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2022.03.17

製造業におけるIoT導入のメリットとは

はじめに: IoTが注目されている背景

近年、様々な業界でIoTの導入が進んでおり、IoTという言葉を聞く機会も増えてきているのではないでしょうか。

そもそもIoTは近年になって登場したものと考えている人も少なくないかと思いますが、IoTという言葉が最初に登場したのは1999年に遡ります。その年、マサチューセッツ工科大学で設立されたAuto-IDラボが無線自動識別装置を開発し、その実用化に向けた研究を行なっていました。

しかし、IoTが一般的に認識されるようになるのは、2010年代後半になってからです。この背景にはIoTを普及させるためのテクノロジーの進展がありました。

近年では、テクノロジーの進展やSDGsの推進によりDX化を進めている企業や、製造業(メーカー)などにおいて「モノ売り(製品販売)」から「コト売り(サービス提供)」にマネタイズモデルを移行している企業が増加傾向にあることも、IoTが注目されている背景と考えられています。

そこで、今回は製造業界に焦点を当て、IoT導入によるメリット/デメリット、および事例をいくつか見ていきたいと思います。

製造業に携わっている方や、IoT導入に興味のある方のご参考になれば幸いです。

 

IoTとは

IoTは「Internet of Things」の略で、モノのインターネットと訳します。簡潔に説明すると、「モノ(例: 家電、車、等)がインターネット経由で通信すること」を意味します。

また、IoTは「センサー層(デバイス層)」、「エッジ・コンピューティング層」、「クラウド・コンピューティング層」の3層構造となっており、それぞれが重要な役割を果たしています。

それでは、それぞれの層の役割を見ていきましょう。

下図はIoT3層構造をシンプルに表した図になります。

センサー層(デバイス層)

データを収集してネットワークに送り出す役割を果たすのがこの層です。図では最下層にあたる層になります。

センサーでのデータ取得と、上位層から来た命令の実行を行っています。また、モノそのものから得た情報や、その周囲の情報、そしてこのデバイスに接続された外部機器からのデータをネットワークに送信する役割も担っています。

エッジ・コンピューティング層

こちらは中間層にあたり、センサー層から送られてきたデータを受け取る場所です。

必要なデータを迅速に処理したり、後に説明する最上位層であるクラウドにデータを送信する役割も果たしています。

クラウド・コンピューティング層

最上位層にあたる「クラウド・コンピューティング層」は、センサー層やエッジ・コンピューティング層から送られてきたデータを受け取る層です。

ここでデータ分析が行われ、センサー層へフィードバックされて「モノ」において利用できるようにします。

 

製造業におけるIoT導入のメリット/デメリット

基幹システムや生産管理システム、あるいはPCや製造機器のソフトウェア等、ITに関係する所謂「システム」と呼ばれるものを導入した経験がある企業がほとんどかと思います。

そのような新たなシステムやサービスを導入する際には、導入によるメリットとデメリットを考慮して検討する必要があります。これは、IoT導入についても例外ではありません。

メリットがいかに大きくても、それ以上のデメリットが懸念される場合には、導入しないという判断がポジティブな結果をもたらすケースもあります。

また、製造業におけるIoTの導入方法は多岐にわたるため、目先の利益や他社が導入しているからという安易な理由だけで判断されないことをお勧めいたします。

それでは、実際に製造業におけるIoT導入のメリット/デメリットはどのようなものか見ていきましょう。

※先述したように、製造業におけるIoTの導入方法は多岐にわたるため、今回は一般的にどのようなメリット/デメリットがあるかを見ていきます。

メリット

メリットには大きく「データの見える化」「生産効率の向上」「異常/故障の検知」の3点が挙げられます。

1. データの見える化

製造業のオペレーションにおいて、人間ではどうしても管理/把握の難しい情報(異常音など)を収集・分析することが可能となります。

保守/点検を人の手のみで行うと、感覚や技術レベルの違いによって差が生まれてしまいます。しかし、IoTを導入した場合、データに基づいて保守/点検を実施可能となるため、誰であっても同様の成果を出すことが可能となります。

それにより、人為的ミスの減少、作業時間の短縮も見込まれるため、コストや時間の削減に効果的だといえます。

2. 生産効率の向上

生産工程のデータを収集・分析することが可能となり、様々な業務を自動化/効率化することも可能となります。

例として、生産管理などで紙を使用していた場合、IoTの導入によって以下のような効果が見込まれます。

  • データで管理するため、紙が不要になる
  • 紙への記載などに使用していた時間を、生産に回すことができるため、生産性が向上する
  • 確認作業の自動化が可能になる

また、生産工程をデータ化し収集・蓄積することによって、オペレーションの改善すべき点なども見えてくるかと思います。

3. 異常/故障の検知

製造業における機器は全て消耗品と言っても過言ではないと思います。そのため、システムの異常や機器の故障は不定期に発生する可能性があると思います。

しかし、分かりやすい異常/故障でなければ、人間には把握することが難しいケースも多くあるのが実状です。

IoTを導入した場合、そのようなシステムの異常や機器の故障を、蓄積したデータを基にセンサーなどで判断することが可能となります。

そのため、重大な損失が起きる前に対策を講じることができることも大きなメリットと考えられます。

 

デメリット

デメリットには大きく「システム障害のリスク、事業の継続性」の2点が挙げられます。

1. システム障害のリスク

IoT導入にあたり、既存/新規システムなど様々なシステム連携が必要となります。そのため、ハッキングなどによりシステムの運用や情報保護に関する危険が生じる可能性も増加します。

また、ネットワークがダウンしてしまった場合に受ける損害が従来よりも大きくなると考えられます。

2. 事業の継続性

IoT活用に必要なノウハウは企業ごとに少しづつ、もしくは大きく異なります。そのため、適切に継承されて行かなかった場合、事業の継続性に問題が生じてしまう可能性があります。

 

事例紹介

ここまではIoTについての概要および導入効果を説明してまいりましたが、ここで実際に製造業における代表的なIoT導入事例を1つご紹介します。

他社がどのような目的をもってIoTを導入し、どのような効果を得られているかを分析することも、導入可否の判断には重要な情報となります。

 

事例

【企業名】

小松製作所(以下コマツ)

 

【導入目的】

  • 全世界に展開する建機の稼働管理/遠隔制御
  • 膨大なデータの収集

 

【事例概要】

コマツは世界を代表する建機メーカーとして知られていますが、製造業におけるIoTの導入についても世界の最先端を走っています。

現在もIoTAIを組み合わせて様々な最先端技術の提供を推進しているコマツですが、その中でも1998年に独自開発したコムトラックスは製造業におけるIoT活用の成功例とされています。

コムトラックスとは、世界中で稼働するコマツの建機にGPSや通信システムなどを搭載し、建機の稼働データを管理・収集することが可能な機能です。また、収集したデータから建機の現在位置/稼働時間/稼働状況/燃料残量/故障情報などがわかるため、建機のモニタリングやエンジンを止めるなどの遠隔制御が可能となりました。

稼働状況の管理のみでも盗難防止/建機の稼働率向上などに大きな効果をもたらしているのですが、コマツはそれだけとどまりませんでした。

世界中にある数十万台から収集したデータを分析することで、世界の経済動向/建設動向を顧客のメリットに活かしたり、自社の生産計画やサプライチェーンの最適化といった、ビジネスモデルや経営にもメリットをもたらしました。

これらの結果から、コマツのコムトラックスはIoT活用の成功例と言われています。

 

おわりに

今回紹介した事例のように、IoTを活用することでビジネス拡大などに向け様々なメリットが考えられるかと思います。また、IoTの活用自体にも様々な方法が考えられます。

今後もテクノロジーの進展やSDGsの推進により製造業におけるIoTの導入は進んでいくと推察されます。そのような時代に置いて行かれないためにも、他社事例からの学びや導入によるメリット/デメリットを正しく理解することが重要であると言えるのではないでしょうか。

本稿の情報から皆様に得るものがあれば幸いです。

 

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【参考】

笠川和哉

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト