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ものづくりの未来とは、ものづくりに意味を創り出すこと

令和3年11月15日に『ふるくてあたらしいものづくりの未来/ポストコロナ時代を切り拓くデジタル×ブランディング戦略』を上梓しました。

本書は私たちが、アーツアンドクラフツという会社を通じて実践し得たノウハウや、自分たちの事業を創りだしていくための核となるストーリーをどうやって生まれてきたかをダイジェスト的にまとめたものです。

本書のなかでも、

これらは幅広く、深遠であり、たかだか1冊の本だけで語るに尽くせぬことは承知のうえで、「&」の精神からダイジェスト的な形で本書をまとめさせていただきました。(おわりに、より抜粋)

と述べましたが、現代のビジネスのなかでブランディングというものが、企業活動の中核であり、マーケティングから顧客接点、さらにものづくり、マネジメントへと及ぶ広範な領域にまたがるものになる中で、とても本1冊では著しきれないことから、本のなかで語りきれなかった部分や補足すべき点、読後に頂いた質問などへの回答を、このブログを通じて随時まとめていこうと思います。

 

ものづくりに意味を創り出す

まず端的に、本書を通じて最も訴えたいことは何か。

それは日本の伝統的な企業が取り組んでいるものづくり(を取り巻く消費と生産活動)に「意味」を与えることで、これからの世の中において、事業的成功という意味でも、社会貢献という意味でも、存在感を発揮し価値を生み出していくための道筋を示したいということです。

ここでいう伝統的な、というのは何もいわゆる伝統工芸だけを指しているのではありません。日本の高度経済成長を支えた町工場やそれぞれの地場を支えてきた地域産業。さらには工場の工場として、機械や道具を作るBtoBの工作機器産業なども含まれると考えています。

私たちは「ふるきよきものづくり」という言葉を使ったりしますが、我々が職人の手仕事で生み出されるものを礼賛するときには、「人が工夫して手を加えた」「人が思いを込めた」といった人間的な営みを感じさせることに対して、意識的、無意識的に抱く尊敬や憧憬の念が横たわっているように思います。

そのように考えると、現代のものづくりにおいては、ネジ一つつくるだけでも、多くの先人の知恵が込められた機械を使い、その機械が安全に正しく動作するために、徹底して点検やメンテナンスを行う、というふうに、多かれ少なかれそこに関わる人の努力や工夫、おおげさにいうならば人類が脈々と築き上げてきた叡智というものが込められているわけです。

つまり手仕事だけでなく機械生産であっても、そこには本来的に意味が存在しているということだと思うのです。

本書が意図するところは、ただ手仕事のものづくりを讃え、見直そうというものではありません。

手仕事から産業革命を経てひろがった工業生産、現代に至るその発展までを踏まえた上で、日本のものづくりが過去に評価されたポイントのなかに、これからの未来に再び脚光を浴びる可能性を示したいというのが本書の狙いです。

 

手仕事の価値

では、そんななかで手仕事の価値とはなにか。

「意味をつくる」という観点から考えた時、私はやはり顧客とつくり手の距離が近い、いわゆる顔が見える関係性を保ちやすいということなのではないかと思います。

根本的には機械生産も含め、あらゆるものづくりに意味が込められているのだと思いつつも、やはり我々消費者にとっては、つくっている人間の顔が見え、工夫や努力を重ねているシーンがイメージしやすいのは圧倒的に手仕事のものづくりです。

それはつくる側にとっても同様です。自分が作ったものを実際に誰かが使っているシーンやそれを喜ぶシーンが見られることで、自分の仕事の意味を感じられるというのもの手仕事のものづくりの特権といえるでしょう。

そのような関係性づくり、言い方を変えると顔のみえるものづくりの「体験価値」によって「意味」を生み出すことこそが、手仕事に求められる重要な役割ではないかという提言です。

補足するならば、ひとつひとつの体験価値に一貫性を与え、結びつけていくものがストーリー(物語)といわれるものです。

 

デジタル化された社会の中での手仕事の意義

本書でも述べているとおり、スマホやPC、様々なデバイスと常時接続されデジタルが隅々に張り巡らされる環境のなか、デジタルプラットフォーム上に乗らなければ存在すら認識され難くなる社会においては、「選ばれる理由」が必要になります。

私たちのような中小のものづくり企業が存在感を発揮し、生き残っていく道は、オンリーワンの要素を磨くことでしょう。効率性や利便性を超えて、人とのつながりの感動や喜びを与えることは、規模の大小に関係なく実現できるストロングポイントになり得るはずです。ものが溢れる時代だからこそ、ものの向こう側にいる人の息吹を感じたい。日本だけでなく世界中でそう思う人はますます増えてくるでしょう。思いを込めてものづくりに打ち込む職人や企業にとって、ぬくもりを伝えるという視座は、デジタル活用やDXの取り組みでも大事な糸口になるのでないでしょうか。(3章より抜粋)

 

このように手仕事やそれを感じされるものづくりというものは、人が、人の優れた技能や努力を賞賛したり、感謝し合うための中心的テーマとして存在し得るのではないかと思っています。

エンターテインメントの視点を掛け合わせると、職人=アスリートのように捉えることもできるでしょう。そこから逆算して考えると、先端の解析技術を用いてアスリートの動きを分析し競技力の向上を目指したり、新しい見地でそのスポーツを楽しんだりするのと同じようなことが、ものづくりや職人の世界でも起こり得るのではないかと思います。

実際に、安価に高度テクノロジーが出回ることで、これまで閉じられた職人の技術を拓いていく兆しを私たち自身が感じています。

 

ブランディングによって意味を創り出す

様々な定義や捉え方がありますが大雑把に言って、事業や商品・サービスに「意味」を創り出すということがすなわちブランディングであると言えます。

つまりブランドという概念を理解し、自分たちのものづくりや事業活動に取り入れることができれば、そこには「意味」が生まれるということです。

繰り返しになりますが、「意味」は商品やサービスが選ばれる理由を生み出します。「意味」は会社で働く社員・スタッフが、自分たちが働くための意義や指針を与えてくれます。

ものづくりに実直に取り組んできた会社や職人たちの多くには、その「意味」を生み出すための源泉が備わっていますが、自分たち自身でその源泉を発掘し、表現することはなかなか骨の折れる作業です。

本書では、そのための実践ノウハウとして、ブランディングを考える際のひとつのフレームワークを提示しています。

ここからは企業がブランド化を進めていくための「4M」のフレームワークを紹介します。これは、私たちが世の中の優れた経営理論や先進企業のベストプラクティスを学びながら、自分たちの事業のなかで試しながら生み出した実践的な方法論です。4Mとは、マーケティング(Marketing)、メディア(Media/顧客接点)、マニュファクチュアリング(Manufacturing/ものづくり)、マネジメント(Management)の頭文字をとったものです(4章より抜粋)

そして、この4Mの中心軸となるのがストーリーという位置付けです。

本来はこの章の4つのMを紐解くだけで、十分一冊の書籍をまとめることができるのですが、専門書というよりも入門書として活用頂きたかった意図もあり、ここだけはという要点のみに力点を置いた内容になっています。

実業でしか得られないストーリーづくりのダイナミズム

私が自分たちの経験を通じて言いたいことは、ひとつひとつの精度やレベル感を上げることも大事ですが、ひとつの事業において絶えず全体の整合性を保っている、4つのMがつながっている状態を維持し続けることが極めて重要だということです。

「売る」と「つくる」「聞く」「伝える」。事業のなかでは相反する要素のバランスをとりながら進めていく感覚が大事ですが、ひとつひとつがバラバラにならないように細心の注意を払いつつ、それでも凪のような状態にならないように、どこかに少し傾斜をつけながら推進力を生み出していく。

このような繰り返しのなかでブランドを育てていく。実業でしか得られないこのようなダイナミズムを多少なりとも伝えられればと思いまとめたのが、ith(イズ)のストーリー綴った第5章です。

本書を手に取った方が自らの事業からストーリーを紡いでいくヒントを得てもらえれば幸いですし、私たちのアーツアンドクラフツが何か役に立つことがあれば支援もしていきたいと考えています。

 

 

ふるくてあたらしいものづくりの未来

 

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。