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STP分析を活用したフィットネス市場の動向分析

 

STP分析とは

STP分析とはマーケティング戦略を練る上で利用されるフレームワークの1つで、コンサルティング業界において頻繁に活用されています。そこで本ブログではSTP分析に着目し、コロナによって市場の変化が一段と激しくなっているフィットネス市場の動向分析を通してSTP分析を自社のマーケティング戦略立案に落とし込むイメージを読者の方々に掴んでいただくことを目的とします。

そもそも、STP分析はそれぞれ「Segmentation(セグメンテーション)」、「Targeting(ターゲッティング)」、「Positioning(ポジショニング)」3つの英単語の頭文字をとって名付けられており、自社の優位性確保を目的とした「ペルソナ設定」や「自社の強みの見える化」等を目的に利用されています。

「セグメンテーション」=市場の細分化

セグメンテーションのステップでは、以下の観点からユニークかつ有意義な市場のブレークダウンをすることが必要です(市場規模が全くないグルーピングをしてもマーケティング戦略に寄与しないため*ただし市場を新規に開拓する場合を除く)。また、設定する軸を検討する際は2つの軸が相互に関連しないものを選ぶことが重要です(例: X=「高価格⇔低価格」、Y=「高級感⇔庶民的」等の組み合わせは不適切)。

  • 地理的変数: 年齢、性別、家族構成、職業 等
  • 人口動態変数: 地域、人口密度、文化、行動範囲 等
  • 心理的変数: ライフスタイル、価値観、パーソナリティ 等
  • 行動変数: 購買行動、購買心理 等

「ターゲッティング」=顧客の特定

次に、ターゲティングのステップでは細分化された市場のうち自社のコンセプトや構築したいブランドイメージに沿った市場を選択します。市場を選択する際は、市場の成長性や競合状況(レッドオーシャンではないか)も観点として重要になります。

「ポジショニング」=立ち位置明確化

最後に、ポジショニングのステップでは競合のベンチマーク調査等をもとに自社の強みや顧客のペインを検討し、ポジショニングマップに落とし込みを行います。

次からは、実際にフィットネス市場を例にしてSTP分析の活用方法について述べていきます。

 

フィットネス市場動向

日本全体のフィットネスの市場規模は、コロナ以前の2019年時点で5,423億円と推定されており、アメリカやイギリスと比較して少ない傾向が見て取れます。また、その背景には2カ国と比較してフィットネス参加率が低いことが挙げられます。しかし、近年はフィットネス参加率の上昇に伴って日本のフィットネス市場が7%で成長傾向にあることから、日本のフィットネス市場は今後も堅調に拡大していくと推察できます。

 

フィットネス市場のSTP分析

セグメンテーション

本ブログでは総合型の弱みや特化型への対応を目的にセグメンテーションを実施したため下記の2軸になっていますが、フィットネス市場は「職業」や「行動範囲」等の軸によって区分けすることも可能です。また、その場合の目的は「エグゼクティブ等をターゲットにしたプレイヤ動向の把握」等が想定されます。

X軸は「心理的変数」のうち「志向性」を選択=総合型と特化型の特徴の違いである「提供サービスの多様さ」や「会員同士のコミュニティ」等を見える化することが可能

Y軸は「行動変数」のうち「購買心理」を選択=総合型および特化型それぞれのグループ内での比較が可能

ターゲティング

次に日本のフィットネス市場における変遷に着目し各社のターゲティングにフォーカスすると、ジム/スタジオ/プールをもつ総合型が高齢者をターゲットにしているのに対して、特化型は若年層/中年層をターゲットにしていることがわかります。(特化型の企業と特徴は以下)

また、総合型と特化型の領域が重複していなかったフェーズ2までと対象的に、フェーズ3以降では総合型と特化型の領域が重複し競争が激化していることがわかります。実際に、エニタイムフィットネスの新規会員のうち約半数は総合型からの流入となっており、総合型各社は既存顧客の流出防止と新規会員の獲得が直近の大きな課題であることが予想されます。加えて、今後もこの傾向は続くことが予想されるため総合型各社は自社の強みを明確化し顧客にアピールすることが求められています。

本ブログでは市場動向の把握をメインにSTP分析を行いましたが、例えば新規事業立案等のプロジェクトであれば各象限ごとの市場規模推定等を実施して自社が参入する市場を選定するステップを設けるケースもあります。

ポジショニング

最後に、上記までの情報を踏まえて主要各社のポジショニングマップを作成すると、コナミスポーツクラブやティップネス等の「従来の総合型」が第1象限の右上に位置しているのに対して、独自の戦略を打ち出している総合型各社はそれぞれ異なるポジションを確立していることがわかります。また、特化型各社についても業態ごとに(パーソナルトレーニング特化/24時間営業ジム特化等)ポジショニングに違いがあることが把握できます。

アクトス: 価格での差別化

総合型各社の多くがジム/スタジオ/プールを保有し月額会員費を1万円超に設定しているのに対して、アクトスはプールを保有しないことで一部総合型の競合よりも50%低いプライシングを実現しています。また、フランチャイズを活用することで総合型各社と比較して急激に店舗数を増加させることに成功しています。

オアシス: 営業時間による差別化

オアシスは、2016年以降に既存店舗におけるジムの24時間営業対応を迅速に進めることで、ジムの24時間営業を行っているエニタイムフィットネス等の特化型に対抗しています。

ホリディ: 立地/スタッフによる差別化

総合型や特化型の競合各社が駅前や商業地等を出店立地としている一方で、ホリディは住宅立地を主戦場に設定することで他社との差別化を図っています。また、人材育成を目的とした「ホリディカレッジ」の活用を推進することで人員のサービス品質向上を実現しています。

今回は会社ごとのプロットになっていますが、新製品開発の場合は市場に出回っている製品ごとにポジショニングを確認することで、ブルーオーシャンの市場探索や自社の製品がカニバリゼーションを起こしていないかどうかを可視化することも可能です。

また、ポジショニングマップを作成する際に必要な各社の動向や今後強化予定のサービス等に関して調査する際は(=ベンチマーク調査)、下記の情報リソース等を組み合わせて情報を網羅的かつ精緻に取得することが最適です。そのため、ベンチマーク調査を担当される場合は、下記を参考に調査および分析を進めていただくことをおすすめします。

  • デスクリサーチ
    • ニュースリリース/各社の紹介記事
    • 有価証券報告書
    • 論文
    • 特許情報
  • ヒアリング
    • 有識者インタビュー
    • 電話での調査

 

最後に

STP分析は、新製品開発や新規事業立案等の幅広いシーンで使用されるフレームワークとなっており、戦略策定の土台となる情報を練り上げる際に多用されています。しかし、STP分析を効果的に実施しビジネスに落とし込むことに失敗した結果、売れないサービスをローンチしてしまうケースも多々散見されます。

当社では、海外市場参入PJや新製品開発ローンチPJ等においてクライアント様のSTP分析をご支援した経験が多数ございますので、STP分析を含むその他分析において抱えている課題等がございましたらお気軽にご連絡下さい。

 

【参考】

クラブビジネスジャパンHP

livedoor NEWS(2018)「地方でも大量出店はじめた『エニタイム』の自信」

 

中里大帆

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/コンサルタント
外資系企業の日本参入支援や新規事業策定支援等の経営戦略コンサルティング案件の実績を多数保有