近年スマートフォンの普及、SNSの流行により、アパレル・雑貨などの流通・小売業界で経営戦略の基本概念になりつつある「オムニチャネル」の重要性が高まっています。オンライン・オフライン等の複数の販売経路を活用するマーケティングに関わるキーワードとは知りつつも、「そもそもオムニチャネルって何だろう」「オムニチャネル化することによってどんな変化が起こるのだろう」と思う方もいるのではないでしょうか。本記事では、オムニチャネルの具体的な内容や事例についてご紹介していきます。
「オムニチャネル」とは、あらゆる販売チャネルが連携し、顧客との接点を作ることで、一貫性のある購買体験を顧客に提供する販売戦略です。
従来までの商品販売手法としてシングルチャネル、マルチチャネル、クロスチャネルがありましたが、スマートフォンの普及をはじめとするインターネットの発達に伴い顧客との接点が多様化したことによって、オムニチャネルへと進化してきた経緯があります。
1990年代までは多くの企業が「シングルチャネル」(実店舗販売)でビジネスを展開していました。
2000年に入ると、ネット通販専門企業が登場し、従来よりも幅広い選択肢から商品を購入できる「マルチチャネル」へと進化しました。
2005年頃になると、実店舗販売、ECサイト、カタログ通販などの独立した販売チャネルの在庫・顧客情報などをチャネル間で連携し、顧客の利便性を高めた「クロスチャネル」が主流となりました。
2011年以降は、クロスチャネルを発展させ、販売チャネル全てで顧客との接点を構築し、顧客がどのチャネルを使っても一貫したサービスが提供されるようにする「オムニチャネル」へと進化しました。
クロスチャネルとオムニチャネルの主な違いは顧客体験が均一かどうかの違いです。どちらもシステムのデータ連携によって在庫や顧客の情報がリアルタイムで反映されるので、ネットショップに在庫があるが実店舗にはないといった、マルチチャネルで起きていた販売機会の損失をなくすことができますが、クロスチャネルでは各チャネルが独立しているため、チャネルごとの顧客体験になってしまいます。例えば、実店舗で在庫切れの商品をその場で支払いし、在庫があるネットショップから自宅へ配送するといったことはできず、実店舗での購入で獲得したポイントをネットショップで利用することはできません。一方でオムニチャネルでは、チャネルの違いを意識せずにどこでも好きな時に均一なサービスが提供されるので、よりストレスが少ない快適な顧客体験をしていただけます。
2010年前後から、スマートフォンの普及によって消費行動が大きく変わり、複数のチャネルを行き来する消費者が増加しました。ショールーミングやウェブルーミングが広がり、オンラインとオフラインを自由に行き来する顧客との接点を強化する手段として、オムニチャネルは注目を集めています。
効果的なマーケティング戦略として注目を集めるオムニチャネルですが、どのようなメリットがあるのでしょうか?オムニチャネル化のメリットとして、次の3つが挙げられます。
実店舗で確認した商品をその場では買わず、ネット通販によって店頭より安い価格で購入してしまう「ショールーミング」という消費者行動があり、ブランドにとって問題となっています。消費者がオンラインで商品を検索した場合に他のサイトや他のブランドでの類似品の購入をしてしまう機会損失が発生する可能性が有ります。しかし、オムニチャネル化することで、各チャネルを連携させ、どこからでも注文や受け取りができるよう物流を含め整備することで、機会損失を防ぐだけでなく顧客の囲い込みが可能になります。
実店舗では実店舗の、ECサイトではECサイトの、SNSではSNSの顧客データをそれぞれ分析しても、分断されたチャネルごとの購入パターンしか把握することはできません。しかし、顧客の購入パターンは非常に複雑化しており、顧客は通常ネットやECサイト、SNSで商品情報を検索し、実店舗では実際の商品を目で見て確認します。最終的にどの販売チャネルで購入するかは読めない状態です。そうした中、販売チャネルの情報をすべて統合することで顧客データ管理も一元的に行えるため、ビジネス全体を俯瞰した顧客の行動パターンを分析し、顧客のひとりひとりに応じた施策やアプローチを、適切に切り替えながら実行することが可能です。
実店舗に足を運んだところ目的の商品が品切れだったというケースは不満を買いやすいですが、オムニチャネルの環境が整っていれば、オンラインからの注文により、早ければ翌日に配達することが可能になるなど、在庫管理を最適化できるため、顧客との関係性を良好に保つことができます。実店舗でもECサイトや多店舗の在庫を確認し、その場で決済できるような環境が整っていれば、顧客に店舗まで足を運んだ価値が生まれます。顧客にそうしたオンライン・オフラインの境を意識させないことで今までにないUX(User Experience:顧客体験)を実現することができ、顧客満足度が向上します。
機会損失の削減、チャネル統合によるデータ分析、商品購入に至るまでの顧客満足度の向上など様々なメリットが挙げられるオムニチャネルですが、一方で注意すべき点や、課題なども以下の2点が挙げられます。
オムニチャネルを成功させるためには、各チャネルの連携がバランスよくとれていなくてはなりません。従来実店舗を利用していた顧客が利便性の高さからECサイトに移行する、というケースがあります。そうすると実店舗の売上が下がってしまいます。このように新規を開拓するのではなく、ECと実店舗で成果の奪い合いが生じてしまうおそれがあります。
オムニチャネル化しても、そのことを顧客に認知してもらえなければ売上を伸ばすことはできません。SNSアカウントやアプリ、ECサイト等を立ち上げた際に、集客の難しさが懸念点として挙げられます。SNSで店舗の最新情報を入手できることや、店舗だけでなくコンビニや自宅で商品を受け取れることなどを説明することで、徐々に認知度を拡大させることが大切です。また、店舗を利用する顧客への説明だけでなく、「WEB広告の出稿」「検索エンジンで店舗のWEBサイトが上位表示される工夫をする」といった手法も重要です。オフラインとオンラインの情報発信を組み合わせてオムニチャネル化をアピールすれば、より多くの顧客を獲得できるでしょう。
今までオムニチャネルについての概要、メリット、デメリットを説明してきましたが、各企業はどのようにしてオムニチャネル化を成功させ、売り上げを伸ばしたか、事例とともに見ていきましょう。
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/iq/
アパレル業界全体として昨今は厳しい状況が続いています。矢野経済研究所が2019年12月に発表した調査結果によると、2020年の国内アパレル小売市場は前年比81.9%の7兆5,158億円で着地し、大幅な減少となりました。EC・通販チャネルは前年から伸びましたが、専門店や百貨店、量販店はいずれも規模縮小の苦戦を強いられています。
その苦境の中でユニクロは、ECと店舗を融合させた、顧客の新しい購買体験を提供するために「UNIQLO IQ」と呼ばれるアプリケーションを展開しました。配送や返品・交換などの質問に回答する「ユニクロ お問い合わせ専用アカウント」のチャットボットサービスをLINE上で提供しています。
商品やコーディネートの提案だけではなく、オンラインストアで購入した商品の配送や、返品・交換などの利用に関する全ての内容を、IQから質問できるようにしており、スマートフォンがあればどこでも買いものが楽しめる、オムニチャネル化の好例だといえるでしょう。ユニクロのECサイトで購入した場合、配送料や手数料をかけずにユニクロ店頭で商品を受け取ることが可能なため、実店舗での他商品購入の可能性もあり、売り上げアップにもつながります。
https://www.omni7.jp/general/static/omni7pre/
セブンイレブンホールディングスでは、前述した「ショールーミング」による実店舗での販売減少を食い止めるために、「omni7」というオムニチャネルサービスを展開しています。
Omni7という1つのネットショッピングサイトに登録するだけでセブン–イレブンの商品だけではなく、西武・そごうなどの百貨店、赤ちゃん本舗やロフトといった専門店の商品まで購入することができ、全国のセブン–イレブンで荷物を受け取ることが可能です。セブン‐イレブンであれば、原則24時間空いているところがほとんどですので、通勤途中や会社の近くでも受け取ることができ、大変便利です。
オムニチャネル化することで得られる最も大きい影響は、購買体験の利便化によるリピーターの獲得と考えます。2020年春以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、実店舗での買い物を控え、ECサイトやネットスーパー、通販を利用するユーザーが増えました。顧客の動きが大きく変化している中で、これまでと同じコミュニケーションをとっても、事業の大きな成長は見込めません。オムニチャネルのメリット、デメリットを把握し、自社にはどのようなチャネルがいくつあるのか、データを統合して何をするのか、オムニチャネル戦略を推進するためにはCRM(顧客関係管理)を構築する時点で、その組み合わせ方をしっかり考える必要があります。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト