最近、“エシカル”というワードを耳にすることが増えたかと思います。
エシカルとは、「倫理的」や「道徳的」といった意味を持った言葉です。エシカルがサービスに結び付くことで「エシカル消費」という言葉になり、地球環境や社会に配慮した消費/サービスを意味します。簡単な例で言うと、近年話題になっている海洋プラスチックごみ問題への解決策として、プラスチック製ストローを紙ストローに変更する企業が見受けられます。そういった企業のサービスを率先して利用することで、(元々ポイ捨てはしなかったとしても)少しでも環境問題に寄与したい、などの思いから発生する消費をエシカル消費と呼びます。
一般的にエシカルというと、エシカル消費を指した内容のものが多く、特にアパレルブランドに多く見られる言葉になっています。アパレルブランドに見られる理由としては、アパレル業界の大量生産/大量消費が問題視されていることが理由だと思われます。皆さんご存じの通り、地球では環境問題が顕著になっており、日本でも再生可能エネルギーの利用や自動車のEV化など、過去から現在まで様々な取り組みがなされています。世界に目を向けても同様で、世界を取り巻くトレンドとして環境問題が根強くある状態です。
先述したように、アパレル業界では大量生産/大量消費が当たり前になっており、環境に対する無駄な負荷が多くかかっている業界の一つに数えられます。そうした背景もあり、アパレルブランドではエシカルなものづくりを求められるようになったと思われます。
なお、エシカルという概念が誰に向けて実現されるかについては、この後の事例紹介で順を追って説明しますが、ブランド/企業以外の誰にでも実現可能な概念になっています。例えば、冒頭の海洋プラスチックごみ問題の被害者である海洋生物を救うためであったり、悪質な業者のターゲットにされてしまう消費者に向けて正しい商売を行うためであったり、様々なものを対象にエシカルな行動を起こすことが可能です。
また、SDGsの目標に「つくる責任 つかう責任」があるように、世界中での行動指標として生産工程を見直す流れが出来ています。そのため、アパレルのみならず他業界にもエシカルなものづくりを求められる時が来ると推察できるため、紹介した“エシカル”が重要な概念であると言うことが出来ます。
アメリカ発のアパレルブランド「Everlane」では、紹介したエシカルの概念を取り入れたブランディングを実践しています。
Everlaneが掲げるのは「透明性」で、生産工場の状況や製造原価、輸送費などのコストを開示して消費者に伝える、といったアパレルブランドでは見られなかった取り組みを行っています。
生産工場については、工場の視察を行った際の労働環境、オーナーのバックグラウンドなどを紹介しています。また、提携する際に工場のコンプライアンス監査を行い、高得点だった工場とだけ提携するという取り組みも行っています。ブランドとしての透明性を確保するため、ブランドの取り組み以外にも提携先に求める水準を持っており、それらを開示するという徹底ぶりを見せています。また、製造原価については、商品ごとに材料費/賃金/輸送費などの5項目に分けて詳細な金額が記載されています。そこから計算される製造コストに併せて、Everlaneで提供する価格と他社ブランドで提供する価格を記載しており、一般的なアパレル業界の販売価格までも明らかにしています。
Everlaneが掲げる透明性は、ブランドとしての姿勢をここまでかというほど追求しており、他社ブランドからの反発が起きそうな取り組みまでも行っています。つまり、Everlaneが実現したエシカルとは、ブランドとしてだけでなく業界までも巻き込んだエシカルだと言えます。
先述した通り、Everlaneはとても挑戦的なエシカルを体現しています。一方で、新しさゆえに消費者から受け入れられないこともあるのではないか、と考える方もいるかと思います。
しかし、Everlaneは2016年には5,100万ドル(日本円で約56億円)を売り上げたとされており、株式会社ANAPの2020年8月期の連結売上高と同程度となっています。ANAPと比べて20年程度の業歴の差がありますが、その差を感じさせないほどの売上を記録しており、いかにアメリカで支持されているかを感じ取るには十分なデータであると言えます。
また、EverlaneはD2Cブランドであるため、コロナ禍における売上減少の要因となる実店舗での販売の制限を大きく受けないことが予想されます。そのため、売上ベースで見た場合のEverlaneのエシカルは現段階では成功しているということが出来ます。
ただし、2020年4月ごろにEverlaneが行った大量の一時解雇については、エシカルであるとはいえない面を持っており、全面的に成功しているエシカルであるとは言い難い内容になっています。
解雇された従業員の話によると、企業側から一時解雇は起きないという説明があったにも関わらず電話一本で解雇が通告された、といった話や、解雇手当を支払われたことで事実上の解雇扱いをされた話など、従業員に対するエシカルさを感じ取れないトピックが挙がっています。この情報はTwitterを基に発覚した情報であり、かつEverlane側は弁明のコメントも出していることから、一概にEverlaneがエシカルではないと言い切ることは出来ません。しかし、エシカルをブランドの要として掲げている以上、従業員からも不安な声や不満が出ないように、透明性のある行動を意識する必要があったと言えます。
まとめると、Everlaneが行ったエシカルは一部に限っては成功していない、という結論に落ち着きます。
なぜ全面的に成功したと言えないかというと、従業員に対するエシカルさがなかったことが原因なのは明らかです。では、全面的に成功するためには何が必要かというと、一度はビジネスシーンで耳にしたことがあると思われる“三方よし”の考え方です。
前段から、エシカルというワードや姿勢が多くの利益を残せるようになったが、エシカルを標榜することでブランドイメージを左右する事態を引き起こすことがある、という示唆を得ることが出来ました。そして、そのエシカルを全面的に体現するのであれば、三方よしの考え方が必要であると続けました。
そこで、Everlaneが行った行動を三方よしの考え方で見たときに、何が足りなかったかを明らかにし、エシカルなブランドを作るための要素を考えたいと思います。
Everlaneが行ったエシカルは、主に買い手である消費者に対する透明性、そして大量消費を行わないビジネススタイルの実現による世間への貢献の2つになります。三方よしの考え方で言うと、売り手に対するエシカルな姿勢が抜け落ちていることが分かります。正確には、提携先の工場に対するエシカルさは持っているものの、企業が一番大事にすべき自社の社員に対するエシカルさを意識していないと見られる行動を取っていないと見受けられます。
もちろん、企業が存続するためには買い手がお金を払ってくれることや、社会から見て正しいと同意が得られるような事業を行う必要はあります。ですが、企業が実現したい行動/社会を作るために伴走してくれるのは従業員に他なりません。Everlaneは、この点を見逃し、エシカルなブランドとしての一貫性を欠いてしまったと推察できます。
Everlaneを失敗事例として捉えると、企業が実践すべきエシカルの方向性は、主にこのような形になると想定されます
これはアパレルに限らず、どんな業界のどんなブランドにも言えることです。従業員を大切にできないブランドは、いずれブランドを売るために働いてくれる従業員からの信用を失いますし、買い手を騙すような商売をしているブランドも徐々に買い手からの信用を失い利益が出なくなります。世間への貢献を意識出来ない企業は、投資家や未来の買い手からの支持を受けることが出来ずに利益の停滞や減衰を待つ結果に繋がります。
こういった結果を招かないためにも、存続するブランド、ひいては存続する企業を作る要素である三方よしの考え方を実践する方が良いと考えられます。
本記事では、Everlaneというエシカルを軸としたブランドの事例を解説しつつ、エシカルとは何なのか、エシカルであるために必要な要素は何なのか、を解説しました。
Everlaneについて要約すると、以下のようになります。
このEverlaneの事例からは、三方よしの考え方が重要な要素ではないか、という示唆を導き、これからのブランド、ひいては企業にとって重視すべき考えであると考察しました。
ぜひ、これからブランド/企業を立ち上げる、もしくはブランド/企業を成長させたいと思う方は、三方よしの考え方を実践してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。