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2021.06.01

【寝具ブランドCasperに学ぶ】D2Cにおけるストーリーテリングとは

 

最近流行している「D2C」とは何か

最近日本で目にすることが多くなった「D2C」とは何か、ご存じでしょうか。

D2Cとは、Direct to Consumerの略で、消費者と商品の開発者が直接つながる新しい販売形態を指します。従来の販売方法では、中間に卸売業者や小売業者などを挟み、消費者と開発者が直接関係することがありませんでした。しかし、テクノロジーの発達により、SNSや自社オンラインストアなどの整備が行き届き、結果的にD2Cという概念が生まれました。

 

 

日本で著名なもので言えば、コロナ禍で顧客を勝ち取るニューノーマル“オンライン接客”でも紹介した「ALL YOURS」や「BULK HOMME」などがあります。

その他にも国内事例は多くありますが、アメリカでも同様に多くのD2Cブランドが存在し、中には上場する企業や日本へ進出している企業など、成功事例と呼べる企業が散見されます。

そこで、本記事では比較的馴染みのない国外のD2Cブランドにフォーカスを当て、これからD2Cブランドを立ち上げる日本企業に役立つ示唆を導いていきたいと思います。

 

D2Cブランドのブランディング手法の一つ「ストーリーテリング」

本ブログを読んでいる方は、おそらくAmazonをご存じかと思います。今や知らない人がいないと言えるほど有名なサービスであるAmazonですが、そのCMには「ストーリーテリング」という手法が使われています。

https://youtu.be/NDrK56UFOzw

こちらが、ストーリーテリングを用いたCMになります。このCMを見た方は、Amazonを利用することで生活を豊かにすることができる、と感じたと思います。

AmazonCMを通して、消費者に対して送料無料などの利点をアピールするのではなく、生活上の小さな不便を解決できるサービスであることをアピールしています。これを効果的に伝えるために、あえて「寂しそうな祖母に思い出に沿った体験をさせてあげたい青年が、Amazonで商品を購入することを通して体験を届けられた」というストーリーを描いています。

このように、物語を語ることを通して、感情や潜在的ニーズを刺激する手法をストーリーテリングと呼びます。

突然出てきたストーリーテリングの話ですが、実はストーリーテリングこそがD2Cブランドの特徴である消費者との接点の多さを活かす手段として有効なブランディングのひとつです。

そこで、このストーリーテリングを用いたブランディングを行っている海外のD2Cブランド「Casper」の事例を解説し、日本のD2Cブランドがより成長していくための要素を考察していきます。

 

Casperとはどんな企業か

Casperはアメリカのニューヨークで生まれたブランドで、取り扱っているものはマットレスやシーツ、ベッドフレームなどの寝具関係の商品です。

寝具という目新しさとは離れた業界に属するCasperですが、2014年の発売開始から6年後の2020年に上場をするほどの反響があったブランドです。

では、Casperがそこまで評価された理由は何でしょうか。製品開発にかける時間や熱量も要因ではあると推測できますが、一番インパクトがあったのは寝具にD2Cのメリットを取り入れたことでしょう。

まず、D2Cを取り入れることで、中間業者を省くことが出来ます。これは中間マージンのカットにつながるため、消費者により安く製品を提供できる体制を構築することが可能になります。そのため、Casperでは手頃かつコストパフォーマンスの良い製品を届けることに成功しました。

また、中間業者がいないことによって、Casperが消費者と直接的な接点を持てるようになりました。そのため、トライアル期間を設けたり使用後の製品の返品を可能にしたり、とインパクトがある保証制度を設けることが出来ました。

その結果、消費者に対して「マットレスを安く買えるのに保証制度までついてくる」という大きなインパクトを与えることに成功しています。

実は、Casperが一連の保証制度を実現するにあたって、製品開発力が大きなカギとなったことは忘れてはいけません。この配送を前提とした保証制度は、マットレスのスプリングを取り除いたマットレスを開発したことが重要な要因になっています。これを元に、マットレスを箱の中に入れて配送を行い、これまでの配送の大変さを軽減することに成功しています。

 

他にも、マットレス以外の寝具の販売や寝室用のライトなど、睡眠に関するプロダクトを発売しながら、より良い睡眠を追求するための調査や製品開発を次々に着手しているのが、Casperというブランドになります。

 

ここから読み解けることとしては、D2Cはあくまで手段であって、事業の根底にあるのは消費者の課題を解決するための開発力やアイデアである、ということです。

Casperが優れているのは、従来のマットレスメーカーとは違う製造方法を採用することで、新しい販売方法(=D2C)を実現できた点でしょう。また、睡眠に対する探究心も相まって、このようなブランドが生まれたと言えます。

優れたアイデアがあり、それを実現する開発力があった上で、手段としてD2Cがある、という良い事例です。D2Cを実現したいブランドにとっては、Casperのようなハングリーさは取り入れるべきことの一つになるでしょう。

 

Casperの実践しているストーリーテリング

さて、このCasperの事業や優位性が明確になったところで、どこにストーリーテリングが用いられているかを明らかにしたいと思います。

 

前章では、Casperはアイデアと開発力があった上でD2Cを採用している、という話をしました。ストーリーテリングは、D2Cを実現するためのブランディング手法として採用されています。

ただし、CasperAmazonのようなプレゼンにおけるストーリーテリングを行っているわけではありません。では、どんなストーリーテリングを行っているのか、紐解いていきましょう。

 

Casperのストーリーテリングを語るうえで必要な要素は四点あります。

一点目は、マットレスのトライアル期間を設けていることです。これにより、消費者が従来とは違うチャネルでマットレスを購入することに感じる抵抗感を減らし、Casperとの接点をより多く作ることが出来ます。

二点目は、Casperが発刊している雑誌「WOOLLY」です。現代では、インターネット上で情報を拡散させた方が、コスト面も拡散力でも軍配が上がります、しかし、Casperはあえて雑誌という媒体で情報を伝えています。伝えている情報は、快適さや健康、現代社会やライフスタイルなど、睡眠に留まらない広いテーマになります。

三点目は、The Dreameryという特設スペースです。特設スペースがマットレスメーカーとどんな関係が?と思われる方もいらっしゃると思いますが、Casperは特設スペースを用いて、自社製品の体験ができる場所を提供しました。これにより、消費者がCasperの製品を体験機会の増加、または実生活上での認知度の向上を実現できたと見られます。

四点目は、GlowというCasperが発売しているライトです。ライトと聞くと、寝具とは関係がないように思えますが、明かりによって左右される眠りの質を高めるための睡眠/起床用のライトになっているため、これもある種の寝具と捉えることが可能です。

以上の四点から、Casperは単なるマットレスメーカーではなく、取り組みをもって睡眠に関するライフスタイルを語るブランドであると言えるでしょう。事実、Casperは自社のことを「スリープカンパニー」と名乗っており、加えて上記のようなマットレス販売以外の取り組みを鑑みると、マットレスではなく睡眠を提供する企業を志していることが推察できます。

また、CEOであるフィリップ・クリムは「Nikeが運動でしたこと、Whole Foodsがオーガニックフードでしたことを我々は睡眠でやりたいのだ。」と発言しており、睡眠という生活に根付いた行動をCasperが一新する、という意欲があることを覗かせています。

総括すると、Casperが行っているストーリーテリングは、Casperが考える良い睡眠を体験するための接点を多く作ることをきっかけにCasperの考える睡眠の在り方に共感してもらう、というものだと言えます。プレゼンでのストーリーテリングとは少し毛色が違いますが、Casperは「百聞は一見に如かず」を体現するかのように、タッチポイントの創出と睡眠への探究心を前面に出すことで、ストーリーを語ることなく、ストーリーテリングのような共感を得ています。

 

D2Cブランドに求められるストーリーテリング

今回の記事は、国外事例からD2Cブランドに役立つ示唆を導く、ということを目的に執筆しました。

紹介した事例はアメリカにあるCasperの事例で、睡眠に対する探究心とタッチポイントの多さが特徴的なストーリーテリングを展開していました。D2Cならではの顧客接点の多さや商品の低価格化などを元に、掲げる理念やブランドとしての取り組みに対する共感を引き起こす多くの行動を取り、結果としてブランドが目指す物語を届けることに成功しています。

ここから言える示唆としては、ブランドが熱意を持って語れる価値観を持つこと、価値観を体現するための行動を積み重ねること、価値観を届けるための接点を多く持つこと、の3点が挙げられます。

 

では、この示唆は日本で役に立つのか?というと、事業資金の関係やイノベーションが起こりにくいといった風潮を考慮すると、行動を積み重ねるための持久力の観点で役立てるのが難しいと言えるでしょう。Casperのように、特設スペースを用いた商品テストや雑誌の発行などは資金が必要で、外部からの資金調達無しでは成し遂げられない行動になると予想されます。

一方で、私自身の生活の中に解決策を求めてみると、例えばクラウドファンディングであったりポップアップストアであったり、大規模ではないもののブランドを語る場が少なからずあると言うことが出来ます。付随して、たとえ小さい活動だとしてもブランドが理念を持ち続け、それを届けるための活動を続けることで、そこに新しいストーリーが生まれることも考えられます。

つまり、Casperの事例を元に日本のD2Cブランドに役立つ示唆を挙げるとするならば、ブランドが持つ理念を届け続けるために小さなこともコツコツ積み上げることが大切である、という示唆があると考えられます。

ぜひD2Cブランドを立ち上げたい、あるいは広めたいと考える方は、小さなチャンスをモノにし続けるための試行錯誤、を意識してみてはいかがでしょうか。

 

 

【参考文献】

 

伊藤悠真

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。