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2023.03.02

中小企業における経営企画室の役割とは

はじめに:中小/中堅企業の経営企画室

近年、経営企画室が経営資源の最適化配分をして、会社全体の舵取りという役割を担うことが一般的に認識されてきたと思います。しかし、どの程度の企業が経営企画室を必要とするか、またその理由は何かを理解している人は少ないのではないでしょうか。

年商50億円未満の中小企業が年商100億円年以上の中堅企業への成長する段階において、経営企画室が必要になってきます。なぜなら、この段階にある企業は、事業の安定化や収益向上のために複数事業を展開させる傾向にあり、より一層、各部署と連携して会社の目標を達成させるための経営資源の調整、分配を必要とするからです。

そうした中堅企業では、正しい手法や体制で複数事業を管理する経営企画室の運用を求められます。

しかし、この課題を解決しない状態で経営企画室を運用する企業も多くあり、結果、経営企画室が形骸化して、会社の目標と経営資源の最適化がなされないケースも多く見られます。

 

そこで、本稿では、中小/中堅企業の経営企画室の現状を踏まえて、本来あるべき経営企画と実現させるステップについて、紹介していきます。

中小/中堅企業の経営企画室の現状と課題

株式会社日本総合研究所の「経営企画部門の実態」によると、企業における経営企画室は、「会社の頭脳」、「経営者の参謀」を目的に運用しています。しかし、経営企画室の実態をみてみますと、目的と乖離した状況になっています。

その原因として、①担うべき役割が明確化されていない、②各部門の連絡窓口のような事務局、社内の万事屋になっている、③他の部署と兼務する運用体制が挙げられます。

 

①担うべき役割が明確化されていない

 

日本総研のレポートによると、経営企画室が明文化された役割・ミッション以外の業務を行っている企業が全体の92%を占めています。これは、経営企画室がマーケティング部や人事部のように明確化されたミッションや役割を認識している企業が少ないことが原因になっていると考えられます。明文化された業務以外の業務を担うということは、どの部署からも依頼されやすく、部署間の単なる窓口/業務処理のような事務局になる危険性があることを意味します。

       

②経営企画室の注力している業務

上述したように、経営企画室が事務局になっているかという状況を数値ベースでみてみますと、日本総研が調査した企業の内、70%程度の経営企画室が時間をかけている業務として会議の事務局・事務伝達を挙げています。更に、経営企画室の業務別の注力割合と増益/減益の企業割合を比較とすると、「会議の事務局・事務伝達」よりも「企画・計画推進の社内旗振り」に経営企画室が注力している企業の方が3倍増益になる傾向があります。

また、事務局のような動きをすることは、会社全体で専門的な業務を実施していないと認識されることにも繋がります。

③経営企画室において他の機能を兼務している状況

経営企画室の業務が専門的な業務が会社全体から認識されないと、部署間連携を必要とする別部門と兼任されていく傾向があります。こちらを数値別でみますと、売上企業が100億円未満の中小中堅企業に顕著であり、大企業と比較して約2倍以上の割合で広報、財務、総務機能を兼任されています。

ここまで見てきたことを踏まえると、役割が明確に規定されないまま経営企画室を運用すると、部署間の調整業務を依頼されやすく、事務局のような動きになってしまいます。更に、専門性が低い事務局業務は、総務、広報、経理と兼任に繋がり、結果的に、経営企画室は、本来果たすべき役割を果たせない状況に陥ります。

 

経営層あるいは経営企画室のトップが果たすべき経営企画室の役割を理解できていないことで、経営企画室の役割を明確にできていない可能性が高いと思います。

 

そこで、改めて、会社の成長に貢献する経営企画室の本来果たすべき役割を見ていきましょう。

本来あるべき経営企画室とは

経営企画室とは、本来、「経営陣の意向を汲み取りながら会社の中長期的な経営方針を定め、ゴールまでのプランを立案すること」を目的とすべきです。

 

この目的を業務レベルに落とし込みますと、大きく①中期経営計画の策定、②単年度の予算変成、③特命プロジェクトの推進が挙げられます。

続いて、各業務の概要、なぜ経営企画室の業務になっているかを説明していきます。

①中期経営計画の策定 

 中期経営計画の策定とは、会社のビジョン/ミッションに基づいて、3〜5年先の将来像を定性的・定量的に定めることです。複数事業を展開する中堅企業の中期経営計画を策定する上で難点の一つに人、もの、金、情報といった経営資源を事業間で最適配分することが要求されることが挙げられます。例えば、単一事業のみを行う企業の場合、経営資源の分配を考慮せずに、事業部長や事業責任者が必要なリソースの調達および投入のみを検討すれば良いですが、複数事業ですと分配の検討も必要となります。また、分配を検討する際も複数の事業部間の利害関係を越えて、会社全体を俯瞰してポジションから判断することが必要となります。従って、経営資源を最適分配するという観点から中継経営計画の策定は、経営企画室の目的に即した業務と言えます。

②単年度の予算編成・管理

 単年度の予算編成・管理とは、中期経営計画に基づいて、単年度で達成すべき売上やそれに必要とされる費用(製造費、人件費、設備投資費、事業投資額等)を数値ベースで編成して、管理会計ベースで管理していくことです。これも前述のように会社全体を俯瞰できる経営企画室が実行することで、中期経営計画に即したものとなります。例えば、事業部担当者で予算編成・管理する場合、収益性が低いが社内で歴史や伝統があるという理由で必要以上な予算や甘い管理体制になるケースが発生します。

③特命プロジェクトの推進

 特命プロジェクト推進とは、市場環境の急激な変化によって、予定通りに事業推進ができない際のタスクフォースや既存事業の先行き不透明から新事業立ち上げをする部隊の推進をさします。前者の場合、発生している課題を単一部署のみで解決できないケースがほとんどであるため、部署間の連携役として経営企画室があります。例えば、人材採用に課題がある場合、人事部のみで解決を試みると、人件費或いは採用予算を上げることに終始する可能性があります。そこに経営企画室が入り、人材を必要とする部署も巻き込むことで、より根本課題の可能性があるジョブ・ディスクリプションから見直すことが可能になります。一方、後者の場合でも、各部署から目的達成するための人材を集約させることが必要です。例えば、新規事業を発足させるためにマーケティング部のみで推進すると、ニーズの把握ができるが社内のシーズの要素が抜けることがあります。そこに中立的な立場である経営企画室が入ることで、新規事業立ち上げという目的からプロジェクトを推進させることができます。以上のことから、経営企画室は、特命プロジェクトの推進役にならざるを得ないと言えます。

上述してきた3つ業務は、会社全体の目指すべき姿・ビジョンを①中期経営計画で定め、その目標を達成させるべき定量的な②単度予算を編成・管理しつつ、経営課題を解決する③特命プロジェクトの推進という成長する企業に備えるべき基本的な要素と言えます。

しかし、中小企業が中堅企業に成長するフェーズで、新しいボトルネックが発生するため、全ての中堅企業がこれらの業務を円滑に実施することが難しいと考えられます。

 

それでは、中堅企業が抱えるボトルネックとその発生要因を見ていきましょう。

中堅企業の経営企画室のボトルネック

中小企業が中堅企業に成長すると、複数事業の運営・管理、部署ごとの業務の細分される傾向があります。これらは、収益の安定化と業務の効率化に貢献するが、一方で、それに伴う課題も発生します。

①複数事業の運営による最適なリスース配分の難化

前述したように、複数事業を運営・管理する上で、経営資源の分配は、最も重要と言えます。しかし、中堅企業が経営資源の最適分配を行う際に、分配するための判断軸の情報が不足していたり、中長期的な視点で判断する経営人材が不足という課題に直面します。

②業務の細分化による情報収集の煩雑化

上記の情報不足にも関連しますが、事業規模が拡大すると、業務が細分化され、それに伴って多くの情報が蓄積されます。しかし、中堅企業では、情報収集の目的を定めずに、情報収集自体が目的化となり、過不足な情報や利用価値が低い情報のみ蓄積する傾向があります。結果的に中期経営企画の策定に必要な情報を経営企画室に収集できない状態になってしまいます。

 

上述した2つの課題を解決して初めて、中堅企業における経営企画室は、本来あるべき経営企画室の業務を行えると考えられます。

 

それでは、中堅企業がボトルネックを乗り越え、正しく経営企画室を運用していくためのステップを見ていきましょう。

本来あるべき経営企画室を実現するためのステップ

中堅企業では、経営企画室を運用するための基本的なデータ収集土壌や仕組みが構築されておらず、全体を俯瞰した課題抽出と経営目標が建てられない状態です。

そこで、最初に①社内・社外のデータが経営企画室に集約される仕組みが必要となります。そして、集約された情報をもとに経営層の考えをヒアリングして、アクションプランを策定して、最後に③アクションプランに基づいて、中期経営計画から単年度の予算の編成・管理まで落とし込んで行きます。

 

続いて、3つのステップの個別詳細を見ていきましょう。

①データの土壌作り/仕組み化

 経営企画室では、最初に社内・社内の情報を収集する土壌作りとその仕組み化を実施していく必要があります。

情報収集の土壌作りとその仕組みは、大きく分けて4つのステップがあります。

ステップ①どのような経営判断をするための情報収集をするのかを明確にする

 例:中期経営計画における事業間の最適なリソース配分を判断

ステップ②最終的な判断に紐づく形で必要な情報を洗い出す

 例:顧客情報、商談情報、販売実績情報、アクセスログなど

ステップ③手段・頻度を決めて、情報収集を行う

 例:顧客情報を営業担当者や代理店から月1の頻度で記入させる

ステップ④情報を定期的に収集するスキームやITツールを導入して効率化させる

 例:CRMシステムを導入して、顧客情報・商談情報を管理する

②アクションプランの策定

 企業内部で情報収集する土壌やスキームが構築されたあと、具体的な課題に対するアクションプランの策定や施策を行うことができます。企業内部で情報収集する土壌やスキームが構築されないと、課題認識に誤りが発生し、本来解決すべき課題を先延ばしにしたり、解決優先順位が低い課題に過剰なリソースを費やすことが発生してしまいます。

実際に、アクションプランの策定には、大きく3つのステップがあります。

ステップ①経営診断による課題の発見:経営層を初めとする社内外のヒアリングを通して、バリューチェン等のフレームワークを使って、根本課題を見出す

ステップ②課題に基づくアクションプランの策定:解決するために必要なコスト(時間×費用)、解決した場合のPLに与えるインパクトを比較しながら、企業にとって、コストが低く、インパクトが大きい課題からアクションプランを決定する。

ステップ③実行体制の構築:アクションプランを実行するためのタスクフォース発足、それ管理する体制の構築

 策定したアクションプランに基づいて必要な人員を確保し、分科会或いはタスクフォースを発足させて、それらの全体管理ができるように定例会等を通して管理する。

③中期経営計画の作成/単年度の予算編成・管理

アクションプランを作成できると、それに基づく中期経営計画を作成することができます。特定の課題を解決することを通して、2〜3年後に達成する像がより詳細にみえてきますので、数値に具体性が備わってきます。中小/中堅企業が中期経営計画の作成において、陥りやすい間違いの一つに経営層の意向で昨年ベースで何%成長を目指すという考えがあります。これは、根拠のない目標に対して、いかに実現をしていくかを考えることなり、市場が成長している時には機能しやすいが、市場が成熟するに連れて機能しにくくなります。

また、中期経営計画が作成できますと、単年度の予算編成・管理を実施していくことができます。単年度の予算を作成する際には、会計財務の指標に加えて、中期経営計画で定めたアクションプラン達成のための管理すべきKPIを数値ベースに落とし込み管理会計としても管理していくことが必要です。

おわりに

本稿では、中小/中堅企業の経営企画室が機能しない原因と正しく機能させるステップを見てきました。本ブログでは、経営企画室の経営人材不足の課題、個別業務の具体的な推進方法も掲載しておりますので、ご参考いただければ幸いです。

また、弊社では、経営企画室が本来あるべき姿になるため、3つのステップをゼロから支援する「社長の右腕を育成して、経営企画のあるべき姿に」というサービスを提供しております。「中期経営計画の作り方」「経営判断に資する情報集約の方法」、「経営人材リソースの育て方」などでお悩みでしたら、是非とも一度お問い合わせください。

 

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【参考】

 

佐藤健

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。