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D2C(Direct to Consumer)とは、中間業者を介すことなく、消費者・顧客と直接コミュニケーションを取りながら自社の商品・サービスを届けるビジネスモデルを指します。
当初はインターネットビジネスのみを対象に語られていましたが、コロナ禍を経て社会全体のデジタル化が急速に進展するなかで、より幅広く業種・業態を対象としたビジネスモデルとして取り沙汰されるようになっています。
このような流れと影響は、一部のIT事業者や大企業だけでなく、地方を基盤としながらコツコツと事業を続けてきたような中小企業にも及んでいます。
本稿では、D2Cという概念の進化を紐解きながら、地方の中小企業こそがD2C事業に取り組むべき3つの理由をご紹介します。
上述のとおりD2Cという言葉の定義と意味合いは広がりつつあります。
狭義の定義(D2C 2.0)では、インターネットを通じた直販により中間流通をカットすることや、顧客の声に基づき顧客が欲する機能を絞り込むことで価格の安さを実現するといったベネフィットを提供することで顧客の支持を得ると同時に、店舗やスタッフなどを持たないことで低コストで成長できる事業モデルを指していましたが、それらのD2C事業者自体が、さらなる成長を求めてリアル店舗を出店したり、逆にリアルの事業者がインターネットを活用したD2Cモデルにチャレンジするなかで、淘汰とブラッシュアップを経て、より広義で、深い概念へと発展しようとしています。
消費者と結びつき、そのニーズやウォンツを読み解きながら事業を進めていくことはあらゆる事業者にとっての恒久的命題でもありますが、工業化や消費流通の発展により生まれた大量生産大量消費の時代のなかで切り離された生産と消費を、デジタル技術の活用によって再び結びつける事業モデルが、これからのD2C(D2C 3.0)の定義となっていくでしょう。
様々な変容が考えられますが、顧客接点、商品・ものづくり、顧客への提供価値、そして登場するプレイヤーという軸で整理したのが下記の表です。これらの主だった流れを踏まえながらなぜ地方中小企業が今D2Cに取り組むべきなのかを考えていきます。
ネットやSNSをうまく使い、短期間で賞賛や共感を集めブランド化する企業や個人が注目される一方で、ブランドの礎となる潜在力があるにも関わらず、そのポテンシャルを活かしきれていない企業がまだまだたくさんあります。一夜にしてスターブランドにのし上がったような事例が耳目を集めがちですが、実際のところは誠実にコツコツと努力を重ねて実力や実績を備えた企業こそ、「資産」化するに足る実力、いわばブランド化するための核を備えているのです。
(吉田貞信. ふるくてあたらしいものづくりの未来ポストコロナ時代を切り拓くブランディング×デジタル戦略 より抜粋)
インターネット、なかでもSNSが普及したことが企業のビジネスの取り組み方を大きく変えました。SNSが普及浸透することによって、これまで大企業を中心とした一部の企業の専売特許であった「ブランド」や「ブランドづくり」というアプローチに中小企業や個人企業も取り組むことができるようになりました。
これまで地理的な理由により限られた商圏でしかビジネスができなかった地方の中小企業であっても、SNSを通じて、日本中、世界中へとアプローチできます。
インターネットの登場以来散々語られてきた考え方ではありますが、世界規模でのインフラ普及やAIなども含めたハード・ソフト両面の進化、さらに物理的なモノを運ぶ物流ネットワークの発達なども相まって、いよいよ大から小へ、集中から分散というパラダイムシフトが加速しています。
ブランドづくりの肝である情報発信と顧客コミュニケーションという面でのデメリットは、地方企業であっても大幅に解消されているわけです。これまでどうしようもなかったディスアドバンテージから解放されたこの状況をポジティブに活かさない手はないでしょう。
ネットやSNSをうまく使い、短期間で賞賛や共感を集めブランド化する企業や個人が注目される一方で、ブランドの礎となる潜在力があるにも関わらず、そのポテンシャルを活かしきれていない企業がまだまだたくさんあります。一夜にしてスターブランドにのし上がったような事例が耳目を集めがちですが、実際のところは誠実にコツコツと努力を重ねて実力や実績を備えた企業こそ、「資産」化するに足る実力、いわばブランド化するための核を備えているのです。
(吉田貞信. ふるくてあたらしいものづくりの未来ポストコロナ時代を切り拓くブランディング×デジタル戦略 より抜粋)
D2Cという概念が普及し、消費者側、供給側双方の認識がより深まるにつれて、つくり手(=生産者)の存在感がより大きく重要になります。これまでのD2Cといわれるブランドの多くが、SNSなどによる顧客とのコミュニーションとそれを起点とした商品企画を担当し、実際のものづくりはOEM先へ委託するというやり方をとっていました。Direct to Consmerといいながらも擬似的なかたちで、生産と消費が結びついていたわけです。
けれども、消費者に商品知識や経験が蓄積されていくにつれ、より深くリアリティのあるストーリーが求められようになると、実際にものづくりに取り組んでいる人たちの顔や取り組みが見えてこざるを得ない状況が生まれてきます。これまであくまで裏方であった生産者が主役になる可能性が高まっているわけです。
私自身も業務を通じて様々な産地や産業集積地域を訪れる機会がありますが、それぞれの歴史とともに培ったものづくりに対する深い技術や知見を感じることが多々あります。そしてこの技術や知見こそがブランドをつくる源泉になっていきます。
本質的なブランドとして大事な持続的な価値を生み出すためには、なんども荒波を乗り越える中で磨かれた本物の技術や知見が重要になってきます。
逆にいえばインターネットやSNSを通じて一時的な盛り上がりができたとしても、本質的な実力がなければそれは一過性のものとして終わる可能性が高いと言えます。
地方の中小企業には、本質的なものづくりの力を備えた企業がまだまだたくさん存在しています。これらの企業がその実力を活かしていくためにもD2Cモデルにチャレンジしてみる価値があるように思います。
個客としての消費者側の要望に応じて企業が提供する商品・サービスを変化させ、提供していくC2M(ConsumertoManufacturer)という流れも加速してくるでしょう。ものづくりの領域の重要性が高くなるなかで、手仕事が果たす役割と意義も改めて見直されてくると考えています。
(吉田貞信. ふるくてあたらしいものづくりの未来ポストコロナ時代を切り拓くブランディング×デジタル戦略 より抜粋)
多様性の時代のなかでD2Cが進むと、消費者と生産者がコミュニケーションをとりながら商品自体をそれぞれの個客にあわせパーソナライズさせていくC2M(Consumer to Manufacture)という共創のものづくりも進んでくるでしょう。
C2Mを実践するためには、ものづくりやその技術に対する経験や理解の深さを前提に、柔軟かつ合理的な思考性と先端のテクノロジーを活用するための知見が求められます。
理由2とも重なりますが、生産の源流に近ければ近いほどものづくりに対する経験や理解が深くなります。そしてこの経験や理解は一朝一夕に得られるものではありません。長い歴史のうえで得られるものです。
その経験や知識を持つ地方の中小企業が、なんらかのかたちで思考の柔軟性やテクロジーの活用を行うときに、柔軟性と多様性を併せ持つ未来のものづくりに近づけるようになります。
このような観点からも、ものづくりに勤んできた地方の中小企業にはD2Cを成功に導くための要件が備わっていると考えています。
このように地方のものづくり企業にこそ、D2Cビジネスにチャレンジし成功する「可能性の種」が備わっていると考える反面、現実的にはその「可能性の種」を芽吹かせ新たな可能性を拓ける企業とそうでない企業があります。
その成否をわけるのには様々な要因がありますが、ものづくりをアップデートし経営を良い状態へと導いている企業に共通するのは、自社のものづくりの強みや独自性を見出したうえで、外部環境をよく分析しながら捨てるべきものは捨て、集中すべきところにリソースを費やす「集中と選択」による事業の再構築を行なっていることです。
D2Cという事業モデルを構築していくためには、自分たちのものづくりの強みにフォーカスし、独自性あるストーリーをもとに、マーケティング、顧客接点、ものづくり、マネジメントという諸要素をつなぎ価値を生み出していかねばなりませんが、D2C事業構築のためにこれらの要素を見直すこと自体が事業再構築のきっかけにつながります。
歴史と伝統を持ちつつも、これからの未来に明確なヴィジョンを描れていない企業こそ、D2Cのアプローチを一度検討してみる価値があるのではないでしょうか。
*アーツアンドクラフツでは、地方のものづくり企業の事業再構築を支援しています。
アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。
著書『ふるくてあたらしいものづくりの未来– ポストコロナ時代を切り拓くブランディング ✕ デジタル戦略』クロスメディアパブリッシング