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2023.04.21

デジタルマーケティングに欠かせない”事業や課題の理解”とは何か

デジタルの浸透

昨今、デジタルテクノロジー、デジタルトランスフォーメーション等、デジタルという言葉を耳にする機会が増えてきました。行政でも新型コロナウイルスの影響により、行政サービス・民間のデジタル化の遅れから2021年にデジタル庁を創設しました。また、Webマーケティングを行ってきた企業がデジタルマーケティングに移行し、利益の増大を図るといった機会も増えてきています。このデジタルマーケティングを成功させるには「事業や課題の理解」が不可欠です。本稿は、デジタルマーケティング運用における「事業や課題の理解」必要性や運用方法について、解説していきます。

デジタルマーケティングの全体像

デジタルマーケティングについてこれから述べていきますが、全体像に関する詳細内容は、別の記事で取り上げているため、詳しくはこちらのブログをお読みください。

デジタルマーケティングの全体像について軽く触れさせていただくと、BtoB領域におけるデジタルマーケティングの全体像としては3つのステップが存在します。製品を知らない人に様々な媒体を利用して認知してもらう「リードジェネレーション」、製品を知った見込み顧客に対して、より詳しい情報を提供して関心を高める「リードナーチャリング」、見込み顧客と商談を行う「フィールドセールス」です。デジタルマーケティングでは、このリードジェネレーションにおけるターゲティングが重要です。このターゲティングを行うためにも「事業や課題の理解」を行うことは必要不可欠です。では、なぜ「事業や課題の理解」が必要となるのでしょうか?まず初めに企業の多くが行っているWebマーケティングと今回のメインテーマであるデジタルマーケティングの違いから順を追って解説していきます。

デジタルマーケティングとWebマーケティングの違い

デジタルマーケティング

 デジタルマーケティングとは、様々なデジタルチャネル・マーケティングデータ・テクノロジーを使用して、広域にわたる顧客に対して行うマーケティングです。複数のチャネルから顧客へアプローチが可能なため、カスタマージャーニー全体を意識する必要があります。また、得られる顧客データを蓄積・管理を行いAI等の活用が求められます。必要なケイパビリティとして、施策の立案(広告・販促、チャネル・価格・製品)や戦略の立案(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)等が挙げられます。

Webマーケティング

一方、WebマーケティングはWebを起点としたマーケティング手法であり、顧客との接点は主に検索サイト上です。広告から自社Webサイトへの誘導を行い、物販・サービスの申し込みなどを目的としています。ユーザーがWeb内でどのページから来たのか、どのページが読まれたのか等の詳細情報をデータで定量的に確認することが可能です。ケイパビリティとして、施策立案(広告・販促、チャネル)等があります。

このことから、Webマーケティングでは、施策立案の広告・販促、チャネルのみを行うのに対し、デジタルマーケティングは、戦略立案までを踏まえ施策立案全般を行うため、求められている機能が異なります。この点からデジタルマーケティングの運営におけるハードルの高さ及びデジタルマーケティングを行える人材はかなり限られていることがわかります。

さらに顧客ニーズの変化に伴いデジタルを介した顧客接点の創出の重要性を考慮するとWebマーケティングのみでは利益創出は今後困難になっていくと思われるため、デジタルマーケティングを行う必要があります。

また、従来では、他社が成功している方法から成功パターンを分析し、同じパターンを使用することが一般的となっています。しかし、この方法は、他社の成功を前提とした手法であるため、模倣対象を超えるヒットを生み出すことは難しいのです。これはYouTubeにおいても同様のことが言えます。あるYouTuberが投稿したコンテンツがヒット(俗にいうバズる)すると他のYouTuberも同じコンテンツを投稿し、再生数を増やそうとしますが、本家を超えることはまずありません。自身のコンテンツがどのようなものであり、どのユーザーに求められているのかを理解する必要があります。よって誰に、何を、どのよう伝えるか明確化するためにも自社の事業・ビジネス戦略や課題を知る必要があります。

それでは、デジタルマーケティングを行う上で「事業や課題の理解」をしていないとどのようなことが起きるのか、事業理解とマーケティングに一貫性が無い場合の事例をご説明させて頂きます。

デジタルマーケティングにおける事例

A社では、大手不動産会社のWebリニューアル案件を受託していました。既にWebの設計図であるワイヤーフレームは完成している状態でしたが、クライアントがどのような内容をどのユーザーに伝えたいのかを理解しておらず、リニューアル体系の採用理由についてエビデンスが全く無い状態でした。さらにクライアントが業界のどの位置を占めてるか等の分析、及びWeb施策に経営側の事業戦略・課題が落とし込めていなかったのです。途中から参画した弊社が事業戦略・課題を理解から行うためにSWOT分析(Strength:強み、Weakness:弱み、Opportunity:機会、Threat:脅威)等を実施し、競合他社との比較を行いました。すると、HPのリニューアルのみならず、Web、スマートフォンにおける運用形態及び、コンテンツフォーマットの非統一性、サイト内でのアクションの多さ、イベントの内容を訴求できていない等の課題点が浮き彫りになりました。これらを解決策する方法として、サイト経由でCV(conversion)増加を軸とし、サイト内から目的の情報を探しやすい運用形態に変更、各ページのUI/UX(User Interface/User Experience)の改善を軸として、強みを生かしたコンテンツづくりを行うために、事業の理解、強みや享受できるサービスが具体的に伝わるコンテンツ制作と負荷なく運用できる統一フォーマットの整備を実装しました。今回はHPリニューアルが目的であったため、デジタルマーケティングにおける施策の方向性を洗い出し、HPに関する事項を抽出したのです。結果、前回までの運用スタイルからセグメントごとに課題を分け、事業の理解を行い具体的なアクションプランまでの落とし込みWebのリニューアル方針を再検討しCV数は約100件から200件と従来の2倍に増加しました。

広告代理店はWeb広告に関しては知識や経験が豊富ですが、マーケティングに関して深い知識を有していない場合があります。さらに、彼らは、製品の区分に嗜好性や生産地、値段といった項目はマーケティングの要素として考慮していないのです。例えば、ハイブランドの”LUISVUITTON”とリーズナブルな”UNIQLO”の服は同じ服として戦略を練られることがあります。

このようにWeb内をリニューアルすることのみが独り歩きした状態になってしまい、根本の解決策を見出すことができないのです。よって、企業のビジネスモデルや事業戦略・課題を理解することでどのような顧客に何をどのようにアプローチするべきかを明確化し、適切なデジタルマーケティングの運用を行うことが可能です。

事業理解の具体的なアプローチ方法(例)

では「事業や課題の理解」を行うためには具体的にどのようなアプローチ方法は何なのでしょうか?

事業理解を行うためには、以下のようなStepで進めていくことが理想です。

①事業理解・現状分析、②市場の把握(STP分析:Segmentation:市場細分化、Targeting:狙う市場の決定、Positioning:自社の立ち位置の明確化)、③カスタマージャーニーの作成、④Webサイトリニューアルの実施

 サイトリニューアルを行うのであれば、マーケティング部門が担当するケースが多く、事業戦略等を反映させるために、社内における事業戦略を担っている部門と連携してヒアリングを行うことを推奨します。ヒアリング内容については、事業環境の理解、現状分析(市場セグメントの分類、市場規模、成長性、各セグメントの特徴やニーズ等)と主要プレイヤー(該当市場における主要プレイヤーの特徴や近年の取り組み、市場セグメントにおける顧客のKBF:Key Buying Factor)をリサーチ、現状推進しているマーケティング戦略、今後のマーケティング戦略の方向性を把握し、デジタルマーケティング戦略を練ります。また、KGI/KPI(Key Goal Indicator/Key Performance Indicator)指標を管理している部門からどのような目標を定めているかを把握する必要があります。デジタルマーケティングにおけるKPIの設計方法について、こちらの記事がございますのでご参照頂ければと思います。

上記のヒアリング内容から、STP分析を行い、市場の深堀りを行います。可能であれば消費者調査まで行います。消費者調査後、カスタマージャーニーの作成により消費者の感情の起伏をニーズに基づいて作成しペイン(消費者の感情がマイナスとなる部分)の箇所を把握、Webサイトリニューアル等に反映します。上記の方法はあくまでアプローチ方法の一つですので、適宜必要となる情報の追加やアプローチ方法をカスタマイズする必要があります。

以下の図は、経営企画実施の事例を基に作成した、現状分析における論点をまとめたものです。詳細はこちらの記事で紹介しているので参考にしていただければと思います。

 

その他のアプローチ方法

本稿で取り上げた“事業理解における具体的なアプローチ例”とは異なるアプローチ方法をご紹介させて頂きます。

それは、ファンダメンタルズマーケティングとテクニカルマーケティングを掛け合わせたマーケティングによるアプローチを行うことです。ファンダメンタルズマーケティングとは、“商品そのものやユーザーのペルソナ、インサイトを分析してコミュニケーションを設計する”ことです。テクニカルマーケティングとは、“クリック率、遷移率、購入率、キーワードなどの数値分析できるフィードバックデータから顧客とのコミュニケーションを設計する”ことです。従来の成功パターンの分析や、よく使用される他の方法としてヒートマップ、A/Bテストはテクニカルマーケティングに位置しています。

 Webマーケティングの全体像を細分化し、情報収集による3C分析(Customer:市場・顧客、Company:自社、Competitor:競合)より仮説の立案、コンセプトワーク(誰に何を伝えるか、どんなターゲットユーザーに対してどんなUSPUnique Selling Proposition:商品やサービスが持っている独自の強みを伝えるかを設計)、Web用のクリエイティブ作成、広告運用、フィードバックに基づいたクリエイティブ*のチューニング(修正)・再出稿の5つのステップに区分しています。テクニカル領域において、広告出稿後に得られる配信結果のフィードバックデータを基にクリエイティブをチューニング(修正)し再度出稿します。チューニングを行っても効果が表れなくなった場合、ファンダメンタルズ領域のコンセプトワークに戻り、作成しなおします。これは競合環境や、ユーザーのトレンドが変わることがあるからです。

 また、広告表現を考える前に必要となるのが「誰に」、「何を」、「どのように伝えるか」を明確化することです。この点において私が解説していた内容ともリンクします。明確化する順番も上記の「誰に」、「何を」、「どのように伝えるか」の順番で段階を踏んでいきます。「誰に」、「何を」の設定方法については、「商品」、「ユーザー」、「競合」の3つの観点をそれぞれ掛け合わせることでUSPを発見し、「どのように伝えるか」を考える際は、「4段階セールスコピー」という手法を使用して決定していくのです。

 

最後に

ユーザーの多様性やITの進化により、さまざまなチャネルから製品・サービスを購入するようになった現代では、デジタルマーケティングの運用は今後必要不可欠になっていくと思います。デジタルマーケティングの運用において「事業や課題の理解」の必要性が本稿から読み取って頂ければ幸いです。

【参考】

篠原 亘

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト