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化学品業界は意外と身近な存在!-市場分析とM&Aの重要性

化学品は馴染みがない

皆様は化学品に対してどのようなイメージを持っておりますでしょうか?

よくわからないが化学者が実験だったり、新しい物質を作っていそう、、、

というイメージを持っている方が大多数だと思います。私も化学品業界に携わるまで同じようなことを思っておりました。

では、なぜ、化学品に対してこれほどイメージが出来ないのか。

理由は下記にあると思います。

  • 液体状になっている為、個体としてのイメージが出来ない
  • 毒劇物等が混入されている為、一般の方では手に入らない

普段手にすることもない上、形状もわからなければ、馴染みがないのは当然だと思います。

では、「化学品については、知らなくていいや」本当にそれでよいのでしょうか。

化学品が生活、ビジネスに与える影響は皆様が思っているよりも大きい為、知らない、わからないままでは多大な損をしてしまいます。

化学品に馴染みのない方は、まずは、どのように産業の流れを生成し、生活に影響しているかを知る必要があります。

化学品は生活のほとんどに関係している

上述した通り、一般の方には化学品及び、化学品業界にはほとんど精通しておりません。

しかし、化学品は日常生活において様々な物に影響しております。

化学品が何に変わるのかを知っていれば、化学品が日常生活と切っても切り離せない関係であることがわかります。

まずは下の図をご覧下さい。

化学品が何に変わっていくのかを示しております。

引用:https://www.ipros.jp/technote/basic-chemical-industy1/

上の図で示した通り、化学品は様々な日常品や産業に影響を与えております。

消費財

例えば、消費財項目の化粧品であるならば、皆様が毎日使用している「シャンプー」が含まれております。

洗濯をするためにも「洗剤」が必要ですが、こちらも化学品が原料です。

また、上の図では記載されておりませんが「プラスチック」も石油が原料となります。

このように化学品は人々の生活に大きく影響を与えていることがわかります。

化学品から消費財となる例

  • シャンプー
  • 洗剤
  • プラスチック
  • 一般家庭用医薬品

ユーザーとなる他の産業

また、ユーザーとなる他の産業の項目では人々の生活のみならず、産業に大きな影響を与えております。

まずは、電機電子であるならば、仕事やプライベートで使用する「スマートフォン」が該当します。

また、皆様が日々目にする「自動車」。

「食品」(添加物等)、「繊維」(化学繊維等)、「建設」(塗料等)といった生活の基礎である衣食住にもそれぞれ化学品が使用されております。

このように、化学品は、人々の生活だけでなく産業の根幹を支えている重要な項目になります。

今後生活及びビジネスを行う上で、「化学品」の存在は切っても切り離せない関係にあるのです。

化学品からユーザーとなる他の産業に代わる例

  • スマートフォン
  • 自動車
  • 食品
  • 繊維
  • 建設

化学品業界の市場観

上述した通り、化学品は生活及びビジネスの根幹を支える重要な要素であることがわかりました。

さてここからは少しビジネスの観点で化学品を見ていきたいと思います。

日本の化学品業界市場規模

まずは、身近な日本の化学品業界の市場規模を見ていきます。

下の図をご覧ください。

引用:https://www.shuupura.com/gyokai-kenkyu/

日本の化学品業界の市場規模は32兆円の規模になります。

これは、トップである卸売業界106兆円の1/3以下の数字になります。

一見、控えめな市場規模に見えるかもしれませんが、電子機器、自動車、石油などは別にカウントされておりますので、

化学品が影響する業界を総合すると巨大な市場といえます。

因みに世界での化学品の市場規模は540兆円にも上るとも言われております。

日本の化学品メーカー売上ランキング

上述で市場規模がわかったと思うので今度は、どのようなメーカーが日本の化学品を支えているのかを見ていきましょう。

下の図をご覧ください。

引用:https://gyokai-search.com/4-chem-uriage.htm

2020年₋2021年売上高トップは三菱ケミカルHDで約3.2兆円に当たります。

次点に住友化学で約2.2兆円、信越化学工業が約1.5兆円、三井化学が1.2兆円と続きます。

上記を見てみると、財閥系の総合薬品メーカーが上位にランクインしていることが良くわかります。

シェア率で見ても、この4社で相当数を占めていることがわかります。

世界の化学品メーカー売上ランキング

では今度は世界の化学品メーカーについて見ていきます。

引用:https://deallab.info/chemical/

トップから中国中化(シノケム)、BASF、シノべック、ダウケミカルと続きます。

中国中化(シノケム)の年間売上高は1兆元(17兆円)に上ります。

日本のトップである三菱ケミカルHDは7位にランクインしております。また、住友化学も11位にランクインしております。

世界のトップである中国中化(シノケム)には及ばないものの、シェアを見る限り、日本の化学品メーカーも世界にかなりの影響を与えていることがわかります。

化学品のキーポイントは石油化学

共通項は石油化学

上述の通り、化学品メーカーの売り上げ、シェアを日本と世界別で見てきましたが、上位にランクインする企業にはある共通項があります。

それは「石油化学」です。

石油化学なのでもちろん原材料に石油が含まれます。

世界トップシェアを誇る中国中化(シノケム)は世界最大の石油化学企業であり、日本のトップ企業の三菱ケミカルも石油化学が売り上げの多くを占めております。

2013年と少し古いデータになりますが、下の図をご覧ください。

引用:https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/kaseguchikara/pdf/010_s03_02_01.pdf

三菱ケミカルHD、住友化学、三井化学それぞれトップのシェアが石油化学になります。

三菱ケミカルHD、住友化学は約50%、三井化学は70%も石油化学を売上高の一部としております。

石油メーカーが強い化学品もある

あまり一般に知られてはいないが、石油メーカーが強い化学品が存在します。例えば、化成品のケトン類に位置するMEK(メチルエチルケトン)がその一つです。「ENEOS」、「出光興産」、「丸善石油化学」のような石油メーカーがトップシェアを誇っています。このように石油メーカーも化学品には重要な役割を担っております。

化学工業の中での石油化学の重要性

では化学工業全体の中で石油化学がどのくらいのシェアを占めているのでしょうか。

下の図をご覧ください。

引用:https://www.jpca.or.jp/statistics/annual/hiritsu.html

2018年度のデータですが、石油化学は化学工業の中でも約半数を占めております。

石油化学が化学工業を支えているといっても過言ではありません。

化学品業界にとって石油化学及び「石油」は産業を支える大きなキーポイントといえるでしょう。

原油価格が化学品業界に及ぼす影響

原油化学は化学品業界に大きな影響を与えます。

2019年9月、サウジアラビア東部のアブカイクとフライスにあるサウジアラムコの石油生産プラントを標的とされたドローン攻撃の際、原油価格に影響がありました。世界の石油生産量の約5%が減少し、日本の多くの化学メーカーが減益を強いられました。

化学メーカーの売上や利益は、原油価格に大きく左右されるため、化学メーカーのビジネスにおいて最重要な要素です。下記の「原油価格と為替レートが製造業の生産者価格に及ぼす影響」の表をご覧ください。

引用:https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je15/pdf/p01022_2.pdf

原油価格が50%下落し、為替が円安へ 20%推移した場合、製造業 55部門のうち 41部門で生産者価格が上昇。14部門で生産者価格が下落する結果になっています。

つまり、原油価格は、各製品の生産に大きな影響を与えているのです。

引用:https://www.provej.jp/column/ar/chemical_industry/#toc-l-9

M&Aは化学品メーカーの企業成長では必須

企業の成長を測るためにもM&Aは重要な要素の一つであるが、化学品メーカーにとってはより一層着目しなければならない部分です。

中国中化(シノケム)は国有化学大手の中国中化集団(シノケム)と中国化工集団(ケムチャイナ)の経営統合を行い2位を大きく引き離す世界最大の総合化学メーカーとなりました。

また、世界でも上位に入るダウ・ケミカルとデュポンの2社も経営統合を行いました。

このように世界でもトップシェアを誇る企業が相次いでM&Aを行っております。

一体なぜ、化学品業界のM&Aが活発なのでしょうか

M&Aは大きなメリットがある

企業買収、合併、事業統合を行うには大きなリスクと手間がつきものです。

  • 多額の資金
  • 入念な計画と準備
  • デューデリジェンス(企業監査)
  • 多数の打ち合わせ
  • M&A後の組織整備
  • 行政への申請

等多数の手間、時間、工数をかけなければなりません。

しかし、上記の手間かけてでも大きなメリットがあるのです。

そのメリットとは

  • 生産に適した工場の確保
  • 特許の獲得
  • 生産トラブル等のリスクの分散
  • 後継者問題の解消

が例に挙げられます。

生産に適した工場の確保

化学品メーカーにとって販路を拡げるために、生産工場の確保は必須になります。

立地の良くない工場で生産を行うと、運送費が高くなることや、運送トラブルのリスクの増加、また必要な原材料が現地に納入日までに届かないといったデメリットが多くなります。

運送費が高くなると、川中、川下のメーカーに供給を行う際に価格面で他メーカーに引けを取ってしまいます。

また、船便や飛行便が多いと運送トラブルが増えるため、期日までに製品を届けることが出来ないリスクが大きくなります。

原材料を国内で採取できない国のメーカーは特に工場の立地に頭を悩ましており、立地の良い工場を所有している企業にM&Aを行い、安定供給が出来るようにリスクの低減を図っております。

特許の獲得

化学品には企業特有の生産方法が多々あります。

原料の配分や生産工程がそれぞれ異なることから、企業特有の生産方法が多々存在します。

生産方法を0→1で生み出す為には、時間、手間、資金が掛かります。

マーケットの拡大を考えている企業としては、1から生産方法を生み出すよりも、M&Aを行いその企業特有の生産方法の特許を取得した方がメリットが大きいのです。

生産トラブル等のリスクの分散

これは、上記の生産に適した工場の確保に少し付随しますが、生産工場を増やすことはリスクの分散に繋がります。

化学品業界は外的要因における影響を受けやすい業界になります。

直近であれば、中国の電力不足、北米の寒波等による生産低下が挙げられます。

国内でも、M社の生産トラブルが見受けられました。

このように各国で生産トラブルが起きた際に、工場を多々保有していると、リスクを軽減することが出来ます。

1つの工場が供給不可になっても、他の工場でカバーするといったことが出来るようになるのです。

後継者問題の解消

これは、売り手側の話になるのですが、一代で会社を築き上げた企業に後継者がいないという問題はよくあることです。

適任な後継者がいないまま、世代交代をしてしまうと企業経営が円滑に進まず、経営悪化に繋がる可能性が高くなります。

企業譲渡をするのは非常に心苦しい選択にはなりますが、安定した企業にリーダーを託した方が、今後の従業員の給与や待遇、労働時間等の保証に繋がることがあります。

適任な後継者がいない場合は、より大きな企業の傘下に入ることも一つ選択肢として持ってもよいかと思います。

また、今まで持っていなかった販路や、製造方法のノウハウも享受できるため、M&A前よりも経営状況が良くなる可能性が高くなります。

M&A事例

三菱ケミカル株式会社によるアメリカのADVANCED POLYMER TECHNOLOGIES, LLC社の子会社化

2019年6月、三菱ケミカル株式会社は連結子会社のMitsubishi Chemical Advanced Materials AG社を通して、Advanced Polymer Technologies, LLC社(以下APT社)の全持分を取得して子会社化しました。

三菱ケミカルは三菱ケミカルホールディングスの売上の約7割を占めており、2017年に三菱化学と三菱樹脂、三菱レイヨンの3社が統合することで発足しました。アメリカのAPT社は耐熱性や強度に優れた「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」と呼ばれる、高機能樹脂を使った部品を北米やアジア地域を中心に提供している会社です。

三菱ケミカルはAPT社が持つ供給網を生かし、高機能樹脂の販売の拡大を進めるとしています。また、エンプラを使った部品は次世代通信規格の5GやIoT(Internet of things)向けに需要拡大が見込まれていて、成長市場での事業拡大も目指しています。

引用:https://fundbook.co.jp/chemical-ma/

住友化学株式会社によるトルコのEMAS PLASTIK A.S社およびその関連会社の子会社化

2019年8月、住友化学株式会社は、子会社の住化ポリマーコンパウンドヨーロッパを通して、トルコの樹脂コンパウンドメーカーであるEmas Plastik A.Sおよびその関連会社(以下Emasグループ)を子会社化しました。

住友化学は、化学業界において国内売上高2位であり、石油化学事業、医薬品部門、情報電子化学事業についで、農薬などを扱う健康・農業関連事業の売上が高くなっています。

Emasグループは、ポリプロピレン(以下PP)コンパウンドにおいて、トルコ国内で最大級の生産能力を有していて、またリサイクル材料を用いたPPコンパウンドで国内トップの販売量を誇っています。

トルコは欧州への輸出の拠点であり、多くの企業が自動車や家電の生産拠点を構えているため、PPコンパウンドの需要は今後も堅実に拡大していくと見込まれています。

住友化学は今回の子会社化により、トルコ国内の自動車や家電のメーカーに対するPPコンパウンドの生産・販売を強化します。また欧州でのリサイクル材料を用いた製品への需要増加に対応し、PPコンパウンド事業をさらに拡大させていくとしています。

引用:https://fundbook.co.jp/chemical-ma/

三井化学株式会社による株式会社アークの子会社化

2018年1月、三井化学株式会社は、完全子会社の株式会社エムシーインベストメント01を通して、株式会社アークに対してTOB(株式公開買付)を実施し、74.69%の株式を約301億円で取得して連結子会社化しました。

三井化学はモビリティ事業、ヘルスケア事業、フード&パッケージング事業を重点領域として事業展開している会社です。中でもモビリティ事業において、機能性コンパウンドや機能性ポリマーといった多様な機能性樹脂製品群の開発・製造・販売を行っています。
アークは工業製品における新製品の開発を支援する会社であり、デザインから設計・解析、試作、金型、少量生産といった幅広いサービスを提供しています。

アークは自動車製造において、設計段階から量産前の小ロットの部品生産まで、幅広い支援体制を持っています。近年、自動車は車体の軽量化に伴って部品や構造材が樹脂で作られるようになってきました。アークを子会社化することで、自動車メーカーの開発方針に素早く対応し、適切な材料を提案できると考えています。

引用:https://fundbook.co.jp/chemical-ma/

生活、ビジネスの両面で化学品業界の動向を追ってみる

以上長文にわたり化学品業界について記述致しましたが、化学品が生活、ビジネスのスタート位置にあることがわかったと思います。

今まで化学品業界について知らなかった方や興味がなかった方は今後化学品業界の動向を追ってみると良いと思います。

投資家の方は化学品業界の株価等を見てみると、今後の関連業界への影響も予測できるかもしれません。

化学品業界が産業のほとんどを支えていることを周知頂けたらと思います。

西原雄亮

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト