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DX推進に向けた他社企業買収の動向分析

M&Aによって隆盛を増すDX

 

昨今、DXや脱炭素の加速を目的としたM&Aが増加傾向にあり、日本企業が関わったM&Aの件数は新型コロナウイルスの感染が拡大した2019年以降、右肩上がりで増加している。
新型コロナウイルス感染予防対策としてリモートワークなどを推進した「働き方改革」、経済衰退化によるコスト削減の見直し観点からの「業務効率化・生産性の向上」が、DX導入が増加している数ある要因の1つである。

DX導入に向けたM&Aの動向を導入目的からコンサル的視点で紐解いていきたい。

 

DX導入の目的

 

2018年に経済産業省が発表した「2025年の崖」によると、DXとはデジタル技術を活用してビジネスの激しい環境変化に対応し、企業が優位性を確立することと定義付けしている。
DXの目的は、企業の競争力を強化し売上・利益を拡大することであり、「業務効率化・生産性の向上」「働き方改革」「新たなビジネスモデルの創造」に向けた取り組みが必要である。

 

・「業務効率化・生産性の向上」の具体的な取り組み例は、RPA導入による単純作業の自動化やIoTや産業ロボットによる省人化等があげられる

・「働き方改革」の具体的な取り組み例は、オンラインツール(TeamsやZoom等)を取り入れたテレワークや電子契約書導入による書類作成・確認の負担軽減等があげられる

・「新たなビジネスモデルの創造」の具体的な取り組み例は、最先端テクノロジー(AIなど)を駆使した新たな顧客との関係性構築等があげられる

一方、各企業DX導入には乗り越えなければならない課題が存在する。

 

 

DX導入の課題

 

新型コロナウイルスの感染拡大防止やアフターコロナ対策の一環として取り組まれた業務効率化や働き方改革の結果として、ここ数年でDXの流れは加速度的に増した。ただ、依然としてDX導入はハードルが高く、日本企業全体として積極的に取り組まれているとは言えないのが現状である。

 

2018年に経済産業省が発表した「2025年の崖」には、以下2つの観点よりDXが進まないとしている。

【経営面】

既存システムが事業部門ごとに構築されており全社横断的にデータ活用出来ないため、既存システムの刷新に向けた動きはあるものの、コストの懸念が大きい。そのため、経営者にとってはリスクとなりなかなかDX導入に舵を切れない状況である。

【人材面】

社内にDX導入を推進できる人材(デジタル化ならびにITリテラシーを保持する人)が不足している。総務省の調査によると、DXを進める上での課題として日本企業の約53.1%が「人材不足」と回答している。

人材不足の原因として、人材育成環境の不整備とIT技術者の高齢化ならびに少子化問題があげられる。

 

  • 人材育成環境の不整備

日々刻々と進化するIT技術を使いこなすには、専門性の高い知識やスキルが求められるが育成環境が整備されていない。
仮に、一度高いスキルを身に付けた場合でも数年後にはそのスキルが古くなっている可能性があるため、人材育成環境の整備に投資しづらい状況にある。

 

  • IT技術者の高齢化ならびに少子化問題

高齢のIT技術者が定年退職する一方で、新たにIT技術者となる若者が少ない。
そのため、人材育成や採用では解決できずにアウトソーシングに頼ったシステム開発をする傾向がみられる。

 

DX推進プロジェクトに必要な職種

 

企業は人材不足がどれくらい深刻なのかを整理し、DX推進プロジェクトに向けて意識的に行動する必要がある。IT人材確保だけでなく、DX推進プロジェクトに必要なスキルやノウハウを職種と共に理解することがDX導入の成功のカギとなる。

  • プロデューサー

DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材(CDO含む)

 

  • ビジネスデザイナー

DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材

 

  • アーキテクト

DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材

 

  • データサイエンティスト/AIエンジニア

DXに関するデジタル技術(AI・IoT等)やデータ解析に精通した人材

 

  • UXデザイナー

DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザ向けデザインを担当する人材

 

  • エンジニア/プログラマ

上記以外にデジタルシステムや実装やインフラ構築等を担う人材

 

DX導入の方法

 

DX導入を進めるための手法として「自社でのツール導入」「他社コンサルへの委託」「他社との業務提携」「M&A」があり、それぞれの取り組み難易度に応じてメリットが異なる。例えば、「自社でのツール導入」は取り組み難易度が低く、一部DX導入に向けては有効的な手段である。各企業がもつ課題や環境に合わせて、最適なDX導入方法を選択することが必要だ。

今回はM&Aについて深堀していきたい。

 

 

DX関連のM&Aの動向

 

新型コロナウイルス感染の拡大により2020年のM&Aの件数は減少しているが、全体を通してみると年々右肩上がりに件数は増加している。また、経済産業省が2018年に発表した「2025年の崖」以降、DX関連のM&A件数も漸増していることがわかる。DX導入手法としては難易度高いM&Aだが、人材とアセットの両方を獲得できるメリットがある。

 

DX関連のM&A実例

 

M&Aにより異なる価値提供に成功している事例をみていきたい。他社企業が保持するシステムのみならず、優秀な人材の確保により売上・利益拡大に成功している実例である。

 

事例1

  • 買い手

KDDI

 

  • 売り手

ソラコム

 

  • 買収時期

2017年8

 

  • 買収価格

200億円

 

  • M&Aの目的

買い手の目的は、売り手が持つIoT技術を獲得することにより、次世代のネットワーク開発をすることである。

一方、売り手の目的は、買い手が保持するグローバルな営業力獲得による認知度アップならびに買収によって得た資金による開発資金の調達である。

 

  • M&Aの成果

買い手の持つグローバルなリレーションと売り手のSIMを管理するプラットフォームの強みを生かして、法人向けのグローバルSIM開発に成功し、20216月に「グローバルIoTアクセス」をリリース。リリース後から契約数が増加しており、買い手のIoT関連事業の売上が増加している。

事例2

  • 買い手

インフォネット

 

  • 売り手

スプレッドシステムズ

 

  •  買収金額

非公開

 

  • 買収時期

2020年4

 

  • M&Aの目的

買い手の目的は、売り手のアプリケーション開発力やSESSystem Engineering Service)による開発体制を取得し安定的な事業の獲得をすることである。加えて、売り手の優秀な経営人材や開発組織を獲得することにより、買い手の組織改革を促進している。

 

  • M&Aの成果

2022年のグループ全体の売り上げは、2021年度と比較すると77.4%のプラスとなっている。

 

M&Aの進め方

 

M&Aを進めるにあたって企業の選定が必要であり、以下のステップで進めるのが一般的である。

 

  • MA目的・方向性の協議
  • アングル設定
  • ロングリストの作成
  • ショートリストの作成

各ステップの詳細ついては弊社にて以前投稿している、「M&A戦略に基づくソーシングの進め方投資ターゲティング~企業選定」をご覧頂きたい。

 

今後の展開

 

DX導入が遅れている企業は、これまで以上に激しくなるビジネス環境の変化に対応出来なくなると予想される。競争優位性を強化し売上・利益を拡大するためにDX導入がより推進されることは間違いない。ただ、今回ご紹介したM&ADX導入の最善策ではない。DX導入目的や企業が抱える課題から最善な方法を分析する必要がある。

もしDX導入について課題を感じている方にとって有益な情報となれば幸いです。

 

【参考】
・経済産業省 「DXレポート~ITシステム【2025年の崖】の克服とDXの本格的な展開~
・IPA DX白書2021「日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術
・日本経済新聞 「日本企業、M&A最多4280件 DXや脱炭素けん引
・M&A SUCCEED 「【2021年最新版】IT業界のM&A事例56選
・ONE CAPITAL 「「攻めのDX」を進めるためのM&A / アクハイアリング
・MARRMATCHING 「ソフト・情報業界におけるM&A
・DMMWWEBCAMP「IT業界はなぜ人手不足なのか原因を4つに分けて解説!狙い目の理由も紹介
・arts&crafts KNOELEDGE & INSIGHT「M&A戦略に基づくソーシングの進め方 -投資ターゲティング~企業選定-

竹内 一剛

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト