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中小企業のためのランチェスター戦略~成功の秘訣と企業例~

販売競争に勝つための戦略

現代社会では商品やサービスが無数に溢れており、新製品や新サービスを開発したとしてもすでに他企業が販売している先発品と類似してしまい、売り上げが不調の結果に終わるケースが多くあります。また小規模な企業では大企業に比べて、その資金も人的資源も少ないことがあり、そういった制約のなかで、競争を勝ち抜かないといけなければならないのが現実です。このような障害を乗り越える一つの戦略として、ランチェスター戦略を取り上げたいと思います。

以下ではまずランチェスター戦略のルーツ、そしてそのなかでポイントとなる「弱者」の意味と、弱者がとるべき戦略の3つの要素、最後に実際の企業がランチェスター戦略を実行した成功事例をご紹介したいと思います。

ランチェスター戦略のルーツ

軍事理論に由来

ランチェスター戦略の基となったランチェスター理論は軍事理論にそのルーツを持つ数理モデルでした。イギリスの自動車工学・航空工学のエンジニアであるフレデリック・ランチェスターが第1次世界大戦の際に唱えたことが始まりであり、兵士の数と戦闘機や戦車などの武器の性能が戦闘の勝敗を決定づけるという法則を発見しました。さらに第2次世界大戦ではアメリカ軍がこれを敵に対抗する軍事理論として活用したことも知られています。

その後の発展

その後、1970年代には日本で経営戦略としてのランチェスター戦略が提唱され始めました。マーケティングコンサルタントであった田岡信夫が武器の性能はビジネス上の商品やブランド、兵士の数は社員数や売り場面積などに置き換えて、多くの企業がこれを取り入れています。

ランチェスター戦略においては、強者と弱者のそれぞれに合った戦略が定義されています。強者側は豊富な資源ノウハウを活かし市場でシェア1位を保つための戦略をとることが良いとされています。一方、弱者側は市場において、強者が見落としている穴を攻めることが成功のためのポイントにあります。

以下では、この弱者の戦略を掘り下げてみたいと思います。

弱者の戦い方

ここでいう弱者の定義を改めて確認していきましょう。ランチェスター戦上において、弱者とは兵士の数が少なく、武器の性能も衰えている者のことを指します。

ランチェスター戦略のルーツとなった軍事戦略の文脈で言えば、実際の戦争のなかでは、陸上の戦いになると兵力数が少ない弱者が、兵力数が多い強者に包囲されてしまう場合があります。そのため、弱者には自分たちが包囲されないために山の険しい所や森が深い所など、強者が行動しにくい所を戦場に選ぶ必要があります。これが弱者の戦い方の基礎であり、同じようなことを経営戦略でも行う必要があります。

ビジネスに当てはめると、特定の市場においてシェアが2位以下や、企業規模が小さい中小零細企業や個人事業主などが挙げられるでしょう。これらの人たちは大企業と比較すると資源やノウハウが足りていません。そのため大企業と同じ市場での真っ向勝負では勝てません。

3つの要素

そのため弱小企業が販売競争で勝つためには、少ない経営資源だけで勝てる特定の市場を選び、そこで市場を独占する必要があります。今回は、ランチェスター戦略の中から特に重要と考えられる3つの要素を取り上げて、順番にみていきます。

ナンバーワン主義

ランチェスター戦略の一番の目的といえば、企業が市場においてシェア1位になることです。競合他社との競争に打ち勝ち、確実な優位性を保つことで顧客からの信頼性や認知度の獲得が可能となり、安定的に利益が確保できるようになります。そのため他社をなるべく引き離して市場で1位になることが大事になります。

ナンバーワンを作り出すにはある地域を限定する、またはある顧客だけに特化する、競合他社と差別化を図る戦略が重要です。そのためには以下の2つが重要になっていきます。

差別化戦略

まず一つ目は、大企業の真似をした商品やサービスでは負けてしまいます。中小企業の基本戦略は、競合他社との差別化です。差別化とは、ものが溢れる市場の中で他社とは異なる明確な違いを生み出すことです。 消費者は選択肢が多くてそれぞれの違いが分からない場合、どれを選ぶべきか判断できない状況に陥ります。そのためランチェスター戦略においては、競合他社と違うことをすることで見込み客にとって魅力的である必要があります。したがって、企業が市場に新しい商品やサービスを投入するときは、差別化を意識しなければいけません。

一方で、注意すべきこともあります。それは需要がある差別かどうかです。例えば、競合他社よりも価格を安くしただけでは、差別化とはいえません。商品・流通・プロモーション・顧客像などの細かい差別化された要素を組み合わせることでより実現できます。

一点集中戦略

次に、攻撃目標を1つに絞りそこに力を一点集中させる必要があります。なぜなら小さな会社が持つ経営資源には限りがあるので、あれもこれも手広くやろうとしても、他社と同じくらいの利益を得ることができません。また一点集中することに関して、商品・地域・顧客層など様々なパターンを検討しなければなりません。

まずはどの商品について集中させると売り上げが最大化するのかを考えます。このときに1つの商品だけしか売ってはいけないということではなく、差別化できる商品の売り上げを大きく増やすことで、それに連なって他の商品も売れ始めるということです。

また、どこの地域に集中するかも重要です。幅広い地域を対象にすると、移動時間や統制が成り立たなくなりコストがかかります。そのためコストをいかに下げて地域を絞るかが大事になります。

最後にどの顧客層に集中するかが重要です。性別や年齢、職業、生活様式、価値観などを設定して特定のターゲットに絞ることが大切です。

成功事例

これらを踏まえたうえで今まで紹介した3つのランチェスター戦略を活用した成功事例を見てみましょう

QBハウス(理容室)

ビジネスマン特化の差別化戦略

ランチェスター戦略を生かした有名な企業の一例にQBハウスが挙げられます。

キュービーネット株式会社が運営するQBハウスは「10分で満足度の高いカットを行う」ということを売りにしているカット専門店です。

QBハウスは顧客ターゲットを日々時間に追われている忙しいビジネスマンをターゲットとしたメニューで差別化を行いました。

一般的な理容院・美容院などは女性をターゲットして、おしゃれな髪形に整えるために入店から退店まで、1人にあたり時間をかけていました。しかしビジネスマンをターゲットにした際に不要なサービスを省くことでより時間を短縮したメニューの提供で差別化を行いました。

QBハウスのサービスメニューには、一般的な理容室・美容室とは違い「カット」のメニューしかなくシャンプーや髭剃り、ブローやヘッドスパなどのサービスをすべて省いています。時間のないビジネスマンに対していかに短時間でサービスを提供できるかにフォーカスしたものとなっています。

その結果、上記の戦略により店舗数を伸ばすことができQBハウスは1996年の1号店出店以来、国内に579店、海外に135店舗を構える大手チェーンになりました。

H.I.S(旅行代理店)

観光地で差別化を図る

創業間もない頃、H.I.Sが着目したのはマイナーな観光地でした。旅行は富裕層な人たちが行くという時代で、大手旅行代理店他社はハワイやグアムなどの有名観光地に力を入れていました。しかし当時H.I.Sの澤田秀雄氏は、お金はないが時間のある学生に目を付け、格安旅行ツアー提供を行って差別化を図りました。もともとバックパッカーであった同氏は、マイナー航空会社や閑散期の不人気な航空券を格安で手に入れるノウハウを持っていたのでそこにチャンスがあると考えました。その時に選んだ場所がセブ島やバリ島、タイというマイナーだった観光地でした。

業界1位になるまで決して目立たないことを徹底

当初、ベンチャー企業だったH.I.Sは格安航空ツアーの提供を始めてから1位になるまでに、メディアからの取材などを全て断っていました。なぜならH.I.Sが扱っている観光地マーケットについて有望だとわかってしまったら競合他社がシェアを奪ってしまいます。そのため確実に優位性を保てるまでに目立たずに力をつけるようにしました。

アパホテル(ホテル)

特定の地域に対して一点集中戦略を実行

アパホテルは全国でホテルのチェーン展開を行なっている企業です。ビジネスホテル、リゾートホテルを経営しており、ホテル以外にもゴルフ場やスキー場などのレジャー施設の経営も行なっています。

もともとは注文住宅販売店を中心に営んでおり、1980年代にビジネスホテル業界では無名といっていい状態でした。当時小資金だったアパホテルは石川県内の金沢市のエリアに特定し、中心地を囲む三角形を作るように支店を設けることで、認知度を高めその地域を攻略しました。この戦略を応用し、様々な地域で支店を作り、アパホテルの認知度・ブランド力を高めてから中心部に拠点を移すことで、全国進出を成功させました。

このように、ある特定の地域にだけ集中して、認知度を付けることによって他社よりも優位性を得られることができたのです。

現在のアパホテルはビジネスホテルとして展開していき、全国で650を超えるホテルに上り、ビジネスホテル業界で屈指の売上高を誇る企業として知られています。

終わりに

本記事では、ランチェスター戦略のルーツ、そしてそのなかでポイントとなる「弱者」の意味と、弱者がとるべき戦略の3つの要素、最後に実際の企業がランチェスター戦略を実行した成功事例について説明しました。本記事でご紹介した内容以外にも、ランチェスター戦略について特徴や企業事例がありますので、それらを参考に企業戦略を練って実践すると成功率が上がってくると考えられます。

アーツアンドクラフツ株式会社では、コンサルティングを提供しており、導入経験の豊富なコンサルタントが多数在籍しております。

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参考文献

田崎 健人

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト