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2020.08.14

インターネットに繋がり顧客体験を広げるスマートミラー

鏡は姿を見るためだけのものではなくなる

近年、鏡をインターネットに接続することで、天気やニュースを表示したり、拡張現実機能を持たせたりといったことが出来るようになっています。これは“スマートミラー”と呼ばれる技術で、現在様々な業界で注目されつつあります。その中でも特に小売業では、コロナによってEC利用率が高まる中、実店舗での購買体験を向上させる技術の一つとして期待されています。
利便性も高く、コロナ禍において購買手段として当たり前になっているECが台頭し、実店舗での購買は従来のものから変化するタイミングかもしれません。スマートミラーはその一翼を担うことが期待できます。本記事では小売業、特に試着やテスターの使用が多いアパレルやコスメ業界を中心に取り上げます。

 

スマートミラー×アプリケーションによる可能性

前述の通り、スマートミラーとはインターネット接続が可能になった鏡のことを指します。インターネット接続によって情報を取得し、例えば天気やニュースなどを鏡に表示するというのが使用例としてわかりやすいと思います。また、カメラを搭載することもできるため、肌の状態を計測したり、スマートミラー内に登録されている服の情報を基に様々な試着(いわゆるバーチャルフィッティング)などをすることが可能となります。
現状スマートミラーには主にアンドロイドOSが搭載されているため様々なアプリケーションへの接続が可能です。さらに、情報を連携できるアプリケーションも多岐にわたっており、今までの姿を写すだけの鏡から大きく飛躍した使い方が可能となっています。

 

スマートミラーが非対面の接客を進化させる

スマートミラーを活用することで、従来の接客業務や顧客の購買体験をさらに進化させることが期待できます。

<共通事項>

アパレルやコスメ業界で使用されるスマートミラーにはカメラが搭載されており、そこから読み取った情報を基にして、スマートミラー内に登録されている服や化粧品の色を、実際に手に取らずとも試すことができるようになっています。この技術はコロナ禍における感染拡大防止の観点からも非常に有効だと考えられます。また、試着やテスターを使用した際にスマートミラー上に顔やスタイル、肌の色味などを数値化し、その商品のおすすめ度を提案することも可能です。これにより顧客は一般的な評価を参考にすることができ、より自分に適した商品を購入することができます。

<アパレル>

一般的にアパレルショップには試着室がありますが、来店客数に対して数が少なく試着室の順番待ちが生じてしまうことがあります。また、試着室に持ち込める商品数も限られているため、顧客は試したい商品が多い場合厳選するか複数回試着室に入る必要があります。このようなことが起こる背景には、店舗面積における設置可能な試着室スペースの制限やその商品を着用した際のイメージが湧きにくいということがあります。これらはアパレル業界で抱える課題の一部分でありますが、スマートミラーを活用することで解決することができます。ショップで取り扱っている商品データをスマートミラー内に登録することにより、顧客はスマートミラー上でバーチャルフィッティングが可能となり、従来の鏡の前で服を体に合わせるよりもよりフィットした状態(実際に着用しているような状態)で確認することができます。そのため、これまで試着する商品選びにかけていた時間の短縮につながります。また、トップスやボトムスなどを同時にフィッティングすることで、気になる商品のトータルコーディネートの確認も可能となります。その結果、実際に試着する商品の選別が行われ、生地感や着用感を確認するための試着にかかる時間も短縮することにつながり、必然的に店舗の回転率は向上します。

<コスメ>

コスメ売り場での接客では主に化粧品のテスターを使用し、実際に使用感を確かめてもらってから購入する流れとなっています。そのため、売り場にはたくさんのテスターが置いてありますが、事業者側からすると同一商品のテスターの使用数はある程度制限し、できるだけ余分なコストをかけたくないという考えがあると思います。また、テスターを什器に置いておくことは盗難被害のリスクや売り場を汚されるリスクがあります。しかし、スマートミラーを活用することでこれらの課題は解決できます。アパレル同様、ショップの商品データをスマートミラー内に登録することで様々な商品を試すことができます。例えば、種類が豊富なリップの色味を試したり、チークやアイシャドウなど普段のメイクではしないであろうメイクにもチャレンジしやすく、実際にやったらどうなるのかを手軽に試せるというのはスマートミラーの強みだといえます。

 

スマートミラーは顧客に発見と機会と新しい購買体験を与える

前述で述べた以外にもスマートミラーの強みは存在します。
まず、リアル店舗への導入の際、店内の雰囲気を壊さず設置することが可能な点です。スマートミラーはあくまで鏡なので自然に設置することができます。さらに、設置したスマートミラー内に商品データの登録があれば、その店舗に在庫がなくても顧客はスマートミラー上で商品をお試しする機会が得られます。その場で色やデザインが気に入れば取り寄せの予約をしたり、ECサイトからの購入を促すことも可能となります。また、アパレルにおいて生地感や着用感の確認のための実際の試着においては時短が期待できますが、これまで試着室が空いていないからという理由で購入を諦めていた方たちへの販売機会ロスの減少も期待できます。
スマートミラーには様々な強みがありますが、一番の強みと言えるのは、今まで試したことのないものにチャレンジできるということだと考えます。その理由としては、これまでの試着やテスターの使用による確認は時間と手間がかかっており、できるだけ早く欲しい物を見つけたい場合そのニーズには応えられていませんでした。さらに、顧客はこれまでの経験から自分に似合う系統のものを自分自身である程度把握していることにより、新しいものにチャレンジするということを避け、いつもどおりの安定を求めてしまうことも多いのではないでしょうか。そういった安定志向の方でさえスマートミラーという手軽に簡単に試せるツールが目の前にあれば是非使用してみたいと思うはずです。このような興味関心を引くための存在としてもスマートミラーは一役買っています。様々な商品を試している中で、今までなら手を出したことがないものも似合うという新発見を得てもらえる可能性があります。そうすれば、それに合わせて複数の商品を買うという行動にもつながることが期待できます。このように、新しいものに出会う機会や、今まで似合うと気付いていなかったものに気づかせてくれるスマートミラーは消費者の購買意欲を高めることに大きく寄与しており、新しい購買体験を提供しています。

 

悪目立ちをさせない設置を心がける

このようなシステムツールを店舗に導入する際、一般的にネックとなるのが導入コストです。例えば、コスメ業界で使用するような小さなサイズのものであれば数万円ですが、姿見のようなものなると数十万円かかります。また、導入後の定期的なメンテナンスも必要となり、その人材やメンテナンスにかける時間などが必要になってきます。スマートミラーの場合、取扱商品データを内部に登録する必要があり、新商品発売の度に商品登録する手間が発生します。このように新規システム導入に関する主なデメリットは他のシステムツールと変わりませんが、日本国内において未だ認知度の低いスマートミラーの導入にはさらに懸念事項が2つあります。
一つは設置する場所です。スマートミラーは店舗の雰囲気を壊すことなく導入が可能ですが、サイネージのように広告や画像を表示しているとスマートミラーとしての機能を意識されなくなってしまう可能性があります。だからといって、目立ちすぎる、あまりにも特別な雰囲気を持たせてしまうと顧客は気後れして気軽に触れることが難しくなっていまします。あくまでも気軽に使ってもらえて、商品と出会ってもらうことができるということをアピールする必要があります。
二つ目は、バーチャルでのお試しでは着心地や生地感がわからないということです。スマートミラーを導入したからといって、それだけで試着やテスターの使用を完結させようとするとせっかく実店舗に来ている利点がなくなってしまいます。スマートミラーで少しでも気になったものを多く試してもらい、その中でもよさそうだと感じたものを実際に手に取ってもらうように店員が働きかけをするというのが必要になってくるのではないでしょうか。

 

導入事例

calif

アパレル業界でスマートミラーを導入しているのは、2019年に渋谷PARCO内にオープンした、MILKFED.X-girlとい¬った有名ブランドを取り扱うセレクトショップのcalif渋谷PARCO店です。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000124.000018225.html

この店舗で使用されているFXMIRRORは、映し出された自分の姿に3D情報化された服をフィッティングさせるだけではなく、髪型まで変えられるようになっています。髪型が違うと似合う服のスタイルも変わってくるので、顧客は髪型まで合わせたトータルコーディネートで服や小物を選ぶことができるようになり、購買意欲の促進につながると考えられます。

Maison KOSÉ

コスメ業界では、コーセーのコンセプトストアであるMaison KOSÉで導入されています。

https://www.kose.co.jp/company/ja/content/uploads/2019/12/191206.pdf

この店舗では、目に留まりやすい位置にミラーを設置することで、使用率を上げることに成功しています。また、ここで使用されているスマートミラーには肌年齢の計測など、数値化機能が多く搭載され、カウンセリングの役割を担うことができています。このコンセプトストアでは、スキンケア用品も取り扱っているので肌年齢やどういったところにトラブルがあるかを測定して見せることで、顧客が必要としている商品に出会いやすくなっています。機械での測定自体は前々からあった技術ですが、スマートミラーひとつでそれらの情報が表示できれば店舗スタッフが複雑な操作をする必要も減り、濃厚接触のリスクも低減できます。そして、スマートミラーの情報を基に自分自身に合ったスキンケアが選べるようになれば、顧客の悩みを解決することにより寄り添うことが可能になるのではないでしょうか。

 

顧客に様々な新しさを提供できる可能性を秘めた技術

スマートミラーは国内ではまだ認知度が低く、小売業や他業界ともまだ強い結びつきを得ていません。そのため、現状は真新しい技術として捉えられるでしょう。しかし、その真新しさが顧客の興味を惹いてリアル店舗へ足を運ぶ理由となりえます。実際に、アパレルとコスメ業界ではすでに導入されている事例もあり、認知が広まるのも時間の問題と考えられます。
昨今の新型コロナウイルスにより、リアル店舗での売上は落ち、その分ECでの購買が注目され始めています。今後、リアル店舗で売上を回復させるためには、リアル店舗ならではの顧客体験が必要となります。なぜなら、これまでどおりのただモノを売る場所なのであれば、利便性の高いECに負けるからです。コロナ対策をしながら顧客に新しい顧客体験を提供する。そのような取り組みをする上でスマートミラーは要望にマッチした技術といえるのではないでしょうか。顧客自身が新たな一面に気づいたり、顧客に対し新しい体験を提供することができる、それがスマートミラーが小売業界における期待の技術となり得る要因なのだと考えます。

 

【参考】

熊谷菜海

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/プログラマー。得意分野はRPA