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日本におけるマッチングアプリの今後

【マッチングアプリに関する本記事の概要】

ここ最近、オンラインの広告などで「マッチングアプリ」という言葉を耳にする機会が増えました。

日本においては「Pairs」「Omiai」などが2010年代前半から現れて急成長し、近年の若者の中でメジャーな出会いの手段となってきています。

実際に私の周辺の利用者も増えている印象で、特に東京在住の20代~30代の友人に聞いてみると、実際にマッチングアプリを利用して異性と出会った経験がある人が大半です。

本記事においては、マッチングアプリが拡大した背景等を紹介しつつ、広告の観点を含めてその変遷と今後の展望を述べてまいります。

※本記事は新規事業やマーケティングにご興味のあるビジネスマンを対象とした記事となっております。

 

【マッチングアプリとは】

そもそもマッチングアプリとは、主にスマートフォンのアプリケーションを介して提供されるインターネット上の出会いサービスです。

2012年にリリースされたマッチングアプリ「Tinder」を端緒に、米国でブームが起こりました。

のブームが世界中に伝播し、火付け役となったTinderは現在、190ヵ国/40言語に展開するモンスターアプリになっています。

米国においての後続のサービスとして「Hinge」「Bumble」などがありますが、現在に至るまでTinderが世界でトップのマッチングアプリであり続けています。

日本発の主なマッチングアプリとしては前述の「Pairs(会員数1,500万人)」「Omiai(会員数600万人)」「タップル(会員数700万人)」with(会員数400万人)」などが挙げられます。

 

【日本におけるマッチングアプリ普及状況】

日本におけるマッチングアプリの市場規模は、2015年時点では120億円でしたが、2021年時点で517億円程度に上っており、人口の減少している国内では珍しい成長市場となっています。

コロナウィルスの蔓延により多くの産業の成長が鈍化した2020年以降も、オフラインによる出会いの減少や、主に若者層の消費機会の減少により、堅調に市場規模を伸ばし続けています。

 

【普及の背景】

マッチングアプリの成長の背景としては①若年層の潜在ニーズ②購入ハードルの低さ③企業側の市場参入の容易性、の3つが挙げられます。

①若年層の潜在ニーズ(需要面)

リクルートブライダル総研が実施した「恋愛・結婚調査2019」の調査によると、「恋人がいない」と回答した割合は、20代の男性の68.3%、女性の53.8%に上っており、20代の過半数は恋人がいないという結果となっています。

一方で「恋人は欲しくない」と考える人の割合は、20代の男性の20.3%、女性の17.0%に過ぎず、20代の多くの男女が「恋人が欲しい一方でいない」という状態にあるといえます。

恋人がいない原因の1位は「出会いがない」ことという調査結果もあり、現状も多くの男女が出会いの場を求めているということが伺えます。

 

②購入ハードルの低さ(需要面)

出会いを提供する類似サービスとしては「結婚相談所」が挙げられますが、マッチングアプリは「ハードルの低さ」という点で優位にたっています。

というのも、結婚相談所は入会金が10万円前後、月会費は1万円~2万円前後が平均となっており、金銭的な面で余裕のない20代~30代の世代にとっては負担が大きいという側面があります。

一方マッチングアプリの多くは入会費不要、月会費は男性で3,000円~5,000円前後となっている上、大手のアプリのダウンロード自体は無料なものが多く、購入しやすい形態となっています。

 

③企業側の市場参入の容易性(供給面)

マッチングアプリの基本的機能はシンプルで、「プロフィールページ」「メッセージ機能」の2つがあれば成立します。

ソーシャルゲームアプリの開発費用が数億円~数十億円と言われている中で、マッチングアプリの開発コストは数千万円程度となっており、比較的イニシャルコストを抑えてサービス化することが可能です。

運用コストを見ても、広告宣伝費を除けば微々たるものであり、比較的マネタイズが容易で参入障壁が低いと言えるでしょう。(それがサービス最低価格を押し下げ、②の購入ハードルの低さへ繋がっています)

そのため多くの企業が類似アプリをリリースして大手アプリから零れたユーザを回収しており、市場拡大の一因となっています。

 

【主要プレイヤの広告戦略の変遷】

①パイオニアの「Facebook」への広告出稿(導入期:2010年代前半~2010年代後半)

日本におけるマッチングアプリのパイオニアであるPairs/Omiai は、サービス開始当時、Facebookをメインターゲットとして集中的な広告出稿を行ってユーザを増やしていきました。

この背景には、 日本においては悪質な「出会い系サイト」というものが2000年代から存在しており、マッチングアプリを社会に普及させるためには、健全性や安全性をアピールする必要があったことがあります。

そこで彼らがとったのは、Facebookでの広告で集客したユーザを、Facebook自体の実名アカウントと紐づけて登録させる戦略でした。

そのことにより、サクラと呼ばれる悪質な業者を排除し、健全なイメージを根付かせることを目論んでいたのです。

実際、その戦略は奏功し「マッチングアプリ=クリーン」というイメージが若者に浸透して、現在までの成長を実現したのです。

②後発組のYouTube/Twitterへの広告出稿(成長期:2010年代後半~現在)

後続であるwith/タップルなどのサービスは、比較的個人アカウントの認証が甘いSNSであるYouTubeTwitterへの広告をメインとする戦略を採りました。

これは、①Facebookに比べてメインのターゲットである若年層のアクティブユーザが多いこと②動画等により閲覧者にイメージを想起させやすいこと、の2点から、ターゲットに効率よくアプローチできる効果を狙ったものです。

パイオニアであるPairsOmiaiがマッチングアプリの社会的な評価を底上げしたことに加えて、SNSに慣れ親しみ、ネット上の出会いに抵抗がなくなっている世代が婚活のメインのターゲットになりつつあったため、こういった広告戦略の変遷が発生しました。

【今後のマッチングアプリ市場の傾向予測】

マッチングアプリ自体の訴求力は、マッチングする人数に起因するところが大きいため、アクティブユーザ(特に女性ユーザ)の多さが最も重要なファクターとなります。

一方で「カップリングや結婚が成立するとユーザが離脱する」という特性や、一部の中高年層向けのサービスを除き「若年層をメインターゲットとする」というアプリの特性上、常にプラットフォーム内のアクティブユーザ層は流動しています。

そのため、現在大手となっているPairsOmiai、タップルやwithのようなアプリでも、常に新たな若年ユーザを開拓し続ける必要があり、「半永久的に新規参入の余地があり続ける」市場と捉えることができます。

企業やサービスが巨大化すればするほど流行に対しての反応が鈍化するという日本の傾向を考慮すると、B2Cマーケティングに特化したノウハウを持ったベンチャー企業には、一気に女性若年層を取り込むことで市場シェアを大きく獲得する可能性が残されています

国内における需要の高まりにより市場規模が成長傾向にあることと併せ、これから新規参入を検討するに値する魅力的な市場と言えるでしょう。

 

【おわりに】

当社には、本記事において紹介したマッチングアプリに限らず、今後新規事業を始めたいと思っている方や、マーケティングにお悩みを抱える方へのコンサルティングの実績/ノウハウが多数ございます。

新規事業やマーケティング戦略立案に課題を感じていることがございましたら、是非お気軽にご相談ください。

 

【参考】

Pairs HP

Omiai HP

タップル HP

with HP

株式会社リクルートマーケティングパートナーズ「ブライダル総研 恋愛・結婚調査2019

Marketing Native「マッチングサービスのマーケティング戦略解剖(前編) 累計会員数1000万人を突破したPairs躍進の背景と課題、成長戦略

 

 

鈴木勇剛

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/コンサルタント
防衛省自衛隊において幹部自衛官として3年間勤務し、その後アーツアンドクラフツに参画。新規事業領域の調査/計画から、BPRや海外マーケティングを始めとする実行支援まで、多岐に渡るプロジェクトにおいて顧客へ価値を提供している。全体最適を念頭に置いた戦略的発想に優れ、常時顧客とフェーシングしてきた経験から柔軟なプロジェクト推進が可能。