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Well-Being(ウェルビーイング)向上のための自社事例/幸福度診断の実践導入

幸福度診断とは

アーツアンドクラフツでは、「つくるの力で、世界をもっと豊かに」というヴィジョン実現のためのひとつのアプローチとして、企業内のウェルビーイングを高める取り組みとして、当社ブランド事業部メンバーを対象に幸福度診断を実施しました。

幸福度診断は、慶應大学の前野教授が提唱する幸福学に基づき、株式会社はぴテック、一般社団法人Well-Being Design、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科ヒューマンラボ(前野隆司研究室)が共同開発した、個人と組織の幸福度を見える化する調査サービスです。2019年12月のサービス開始以来、10万人を超える方が利用しています。

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株式会社はぴテック、一般社団法人Well-Being Design、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科ヒューマンラボ(前野隆司研究室)で共同開発した、個人や企業のウェルビーイングを見える化する幸福度診断Well-Being Circleは2019年12月末に提供を開始して以来、日本中の方々にご利用頂き、このたび利用者数が10万人を突破しました。幸福度を診断頂いた回数も約15万回となります。

幸福度診断Well-Being Circleは個人での診断は無償、企業での導入では会社全体での傾向や分析・幸せ経営のためのアドバイスも含めて有償で提供させていただいております。企業向けについても、約50社、北は北海道から南は沖縄、はては海外まで、数万人規模の一部上場企業から数十人規模の中小企業まで多様なお客様にご利用いただいております。

幸福度診断Well-Being Circleの利用者数が10万人を突破しました
株式会社はぴテックのプレスリリース(2021年11月29日 13時00分)幸福度診断Well-Being Circleの利用者数が10万人を突破しました

 

今回の実施概要

 実施時期 2021年11月下旬
 実施対象 アーツアンドクラフツ・ブランド事業部 92名(6部門)
 調査項目 幸福度診断の標準回答項目(11項目34要素)に、当社が独自に設定した7項目で調査診断

当社には、ブランド事業部とコンサルティング&ソリューション事業部(約30名が在籍)という二つの部門がありますが、今回初めての実施ということもあり、ブランド事業部のみを対象に実施しました。

幸福度診断では、標準設計された項目に基づき、組織内の個々人の総合的な幸福度や、幸せの4つの因子、性格特性や心身の健康、社会や職場の環境や地位財など、幸せに相関がある項目を多面的に測定すると共に、その集積としての組織的特性を理解することができます。

幸福度診断の概要

また自社で独自の調査項目を追加設定することもできます。例えば個々人の業績やパフォーマンスなどの実績値と幸福度に関連する項目の相関関係を見るなど、その企業独自の視点での項目設定と分析も行なってくれます。

今回私たちは、会社全体の基本的な経営規範として考えている、貢献・成果・強みの開発に基づき7つの独自設問を設定しました。

診断結果ハイライト

レポートは、診断結果(全体と個人)および各項目の相関性とそこからの示唆というかたちでまとめて頂いています。すべてを公表することは控えますが、私たちの組織の診断結果ハイライトは以下のようなところでした。

・全体としては、一般平均と同程度の幸福度

まず全体の結果として、私たちの組織の幸福度は一般と同程度ということでした。

ウェルビーイング経営をスタートさせるにあたって平均ということは、良くも悪くもこれからということかと感じています。

・特にスコアの高い項目は、 職場オススメ度、感謝力、職場のチャレンジの推奨、 成⻑意欲、信頼関係のある家庭、信頼関係のある職場

特にスコアが高かったのが、上記6項目です。

職場の仲間や環境については前向きに感じているということ、常々発信しているチャレンジを通じて成長していこうという部分については好意的に評価されているということがわかりました。

また結婚指輪づくりを通じて、お客様から頂ける感謝の気持ちを全社で共有していこうという取り組みが功を奏してか、感謝力が当事業部の幸福度に大きく寄与しているということも改めて実感できました。

 

・伸びしろの大きい項目は、 収入力、エネルギッシュ力、ポジティブ感情、 コミュニケーション能力

逆に平均よりも低く出たのが上記4項目です。

まず収入に関する項目は大きくマイナスとなりました。事業構造や業界水準もあり容易に上げる下げるとは語りにくい部分ではありますが、現実として受け止めておく必要があると感じています。以前の記事でトヨタ自動車の事例を紹介しましたが、やはり稼ぐ力があってこそ、従業員にも、顧客にも、取引先にも社会にも還元できるのだということを改めて心得るべしと考えています。

その他のエネルギッシュ力、ポジティブ感情、 コミュニケーション能力という項目には、どちらかというと内省的で、情熱を内側に秘めたタイプの多い当事業部の社員の気質が色濃く反映されていると感じています。

 

・幸せの4つの因子では、 ありがとう因子 → やってみよう因子 →ありのままに因子 → なんとかなる因子 の順

お客様に寄り添ってオーダーメイドの指輪をお仕立てするという仕事の性質上、当事業部の社員には、バリバリ働いてバリバリ稼ごう!というようなモーレツ型の社員や、自分の意思に沿って成長し自己実現をはかりたいというよりも、結婚指輪づくりを通じてお客様に感謝されるということにやりがいを感じているタイプが多いのですが、その影響が上記の順番にもよく出ているように思います。

お客様や同僚への感謝の気持ちが強い反面、極度に心配性だったり、自分自身に対してもうひとつ自信が持てないというタイプの社員も多いことから、ありのままに因子や、なんとかなる因子が低く出たのだと思われます。

・独自指標について

自社独自の調査項目としては、上記のような設問を設定しましたが、結果としてはなすべき貢献やそのための行動は明確になっているが、成果をあげられているか、それが認められ評価されているかはやや劣るという結果がでました。

幸福度と相関性の高い項目

今回の結果から、当事業部全体としての幸福度と高い相関性があると出たのは以下の5項目でした。

・ストレスの低さ:ストレスを感じているか

・自己肯定力:良い部分悪い部分も含めて、自分のことが好きか

・ポジティブ感情:直近でワクワク・安心・活気あることがあったか

・社会的地位:社会に良い影響を与えているか

・感謝力:感謝することが沢山あるか

ストレスの寡多によって幸福度が変化するのは当たり前といえば当たり前ですが、ストレスを減らすというよりもストレスにどう向き合い、付き合うかを組織的に学ぶ必要性があるかと思います。

その他の項目についてはやはり組織的な性質が強く出るのだと思いますが、社会や顧客、周囲に自分たちがどう役に立っているのかを、より具体的に認め評価されていると感じられるかどうかに課題があることがわかりました。

そのためには、自分たちなりに目標を明示しそれを達成することや、顧客や違いの感謝を具体的に伝えあう経験や機会設定が重要になるということでしょう。

 

気づきと活用

・社員個々の理解によるスピーディな課題発見

幸福度診断についてすぐに活かすことができるのが、社員個々の特性やその時の状況を理解し対策を打つきっかけとなるということです。

今回の個々人の診断結果は、組織の上長と共有する前提で実施しています。
この診断結果に基づきいわゆるカウンセリング診断のように、担当する上長と本人がその内容についてディスカッションを行います。
どういうことに幸福感ややりがいを感じるかといった個人の性格や考え方などその人の性質や指向性に由来することや、現状どのような点にプレッシャーや課題を感じていうるかといった状況や周囲との関係性によって変化することなど複数の視点からディスカッションし、個々の性質や状況の理解、もしくは継続すべきことや課題として解決すべきことについて共有していきます。

今回の結果においても、特に幸福度が低い人やストレスが強くでているような人にはいち早く個別面談を行ったり、いち早く個別の対応策をとるということも行いました。

・基礎的なコミュニケーション密度の向上

また現時点で特に問題のない人であっても、上長とのコミュニケーションを通じて自分自身を理解してもらったり、自分がもやっと感じていたことを言葉にして共有していくことだけでスッキリとした気持ちになったり、安心感が高まったりすることで幸福を感じる度合いがアップすることもあります。

近年よく実施される1on1MTGなどに幸福度の視点を加えていくことで、通常のタスクや仕事内容に関することとは別に角度から密度の濃いコミュニケーションが形成されるきっかけをつくることができるように思います。

・中長期の組織視点での改善

個々人のケアとは別に組織全体としてみたときには、以下のような課題が浮き上がってきました。

・2-5年目の中堅社員の幸福度が相対的に低い

当事業部ではジュエリー業界の未経験者も多く採用するため、入社1〜2年は密に研修やトレーニングを行いますが、一定レベルに達した後の課題や目標設定が十分ではないということかもしれません。

・女性社員に比べ男性社員の幸福度が低い

当事業部では8割が女性ということもあり、これまで女性が働きやすい環境や制度といった視点に偏った見方をしていたことも事実だと思います。男女共々が働きやすく、活躍できる状況を作ることこそがダイバーシティを満たすということだと考えるならば、もう一段目線を高く持った働きやすさや幸福を考えることも視座も重要になります。

・交流、相互理解に対する希求、影響が強い

自由記述なども含め社員同士や部署同士の交流やコミュニケーション、相互理解を求める傾向や影響が強いことが改めてわかりました。コロナ禍の影響も少なからずあるように思いますが、個としての自立や自由よりも、社員相互が連携し合うことやそのための空気づくりが、当組織で幸福感を醸成していくための重要ファクターであるように思われます。

このほか部門やマネージャごとにも、それぞれの課題認識や改善につながる気づきを得ることができました。すでにこれらのいくつかは今後の事業運営の中にも盛り込まれていっています。

今後の課題

今回初めて実施しましたが、今後継続的な取り組みを行いながら事業体としての成果を生むために以下のような課題があると感じています。

・幸福度を高めることへの個々人の理解度のアップ

幸福度というものは心のあり方や状況を反映した主観的なものである以上、まず幸福度を高める基本は個人にあるように思います。そういった意味で、個々人が幸福度とその構造をさらに理解し、自分自身で幸福度を高める方向へと向かうことができるかということが大切であると思います。組織としては、そのための研修や教育などの時間を取るといった制度や施策実施も重要かもしれません。

・事業成果や収益性との関連性をより明確化

改めてになりますが、幸福度と事業の成長や向上との関連性をさらに明確化していくことが重要な課題だと認識しています。社員の幸福度の向上がただ社員の満足や充足だけにとどまるならば、そこには持続的な利潤や支持は生まれこず、社員の幸福度を維持し続けることはできません。

社員の幸福度や充足が、顧客や社会への価値向上に結びついてはじめて、社内外に対しサステイナブルな幸福の循環を生み出すことができます。

このような視点を持ちながら、当社では今後も継続的なウェルビーイング経営に取り組んでいきます。

ふるくてあたらしいものづくりの未来

 

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。
著書『ふるくてあたらしいものづくりの未来– ポストコロナ時代を切り拓くブランディング ✕ デジタル戦略』クロスメディアパブリッシング