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コロナによって私たちの働き方は様々な点で変化してきました。その最たる例として、リモートワークの普及が挙げられると思います。リモートワークは感染対策の面以外にも企業や従業員に多大なメリットをもたらしたことから、コロナ禍が終息しても多くの企業が継続して取り組むことでしょう。
リモートワークの普及によって、企業内での従業員同士のコミュニケーションは雑談を交えたFace to Faceから効率重視のオンライン上のコミュニケーションへと変化していきました。
このようなコミュニケーションの変化により最もネガティブな影響を受けるのが、知識の共有や創造ではないでしょうか。
「仕事は見て覚える」という表現があるように、日本企業における知識(=仕事のやり方)の共有や創造は、Face to Faceをベースに行われてきました。
そのため、フレームワークやデータベース等を利用して企業内での知識の共有や創造、いわゆる「ナレッジマネジメント」を実践して来なかった組織においては、急なコミュニケーションの変化により、知識の創造や共有が立ち行かず打撃を受けていることも少なくありません。
企業経営上の重要な要素とされるナレッジマネジメントは、1990年代初頭に、経営学者である野中郁次郎氏が発表した言葉であり、「知識を共有して活用することで、新たな知識を創造しながら経営を実践する」ことを指します。
ナレッジマネジメントの概念を図示化しますと、下図のようなイメージになります。
チームAの経験によって発見した知識を企業内のナレッジDBに共有することで、チームBも参照し、ビジネスに貢献したり、元々チームBが持つナレッジと掛け合わせることで、新しい知識を創造したりします。そこで創造された新しい知識が再びナレッジDBに蓄積されていきます。
次に、知識の共有や創造がいかにビジネスに貢献するかを解き明かすために、SECIモデルとその具体的な活用例を併せて見ていきましょう。
SECI(セキ)モデルは、最も有名で、且つ理解しやすいナレッジマネジメントのフレームです。
SECIは、知識の共有や創造を「共同化のプロセス」、「表出化のプロセス」、「結合化のプロセス」、「内面化のプロセス」の4つのプロセスに分解し、その4つのプロセスを繰り返すことで、社内で新しいノウハウや知識を創造するサイクルができます。
それでは、それぞれのプロセスを見ていきましょう。
表出化のプロセスとは、個人の暗黙知を形式知に変換するプロセスです。
「暗黙知」とは、言語化できておらず、他者に説明できない知識のことを指します。例えば、個人の過去経験による直観などが挙げられます。
「形式知」とは、文字や図表などで表現されており、他者に説明できる知識のことを指します。例えば、誰が読んでも理解できる営業マニュアルなどが挙げられます。
表出化のプロセスの具体例として、TOPセールスマンが営業ノウハウを自分の中に留めておくではなく、他のセールスマンにも理解できるような形で文章などに記録として残すことが挙げられます。
このプロセスが行われていない場合、TOPセールスマンの知識が属人的となり、後輩や次世代のセールスマンへの引継ぎができず、企業における新陳代謝の低さの要因にもなっています。
日本企業では、日報の実施、商談の記録などのように制度化を通して、表出化のプロセスの浸透を図っている事例が多くありますが、表出化のために制度を作ったものの、それが形骸化し廃れてしまった例も多くあります。制度化するだけでなく、必要に応じて制度の更新も制度設計に導入する必要があります。
結合化のプロセスとは、複数の形式知を連結させて新しい知識を創造するプロセスです。
具体例として、TOPセールスマンが自分の持っている営業ノウハウと他の形式知(他のセールスマンが理解できる営業ノウハウ)を結びつけて、新しい知識を作ることが挙げられます。
このプロセスが行われていない企業では、TOPセールスマンと他セールスマンの形式知を単純に集めて、知識の量だけが増加していき、新たな知識が創造されない状態となります。
こうした状況を改善する方法として、ナレッジマネジメント用のシステム/ツールの導入が挙げられます。ただ、当然システム/ツール導入にはある程度の費用がかかるため、企業によっては導入が難しいと判断されるケースもありますので、本記事の後半では、オフィスソフトを利用した中小企業でも実践可能な方法を紹介していきます。
内面化のプロセスとは、結合化のプロセスで創造された形式知を個人が実践して体得するプロセスです。
具体例として、TOPセールスマンが新しいノウハウを営業の現場で実践して、顧客の反応を見ながら営業ノウハウを自分のものにして、営業成績につなげることが挙げられます。
内面化のプロセスを促進するには、企業側でノウハウ実践の場を従業員に提供する必要があります。実践の場を提供できないと、表出化プロセス、結合化プロセスが機能しても知識が活用されない状態になってしまいます。
最後に、共同化のプロセスとは、共通経験をもとに再び暗黙知を創造することです。
具体例として、優秀な営業実績を残したTOPセールスマンが他のセールスマンと一緒に営業を行うという共通経験を通して、他のセールスマンに暗黙知としてのノウハウを共有することが挙げられます。
上記の4つのプロセスを企業内で循環させることで、知識の蓄積のみではなく、人材育成の観点でも有効であると考えられます。
このサイクルを滞りなく循環させるために、最も労力を要するのが表出化のプロセスと連結化のプロセスです。ナレッジマネジメント用のシステムを導入することで解決を試みることができますが、導入に掛かる費用を考慮すると実現が難しいケースも考えられますので、費用を掛けずに始められるナレッジマネジメントを見ていきましょう。
ナレッジマネジメントをシステムに依存することではなく、オフィスソフトなど一般的に利用されているツールで行う方法を紹介していきます。
複数人で編集可能なGoogleのスプレッドシートやエクセルなどを活用して、ナレッジをデータとして蓄積する表形式のファイルを作成することで、システムを導入せずとも、追加費用を掛けずにナレッジマネジメントにおける表出化のプロセスが実現可能です。
ただ、注意すべきポイントとして、「他人に理解できる形」で蓄積する必要があります。個々人が自分の考えのもとに知識を蓄積しても、それが必ずしも他人に理解されるとは限りません。そのため、フォーマットや記入ルールを、目的に合わせて作成することが重要です。
例えば、営業ノウハウであれば、その営業に至った背景、アプローチ、受注に結び付いた要因などの記載が求められます。
次に、GoogleスプレッドシートやExcelのデータ管理、更新を実施する担当者を決めること、且つ蓄積された知識に対して、分類(=タグ付け)することでナレッジマネジメントにおける結合化のプロセスが実現可能です。
例えば、営業業務におけるノウハウのタグ付けとして、「購買部向け」、「中小企業向け」、「大手企業向け」、「社長/取締役向け」と分類する例を挙げます。
・登録ナレッジA
タグ:「中小企業向け」
ナレッジ:「コスパの高い製品を提案すべきである。実例として~」
・登録ナレッジB
タグ:「社長/取締役向け」
ナレッジ:「独自性の高い製品を提案すべきである。実例として~」
上記のように、事例を踏まえたナレッジを各セールスマンが登録した場合に、データ管理、更新の担当者がAとBを掛け合わせ、以下のように新たなナレッジCを登録します。
・登録ナレッジC
タグ:「中小企業向け」「社長/取締役向け」
ナレッジ:「独自性が高く、コスパが高い商品を提案すべき」
ここで新たに登録されたナレッジCを基に、タグに該当する営業先への提案の方針を固めることで、よりスピーディ且つ高品質な営業活動ができるようになる、といった相乗効果を生み出す事ができます。
ただ、知識・ノウハウを管理、更新する担当者が一人になってしまうと属人化の恐れがあるため、ローテーション制にする必要があります。
上記で紹介した、表出化のプロセスでGoogleのスプレッドシートを活用し、且つ連結化のプロセスで知識の分類(=タグ付け)、知識の管理、更新(=担当者制度の導入)をすることで、費用を掛けずにシステムに依存しないナレッジマネジメントを行うことが可能になるでしょう。
今回は、ナレッジマネジメントの基本、及び費用を掛けずに導入できるナレッジマネジメントについて紹介しました。ナレッジマネジメントは、リモートワークが普及した企業にとって、対処すべき課題であると同時、他の企業と差別化する経営資源の蓄積にもつながります。
とはいえ、企業や部署にて費用を掛ける余裕がある場合は、ナレッジマネジメント用のシステムを導入することで、より最適な形で知識の共有や創造が実現できます。
システムを利用する場合は、ナレッジマネジメント単独ではなく、他のSFA、CRMと有機的に連動利用することで企業の経営資源をより高めることができます。弊社では、RPAを始め、システム導入支援を実施しておりますので、ご興味があれば是非ご連絡ください。
当社のITサポートについての詳細は、下記をご覧ください。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。