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【実践事例】リアルからこそ生まれるブランドストーリー

※この記事は、【【実践事例】カウンセリングのオンライン化によって拓けた可能性】の連載記事となっております。こちらを読んでいない方は、ぜひお読みください。

 

ithのはじまりは吉祥寺の小さなアトリエ

オーダーメイドのブライダルジュエリー工房「ith」は、吉祥寺にある、一人の女性職人の小さな工房(以下、アトリエ)から始まりました。この女性職人が現ith代表の高橋であり、アーツアンドクラフツ代表である宮崎との出会いをきっかけとし、そこから全国8店舗の規模へと発展するに至りました。

「一人の女性職人から始まったジュエリー工房」というithの世界観は、すべてこの吉祥寺のアトリエから誕生しました。この世界観は事業が始まってから今まで基本的に変わることなく、私たちithというブランドに関わる人すべての考え方や行動の源になっています。

ithではお客様の接客を行うスタッフをつくり手と呼び、原則的にお客様専任の担当制にしています。

これはもともと高橋がお客様とお話をしてつくる内容を決め、自分自身で制作し納品する、という一連の流れすべてを全て一人で担当していたから、という背景に基づいています。

 

一人の女性職人のアトリエからはじまったから、お客様に寄り添うオーダーメイドにこだわる。

一人の女性職人のアトリエからはじまったから、今でも自社工房でものづくりをする。

一人の女性職人のアトリエからはじまったから、・・・・

 

「一人の女性職人のアトリエ」という原点が、ほぼすべての行動や取り組みの枕詞として機能しているということです。

▲高橋が吉祥寺時代に使っていた彫金机。すべてはここから始まりました。

 

世界観の背景にある文脈

ithの背景にあるストリートカルチャー

このようにithのもととなる世界観は事業開始当初から変わっていません。実際の経緯や出来事から導き出した世界観ではありますが、同時に世の中の流れ、文脈といったものも意識したものになっています。

最初にithという事業をどのように展開すべきかを考えた際、私は世の流れや人々の大きな意識のなかから特に2つの要素に注視しました。一つは、自分らしいものやオリジナルのものが欲しいという消費者のニーズがますます高まるであろうということ。もう一つは世の中全体がカジュアル化するという風潮が進んでいるということです。

それぞれを少し詳しくお伝えすると、前者はいわゆる高級なフルオーダーでなく、ちょっとした部分で自分らしくアレンジしたり、カスタマイズしたりして自分らしく楽しむ、というやり方が、技術の進化と共により一般化しつつあるということ。

後者は、アパレル業界などで顕著ですが、いわゆる高級で、オーセンティックなブランドであってもストリートカルチャーの影響を受けて、あえて着崩したりスポーティなテイストを加えたりという流れがメインストリームとなってきているということ。

ジュエリーを作って売るなかで自分たちができることを突きつめて考えたとき、自分たちの強みを活かせる大きな社会的流れとしてこのふたつの要素を意識して色々なものを組み立てしたということです。

様々なところでストーリーが重要であるということが喧伝されていて、私自身もその事自体に異論はありませんが、特に大事なことはそのストーリーが世の中の大きな流れ、文脈に乗っかっているかということだと考えています。

「文脈に乗る」というのは事業としてはマーケティング的な側面もありますが、もっと大きく捉えると社会のニーズや要請に沿っているのかということになります。つまり世の中に必然性があってこそストーリーというものが機能するはずで、自分たちの成り立ちや思いを一方的に表現するだけではだめだということなのではないかと思っています。

 

少し脱線しましたが、上記のような文脈を意識しながら導きだした事業の売りポイントが、「親しみやすく、わかりやすいオーダーメイド」「リラックスしてゆっくり楽しめる指輪作り」という二点です。

一般的にジュエリーというものには、高級なもの、特別なもの、というイメージが付きまといます。むしろそう見せることによって自分たちの価値を高めることで事業を成り立たせているともいえます。けれども、高級だからこそ店に入りにくい、気軽に相談しながらお買い物しにくい、こういう印象をもつ方も少なくないと思います。

幸か不幸か当時の私たちにはたいした事業資金もなく、立派な構えの店を出すこともできず、綺麗に着飾った店員を雇うこともできない。あるのは、どちらかというと朴訥な女性職人と小さな、けれどもどこか居心地のよいアトリエだけでした。

居心地が良い場所で、あまり売り込みされなさそうな(笑)信頼感のある女性職人が、お客さんの話をたっぷり聞いて自分の腕を奮って、そのお客様だけの指輪をつくる。

最初の段階ではすべてが明確でなかったにせよ、大きな文脈、差別化要素、具体的な提供価値など、事業戦略に必要な要素がある程度押さえられていたことが、その後の発展、成長に伴う苦境を乗り越えていくうえで大きな意味をもっていたと思います。

店舗立地

ithのアトリエは現在、全国に8店舗展開しています。それぞれは最寄り駅から5~10分歩いた先の路地裏などにあることが多いですが、御察しのとおり隠れ家のような特別感を演出するため路地裏や上層階に出店しています。駅から店舗に至るまでにどういう街のつくりになっているか、どういう景色が見られるのか、そういったところも考えながら出店地を選んでいきます。

来店するまでのドキドキワクワク感、来店後の安心感、つくり手と共に作り上げる期待感をお客様に与えられるような配慮は、アトリエに足を運んでいただく前から始まっています。

集客

アトリエの立地が裏路地中心となると駅前などの好立地と比べ集客が難しいというのは否定できません。そこを補うのがインターネットやスマートフォンの存在です。SEO対策については事業開始当初から力を入れてきました。

様々な手法があり環境変動も激しい領域であることから、今でも日々改善努力に励んでいるオンラインの集客対策ですが、初期の頃から継続的に取り組んでいるのがコンテンツによる情報発信です。

具体的には、つくり手によるスタッフブログがコンテンツの柱になるのですが、ithがスタートしてから6年あまり継続的に記事を書き続けています。最初は代表の高橋がコツコツと続けていましたが、今では約50人近い店舗スタッフ(つくり手)全員がお客様とのやりとりに基づいた記事をアップしています。

実際に購入されたお客様がどのような思いで来店され、どのようなオーダーメイドの指輪を作り上げたのかについて、そのお客様を担当したつくり手自身がストーリー形式で書き上げていきます。「お客様自身のストーリーを指輪に反映させていくオーダーメイド」を大事にしているithですが、ブログというかたちで真実の瞬間を可視化する役割も担っています。

クラフト感もありつつ、結婚指輪らしさも指元に与えてくれる槌目模様のプラチナ仕立て

現在各アトリエで1週間に2本ずつブログを作成しており、月30本以上のブログが掲載されていますが、もちろんこの裏側にはマーケティングチームの存在があり、毎回ブログの精査や管理、閲覧数の分析までをしっかり行うことでつくり手との情報共有を図っています。また、ithの世界観を多くの人に知ってもらうためには広告をうつことも必要となります。いつどこに何をどのようにいくらかけて打ち出すのかという管理もこのチームが行っており、世界観を表現するために日々尽力しています。

 

ブランディングにとって大事なのは好かれること

世界観の構築、つまりブランディングは一朝一夕でなせるものではありません。お客様からの評判や丁寧な接客、そして誠実なものづくりなど、関わる人間ひとりひとりの努力の積み重ねにより確立されていきますが、そのうえで認知してもらって、そして結果として結局お客様から「好いてもらう」ということがブランドにとって極めて重要になります。

お客様から好いてもらうということの前提として、働いている人間からも好かれるということが重要になります。なぜなら、お客様への価値を作っているスタッフがそのブランドを愛していなければ、いくら美辞麗句を並べようともそれはお客様にも伝わります。接客時の態度や伝え方、物作りに対するちょっとしたこだわり。働く人間のちょっとずつの努力は自らが関わっているブランドに対する愛情によって大きく左右されるからです。

ithでも社内研修にかなり力を入れています。ロールプレイングや座学などを通して常に接客の初心を思い出すようにし、みんなでithが大事にしている気持ちやその実現方法について共通認識を持つようにしています。

今回の新型コロナウイルス対策として飛沫防止シートを接客時設置するようにしました。安全面に優先することはありませんが、そのなかでも世界観の表現や接客の質を変えないようにという心がけを保ちながらと思っています。

 

情熱と理論が補完しあうことでブランドは成り立つ

ithという存在は、世界観のもと日々続けてきた小さな積み重ねがあってこそのものです。そして世界観の背景となる文脈に基づいた戦略やマーケティング、オペレーションというものがその実践を支えています。

お客様に思いを伝える情熱、その情熱を背後で支える理論。実際に直接お客様と接するつくり手だけでなく、それを裏で支えているマーケティングチームや戦略チームの存在がお互いを補完し合うことでithというブランドは成り立っています。

これからもこの世界観のもと、ithならではの顧客体験を模索し続けていきます。

 

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。

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