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アパレル業界が優先的に取り組むべきSDGs目標

 

    

SDGsとアパレル業界

2015年に国連サミットで「持続可能な目標」として17の項目が定められました。以来、SDGsという言葉をテレビや新聞、授業や仕事を通じて耳にする機会が多くなったことで認知・注目している方が増えてきているのではないでしょうか。

実際2021年、朝日新聞社が行ったSDGs認知度の調査では4人中3人以上がSDGsという言葉を「聞いたことがある」と回答しており、2020年の調査から約30%も増加したという結果が出ました。

注目度を引き上げる理由としては、近年の温暖化や異常気象の発生による、環境問題への意識の高まりが一番に挙げられます。その他にも、個人の自発的な取り組みの発信により注目度が引き上げられてます。そのどちらもの影響を受けているのがアパレル業界です。

アパレル業界では影響力のあるモデルやタレント、インスタグラマーなどが「SDGs」について自らの言葉で発信しているため、若い世代のファッションに関心の高い人を中心にSDGsが注目されています。そのため、アパレル企業はSDGsへの取り組みが必要不可欠となってきています。

本記事ではアパレル企業が取り組むべきSDGs目標と、取り組み事例についてご紹介します。

 

アパレル業界が直面している問題

SDGsに取り組むにあたり、まずアパレル業界にはどのような問題があるのかご紹介します。

環境汚染ランキング第2

アパレル業界は、2019年国連貿易開発会議によって世界2位の汚染産業として指定されています。

私たちが身に着ける衣服は、原材料調達から廃棄に至るまで、それぞれの段階で大量の水を消費し、CO2を排出しています。環境省によると毎年500万人のニーズを満たすのに十分な量の水、930億㎥を使用しており、温室効果ガス排出量は12億トンのCO2に相当し、国際航空業界・海運業界を足したものよりも多い量を排出しています。また、使われた衣類はほとんど埋立地に送られてしまい、焼却され新しい衣料品にリサイクルされるのは1%未満です。衣類の活用不足とリサイクルの欠如により毎年5,000億ドル以上の価値が失われていることになっています。

このことから、国連はアパレル業界に持続可能性を高めるような商品製造と体制の改造を求めています。

大量生産・大量消費を促しているファストファッション

アパレル業界のSDGs取り組みの中で注目されている物に、大量生産・大量消費があります。

国内のアパレル市場規模はバブル期の約15兆円から10兆円程度に減少している一方で、供給量は20億点から40億点へと倍増しています。また、1年で供給される衣服81.9万tのうち約9割に当たる78.7万tが1年で手放されています。

こういった状況を後押しする理由の一つとして、ファストファッションが挙げられます。ファストファッションは短期間で大量生産して販売することで、顧客に格安でトレンドファッションを提供できる仕組みになっています。その仕組みにより、ファストファッションが流行ると供給量は増え、服は低価格化、安く服を買い替えられるという理由から廃棄が増えるという悪循環が起こっています。

 

アパレル業界が優先的に取り組むべきSDGsの目標

SDGs17つある目標の中でアパレル業界ではどこに取り組むべきか、前述した環境問題を踏まえた上で抜粋しました。企業の事例も含めてご紹介します。

「目標7」「目標13」:環境に配慮した素材を開発する

目標713は、環境汚染に対する目標となっています。目標7は「全ての人が持続的に信頼できるエネルギーへとアクセスできる世界を目指す」、目標13は「気候変動に対する対策を行う」です。衣類を生産するには多くの水と二酸化炭素が必要とされ、また廃棄する際にも二酸化炭素が発生しています。この課題を解消し目標を達成するためには、「衣類の素材を生成するためのエネルギー・資源の利用方法や衣類製造の過程において発生する温室効果ガスの削減」に目を向けていく必要があります。

この目標に対応しているのがサステナブルファッションです。

サステナブルファッションとは衣類の生産から販売、消費までのプロセスに対して、環境に対する配慮を最大限に行う事を指します。例えば、廃棄物を少なくするため、リサイクル繊維など環境負荷の少ない素材の使用、機械の使用によるCO2排出量を少なくするため、機械を比較的使用しない製造方法の採用などが挙げられます。

パタゴニア」は環境問題に意欲的に取り組んでいるブランドです。

主な取り組みとしては使用するコットンを全てオーガニックコットンに変更、リサイクルポリエステルの使用等が挙げられます。

またそれだけでなく、サステナブルファッションを消費者の人に訴えかけることも行っています。自社ブランドが販売する商品の環境への影響が詳しく書かれた広告を打つなどして、社会全体で環境問題に取り組んでいく姿勢を見せており、2019年には国際連合の「環境大賞」に輝きました。

「目標12」:つくる責任つかう責任

目標12は大量生産・大量消費に対する目標となっており、「資源の無駄遣いを見直し、持続可能な生産消費形態を確保する」ことが掲げられています。この目標を達成するためには「生産工程での廃棄物の発生抑制や、ユーザーへリサイクルやリユースの協力の呼びかけ、実施」が行われることが不可欠となってきます。

ですが、現在国内衣服廃棄量は年間約33億着に上り、そのうちの約8割が焼却、埋め立て処分に回っているためほとんどリユース、リサイクルされていません。それだけでなく、一度も着られないまま償却されてしまう衣類も多く見受けられます。

この現状を変える手段としてサーキュラーエコノミー(循環型経済)=サーキュラーファッションの構築があります。

サーキュラーエコノミーとは、従来の経済システムであるリニアエコノミーの「資源を採る、作る、捨てる」という一直線のシステムとは異なり、廃棄物を資源として循環させる仕組みのことです。サーキュラーファッションでは、原料の調達や製品を設計する時点で廃棄ゼロを目指して再利用しやすい商品づくりに取り組むというものです。製造、使用、廃棄のどこの段階でも大量の資源を使っている衣類は、サーキュラーファッションに切り替えていく責任があります。

 

ファーストリテイリング」はサーキュラーファッションを体現しようとしているブランドです。

全商品をリサイクル、リユースする「RE.UNIQLO」というプロジェクトに取り組んでいます。RE.UNIQLOでは購入者が不要になった自社商品の服を店舗に設置した回収BOXで集め、リサイクル品として防音材や燃料の素材に活用、リユース品として難民支援での活用などの取り組みをしています。近年では服から服へリサイクルするという活動も進めており、資源の循環を促す企業となっています。

 

終わりに

環境問題をはじめとして様々なところで注目されているSDGsは消費者の意識の高まりから、今では企業運営において切っても切り離せないものになってきています。

変革の時期だからこそ、SDGsに積極的に取り組むことで、問題意識を強く持つ層のファンを獲得できるチャンスになると考えられるので、SDGs目標達成に向けた取り組みを行っていくことが肝になってくるはずです。

また、企業の社会的責任に関する取り組みを行っている企業は行っていない企業に比べ、財務成績が大きく上回るという結果が出ています。売上高の伸びは市場平均より20%上回り、株価上昇率は最大6%、ブランド資産価値の配当率は時価総額の最大11%に達しており、SDGs等社会的責任に取り組むことが収益性につながることが分かってきています。

本記事で紹介した3つの目標は、アパレルブランドでも導入しやすい目標となっているため、検討してみる価値があるのではないでしょうか。

 

【参考】

 

 

桒原野々花

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト