目次
このコラムは連載企画です
<前回コラムはこちら→>【実践事例】テレワーク時代のタイムマネジメント vol.1
前コラムでは、テレワークにより働き方にどのような影響が出てくるか一般論から話させていただきましたが、この章では具体的な事例をご紹介して参ります。ここでは、筆者の実際の1日の過ごし方がどのように変わったのか例示していきたいと思います。筆者はコンサルティング事業のマネ―ジャーというポジションで実プロジェクトを回しており、さらに事業部長として社内管理業務もミッションとして持たされている立場です。下の図にコロナによる影響が深刻化する前の2019年12月時点でのスケジュール例を紹介します。
まず、やはり目につくのは「移動時間」です。自身でも相当数案件を回している自覚はありましたが、それでも客先に行くのは1日最大3件が限度でした。平均でみると1日2件程度であったかと思います。また日中に社内向けの管理業務に費やす時間が乏しく、ここではクライアントBとCの客先会議の合間に自分たちの事務所に戻って少しばかりする程度でした。ここの図には書いていませんでしたが、結局終わらず管理業務系のタスクは家に持ち帰って深夜に独りやっていた記憶があります。
翻って、テレワーク後はどのようなスケジュールが変わったでしょうか。
まず出社するための通勤時間が無くなったことで朝に余裕が生まれ、プライべートでオンライン英会話のコースを継続できる余裕が生まれました。次に、日中の移動時間も無くなったため、客向け/社内向け関わらず複数の会議・打ち合わせが、息つく間もなく連続して設定されています。これは慣れるまでは、苦労しました。例えば、社内メンバー集めて自社のプロモーション/ブランド戦略を協議するようなことをしていた数分後にいきなりクライアントと商談を開始するようなもので、頭の切り替えが求められます。最初はこの頭の切り替えが中々うまくいかず、「自分はテレワーク前にはこういった切り替えを移動時間中に無意識にやっていたのだな」と思い至りました。ただ、それも慣れてくるとなんとかこなせるようになり、結果自身の1日の生産性は飛躍的に向上しています。クライアントとの打ち合わせは前は日3件が限度でしたが4件も可能になり、何よりも社内向けの管理業務に費やせる時間が増えました。特にテレワークによるリモート環境になると、管理者としては個々の社員との接点が希薄になりがちです。そういう意味では、テレワークにより生まれた余剰時間を社員との1on1に費やすなど設計していく工夫が求められます。オフィス勤務時はこのようなことをする時間も作れず、ただなんとなく社員が作業している風景を眺めて状況を把握していたつもりでいました。その頃よりもむしろ今のほうが1on1等直接のコミュニケーションを通じて社員の勤務状況、悩みなどを聞けるようになった点は良かったです。
前章までは、このテレワーク時代になったことでどのように働き方・スタイルが変わったかを叙述していきました。この変化は大きなパラダイムシフトであり、それは畢竟タイムマネジメントのあり方も新しい時代に合わせて再考する契機となります。このコラムの後半にかけては、具体的にこのテレワークによりどのようなタイムマネジメントの改善が可能か、生産性を上げるためにはどのような工夫が有効かを述べていくつもりですが、その前にこの章ではタイムマジメントの要諦をピーター・ドラッガーの名著「プロフェッショナルの条件」から紹介していきたいと思います。ドラッガーがこの書籍の中でタイムマネジメントに言及しているのは「第3章:時間を管理する」の箇所になります。有名な本なのでご存知の方も多いかとは思いますが、僭越ながら今回のテーマで重要な論点のみを抽出すると以下になります。
もちろんドラッガーがこの本を書いた時にはこのコロナの影響はありませんでしたし、テレワークの事というよりかは一般的なオフィス勤務を前提としたタイムマネジメントを論じているのですが、その要諦となるエッセンスはこのテレワーク時代にも十分有効活用です。ここでは彼の主張の要点を紹介していきます。
まずドラッガーは、時間こそが仕事をする上での真の制約条件であることを下のように述べています。
「あらゆるプロセスにおいて、成果の限界を規定するものは、もっとも欠乏した資源である。それが時間である。」
時間は他に代替が聞かず、一度失うと戻ってこない資源です。ですから成果をあげるためには「時間に対する愛情ある配慮」が必要と説いています。また、この時間の使われ方を正確に把握するためには、人の記憶を当てにしてはいけず、正確に記録を取ることを推奨しています。ドラッガー曰く、最低でも年2回ほど、3~4週間記録を取るべきである、と述べています。まずは正確な現状認識をしたうえで、改善機会の方向性として以下3つを挙げています。
ドラッガーの本では、このことを「仕事を整理する」という言い方で呼んでいます。その整理の仕方として以下3つのポイントを挙げています:
a.については、どの職位のビジネスマンにも当てはまることであるのに対し、b.とc.はどちらかと言うと管理職側でより重要になってくる視点です。ここでは特にa.について掘り下げてみたいと思います。a.のところで「成果」という言葉が出てきますが、この成果を図るためにはその基準となる「目的」が必要です。当たり前のように聞こえますが、目的の達成度合で成果は図れます。すなわち目的が無いところには成果もあり得ない訳です。自分の時間の使い方を可視化したあと、その細分化された内訳ごとに、その時間の「目的」は何か、「成果」は何か、を真剣に精査することをお勧めします。その上で、その時間が成果の無いものであれば思い切って止めてみるという決断が必要です。
これはドラッガーの慧眼たる名言です。細切れの10分の時間が例え1日の内に10回あったとしても、使い道がありません。それよりも、まとまった100分のほうが、はるかに大きな仕事ができます。
「時間は、大きなまとまりにする必要がある。小さなまとまりでは、いかに合計が多くとも役に立たない。」
これは、単に会議とか相手とのコミュニケーションとか折衝に関わる話だけではありません。何かを企画する、何かを分析するといった個人で収まるタスクの場合にも言えることです。企画や分析といった深く考える仕事というものは、「脳にエンジンがかかる」までに多少の時間がかかるものです。これは、皆さんが日々お使いのPCをイメージすると分かりやすいかもしれません。10分ごとに細切れにされた時間というものは、最初の3~5分間をOSの起動に毎回使っているものです。時間の無駄ですよね。人間の脳も同じで、頭がしっかりと稼働できる状態になるまで時間がかかるのも同じことです。従って、稼働状態になったら集中が続くまで、まとまった時間で作業をさせたほうがはるかに生産性はあがります。
ただ、この「まとまった時間」を作ることは、時間に対して受け身になってはできません。自ら能動的に各タスク・イベントの調整をし、まとめ、意図的にスペースを確保していく必要があります。これこそが時間管理の醍醐味だと言えます。
今まで上げてきた改善機会は、比較的に自己完結と言いますか、自己診断で見つけやすいものですが、これから挙げる「マネジメントの欠陥がもたらす時間の浪費」は、組織構造や仕組みに起因する話であり、一個人の問題というよりか、マネジメント層が積極的に取り組まないと改善されないタイプのものです。ドラッガーはその類型を4つに分けています:
このあたりのテーマは、まさにコンサルタントからしたらBPR(業務改善)のプロジェクトとして走っていそうなものばかりです。このようなマネジメントに起因する、つまり複数の人間・部署が関わって生まれてくる問題については、まずは全体を俯瞰しなければならず、一定の手間がかかります。組織内の個々人は、それぞれ別の業務・ミッションを持って働いています。それらの方々が片手間で行うには、あまりにもこの「マネジメントの欠陥がもたらす時間の浪費」への対処は骨の折れる作業であり、かなり大掛かりな取り組みが求められる分野です。
本コラムでは、テレワーク前/後によるタイムスケジュール変化の実例を示し、そしてタイムマネジメントの教本となるドラッガーの提言について触れさせていただきました。次コラムでは、いろいろなタイムマネジメントの実践編に入ります。
<次コラムはこちら→>【実践事例】テレワーク時代のタイムマネジメント vol.3
米国戦略系ファームBooz & Company(現PwCネットワークStrategy&)を経て2010年当社設立に参画。コンサルタントとしての経験と知見をもとに、当社のB2B領域における事業開発及び業務運営を一手に担う。独自の社会観と戦略眼に基づき、次世代型のコンサルタントとエンジニアの育成に従事。ペンシルバニア大学(米国)卒業、東京工業大学大学院修士課程修了。