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2020.08.04

コロナ禍に店舗経営を支える「セルフレジ」の利便性と落とし穴

需要が拡大するセルフレジ

スーパーに買い物に行ったら、誰とも会話することなく精算を終えることが増えた、という方は多いのではないでしょうか。ここ数年、セルフレジを導入する小売店が増加しています。

新型コロナウイルス拡大の影響で、様々な非接触型のサービスが世の中に広まりつつあります。セルフレジに関してはその有用性は元々別の部分にあり活用されていましたが、コロナ禍の時代にマッチしたメリットから、今後さらに様々な業界で導入が加速し、セルフレジでの買い物が当たり前となる時代が近づいてきていると考えられます。しかしながら、事業者においては店舗ごとの課題や担保できるコスト等を加味した上で、目的を明確にして導入判断をすることが重要です。

様々な業態で導入が進むセルフレジですが、本記事では、消費者のセルフレジ利用経験が圧倒的に多いスーパーマーケットを中心に、導入メリット・課題等を、事例を交えて紹介します。

 

セルフレジは店舗経営を多方面から支えてくれる

顧客にも事業者にも便利そうなイメージのあるセルフレジですが、特に事業者にとっては店舗経営を強く支えてくれる存在です。

導入メリットの大きいところでは「人件費の削減」、「回転率の向上」、そして「非接触型店舗経営の実現」でしょう。万が一店舗でクラスターが発生してしまえば、感染拡大の一要因を作ってしまうだけでなく、店舗も休業を余儀なくされることも考えられます。健全で安全な経営を支えてくれる存在として、セルフレジは意義を成します。

そもそもセルフレジとは何か

セルフレジとは、その名の通り顧客自身で精算するレジのことを指します。1997年ごろにアメリカで導入され、2003年に日本に登場しました。大きく「フルセルフレジ」と「セミセルフレジ」の2種類に分類されます。

 

近年の導入動向としては、セミセルフレジの増加が顕著

日本スーパーマーケット協会のアンケート調査によると、フルセルフレジよりもセミセルフレジの導入が年々拡大していることがわかります。

セミセルフレジが増加する理由としては、より回転率を上げた経営が可能であることが挙げられます。フルセルフレジでは、バーコード読み取り作業に慣れていない顧客がそれを行うため時間短縮が見込みづらく、また会計時に値段を操作できないために価格改訂の度に都度バーコードの貼り直しを行う手間も残り、これらを解消できるセミセルフレジと比較すると効果が出にくい仕組みであるといえます。

ただしながら、コロナ禍の時代においてはフルセルフレジによる非接触型の経営がもたらすメリットが大きく、「従業員と顧客の接触機会が一切なくても精算できる」という特有のメリットを手に入れました。さらに20207月以降、レジ袋有料化により発生している顧客へ都度レジ袋購入要否を確認しなければならない等の負担を、顧客自身に任せることもできます。これらが追い風となり、今後フルセルフレジの需要が拡大していくことも十分に考えられます。

コスト面における人件費の削減、及び環境面におけるコロナ対策はフルセルフレジに、経営面における回転率の向上はセミセルフレジに軍配が上がります。その他、前述したフルセルフレジのレジ袋有料化対策や、セミセルフレジのレジ待ち時間の短縮などそれぞれ独自の大きなメリットもありますので、店舗課題に適したレジ形態を選択することが重要です。

 

セルフレジのメリットを活かした導入事例

カスミ筑波大学店の事例にみる導入判断のポイント

「カスミ筑波大学店」(株式会社カスミ)では、店舗の構造上通常レジが3台しか設置できず、行列ができることで充分な接客が行えないことを課題と考えていました。来店する客層を大学内店舗のため弁当や飲み物を購入する学生が中心で、購買が早いセルフレジの操作に比較的慣れている層であることを仮説として立て、セルフレジの導入に踏み切りました。それにより省スペース化も実現し、セルフレジを通常レジの3倍となる9台設置しました。

結果、顧客からは「レジがとにかく早い」、「買った物を人に見られないで済む」といった喜びの声が多く届いたそうです。従業員からは、「カウンターを挟む接客よりも防犯対策しやすい」、「現金を扱うリスクが減った」といった意見もあり、副産物的なメリットも得られたようです。

https://mainichi.jp/articles/20181208/kei/00s/00s/009000c

イオンリテールの事例にみる新時代スマホ会計セルフレジの利便性

イオンリテール株式会社では、20203月より首都圏の店舗を中心に、スマートフォンで会計ができるフルセルフレジ「どこでもレジ レジゴ―」を本格展開しています。

顧客は貸し出し用の専用スマートフォンを手に取り、購入する商品のバーコードを自身で都度スキャンして専用レジで会計する、まさに新時代の買い物体験を提供するフルセルフレジの仕組みです。

「どこでもレジ」と謳っている通り、バーコードの読み取りは商品を手に取る際に行うため、フルセルフレジでありながらレジ待ち時間が大きく短縮できる点が強みで、フルセルフレジとセミセルフレジのメリットを掛け合わせたような仕組みであるといえます。2019年の実験段階から客数が5%向上したことで本格展開を開始しており、その利便性は集客結果にも表れています。今後、割引情報の配信、購入履歴に関連する料理動画レシピ配信、さらには顧客のスマートフォンでも購買可能になる専用アプリ等も導入予定とのことで、利便性はさらに拡大していきます。

しかしながら、スマートフォンを手軽に扱うことができない方に対してのフォロー体制は、通常のフルセルフレジよりもさらに手厚くする必要があり、また、買い物がスマートフォン依存となるため、エラー発生時の対応体制の構築もより重要で、こういった点は本事例特有の課題といえるでしょう。

https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2002/27/news090.html

 

セルフレジ導入を判断する際の落とし穴

人件費削減でシステム導入費用の採算を取ろうとすることはリスクが高い

前述のように、セルフレジを導入して成功している事例は多くありますが、導入には当然巨額のコストがかかります。仮に店舗Aが、より人件費削減効果が見込みやすいフルセルフレジを導入して浮いた人員分を削減するとした場合に、下記条件下における2030年までのセルフレジ導入有無による累計人件費を比較しました。

・現在の人件費(2019 年スーパーマーケット年次統計調査報告書」を参考に仮設定)

 - 時給:900

 - 勤務時間:8時間/日×20/月(フルタイムと仮定)

・削減想定人件費(前述の「カスミ筑波大学店」の導入事例に基づき仮設定)

 - 導入台数:9

 - 配置人数:2人分(従業員を3人から1人に)削減

数年のスパンで見ると徐々に開きが出ており、削減が図れることがわかります。では、削減した人件費とシステムコストを比較してみるとどうでしょうか。レジチョイスのセルフレジに関する記事によると「数百万円の導入費用が必要となる」とのことから、イニシャルコストは100万円、300万円、500万円の3パターンを想定します。ランニングコスト(保守費用)は目安としてイニシャルコストの約15%といわれているため、それぞれ15万円、45万円、75万円と想定します。先ほどのグラフの結果を元に、削減できる人件費の2030年までの累計を算出した上で比較してみます。

イニシャルコストの下限100万円であれば、2024年まで投資額合計はおよそ2,400万円となりその後少しつづプラスに転じますが、回収が完了するのは2028年になる計算です。イニシャルコストが300万円、500万円の場合に至ってはさらに先になります。つまり、人件費を削減できてもシステムコストの採算を取ることに対する期待はリスクが高いといえます。なお、実際のカスミ筑波大学店においては、人員が浮いた分はコスト削減よりも、接客に充分な時間を割く等の業務転換に充てて品質向上に寄与しているようです。

今回はひとつの実例に基づいた導入台数、配置変更人数から試算したに過ぎず、実際は店舗により異なりますので一概には言えません。しかしながら、人件費削減を目的として導入するよりも、配置転換等を含めたその他メリットに目を向けて導入の是非を判断することが望ましいといえるでしょう。

 

また、導入する際はコスト面だけでなく、導入後の業務フロー変更や、そのためのリソース確保などさまざまな課題に対応する必要があります。特にフルセルフレジに関しては、全ての会計フェーズを顧客が行う分、トラブルの発生頻度が高くなることが想定できますので、店舗ごとに考え得るリスクを洗い出し、事前に対策を整えておくことが重要です。

 

セルフレジシステムの紹介

東芝テック:国内最大のレジメーカーが提供「SemiSelf(セミセルフ)

国内最大のレジメーカーである東芝テック株式会社分担制チェックアウトシステム「SemiSelf(セミセルフ)」は、従業員用の「登録機AS-910」と、顧客用の「会計機SS-920」に分かれており、それぞれ利用者の利便性を追求したつくりとなっている点が強みです。

登録機は、登録スペースを広く確保した作りで従業員の利用満足度を高め、最適な会計機へのデータ自動転送を実現します。また、レシート表示を踏襲した客面モニタにより、顧客に対する利便性も高めています。会計機は電子マネーにも対応、また硬貨収納枚数を超えても停止しない作りになっているため、硬貨回収の手間が省けます。

なお、東芝テック株式会社では、データ転送自動選択、及び硬貨オーバーフローに関する特許を複数取得しています。

https://www.toshibatec.co.jp/products/semiself_ss900.html

寺岡精工:コロナ禍に適したソリューション「HappySelf(ハッピーセルフ)」

株式会社寺岡精工は、コロナ禍における三密解消ソリューションを提唱しており、HappySelf」もそのうちの一つです。セミセルフレジ、フルセルフレジ、セルフ精算機の3つの機能を搭載しており、経営スタイルに合わせてフル・セミを柔軟に切り替えることが可能です。コロナ禍ではフルセルフレジにして従業員と顧客の接触を防ぎ、収束後にはセミセルフレジで回転率を向上させる、といったような扱いが一度の導入で可能な点は大きな強みといえるでしょう。

https://www.teraokaseiko.com/jp/products/PRD00337/

 

目的を明確にした導入こそ店舗の最大の味方となる

本記事では、セルフレジについて事例を交えて紹介しました。セルフレジはコロナ禍の今まさに時代にマッチした経営形態をつくり、今後もセルフレジ(特にセミセルフレジ)の導入は拡大していくことが想定されます。スーパーマーケットに限らず、飲食店、コンビニ、レジャー施設等様々な分野で導入が進められていることから、消費者にとってもセルフレジが当たり前という感覚が身についてくる時代も遠くないうちにやってくるかもしれません。

ただし、今後導入を検討する事業者においては、店舗課題やコストを考慮して目的を明確にすることが重要です。コロナ対策を強化したいのか、もしくは人手不足を解消したいのか、また長期的に見てコストは賄えるのか等、様々な視点から判断し、本当の意味で心強い味方としてセルフレジを活用することが、あるべき姿だといえるでしょう。

 

【参考】

Intage 知る Gallery「セルフレジはどこまで浸透したのか?~導入・利用実態と、消費者が感じるメリット・デメリット~」

デジマケ・チャンネル「小売店がセルフレジを導入するメリット・デメリットを解説!」

リードプラス株式会社 デジタルトランスフォーメーションチャンネル「小売事業者が知っておきたい無人レジとセルフレジ」

一般社団法人 全国スーパーマーケット協会「年次統計調査」

レジチョイス「人件費の削減だけが目的ならセルフレジの導入をやめた方が良い理由とは」

株式会社 寺岡精工HPHappySelf 導入事例:株式会社カスミ」

日本食糧新聞社「カスミ、筑波大学店で完全キャッシュレス実験 レジ待ち解消」

ITmedia「イオン、レジに並ばず買い物ができる「レジゴー」開始 専用スマホで会計」

流通ニュース「イオン/スマホでスキャン・決済できる「レジゴー」客数5%増も」

東芝テック株式会社HP「分担制チェックアウトシステムSemiSelf(セミセルフ)」

株式会社 寺岡精工HPHappySelf

川上雄也

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/プログラマー。得意分野は業務コンサルティング。