、実際にどれほどのCO2を排出しているのかを知らなくては、正確な算定ができません。そして現状では、多くの企業がサプライチェーン上のCO2排出量を正しく算定することができておりません。今後CO2排出量等の非財務情報の開示が求められる中、正確な排出量算定ができないというのはほぼ全企業共通の課題と言えるでしょう。(参考:1から学ぶ企業の脱炭素)
そんな中、現状の課題を解決するべく多くの企業がサプライチェーン上のCO2排出量を可視化するシステムの開発に取り組んでおり、既にいくつかの可視化ソリューションが実装、または試験運用されています。今回は、現状のCO2排出量算定における課題を整理したうえで、どの様な可視化ソリューションが展開されているかを紹介します。
前回紹介した通り、CO2排出量にはスコープ・カテゴリという概念が存在しており、それぞれ以下のような区分がされております。
この区分からわかる通り、サプライチェーン上のCO2排出量は「スコープ3」に該当します。スコープ3の排出量の算定方法自体は前回紹介した通り「活動量×排出原単位」なのですが、スコープ1・2と違い他社の活動量や使用する排出原単位の取得が非常に困難になります。
ただ、このような課題が存在する中でも各社排出量算定は既に実施しており、現にスコープ3算定を行っております。一般的に行われている排出量算定における活動量、及び排出原単位は以下のものを用いて行われております。
この様な形で、「利用金額」×「環境省公開の平均排出原単位」を用いて算定を行っております。この算定方法は環境省が一般的な算定方法として各企業に推奨しており、サステナビリティレポートや外部機関への排出量報告時に用いることができます。
ただ、この算定方法には以下のような課題が存在します。
課題①:平均排出原単位を用いていること
スコープ3の排出量を算定するということは、サプライチェーン上に存在する多くの企業から排出されたCO2の量を算定する必要があります。この排出量を求める際に「平均排出原単位」を用いてしまうと、業界や企業ごとの特性を無視してしまうことになるため、実態に即した排出量を算定することできません。
課題②:排出量算定後に、排出量削減に向けた施策を検討することが難しいこと
環境省が公開している排出原単位を用いて算定した場合、その後排出量削減方法を検討する際、サプライヤからの購入金額を減らすことしかできなくなります。本来であれば排出原単位を下げるための削減施策を検討するべきですが、単一の原単位しか存在しない場合は活動量を減らすしかなくなってしまうためです。
この様に、現在の算定方法では環境省が公開している単一の排出原単位を用いているため、実態に即した排出量算定や削減に向けた施策を検討することが難しい状態です。
この様な課題がある中で、各社新たな排出量算定方法を検討し、排出量算定方法ソリューションの展開を始めております。以下では、現在既に展開されている排出量可視化サービス・ソリューションを展開している企業紹介します。
【概要】
zeroboard社は、CO2排出量算出クラウドサービスである「zeroboard」を展開しております。このサービスでは以下のソリューションを提供しております。
CO2排出量可視化はもちろん、サプライチェーン上でのCO2排出状況の追跡や排出量削減実績の管理等、具体的な削減施策を検討するための情報整理や、排出量算定に向けたデータ連携等の、現状発生している課題を解決する機能がそろっているソリューションになります。
zeroboard排出量算定結果イメージ
【特徴】
このソリューションの大きな特徴は、調達する製品ごとの排出原単位を用いて算定を行うことです。この算定方法は、特にスコープ3のカテゴリ1(購入した製品・サービス)の算定を行う上で効果的な方法になります。この方法では、環境省の排出原単位と比べより細かい製品レベルでのCO2排出量を可視化できるようになるため、サプライヤから製品を購入する際、どの製品を購入すればよりCO2排出量を減らすことができるのかを検討することが可能になり、よりCO2排出量が少ない製品を調達するという削減施策を実施することができるようになります。
以下は、PCを購入する際を例に、従来算定とzeroboard社の算定の違いを示したものになります。
【考えられる課題】
zeroboardの排出量算定に用いる排出原単位は、取引を行う各サプライヤが事前に把握をしていないとならないため、データ連携をすることが可能なソリューションだったとしても、元となる排出原単位を取得できるかはサプライヤに依存してしまうと思われます。自社製品全ての排出原単位を把握するため、かなりの工数が求められる算定方法だと考えられます。
【概要】
Wastebox社は、CO2排出量算定の算定支援を行っているコンサルティング企業で、以下のサービスを実施しております。
【特徴】
Wastebox社も製品ごとの排出量算定を行っているため、製品別排出原単位を用いた算定を行っております。更に、彼らは「ライフサイクルアセスメント」の手法を用い、製品が製造・使用・廃棄されるまでの一連の流れで排出されたCO2を算定・評価するノウハウを持っております。
そのため、サービス内容としてはzeroboard社と近いものを提供しておりますが、Wastebox社のサービスはクラウド等のシステムを用いておらず、各社の状況に合わせて算定方法をカスタマイズする点にあります。そのため、算定にはエクセル等のツールを用いて、取得したデータを基に人工をかけて算定を行っていると思われます。
ただ、2021年にDeloitte社と協業し、グリーンコンサルティング事業を展開することを発表しております。そのプレスリリースの中でプラットフォームビジネスの展開等を検討している旨が記載されており、将来的にはDeloitte社と共にクラウド等を用いたシステムを展開することが考えられます。
【考えられる課題】
前述の通り、現状では人工を用いた算定を行っているため、zeroboard社以上に算定における工数が発生すると思われますが、Deloitte社との協業を経て課題解決が見込まれるでしょう。ただ、製品ごとの排出原単位を取得する難易度は依然高いことが課題になると思われます。
スコープ3排出量算定において、現在多くの企業が実態に即した算定ができない課題を抱いている中、製品ごとの排出原単位を用いてより精度の高い排出量算定を可能にしたソリューションを紹介いたしました。CO2排出量削減の需要が高まる中、今回紹介したようなソリューションは更に増えると思われます。もしも排出量算定サービスを検討する際は、本記事を参考にどの様な方法で算定を行っているのかをサービス選定の基準の一つとして検討していただければと思います。
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。