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経営企画の進め方とは

経営企画を実施する上での課題

 経営企画室は本来、「経営陣の意向を汲み取りながら会社の中長期的な経営方針を定め、ゴールまでのプランを立案すること」を目的とすべきであり、主に①中期経営計画の策定、②単年度の予算編成、③特命プロジェクトの推進の3つの役割を担うことが求められています(前出のブログにて経営企画室の役割について詳述しておりますのでご参照いただけますと幸いです)。

 一方で実際に経営企画を実施するにあたって、具体的に何をすればよいのかが明確になっていない方が多いのではないでしょうか。そこで本稿では、経営企画の進め方について、実際に弊社が携わった事例を参考に、どのようにKSFを特定し解決に向けたアクションプランを策定するのかについて紹介していきます

 

事例概要

 弊社はグローバルで産業用機械の製造・販売を行っているA社の経営企画の策定の支援を行いました。A社は従業員数が数百人、売上高が100億円以上の規模で事業を展開していました。主な仕入先は産業機械部品メーカーであり、製造に必要な部品を仕入れ、産業用機械を製造し、販売代理店・卸売企業への販売を行っていました。A社は産業用機械製造以外にも産業機械製造における先端技術の開発を行っておりましたが、売上の90%以上は産業用機械製造によるものでした。経営企画を行うにあたっての背景として、1990年代後半に売上がピークに達した後、下落傾向にありましたが、2000年代中盤に再度1990年後半と同水準まで回復しました。しかし、リーマンショックによって大幅に下落した後、それ以降は増減を繰り返しながら全体として下落傾向にありました。市場環境としては、安価を売りにした中国メーカーの台頭によってシェアが縮小傾向にあるほか、他の企業は業務のスリム化等を図り経営を維持している状況でした。現状を打開するため、売上高を1990年代後半と同水準までV字回復、業界のトップシェアの再獲得を目指し、経営企画を実施する運びとなりました。

経営企画実施の手順

 本稿で扱っている事例については、下記のステップで経営企画を行いました。

  1. 現状分析
  2. ヒアリング
  3. アクションプランの策定

 以下にそれぞれのステップで実施した内容について詳述していきます。

 

現状分析

 現状分析を行う目的は、内部・外部環境について分析し、事業のKSFKey Success Factor)を導出し、今後企業で検討すべき戦略の方向性を決定することにあります。KSFを導出するにあたっては主に3Cの要素(市場・顧客:Customer、競合:Competitor、自社:Company)について分析し、市場において自社がどのような立ち位置にあり、何を強み・弱みとしているかについて分析します。今回取り上げる事例では、現状分析において、市場環境分析、顧客分析、競合分析の3つの分析を実施しましたので以下それぞれの詳細について述べていきます。

 

 

 

現状分析を行うにあたっての留意点

 現状分析を行う前に留意すべき点としては、市場のセグメント分けです。企業が提供している製品・サービスはそれぞれで種類が異なるほか、ターゲットとする顧客層が異なっていることがほとんどです。今回の事例においても、産業用機械といっても機種が複数存在するほか、取引先が機械を使用して製造する製品等の用途が異なることからこれらを基に対象市場のセグメント分けを行い、分析を実施しました。

 

市場環境分析

 市場環境分析を行う目的としては、事業を展開するにあたってどの市場が有望であるかについて検証することにあります。そのため、主な論点として、市場はどのようにセグメント化され、各セグメントの市場規模や成長性はどの程度か、各市場でどのような期待、ニーズと課題があり、製品を求めているのかが挙げられます。自国内だけでなく海外でも事業展開を行っている場合は、国ごとに市場規模や成長率を算出するほか、市場の動向について分析する必要があります。これらを最終的に比較することによって、どの国でどの製品・サービスを注力して展開していくべきであるかについて、定量的に比較・検証することができます。

 今回の事例においては、国内外で事業を展開していることから、国別で市場規模、成長率、市場の動向について情報収集を行いました。これらの情報については販売実績および経営層・管理職層へのインタビューを基に推定しました。市場規模および成長率については、一般的には調査会社が公表している市場レポートを参考にするほか、平均単価や顧客数を仮置きした上で推定する方法等が用いられています。収集した情報は、どこの市場が有望であるかを示すために最終的に整理します。

 市場規模については、まず販売した機械を使用して製造する最終製品とA社が製造している産業用機械の機種で市場セグメントを分類し、それぞれの市場において、市場規模が大きく有望と思われる国を整理しました。また、最終製品についてはハイエンド向け、ローエンド向けに細分化しているほかそれぞれの市場セグメントにおける想定ニーズについても分析し、市場規模の観点から有望であると考えられる国にはどのようなニーズがあるのかまで分析しました。結果として、欧米をはじめとした先進国では、ハイエンド向けの機種、アジア諸国では大量生産に適したローエンド向けの機種の市場が有望であると推定しました。

 

 成長率については、縦軸に成長率、横軸に市場規模を設定したマトリクスを作成し、その上に各国をマッピングする形で収集した情報の整理を行いました。また、各市場におけるニーズに関しての分析結果を組み合わせることで成長率の観点から有望と考えられる市場とその市場における想定ニーズについて分析しました。結果として、エントリーモデル、廉価版を求めるニーズが大きい市場、アフターサービスの充実を求めるニーズが大きい市場、新規参入者が多くハイエンドモデルに対するニーズが大きい市場が有望であると推定しました。

 

 

 

顧客分析

 続いて顧客分析を行う目的としては、ターゲットをどの顧客に設定するべきか、ターゲット顧客に対してどのようにアプローチしていくべきかについて検証することにあります。そのため、主な論点としては、主要顧客はどこであるか、主要顧客はどのような戦略・課題のもとで事業に取り組んでいるのか等が挙げられます。

 今回の事例においては、国・販売代理店・製品それぞれで今後注力すべき顧客について整理を行いました。整理を行う上で縦軸に貢献度、横軸にA社内での売上シェアを設定したマトリクスを作成し、それぞれの国、販売代理店、製品をマトリクス上にマッピングを行いました。貢献度ついては、過去4年間の間に各国、販売代理店、製品の売上高の前年と比較した際の成長率がA社全体の同値を上回った回数で評価を行いました。評価については、主にA社内での売上シェアが大きくくないものの、貢献度が高い国・販売代理店・製品は有望候補、A社内での売上シェアが大きいが貢献度が低い国・販売代理店・製品は改善すべきものとし、今後注力すべき顧客について整理を行いました。

 

競合分析

 最後に競合分析を行う目的としては、事業において競争性を高める、競争優位性を築くために何をすべきかについて検証することにあります。そのため、主な論点としては、自社の強み・弱みは何か、主要競合はどこで、どのような戦略、取り組みを図っており、どのような強み・弱みを有しているのかが挙げられます。

 今回の事例においては、まず経営層、管理職層へのヒアリングを通して、競合の特定を行いました。次に競合の売上、販売機種、主要販売地域、特徴を整理し、競合の商品・販売戦略について分析を行ったところ、A社は欧米が販売台数の大部分を占めているのに対し、競合企業はアジア、中南米、アフリカが販売台数の大部分を占めているという結果になりました。

 

ヒアリング

 現状分析を行った後はヒアリングを実施します。ヒアリングの目的は、経営層側、管理職側が感じている課題やこれまでの取り組みを洗い出し、課題の整理や解決に向けたアプローチの方向性を探索することにあります。現状分析を通して、KSFの導出を行いましたが、実際に企業の成長へと結びつけるには具体的に何を実行していくかが重要となります。そこで、ヒアリングを実施し、現場レベルではどのような点が課題となっているかについて確認し、それらをアクションプランに落とし込むことで経営企画を絵に描いた餅ではなく、実行性の高いものに仕上げていきます。

 ヒアリング結果はイシューリストにまとめ課題の整理を行うとともに、それぞれの課題に対する取り組みの方向性まで整理します。まとめ方については、まずヒアリングにて挙がった課題を列挙します。

 

 次に列挙した課題について、類似しているものをグルーピングし、整理します。整理した後は、それぞれの課題に対するイシューは何かについて検討し、記載していきます。検討したイシューについては、下記に示す例の様に分類し、解決に向けた方向性を決定します。

 

 

 今回の事例においては、主に経営層、管理職層を対象にヒアリングを実施しました。経営層に対しては、商品・販売戦略といった事業戦略に関連する項目や市場の動向や競合について、それぞれ課題と感じていることを中心にヒアリング項目を設定しました。実際にヒアリングでは、Pull型の営業ではなく、Push型の営業に切り替える必要がある等の経営層の視座から見た課題が浮き彫りになりました。管理職層に対しては、主に現場レベルでどのようなことが課題となっているかを聴取しました。ヒアリングでは、ある部署では取り組むべきことが明確になっておらず何をすべきか模索しながら業務を行っている状況等の経営層のヒアリング結果よりも現場レベルに近い課題感が見えてきました。

 ヒアリングでは、特定のレイヤーだけでなく、複数のレイヤーの方に対して、実施することが重要です。特定のレイヤーが感じている課題感を全体の課題と認識すると、課題の本質をつかむことができないためです。例えば、経営層だけにヒアリングした場合、経営層が感じている課題を解決するにあたって、現場では何がボトルネックになっているのかが曖昧なままになってしまったり、より現場に近い管理職層だけにヒアリングした場合は、管理職層が感じている課題が実際に事業戦略を考える上でクリティカルなものであるかといったことが曖昧となってしまったりすることが考えられます。

アクションプランの策定

 最後に現状分析、ヒアリングを通して明確になった課題に対するアクションプランの策定を行います。まず、前段でヒアリング結果をまとめる形で作成したイシューリストにおける各テーマのアクションプランの具体化から実施します。アクションプランを策定する際に留意する点は3つあります。

 1つ目は、目的・期待効果を示すことです。アクションプラン実施に際して、経営層や管理職層の合意形成を図るために何を目的とするのか、どういう効果が期待できるのか(定量的に示すことが望ましい)を示す必要があります。

 2つ目は実施事項を各ステップに細分化することです。アクションプランを実行に移しやすいようにステップを細分化するほか、各ステップで実施する項目について詳細に示しておく必要があります。

 3つ目は実施体制を明確にすることです。どの部署が中心となって行うのか、どの部署と連携して実行するのかが明確になっていない場合、アクションプランを策定しても実行されない可能性があります。そのため、特に実施主体を明確に示しておく必要があります。

 

 アクションプランの策定を行った後は、各施策の実施に際しての優先順位付けを行います。優先順位付けを行う目的としては、より大きな効果インパクトが望むことができ、かつ実行可能性が高く、かつ実行におけるリスクが小さいアクションを優先的に行うことで経営企画において設定した期間内に目標・KPI等の達成を図ることにあります。優先順位付けを行う上での主な観点として4つあります。

 1つ目は、効果インパクト(金額)は大きいか?です。アクションを実行する上で、施策を実行した際に、より高い効果が見込まれるものを優先的に行う必要があります。そのため、金額効果が低い戦略については、深掘検討については劣後させます。

 2つ目は、前提となる外部環境の実現性は高いか?です。各アクションについては、市場環境分析における、市場の動向を踏まえて施策の検討を行っているため、将来的に生じる可能性が低い事項に関連するアクションについては検討を劣後させます。

 3つ目は、実行の容易性は高いか?です。アクションプランを実行するにあたり、経営企画で設定した期間内に目標・KPI等を達成することが求められます。そのため、「人員」「投資」等の観点でリードタイムがかかる、実現へのハードルが高いものについては検討を劣後させます。

 4つ目は、新たに発生する事業リスクは低いか?です。特に新規に参入する場合などは、法規制に抵触するリスクや申請などのリードタイムが発生する場合があります。そのため、法規制への抵触リスクが高いものや、オペレーションリスク(情報漏洩等)等が増大する可能性があるものは検討を劣後させます。

 

おわりに

 本稿では、経営企画の実際の進め方について弊社が携わった事例を参考にしながら説明してきました。企業の経営者、また経営企画を担当されている方にとって参考になりましたら幸いです。また、弊社では企業様の経営企画をご支援するサービスを提供しておりますので、興味がある方はこちらのページをご参照ください。

 

安田 武蔵

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト